金正日重病説と北朝鮮情勢?東京連続集会40(2008/12/05)
★☆救う会全国協議会ニュース★☆(2008.12.05)
脳卒中で倒れた金正日。北朝鮮はどうなるのか。新たな事態を受けて、日本の
対応はどうあるべきか。平成20年10月30日、東京連続集会40にて、救う
会拉致問題プロジェクト委員の惠谷治氏(ジャーナリスト)と西岡力・救う会会
長代行が、概要以下の通り報告した。
(長文につき、メールニュースでは、2回に分けて送りました)
惠谷治氏(ジャーナリスト)
世界中の関心事である金正日は、今どうなっているのかということについて、
昨日までの報道ベース、あるいは私が直接入手した情報を総合すると、体は不自
由でも意識はしっかりしていて、判断能力はあると見られる。例えると、ある関
係者は、大変失礼だが長島監督のことを想像されたらどうかと言っていた。長島
さんの場合は、すごくリハビリの努力をして表に出てこれた。しかし、金正日は
リハビリの努力をするような男ではないと思うから、二度と表には出てこれず、
おそらく彼の動く映像はもう出てこないのではないか。
そういう状況に至るまでを簡単に見てみると、まず、8月15日に脳卒中で倒
れたという報道があった。その後に中国医師団が呼ばれて手当てをした。ある情
報によれば昏睡状態にあるという状況だった。脳卒中は突然なるものではなく予
兆がある。優秀な主治医がついているはずだから、当然、予兆を感じて派遣要請
したはずだ。脳卒中の場合、早く手当てするほどダメージが少ない。脳卒中で倒
れてから何千キロも離れたところから医者を要請し、それで回復するということ
はありえない。
それでは、どういうことだったのかというと、8月15日に倒れたのはおそら
く間違いないと思うが、ただし、脳卒中だったのか、心筋梗塞だったのか、まだ
情報が錯綜している。15日に倒れた原因が心筋梗塞だった場合、実際に脳卒中
で倒れたのは8月22日ということになる。15日の予兆で呼ばれた医師団が2
2日には平壌に到着していたとして、金正日が本格的な脳卒中で倒れたとなれば、
心筋梗塞で呼んでいた医師団が脳卒中に対応できるかという問題がある。だから
はっきりとは分からないが、15日に何らかで倒れたが、これは一過性で持ち直
した。しかし、主治医たちは中国の医師団を要請した。その医師団が平壌に着い
たところでまた倒れ、医師団が本格的に治療して、9月初めにはもう意識が回復
していたような状況だと思う。
というのも、この問題が表に出たのは、9月9日の国家創建記念閲兵式に金正
日が出てこなかったことが発端だ。金正日が最高司令官になって以降、過去10
回の閲兵式に欠席したことがなかったから、これに欠席したということからして、
120%何かがあったということは間違いない。
問題は、その当日のことだ。軍事パレードというと、日本では92年の北朝鮮
の軍事パレードの映像ばかり流すから、戦車やミサイルが出てくるのが閲兵式と
いうイメージがあるけれども、ああいう軍事パレードは92年以降一度も行われ
ていない。つまり、北朝鮮の閲兵式には戦車もミサイルも出ず、通常、人民軍の
部隊が登場する。しかし今回、9月9日には民兵部隊が登場した。人民軍も当然、
閲兵式に登場する予定で、平壌の東の郊外にある美林という今は使っていない古
い飛行場に待機していた。閲兵式は北朝鮮では通常、朝10時から始める。何十
万人も動員される市民は、10時からのパレードに6時から動員される。当然今
年もそういう状況にあった。
ところが、10時に始まる予定が実際は午後5時に始まった。7時間も遅らせ
ることができるのは、あの国ではただ一人だ。閲兵式に一度も欠席したことのな
い金正日は、この閲兵式には出よう、出たいと思い、出るつもりだったと思う。
思考能力があるということは、左脳のダメージは少なく、右脳のダメージが大き
かったのだと思う。右脳のダメージが大きければ左半身は動かないが、右半身、
右手が何とか動いているということであれば、映像を遠目で撮れば何とかなると
考えたかもしれない。いずれにせよ、自分が出たい、出るつもりで待たせた結果、
7時間も遅れたのではないか。その日のことだけで言えば、金正日の意識はあり、
判断能力はあると私は思っている。
テロ支援国指定解除もそれを裏付けるものだと思う。金正日に判断能力があり、
統治能力がなければ、米国がわざわざ解除するはずがない。解除の前提としての
核兵器の検証を指示できる者がいなければ解除するはずがない。ということは、
ブッシュ政権ないしCIAを含め、金正日に判断能力、統治能力があると判断し
たがゆえに解除に踏み切ったと私は思っている。
ベッドにいるのか車椅子にいるのかは分からないが、判断能力があって、それ
なりに指示を出している傍証はたくさんある。
