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北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会

李明博政権の対北政策と日本人拉致問題?金ソンウク氏が連続集会で講演(2008/03/17)
★☆救う会全国協議会ニュース★☆(2008.03.17)


3月15日、救う会が毎月実施している連続集会で、韓国の気鋭のジャーナリ
スト金ソンウク氏が、「李明博政権の対北政策と日本人拉致問題」について講演
した。大韓民国憲法では「平和的な方法で自由統一」をめざすとあるが、韓国で
は李承晩時代以来、長きにわたって「自由統一」の主張はほとんどなかった。し
かし、李明博氏が大統領選に立候補した時期から現れてきた。金ソンウク氏は、
「自由統一」を主張するジャーナリストとしても注目されている。以下は、講演
のために金ソンウク氏が準備したペーパーの全文を救う会で翻訳したものである。



李明博政権の対北政策と日本人拉致問題
金ソンウク


はじめに

李明博政権の対北政策は拉致被害者・脱北者政策を含め具体化されたものはま
だない。ただ、「非核・開放・3000」という抽象的宣言と大統領と側近たちの発
言がかなりの部分出てきただけだ。

それらの資料から判断するとき、新政府の対北政策は「うまく言いつくろって
やっていく(muddling through)」という式の曖昧模糊とした性格を持つものと
見える。癌の固まりを手術するではなく縫合してしまうような印象が強い。ここ
では具体的な事実関係を分析して新政府の対北政策方向を時間順に鳥瞰し、それ
を通じて日本人拉致問題に及ぼす影響について考えることとする。

1、李明博政権の太陽政策離脱可能性

新政府が既存の太陽政策から「ある程度」抜け出すことは明らかと見える。

▲ 12月20日、李大統領は当選直後の初記者会見で「理念ではなく実用だ。一方
的譲歩はない。無条件で支援してやることはしない」と言った。

新政府は朝鮮戦争時の韓国軍捕虜【以下、「捕虜」とする・訳註】と拉致、北
朝鮮人権問題でも既存の左派政権と異なる立場だ。

▲ 12月20日、李大統領は「北朝鮮人権も取り上げる。北朝鮮に厳しいことも言
う」と語った。

▲ 1月10日、李大統領は「北朝鮮人権問題は戦略的次元でなく人類普遍的価値
に立脚して接近しなければならない」と強調した。

▲ 1月15日、統一部は捕虜、拉致問題を解決する具体的方案を大統領職引き継
ぎ委員会に提案した。内容は、北に経済協力形態の代価を提供する引き替えに、
捕虜と拉致被害者の生死確認と再会、送還を段階的に推進する方案など4?5種類
の解決策だった。

4?5種類の解決策のなかで第1は、いわゆる「ドイツ式解決策」だった。過去、
西独政府は1963年から89年まで約34億4000万マルク(約1兆7000億ウォン)の現
金と物資を東独に与え、3万4000余名の政治犯を救い出したことがある。西独は
初期には現金を与えたが、次第にコーヒー、原油、銅など現物支援に代替した。

統一部当局者はこのほかにも「日本が政治的圧迫と米支援などを通じて北に拉
致された一部自国民を救い出した事例と、米国が現金を払って米軍戦死者の遺骸
を返還させている事例などを報告した」と話した。

▲ 1月17日、李大統領は「北朝鮮に対する関心は、第1が核であり、また北朝鮮
住民たちの生活にも関心を持っている。われわれが望むのはまず当面、離散家族
第1世代は年齢が高くなった。歳を取った方々が自由に北朝鮮を往来でき会える
ようにすることが重要だと思う。その次に、捕虜問題、漁民拉致などもお互いに
協力して円満に解決していけることが、私の深い関心事だと言える」と語った。

しかし、李大統領は「北朝鮮に言うべきことは言うということは、挑戦的発言
ではない。この言葉は、より率直な対話をしたい、南北間でより率直で、開かれ
た心で対話することが必要で、われわれの問題点を解決するのに助けとなるとい
う意味で話したこと」と語った。