10月10日、労働党63周年記念日に出てこなかったのは、5年、10年と
いう節目のとき以外、もともと金正日は出てこないから当然のことだと思うが、
その日付で朝鮮中央通信は2枚の写真を出した。その翌日、中央テレビが朝9時
過ぎに臨時ニュースとして、将軍様が821軍部隊を訪問されたという形で20
枚のカラー写真を映した。私もこの20枚の写真を検討したが、最近ではないと
いう決定的な証拠は見つからなかった。しかし、緑の青々とした写真が10月の
写真ということはありえない。
821軍部隊というのは、金正日が1997年に最初に視察して以来、過去6
回も視察に行っている。通常の軍部隊視察は1回だけなのに、これは異常なこと
であり、何かあるのだろうと思うが、分からない。
軍部隊視察は金正日の統治術の原点であり、訪問して演習を視察し、全員で記
念写真を撮る。最高司令官と一緒に写真を撮ったという名誉もあるが、一人ひと
りに2ケース配られるカップヌードルが兵隊の一番の喜び、というのが本音だ。
だから将軍様には来ていただきたい。しかもそのカップヌードルは、中国製でも
韓国製でもなく日本製でなければ価値がない。カップヌードルの麺を食べて、残っ
た汁にご飯を入れて食べることが兵隊たちの喜びなのだ。このように一人に2ケー
ス、大盤振る舞いしている。単純に言えば、カネで忠誠心を買っている。もっと
言えば、日本製で忠誠心を買っているということだ。
そのカップヌードルは当然、以前は万景峰号で運ばれていた。今は万景峰号は
止まっているけれども、しかし輸出禁止ではないので第三国経由で行っている。
あるいは日本製のカラーテレビであれば、作戦に成功した幹部に「ご苦労」といっ
て渡している。このように日本製が金正日の独裁に貢献している。だから私は、
全面輸出禁止にすべきだと思っている。
金正日はが821軍部隊に行ったのは、最新では2006年4月だと思う。去
年行っていれば辻褄を合わせることができるだろうが。夏に行ったのは2004
年だから4年前のことになる。しかし、虚偽、捏造写真だという決定的な証拠は
見つからなかった。
今まで見ている限り、金正日の視察報道に、虚偽報道、捏造報道はない。5年
ぐらい前までは何日に視察したという日付も報道されていたが、現在はいつ行っ
たということは全然報道しない。金正日がいつどこに行っていたということが分
かれば、それを衛星でチェックすると、こういう車列を組むと金正日の車列だと
いうことが分かるから、現在は一切言わない。視察報道に捏造があれば、国内で
は、来ていないという話が出て、騒ぎになる。今まで捏造報道がないからゆえに、
今回、58日間も報道がなかったと言えよう。しかし、おそらく今回821軍部
隊を訪問したという報道については、初めて捏造しているのではないか。
10月7日に黄海側で、爆撃機から短距離の巡航ミサイルを発射する実験を行っ
た。軍事技術的にいうと、ソ連製の空対地ミサイルはいくつか持っているが自前
製のものはなかった。おそらく空対地ミサイル実験を行ったのは初めてのことだ。
将軍様が倒れても我々はミサイル開発をやるんだという意思表示であるが、それ
以上に、これにも当然、金正日が、発射してよろしいというサインを出している。
2006年7月に7発のミサイルを発射した時、新聞、テレビの解説の方は、
軍が暴走したのではないかと言っていた。北朝鮮で軍が暴走してくれれば、それ
を期待して、クーデターも可能となるが、暴走などできない。すべて、金正日が
サインしなければ発射できない。ということは、10月7日のミサイル発射実験
も、金正日に判断能力があり、サインしている。ただしサインは、同じ筆圧で同
じタッチのサインマンが別にいるので、本人が書かなくてもできる。
一連の動きを見ていると、車椅子に乗っているのかベッドに寝ているのかは分
からないが、本人はとりあえず命に別状がなく、おそらくベッドに一番近い場所
に一番かわいがっていた妹の金敬姫がいて、その夫の張成沢と相談しあいながら
統治が行われているのではなかろうか。
西岡力(救う会会長代行 東京基督教大学教授)
最近、何回かソウルに行き、脱北者や情報関係者と意見交換してきたが、金正
日が倒れたことは間違いない。しかし、今も金正日が統治している。現段階では、
病床で統治しているのだろうと判断している。
拉致問題に引きつけて考えると、8月14日までは金正日の動静報道があるか
ら、14日の夜に倒れたのか15日の倒れたのかは分からないが、8月11日か
ら12日にかけて行われた日朝実務者協議の時は、金正日は健在だったというこ
とだ。
6月の実務者協議の段階で北朝鮮は、人と船と飛行機の制裁解除を求め、その
見返りとして拉致の調査のやり直しをすると言った。8月の実務者協議では、船
の制裁解除については先送りとなって、人と飛行機の制裁解除だけで調査のやり