全体的に、△拉致・捕虜、北朝鮮人権に対する問題提起のトーンが候補時代は
もちろん当選直後の記者会見のときより弱くなり、△これらの問題が北朝鮮の核
問題の次の順番に下げられ、△問題解決の方法論として「対話」と「協力」を通
じた「円満な解決」を強調した。

▲ 1月18日、国家人権委員会は今年の業務計画で「北朝鮮人権改善のための政
策活動強化」を6大重点課題の1つに含ませた。人権委が北朝鮮人権全般を公式
重点課題に含ませたのは今回が初めてだ。

人権委はこの日発表した今年の業務計画「2008年主要業務計画」を通じて「脱
北者関連人権政策だけでなく、捕虜・拉致などの人権問題まで外延を拡大する」
とし「普遍的国際人権規範を根拠にして北朝鮮人権状況をモニタリングし、人権
資料室に北朝鮮人権資料を体系的に収集・管理する」と明らかにした。

人権委は「北朝鮮人権改善」のためにしなければならない細部内容として、△
拉致被害者と捕虜の送還方案の模索、△北朝鮮人権状況のモニタリングと国際協
力強化、△北朝鮮人権に関する資料の体系的収集と管理、△在外脱北者の人権保
護強化、△セト民【セは「新しい」、トは「場所」の意で、セト民は韓国に入っ
た脱北者を指す政府用語、脱北者団体などにはこの用語使用に反対の意見が多い
・訳註】の人権状況調査と改善方案模索、△離散家族に関する人権改善方案の模
索、などを挙げている。

▲ 1月28日、大統領職引き継ぎ委員会は統一部および関連民間団体と「北朝鮮
人権記録保存所」の設置を議論していることが明らかになった。北朝鮮で発生し
た人権蹂躙事例を収集し記録することは、対北政策樹立のための基礎作業である
とともに今後の人権侵害発生を減らす圧迫手段として提示されてきた。

▲ 2月1日、李大統領はマスコミとのインタビューで「長い経済難により北朝鮮
住民の生活が困難だ。対北政策の重点を住民の生活と人権の改善に置くべきだと
いう国内の意見が多い。これに対する計画があるか」という質問に次のように答
えた。

「いま北朝鮮経済は苦しく人間の基本権も維持できない状況だ。だから、北朝
鮮を人道的に支援せざるを得ない。もっとも理想的なことは北朝鮮政権ではなく、
住民に直接的な支援をすることだ。しかし、現実的にこれを区分するのは難しい。
次期政府は北朝鮮の人権問題を戦略的でなく人類の普遍的価値次元で取り上げる
だろう。そうしてはじめて、北朝鮮を政略的、政治的に利用するのではないとい
うことを知らせ、北朝鮮人権改善に助力することができる。北朝鮮住民に急ぎ求
められているのはパンだ。しかし、食べる問題を助けながら人権問題も等閑視す
ることはできないという考えだ。」

この発言は、北朝鮮人権問題に対して人類の普遍的価値次元で取り上げるとい
う総論的発言だと見られる。

▲ 2月5日、大統領職引き継ぎ委員会は新政府の国政課題を192項目発表したが、
その中に捕虜・拉致および離散家族問題などと関連する「南北間の人道的問題解
決」が核心課題に入れられた。

▲ 2月22日、捕虜・拉致問題を専門に担当する組織を統一部の中に設置する方案
が検討されていることが明らかになった。この専門担当組織は統一部本部に新設
される人道支援局(仮称)の一つのチームとなる可能性が高い。捕虜・拉致問題
解決のための政策案を検討する一方、問題の発生背景および実態を整理して国民
に知らせる白書発刊などが、専門担当組織の業務となると見られる。

捕虜・拉致問題は現在、統一部社会文化交流本部内の社会文化総括チームと人
道協力企画チームの一部当局者が形式的に担当しているが、実際はその業務を処
理していなかった。

▲ 3月3日、政府代表である朴インクッ外交部多者間外交室長はスイスのジュネー
ブで開かれている第7回国連人権理事会基調演説を通じて「北朝鮮が人権状況改
善のために適切な処置をとること」と北朝鮮人権特別報告者の継続を支持すると
いう意思を明らかにした。外交部当局者は「今回の方針発表は『北朝鮮に対して
言うべきことは言う』という李明博大統領の就任前の公約が積極的に反映された
もの」と話した。