直しをすることになった。何を見返りにするかということについては金正日の決
済がなければ絶対できない。しかも6月段階と違う条件で調査やり直しをすると
いうことになったのだから、そういう意味でも、その時、金正日は健在であった。
そして、何かを狙って仕掛けてきたことは間違いないと思う。
強調しておきたいのは、今回の北朝鮮の要求がコメやカネではなく、制裁緩和
だったということだ。これは、今までにない日朝の交渉だったと言える。北朝鮮
は過去4回、拉致の調査をしてきたが、過去の調査の見返りはコメ・食料かカネ
だった。アメとムチに喩えていえば、今まではアメを要求してきたが、今回はム
チを緩めてくれと言ってきた。しかも6月と8月を比べると、その緩め方が少し
甘くてもいいと言ってきた。そこまでして北朝鮮は何を得たかったのか。制裁の
緩和、解除が当面の目的だったのかもしれない。
そして、8月15日、22日が過ぎて、9月1日に福田首相が首相辞任を表明
し、北朝鮮は9月4日に、福田辞任表明を理由に調査委員会の立ち上げを延期す
ると伝えてきた。この時点では金正日の病気報道はなかった。北朝鮮は金正日の
決済で動いているのであって、何か目的があって調査やり直しを約束して日本の
制裁を解除させようとしたはずだ。福田首相が辞めるから調査やり直しを延期す
るということは、福田首相が別途、秘密の交渉をしていて、何か表に出ていない
約束をしていたとして、その表に出ていない約束を担保した人が辞めてしまうの
だから延期するということであれば、あり得ると思っていたが、9月9日に金正
日が出てこなかったことから、どうもそうではなくて、彼らのほうの事情が何か
変わったと考えるべきなのではないかと今は思っている。
経済制裁をしたから拉致問題は膠着状態になった、安倍政権のやり方は間違っ
ていたという議論が一部にあるが、拉致問題は2002年9月以降、進展してい
ない。それ以前は、拉致はないと言っていた北朝鮮、金正日が拉致を認めたのは
大きな進展だった。そして5人が帰ってきた。その後は5人に付随する家族の問
題はあったけれども、死亡と言われた8人について、また、北朝鮮が拉致を認め
ていない曽我ひとみさんの母ミヨシさんや特定失踪者を含む多くの人たちについ
て、進展はゼロだ。それどころか、偽の遺骨が出てきたり、偽の交通事故記録が
出てきたり、ひどい目にあわされている。
その間6年経っているが、そのうち最初の4年間は制裁をかけていない。端的
にいうと、制裁をかけていなかったら偽の遺骨が出てきた。その後の2年間、制
裁をかけたら北朝鮮は調査のやり直しをするから制裁を緩めてくれて言ってきた。
これが現段階でいえる客観的事実だ。4年間の制裁をしないやり方と、2年間の
制裁をするやり方と比べて、どちらが効果を挙げたのか。たとえ効果が挙がらな
かったとしても、援助しかカードがなかった時と比べて、こちらに新しいカード
ができたという点で、交渉は有利になった。このことを押さえた上で、北朝鮮が
今回何をしようとしていたのか、それがなぜ止まったのか考えなければならない。
福田さんが辞任を表明しても、麻生政権が生まれるまで福田政権は続いていた。
その時、福田さんが辞めるから北朝鮮は様子を見るだろう、それでも仕方がない
というようなことを言った外務省の高官がいたけれども、向こうが犯人なのだか
ら一刻も早く返すべきであり、日本の首相が代わることと拉致被害者の帰国を要
求することに何の関係があろうか。調査すると言ったらさせるべきなのであって、
理解できるなどと言うのは利敵行為だ。
当時の中山拉致問題担当相は、福田辞任表明直後にもしかすると早く動くこと
もあるかもしれない、あるいは時間稼ぎに出るかもしれない、両方あると思って
対処しなければいけないと言っていた。福田政権は、調査委員会の立ち上げだけ
で制裁を解除すると約束した政権だから、北朝鮮がすることは立ち上げ通報でい
いのだから、彼らが朝鮮総連の人たちの北朝鮮渡航を始めたいなら、早くやれば
よかったはずだ。その後に、次の政権がけしからんから委員会の活動を停止した
と言えばよかったはずだ。北朝鮮はもともと委員会を立ち上げて調査しなくても
結果は分かっているのだから、結果をどう出すかということを検討するだけだろ
う。しかし北朝鮮は、当面のことを取ろうとしなかった。
それは、短期的には9月9日に関係していると思う。9月9日の国家創建60
周年の大行事に、制裁のため再入国許可が出ない最高人民会議代議員の朝鮮総連
の6人の幹部たちを呼んでいた。6人の幹部たちは北京行きの飛行機の予約をし
ていた。彼らは9月9日以前に委員会立ち上げがあり、制裁が解除されると考え
ていたから北朝鮮行きの準備をしたのだ。出来ればチャーター便で行って大々的
にお祝いをしたいということを考えていた可能性もある。それなら8月時点で金