趙ヒィヨン外交通商部代弁人は3月4日、定例ブリーフィングで「北朝鮮人権問
題は他の事案と別途に追求しなければならない人類の普遍的事案だと考える」と
語った。趙代弁人は、本年末に予想される国連の北朝鮮人権決議案の票決で「賛
成」するのかという質問に即答を避けながらも「政府はさまざまな国の人権を改
善するための国際的構想と努力に参与し、関連する対応をしていくだろう」とし
て「賛成」の可能性に比重を置いた。

過去、左派政権は北朝鮮の核実験直後である2006年の1回だけをのぞく5回も北
朝鮮人権決議案の票決に参加せず棄権した。したがって、新政府のこのような発
言は大変前向きな立場表明として評価を受けている。

▲ 最近、国家情報院の機能回復の兆候が見えてきた。左派政権下で自由に活動
してきた親北反国家行為者たちに対する検挙にも力が入ってきた。もちろん、い
まのところ捕虜・拉致問題に対する具体的接近は感知されていない。


2、李明博政権の対北政策の限界:太陽政策継承の可能性

(1)盧政権の対北基調を継承する立場

新政府の前向きな対北発言にもかかわらず、限界点もやはり明らかに見えてい
る。核心は、過去10年間継続してきた「太陽政策」を否定するのではなく、継承
するのではないかということだ。「実用」という名前の下で左派との闘争でなく
妥協を選択したという指摘だ。

▲ 1月17日、大統領職引き継ぎ委員会は「やさしく理解する新しい政府組織」
という資料で「李明博政府は政権交代にもかかわらず盧武鉉政府の対北政策の大
枠と方向を継続して維持する方針」と明らかにした。

▲ 1月17日、李大統領は「南北関係は政権が代わっても南北間の和解と平和を維
持するための努力はより一層行われるだろう」と話した。全体的に見るとき、対
北包容は持続するが、一定の速度調節をするということだ。

▲ 2月1日、李大統領は「金剛山観光と開城工団協力事業は就任後も維持し続け
る」として「南北が合意した事業でも、北朝鮮の核問題の進展を勘案して事業の
妥当性調査をし、経済性があるのかどうかを検討する」と述べた。

▲ 側近たちの間では盧政権の対北政策基調の不変を強調する発言が出てきてい
る。柳明恒・新任外通部長官は2月27日、国会外交通商委員会人事公聴会で野党
議員が李明博政府のいわゆる対北関係冷却の可能性を指摘したところ、「南北和
解を追求し緊張緩和を追求することは、絶対命題だと考える」と答えた。

彼はまた「和解協力政策、北朝鮮に対する和解協力政策の基調は変えられない
ことだと考え、李明博政府はこのような基調を守り続けていくものと考えている」
とし「李明博政府でも和解協力政策は継続しなければならない」「非核・開放・
3000は、対北包容政策をすべて集める政策」だと話した。

以上の発言は、新政府が金大中政権の太陽政策を継承した盧武鉉政権の包容政
策の基調は維持することを要旨としている。李明博大統領は選挙期間中、保守層
の支持撤回を意識したせいか「太陽政策の再検討」を何回も強調した。しかし、
政権が代わるや、「根本的路線修正はしない」または「しがたい」という立場を
明らかにしたのだ。

新政府が北朝鮮問題を見る基準は経済にあるようだ。例えば、盧武鉉・金正日
間で結ばれた2007年10・4宣言も、憲法に反するから全面的に否定しなければな
らないとするのではなく、経済性の有無を検討するというのだ。「カネがたくさ
んかかればやらないし、少しかかるならやる」というもので、物質を超えた原則
と基準は提示されていない。

(2)安保司令塔を掌握した盧政権の高位職たち

新政府が太陽政策を継承するのではないかという憂慮が高まったもっとも大き
な理由は、人事にある。新政府の安保司令塔が左派政権の高位職出身により独占
されてしまったからだ。

李大統領は盧政権で軍合参議長と駐日大使を勤めた李相熹氏と柳明恒氏を各々
国防長官と外交通商部長官に任命した。新任統一部長官には3月2日、正統保守の
南柱洪氏の後任に金夏中・駐中大使を内定した。昨年まで盧政権で法務長官を勤
めた金成浩氏を国情院長に任命した。

李相熹長官は盧政権下で合参議長(2005.4?2006.11)を勤めたが、この期間
に韓米連合司令部解体が決定され、北朝鮮船舶の済州海峡通過が許容された。柳
明恒長官は、盧政権下で外通部次官(2005.7?2006.11)と駐日大使
(2007.3?2008.2)を勤めた人物だ。金夏中長官内定者は金大中政権で大統領儀
典秘書官(1998.4?2000.8)、大統領外交安保首席秘書官(2000.8?2001.10)を
経て駐中大使(2001.10?2008.2)として働いてきた。

いわゆる太陽政策と包容政策の実務者の役割をしてきた彼らが、新政府の外交・
統一・国防長官として任命または内定され、今後「太陽基調」が持続することは
もちろん、脱北者・拉致問題などにおいても左派政権と大きな違いがないのでは
ないかという憂慮もある。このような観測は金夏中内定者の駐中大使時代の行動
を根拠にしている。

実際、金夏中内定者が大使時代に駐中韓国大使館と領事館などは「静かな外交」
という美名の下、中国でさまよっている脱北者に対して徹底的に冷たかった。見
捨てられた者の中には、朝鮮戦争時の韓国軍捕虜と拉致被害者まで入っている。
当時、脱北者などへの主要対処事例を見ると次の通りだ。

2004年6月 図們収容所収監の脱北者7名強制北送
2004年8月 天津の日本人居住地域進入の脱北者5名のうち4名強制北送
2004年11月 駐中韓国大使館領事部進入の脱北者8名全員強制北送
2004年11月 北京の民家2カ所で逮捕された脱北者62名強制北送
2004年12月 朝鮮戦争時の韓国軍捕虜出身の韓ミンテク氏が延吉で公安に逮
捕され強制北送
2005年9月 煙台の韓国国際学校に進入した脱北者7名全員強制北送
2006年10月 朝鮮戦争時の韓国軍捕虜家族9名脱北後に強制北送
2007年1月 拉北漁民の崔ウクイル氏が瀋陽の領事館担当者に電話で助けを
要請したが「私の電話番号をどうして知ったのか」と冷遇

(3)ニンジンだけがある対北政策

新政府は、「非核・開放・3000」で指摘したように北朝鮮の非核化と開放化の
立場を明確にし、捕虜・拉致問題で前向きな発言をしてきた。しかし、そのため
の圧迫手段が欠如しており、結果的には過去の政権と本質的な差異がないのでは
ないかという憂慮が高い。

実際、「非核・開放・3000」と李大統領および側近たちのいままでの発言を総
合すると、北朝鮮の非核化・開放化および捕虜・拉致問題解決の原則として「対
話」「説得」「支援」だけが語られている。対話・説得・支援で10年間、いかな
る成果も上げられなかったのだから、何か別の手段を語らなければならないのだ
が、これまで具体的な内容はない。総論だけがあり各論はないわけだ。

▲ 例えば、李大統領は1月17日、非核化のための圧迫策がないのか、という記
者の質問に「われわれは北朝鮮に核を放棄することが、北朝鮮政権にもまた北朝
鮮住民にも有益だということを申し上げて説得しなければならない」と語った。

また、「大韓民国5千万国民、北の2千万住民はみな、核の脅威の下で貧しく暮
らすより核を放棄してより良い生活、人間らしい生活を願っているということを、
両国の指導者は知らなければならない。だから、北朝鮮を説得して適切な協力を
継続するのだ」と話した。

▲ 李大統領は同じ日のインタビューで捕虜・拉致問題でも「対話」と「協議」
を通じた「円満な解決」を強調した。

▲ 李大統領は2月1日のインタビューでも非核化の手段を尋ねる質問に「金正日
国防委員長を説得しなければならない」、「北朝鮮が社会主義的政党を通じて信
頼を結んできた(ドイツなど)EU国家が北朝鮮を説得する役割を果たさなけれ
ばならない」として説得という単語を連発した。