正日が、万景峰号など船については先送りしてもよいと決済したことに一定程度
納得できる。しかし、その後に金正日が倒れて、大々的にお祝いする状況ではな
くなった。そういうことを隠すために、福田首相の辞任表明を使ったのではない
か。金正日は、調査委員会立ち上げ延期についても決済していると思う。その理
由は自分の健康なのではないか。
それでは金正日の健康状態はどうなのか、権力は今どうなっているのか。北朝
鮮の動きと金正日の健康問題との間に何らかの連関があることは間違いない。病
状については詳しくわからないが、少なくとも定期的に金正日から決済が出てい
るということは間違いない。金正日の病室に入れる人間はごく限られている。し
かしまだ、断定的なことはなかなか言えない。
ソウルで聞いてきたことの中で、成程と思ったことがある。あまりにも金正日
の病状の情報が出すぎている。特に中国から出ている。本当は、中国は知らない
と言っておかなければならないのに、ということだ。今回中国から入ったのは軍
医だと言われている。軍医は情報を守るから信用される。ところがあまりにも病
状の情報が漏れており、明らかにおかしな情報も漏れている。金正日が烽火病院
で治療を受けるということはあり得ない。中国軍がその気になれば完全に秘密に
できるのに、病状が漏れているということは、中国は知っているように見せてい
るのであって、本当は知らないのではないかという分析がある。一理あると思う。
でも、最低限言えることは、金正日が動く映像で出られない状態にあるという
ことだ。9月9日には立つこともできなかったのではないか。立てれば、その映
像を出すこともできたはずだ。
そして北朝鮮は今、病気ではないと言っている。病気報道は謀略だと言ってい
る。外部から情報が入ってくることに大変ぴりぴりしている。異常なのは、ビラ
に対する彼らの非難だ。韓国にいる脱北者のNGOが10月10日に撒いたビラ
を1枚もらってきた。今は風船につけてまとめて落としているが、ビラはもとも
と韓国政府が気球を使って50年間やっていたことだ。しかし今、北朝鮮は、1
0月の2回の軍事接触の機会に、NGOのビラをやめさせろと言っている。ビラ
にそんなにおびえていることが分かり、NGOの人たちは元気づいている。北朝
鮮は最近になって、外部の情報が入ることを恐れ始めたということだ。
9月9日の「労働新聞」の社説に、「敵が我々の秘密を狙っている」というフ
レーズがある。9月に入って新しく生まれた秘密とはなんだろうか。金正日が8
月に倒れたとすれば辻褄が合う。動く映像が出てくれば健康不安説は吹き飛ぶが、
それができないから外部と接触できない。金正日と一緒に写っている821軍部
隊の女性兵士たちは、本当は来ていないということが広がらないために監禁状態
にあるかもしれない。そういうことをしなければならないような状態であること
は間違いない。
今後は、北朝鮮の権力全体がどうなっていくのかということが第一の問題であ
る。8月11日時点でやろうとしていた拉致問題での日本への何らかの回答と制
裁の一部解除とのバーター取引を、金正日が倒れた後の権力がどう判断するのか、
まだ読みきれない。北朝鮮は北朝鮮の事情で6月と8月に拉致問題で何らかの動
きをしようとしていたのだ。安倍さんは首相になる前に、「黙って真綿で首を絞
めるようにすれば、絶対に向こうが動いてくる」と言っていた。朝鮮総連に対す
る厳格な法執行などをやり始める前の話だ。その通り、動きが出てきた。
今、動きが出てきたのに向こうの都合で変わった。我々は反対だが、麻生政権
も北朝鮮が調査委員会を立ち上げたら、人と飛行機の制裁を解除すると言ってい
る。ただし、その時点でもエネルギー支援には加わらないということを言ってい
る。北朝鮮が8月11日時点で要求していたのは、エネルギー支援ではなかった
のだ。
北朝鮮が今後どうなっていくのかということについて、また惠谷さんに話して
いただきたい。
惠谷治氏(ジャーナリスト)
今後どうなっていくかというとき、集団指導制に移行するのではないかという
ようなことを、北朝鮮の政治風土を理解していない人が言っている。
一番のポイントは、金正日が後継者を指名しているのかどうかだ。金正男、金
正哲、金正雲の3人の息子がいつも話題になるが、金正日が誰を後継者にしたい
のかという問題と、それとは別に金正日が後継者を指名していない段階で、周り
が誰を後継者にしたいのかということが混同されている場合が多い。金正日が決
める場合、長男に決めれば、自分も長男だし、何の波風が起きない。金日成は韓
国の全州金氏という祖先から数えて12代目であって、後継者は皆長男だ。金正
日も長男を後継者とすれば波風は起こらない。それを次男だ、三男だと決めれば
波風が起こるに決まっている。金正男が後継者になりたくないといっても担ごう
とする勢力が必ずいる。それが権力だ。だから、本人の意志とは無関係に担ごう
とする勢力同士の争いがある。
5年前から「労働新聞」に「革命の首脳部」という言葉が頻発するようになっ
た。1970年代半ばから「党中央」という言葉を頻繁に使うようになったが、
それが金正日のことを示していたという例がある。現在はっきりとは分からない
が、「革命の首脳部」とは誰なのかというとき、将軍様の長男に決定と言ったら、
北朝鮮の人間にとってそれで何の問題もないわけである。
もう一つ、「尊敬するオモニム」という話がある。それは金正哲の母・高英姫
のことを示しているが、人民軍でそういう教育が始まったといって、それを持ち
上げて、金正哲を後継者にしようという動きがいかにもあるような話がマスコミ
で繰り返し報道された。今は下火になっている。私がこの次男坊の目はないと思っ
た一番の理由は、金正日自身が、あんな女みたいな男はダメだと言ったという精
神的な部分もある。肉体的にもホルモン異常でパッとしない。その代わり三男の
金正雲は日本語も、漢字もしっかり勉強しているという話もある。だが、まだま
だ歳も若いし、三男を指名したらどういう問題が起きるかということもある。
金正日は今のところ、意識があって、決断する能力がある。肉体的なことを別
とすれば健在であるという段階で、現状はさほど混乱はない。金正日が後継者を
決め関係者にそれを明言すれば、さほど混乱は起きないのではないか。しかし、
「革命の首脳部」という場合、金正男という個人の場合もあれば、「我が息子た
ち」という場合もある。息子でない者を排除するということをまず決め、それか
ら時間が経ってから最終決定することもあろう。金正日の腹の中では、金正雲が
大きくなればこれにやらせたいということかなと私は想像している。
後継者問題だけで言えば、金正日が決めている可能性もある。しかし、金正日
の病状が悪化あるいは急死したという時に後継者が決まっていないとなれば、取
り巻きの主導権争いが起きる可能性がある。
もう一つ、金正日が死んだということが内外に伝えられた場合、どこかで暴動
が起き、それを軍が鎮圧に出て流血騒ぎが起こる。それを我々が伝え、各地に飛
び火するということになる。そういうことにならない限り、人民軍あるいは労働
党という組織は変わりようがない。米韓軍の5029概念計画が作戦計画に格上
げされて、後継者争いで内戦状態になった段階ですぐ介入できればいいのだが、
なかなか国際関係上難しいということもある。
拉致問題に関しては、北の朝日交渉担当者は再調査延期を認めてもらおうとし
て様々なことをしているのではないか。ブッシュ政権がテロ支援国指定解除に踏
み込んだということもある。調査委員会を立ち上げたとして調査結果がどの程度
なのか読めると思うが、いずれにしろ何でもいいから向こうからアクションを起
こさせるべきだ。麻生首相は向こうが何かをすべきだと言っているように見える
が、麻生首相のほうからプッシュをしていくべきだと思う。ブッシュ政権がなぜ
テロ支援国指定解除をしたかというと、今がチャンスというか、金正日は判断が
できると見たということだ。プッシュしていけば何かが起きる。今こそ改めて、
麻生首相のほうからプッシュすべきだと思う。
西岡力(救う会会長代行 東京基督教大学教授)
金正男の今の弱点は母親のことをオープンにできないことだ。金正日がとった
人妻から生まれたから。そういうことをどう処理していくのかという問題が一つ
残っている。高英姫が健在で力が強くなった頃、金正男が海外に行くようになっ
たのは高英姫から金正男を守るためもあったということをある人から聞いた。
もう一つ、惠谷さんは、米国がテロ支援国指定を解除したのは金正日がしっか
り判断できると判断したからだということだが、判断ができるかどうかテストし
ようと思って解除したという部分もあると言う米国人もいる。
さらにもう一つ、金正哲はもう組織指導部にいることはほぼ間違いない。20
04年に入ったと言われている。2004年に労働党組織指導部のトップ、第一
副部長だった張成沢が学習という名目で組織指導部から出されて、李済強という
組織指導部に長くいた党人でかなり年上の人が組織指導部を握る。李済強も張成
沢と同じ第一副部長だったが、張成沢がいたときは張成沢の下で動いていた。そ
の李済強は高英姫に近かったと言われている。そして、国防委員会の委員の一人、
あの正体の分からないペク・セホンは金正哲であるという有力な情報がある。ペ
ク・セホンというのは白頭山の三つの峰と書く。恵谷さんの説通り「革命の首脳
部」が金正男なら、金正哲は「白三峰」という名前で出ている。しかし高英姫が
死んでしまったから、また張成沢の力が強くなっているのは間違いない。張成沢