▲ 北朝鮮のいい加減な核申告に対する新政府の態度も同じ脈略だ。昨年末、北
朝鮮は6者会談2・13合意にしたがって履行しなければならない核申告、無能力化
のデッドラインを超過した。しかし、李大統領は1月1日、KBS・SBSテレビの新年
対談で「少し遅くても誠実な申告が重要ではないか」として「申告期限を守るこ
とより、確実に申告をしてくれることにより信頼が生まれ真の廃棄の第1歩とな
りうる」と話した。金正日が変わることをただ待っている典型的な融和論である。

▲ 一方、年初に大統領職引き継ぎ委員会で韓・米・日3角協力体制の復元を強
調して、その延長線上で大量殺傷武器拡散防止構想(PSI)への正式参加を検討
しているという話が出た。しかし、北朝鮮に対する刺激を心配してなのか、引き
継ぎ委代弁人は「すぐに検討するというのではなく長期課題」だと弁解した。

(4)金正日政権の体制保障論

新政府の対北政策の限界を如実に見せつけるのがくり返される「北朝鮮体制保
障論」だ。

▲ 1月10日、李大統領はヒル米国務省東アジア次官補に会った席で「米国側が北
朝鮮軍部の人間とも対話をする必要がある」と強調し、最近、バーシュボウ駐韓
米大使に会った席では「北朝鮮を開放に導こうとすれば、北朝鮮が体制に対する
不安を持たないようにしなければならないが、結局、その鍵は米国が持っている」
と話した。

▲ 1月14日、朝鮮日報は「李当選者(李大統領)が北朝鮮の体制保障問題で深刻
に悩んでおり、特に米国に対して、北朝鮮軍部との対話を通じて体制崩壊に対す
る北朝鮮の憂慮を払拭してやることを要請した」と報道した。

▲ 新政府の対北政策の策士として知られる南成旭・高麗大教授はすでに何回も、
北朝鮮の体制保障をしてやってはじめて非核化・開放化が可能だと主張してきた。
彼は2008年1月1日KBS討論会でも「絶対に新政府は北朝鮮を崩壊させるという
『レジーム・チェンジ』をする、そのような意図を持っていない。そのような能
力もないし、必要もない」と力説した。彼は現在、国情院で対北問題を総括する
3次長候補に挙がっている【3次長には国情院内部から昇格され、南教授は起用
されなかった・訳註】。

▲ 2月1日、李大統領は「北朝鮮が非核化に進めば体制を保障する」という既存
の立場を再確認した。

「われわれは核を放棄することがむしろ体制を維持し経済を救うのに助けにな
ると金正日国防委員長を説得しなければならない。北朝鮮が核を放棄したとき、
信頼できる保障を与えなければならない。いままで6者会談参加国がいろいろな
話をしたけれども、北朝鮮が100%信じていないため進展がうまくいかないのだ
と見る。そこで、北朝鮮が社会主義的政党を通じて信頼を結んできた(ドイツな
ど)EU国家が北朝鮮を説得する役割を果たさなければならない」。

「北朝鮮体制保障論」の致命的欠陥は、北朝鮮を非核化・開放化させることが
できないことにある。自由・人権・法治が保障される普遍的体制は、金正日政権
が崩壊してはじめて可能になる。これが現実であり、常識だ。結局、「北朝鮮体
制保障論」は「首領独裁」を強化し、北朝鮮住民の苦痛と韓国国民の恐怖を延長
させる太陽政策のもう一つの仮面だ。大統領と側近たちは「北朝鮮体制保障論」
を通じて自身の対北路線が左派政権と本質的に違いがないことを明らかにしたわ
けである。


3.理念を捨てた実用主義の未来

(1)「理念の時代は終わった」というくり返される発言

新政府のあいまいな対北観は、金正日政権と親北・左派に対する問題意識の欠
如に直結する。李大統領と側近たちは「実用」という名の下で「理念を超えよう」
という発言をくり返している。

李大統領は演説のたびごとに「理念の時代は終わった」「理念論争は古いもの
だ」「理念を飛び越えて実用に進まなければならない」と話している。柳佑益・
大統領秘書室長もやはり「過去10年間は失われた歳月ではなかった」として今後
は「イデオロギーを飛び越えなければならない」と主張している。

大韓民国は、民族は同じだが理念により分断され、6・25【朝鮮戦争・訳註】
という理念戦争を戦い、死活をかけた理念対決が北朝鮮の核危機という形態で進
行中だ。北朝鮮では金日成主義が、韓国では自由民主主義という理念が支配して
いる。結局、韓半島では理念は体制の生存と直結する。

したがって、「理念の時代が終わった」という李大統領の発言は韓半島で展開
する理念対決という現実を無視した浪漫的・観念的発想だ。「古い理念論争」と
いう発言もやはり自由民主主義と金日成主義の両方を非難する両非論だ。南北問
題の両非論は、国家反逆者・偽善者・卑怯者たちの論法だ。間違ったことをした
勢力がいるのに、判断を下さずに、どちらもみな悪いと非難しているのだ。

「古い金日成主義理念の時代は終わった」と言えばすむことを敢えて両非論を
動員する理由は、結局、北朝鮮の金正日と南の左翼を意識しているのだ。少なく
とも現在まで新政府は金正日との全面対決を避けつつ、経済協力と南北交渉を通
じて北朝鮮の核問題を解決しようという期待感を隠していない。自由民主主義統
一でなく、南北韓の共同繁栄という不可能な座標を設定したわけだ。

軍統帥権者でもある大統領が理念の重要性を忘却したならば、安保はもちろん
のこと法治と経済も崩れる。朴正熙、レーガン、サッチャーは経済専門家ではな
かったが、透徹した理念型の指導者であったので経済を成功させることができた。

(2)始まった北朝鮮政権の李明博テスト

今後、親北左派の妨害、構造調整に反対する官僚の反発は強まっていくだろう。
北朝鮮政権はすでに李明博政権の対北政策をテストし、恐喝政治を始めた状態だ。

▲ 北朝鮮の対南組織である祖国平和統一委員会(祖平統)は6日、代弁人談話を
出し、国連人権理事会で韓国が北朝鮮の人権状況改善のために具体的措置をとる
ことを追求したことに対して「南北関係を対決に追い込む反民族的妄言」だと強
く反発した。この日、祖平統談話は、北朝鮮が直接的、間接的に新政府に向かっ
て出した各種の反応のなかで、もっとも水位が高いものだ。

談話は李明博政権を初めて「保守執権勢力」「独裁政権の末裔」だと規定し
「諸般の事実は、南朝鮮保守執権勢力が『わが民族同士』を基本理念とする6・
15共同宣言と北南関係を相互尊重と信頼の関係に転換させるための10・4宣言の
精神に逆らっているということをはっきり示している」と主張した。

▲ 北朝鮮の言論媒体は3月8日、韓米合同「キーリゾルブ」軍事演習と連合野外
機動訓練である「フォールイーグル」が終了するときに合わせて、論評などを通
じてこれらの訓練が「北侵」用だとくりかえし主張した。内閣機関紙である『民
主朝鮮』は「米国と南朝鮮の好戦狂らが戦争の道へ疾走すればするほど、わが軍
隊と人民は戦争抑止力をより堅く備えていき、朝鮮半島の平和と安定を頼もしく
守護するだろう」と述べた。

北朝鮮のオンライン媒体である『わが民族同士』は「南朝鮮の保守勢力はその
どの年よりも危険な攻撃的性格を帯びた米国との北侵合同軍事演習に積極的に加
担することにより、その好戦政権としての正体を満天下にさらした」と主張し、
これ以上これらの訓練をしないことを要求した。

▲ 金正日政権に対する圧迫の代わりに「対話」と「協力」を選択した李明博政
権は、自分でも分からないうちに金正日政権と親北左派勢力の圧迫に陥っている。
新政府はうやむやのまま「擬似太陽政策」を継承する自家撞着に陥るかもしれな
い。その場合、政権交代に大きな功績を挙げた保守派と李明博政権の蜜月関係は
緊張・葛藤関係に変化しうる。下手をすると、親北左派と保守右翼から挟み撃ち
にあい、サンドイッチの身の上に転落する危険性も排除できない。