は金正男を支持しているというのが大方の見方だ。そしてその後ろには中国がい
る。中国はもちろん金正男、金正哲、金正雲の3人ともに紐をつけていると言わ
れている。
2年前に張成沢が復権し、今は行政部長と言われている。張成沢を戻す時、組
織指導部の中の公安に関係する権限を全部行政部に持っていって張成沢に与えた。
李済強と張成沢を同じ部署にしないようにした、とある人が説明している。
今後、李済強組織指導部第一副部長がそのままいるのかどうか。張成沢行政部
長の力が強くなってくれば李済強がいつの間にかいなくなるということが起こり
得るのではないか。金正日は張成沢を信用しているが、少し警戒していて、ナン
バー2を作らないように対処してきた。しかし病床にあって統治ができないよう
な状況にあれば、肉親である妹の夫・張成沢に頼らざるを得なくなってくる。金
正日の強いカリスマが弱まれば、朝鮮労働党は中国に近づいていく。
黄長燁(火ヘンに華)氏から聞いたところでは、労働党の幹部たちの中で数人
を除いてあとは中国式の改革・開放をやったほうがいいと思っている。しかし、
言ったら殺されるから誰も言わない。言ったら殺されるというのは、金正日が最
高幹部まで含めて全部盗聴し、見張っているからだ。その金正日が最高幹部の動
静を監視ができないくらい体力が弱っていると、党幹部たちの方向は、自分たち
の独裁が続き特権が続くためには、共産党が独裁している中国式のやり方がいい
となる。中国もそれを応援すると言っている。そういう方向になるのか。その場
合には李済強ら金正哲につながるラインが目に見える形で排除されるようなこと
が起きるか起きないか、まずそこを注目しなければならない。
一方で、中国の統治でいいのかということ、あるいは労働党の統治が続くこと
について強い拒否感が人民の間にあることは間違いない。金正日が労働党の党首
になるまでに人口の15%が餓死した。労働党を信用していた人間が死んでいっ
た。配給はあると思い、闇をしてはいけないと言われているから闇をしなかった
人間が死んでいき、労働党を早く諦めて自分で食べようとした人が生き残った。
餓死者が人口の15%だから、自分の家族や親戚で餓死しなかった人は、最高幹
部以外ほぼいないだろう。そういう中で、中国の影響下で労働党の統治が続くの
がいいのか。中国はあくまでも異民族である。それとも韓国という自由民主主義
の国があるのだから、ドイツ型の統一をするという選択肢があり得るのではない
か。北朝鮮の人々には、今は韓国のほうが経済的に上で、韓国は北の人民を皆食
べさせることができると考えるだけの力はある。
その場合、もう一つの大きな変数は韓国だ。李明博政権が西独のコール政権の
ように統一を最優先課題として乗り出す覚悟があるのかということになる。
韓国は、北に対する中国の影響が強まる前に中国と話をつけなくてはいけない。
その場合、韓国は今の中朝国境を認めていない。あれは日本が韓国から外交権を
奪った時代に清と作った国境だから、本当はもうちょっと北だったというのが韓
国政府の公式の立場だけれども、今、統一ということを目の前にしては、今の国
境を守ると言うべきだ、と韓国保守派の北朝鮮問題専門家の洪ガンヒ先生たちが
提言している。
当時、西独は英、仏にまで行って、統一ドイツは英、仏の脅威にはならないと
説得したように、韓国は米、日に対して、韓国は韓米同盟、韓日友好を続ける、
自由民主主義、人権、法の支配という同じ価値観を続けて大韓民国による統一を
する、統一韓国は日米の脅威にはならないとはっきり言って説得すべきであり、
その後、日米の後押しを得て中国に、内政問題に干渉しないでほしい、中国にい
る朝鮮族に手を伸ばしたりしない、中国の安全保障の脅威になるようなことはし
ない、そして北を開発するときには中国の業者も使うというようなことも言って
説得すれば、統一できる可能性がある。先般私は、韓国で開かれたあるシンポジ
ウムで、そういうスピーチをしてきた。
しかし、韓国の中も割れている。そういう声は少しずつ上がりつつあるけれど
も、お金がかかるのだったら中国に北朝鮮の面倒を見てもらったほうがいいでは
ないかという声もかなりある。それについては、韓国の中でどちらが勝つのかま
だわからない。
最後に、もう一度拉致問題に戻り、今何をすべきかというと、北朝鮮が8月時
点でやろうとしたことを今なぜ延期しているのか、その理由が何なのか、情報が
ほしい。そして政府には、そのような北朝鮮内部情報をぜひとってもらいたい。
それと同時に、日本は拉致問題で絶対に譲歩しない、今日本政府が求めている
認定されていない人も含めて全被害者の帰国については妥協の余地がない、交渉
の余地はない、日本国民は皆怒っていて、そこで譲歩するような政府はもたない、
それは民主党政権になっても同じだということを、金正日だけでなく、ポスト金