保守の圧倒的支持を得て当選した李明博は「保守」を固守したレーガンの道を
進むことできるのだろうか。あるいは、「保守」を裏切り親北左翼の執権を可能
にした金泳三の道に進むのだろうか。李明博政権の実用主義路線の実態が段々と
姿を現す中で、選択と決断の分岐点も迫ってきている。

4、結論、李明博政権と日本人拉致問題

今後、韓国政府の日本人拉致問題に対する接近は、李明博政権が親北的な太陽
路線をどのくらい克服するかにかかっている。太陽路線を克服する程度が大きい
ほど、日本人拉致問題により積極的になるだろう。

例えば、現在、検討中である「北朝鮮人権記録保管所」や統一部内の朝鮮戦争
韓国軍捕虜・拉致被害者の専門担当組織が設置される場合、日本人拉致の問題も
ここに含まれるだろう。これを通じて日本の拉致関連団体も多くの情報を共有で
きるだろう。

私の個人的事例を一つ紹介しよう。政権が代わって、韓国の国家情報院と警察
側関係者がまったく異なる方向から記者を訪ねるようになった。過去の政権では
左派政権を批判してきた記者を監視・査察するための目的だったが、政権交代が
成し遂げられるや、むしろ対北関連、公安関連情報を共有するために記者に接触
し始めたのだ。日本の拉致関連団体も今後、同じ肯定的変化に出会う可能性が高
い。

結論的に指摘したいことは2つだ。第1に、李明博政権は日本人拉致問題を含
む対北問題全般で、金大中・盧武鉉政権とはかなりの部分で異なることだ。第2
に、李明博政権は理念的武装が不足しており、韓国の現実はいまだに金正日政権
と親北左翼が強い影響力を発揮しているため、新政府の限界もはっきりしている。

例えば、1月17日、李大統領は日本人拉致問題と関連して「日本の場合、拉致
問題が重要だろう。これは今後、北朝鮮との対話を通じて順調に解決していける
のではないかと考えている」と言った。これは拉致問題の重要性を認めたという
点で、金大中・盧武鉉政権と質的に違うということを意味する。しかし、北朝鮮
と対話を通じて解決できるという夢想的代案を提示して限界もあらわした。

李明博政権は日本人拉致問題を含む対北問題で金大中・盧武鉉政権のような
「悪党」ではない。だからといって多くの人たちが望むような「勇士」ではない。
問題意識はあるが、行動はきちんと伴わない「臆病者」という表現が適切のよう
に見える。

韓国と日本の自由民主主義勢力の使命もここに出てくる。「悪党」は言葉で分
からすことはできず戦わなければならない対象だが、「臆病者」は分からせて勇
気を与え「悪党」と戦うようにさせなければならない対象だ。韓国と日本の自由
民主主義勢力は李明博政権が金正日政権と戦い、われわれの息子、娘たちを救い
出せるように、ときには分からせ、ときには勇気を与え、ときには圧迫し、とき
には批判していかなければならない。

参考;2007年南北協力基金支出715.7億ウォン、 (2003年770.7億ウォン)
支出内訳
・経常事業       
南北交流協力支援、人的往来支援、社会文化協力支援
・民族共同体回復支援  
離散家族交流支援、人道的支援事業、交流協力基盤造成(経済分野)
・融資事業       
人道的事業融資、南北交流支援、交易経協事業資金貸し付け、交易資金貸し付け、
民族共同体回復支援貸し付け、対北軽水炉事業、軽水炉事業貸し付け   



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●福田首相にメール・葉書を
首相官邸のホームページに「ご意見募集」があります。
下記をクリックして、ご意見を送ってください。
http://www.kantei.go.jp/jp/forms/goiken.html
葉書は、〒100-8968 千代田区永田町2-3-1 内閣総理大臣 福田康夫殿

●救う会全国協議会ニュース

発行:北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会(救う会)
TEL 03-3946-5780 FAX 03-3946-5784 http://www.sukuukai.jp
担当:平田隆太郎(事務局長 info@sukuukai.jp)
〒112-0013 東京都文京区音羽1-17-11-905
カンパ振込先:郵便振替口座 00100-4-14701 救う会
みずほ銀行池袋支店(普)5620780 救う会事務局長平田隆太郎
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