正日候補、中国にも、韓国に対しても、米国に対してもどれだけ植えつけること
ができるかにかかっている。
日本外交は今まで、与えられた条件の中で足して2で割るようなことをやって
きたが、この問題に対しては我々が条件を作る。安部政権の時、日本がエネルギー
支援をするのであれば拉致問題の進展がなければダメだと言ったのは、我々が条
件を作っているということだ。
テロ支援国指定理由に拉致を入れるよう働きかけたのは、米国を巻き込もうと
したものだ。今、拉致問題に進展がなければエネルギー支援をしないということ
は日本政府の決定だから、国民が支持すればこれを守りきることができる。それ
をやり続けることだ。
人質になっている被害者の安全を守ることが前提だ。この人たちがお金になる
と思えば大切にする。病気になった時、最高の医療をするだろう。
対日担当者たちは、6年前に金正日に謝らせて8人死亡で終わらせるという決
済をもらったのに、まだ終わっていないから、8人死亡で終わらせたい。そのた
めに去年の秋以降、田原総一郎さんのような有名なジャーナリストとか、山崎拓
さんのような政治家に働きかけて、日本人は拉致にこだわりすぎている、拉致に
こだわると外交が進まないという世論を作ろうとした。そのような勢力が日本で
一定の力を持っていると北朝鮮が判断している以上被害者は帰ってこない。日本
人が拉致にこだわらなくなる日がくるという希望があるから、担当者はそれで決
済をとったのだから、これで行きたいのだ。
それではダメなんだということを思わせることができるかどうか。それには絶
対に制裁を緩めないこと、強めていくことだ。制裁だけで金正日政権を倒すこと
ができるかどうか分からないが、少なくとも制裁で金正日政権に痛みを与えてい
ることは事実であり、それは日本人が怒っているというコミュニケーションになっ
ている。被害者が帰ってこない限り北朝鮮に不利益が続く。惠谷さんが言ったカッ
プヌードルを買うのにも直接運べないという不利益があるわけだ。本当はカップ
ヌードルを買えないようにするのが一番よい。だから、輸出全面禁止の追加制裁
をやってもらいたい。制裁という形でのコミュニケーションは続けていくべきだ。
もう一つ重要なことは情報をとることだ。具体的に、髪の毛でも写真でも取れ
れば、決定的証拠になる。それについての希望は、韓国の政権が代わったという
ことだ。北朝鮮に関する情報は韓国が一番持っている。この10年間おかしかっ
たとはいえ、その前、例えば横田めぐみさんが拉致されているということを教え
てくれたのは韓国だ。韓国が情報を取ってくれて、それを日本の警察に通報した
けれども、日本の警察は握りつぶそうとしたから、韓国が日本のテレビ局にリー
クしたのだ。
最近、韓国にいる脱北者の人たちに会うと感触が違ってきている。前は、私に
会ったというだけで国情院に呼び出されて懲戒処分を受けたというケースもあっ
たが、今はそういうことはない。だからといって、11年前のように韓国が積極
的に情報を取って日本にくれるまでにはなっていない。しかし、日本に拉致問題
の証拠を出すことを邪魔しようという動きはなくなったことからしてもかなりの
余地が生まれている。
拉致被害者の救出は、絶対に制裁を緩めず日本人は皆怒っているということを
思わせ続けることと、情報を取ることの二つにかかっている。
以上
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
●麻生首相にメール・葉書を
首相官邸のホームページに「ご意見募集」があります。
下記をクリックして、ご意見を送ってください。
http://www.kantei.go.jp/jp/forms/goiken.html
葉書は、〒100-8968 千代田区永田町2-3-1 内閣総理大臣 麻生太郎殿
●救う会全国協議会ニュース
発行:北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会(救う会)
TEL 03-3946-5780 FAX 03-3946-5784 http://www.sukuukai.jp
担当:平田隆太郎(事務局長 info@sukuukai.jp)
〒112-0013 東京都文京区音羽1-17-11-905
カンパ振込先:郵便振替口座 00100-4-14701 救う会
みずほ銀行池袋支店(普)5620780 救う会事務局長平田隆太郎
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
脳卒中で倒れた金正日。北朝鮮はどうなるのか。新たな事態を受けて、日本の
対応はどうあるべきか。平成20年10月30日、東京連続集会40にて、救う
会拉致問題プロジェクト委員の惠谷治氏(ジャーナリスト)と西岡力・救う会会
長代行が、概要以下の通り報告した。
(長文につき、メールニュースでは、2回に分けて送りました)
惠谷治氏(ジャーナリスト)
世界中の関心事である金正日は、今どうなっているのかということについて、
昨日までの報道ベース、あるいは私が直接入手した情報を総合すると、体は不自
由でも意識はしっかりしていて、判断能力はあると見られる。例えると、ある関
係者は、大変失礼だが長島監督のことを想像されたらどうかと言っていた。長島
さんの場合は、すごくリハビリの努力をして表に出てこれた。しかし、金正日は
リハビリの努力をするような男ではないと思うから、二度と表には出てこれず、
おそらく彼の動く映像はもう出てこないのではないか。
そういう状況に至るまでを簡単に見てみると、まず、8月15日に脳卒中で倒
れたという報道があった。その後に中国医師団が呼ばれて手当てをした。ある情
報によれば昏睡状態にあるという状況だった。脳卒中は突然なるものではなく予
兆がある。優秀な主治医がついているはずだから、当然、予兆を感じて派遣要請
したはずだ。脳卒中の場合、早く手当てするほどダメージが少ない。脳卒中で倒
れてから何千キロも離れたところから医者を要請し、それで回復するということ
はありえない。
それでは、どういうことだったのかというと、8月15日に倒れたのはおそら
く間違いないと思うが、ただし、脳卒中だったのか、心筋梗塞だったのか、まだ
情報が錯綜している。15日に倒れた原因が心筋梗塞だった場合、実際に脳卒中
で倒れたのは8月22日ということになる。15日の予兆で呼ばれた医師団が2
2日には平壌に到着していたとして、金正日が本格的な脳卒中で倒れたとなれば、
心筋梗塞で呼んでいた医師団が脳卒中に対応できるかという問題がある。だから
はっきりとは分からないが、15日に何らかで倒れたが、これは一過性で持ち直
した。しかし、主治医たちは中国の医師団を要請した。その医師団が平壌に着い
たところでまた倒れ、医師団が本格的に治療して、9月初めにはもう意識が回復
していたような状況だと思う。
というのも、この問題が表に出たのは、9月9日の国家創建記念閲兵式に金正
日が出てこなかったことが発端だ。金正日が最高司令官になって以降、過去10
回の閲兵式に欠席したことがなかったから、これに欠席したということからして、
120%何かがあったということは間違いない。
問題は、その当日のことだ。軍事パレードというと、日本では92年の北朝鮮
の軍事パレードの映像ばかり流すから、戦車やミサイルが出てくるのが閲兵式と
いうイメージがあるけれども、ああいう軍事パレードは92年以降一度も行われ
ていない。つまり、北朝鮮の閲兵式には戦車もミサイルも出ず、通常、人民軍の
部隊が登場する。しかし今回、9月9日には民兵部隊が登場した。人民軍も当然、
閲兵式に登場する予定で、平壌の東の郊外にある美林という今は使っていない古
い飛行場に待機していた。閲兵式は北朝鮮では通常、朝10時から始める。何十
万人も動員される市民は、10時からのパレードに6時から動員される。当然今
年もそういう状況にあった。
ところが、10時に始まる予定が実際は午後5時に始まった。7時間も遅らせ
ることができるのは、あの国ではただ一人だ。閲兵式に一度も欠席したことのな
い金正日は、この閲兵式には出よう、出たいと思い、出るつもりだったと思う。
思考能力があるということは、左脳のダメージは少なく、右脳のダメージが大き
かったのだと思う。右脳のダメージが大きければ左半身は動かないが、右半身、
右手が何とか動いているということであれば、映像を遠目で撮れば何とかなると
考えたかもしれない。いずれにせよ、自分が出たい、出るつもりで待たせた結果、
7時間も遅れたのではないか。その日のことだけで言えば、金正日の意識はあり、
判断能力はあると私は思っている。
テロ支援国指定解除もそれを裏付けるものだと思う。金正日に判断能力があり、
統治能力がなければ、米国がわざわざ解除するはずがない。解除の前提としての
核兵器の検証を指示できる者がいなければ解除するはずがない。ということは、
ブッシュ政権ないしCIAを含め、金正日に判断能力、統治能力があると判断し
たがゆえに解除に踏み切ったと私は思っている。
ベッドにいるのか車椅子にいるのかは分からないが、判断能力があって、それ
なりに指示を出している傍証はたくさんある。
10月10日、労働党63周年記念日に出てこなかったのは、5年、10年と
いう節目のとき以外、もともと金正日は出てこないから当然のことだと思うが、
その日付で朝鮮中央通信は2枚の写真を出した。その翌日、中央テレビが朝9時
過ぎに臨時ニュースとして、将軍様が821軍部隊を訪問されたという形で20
枚のカラー写真を映した。私もこの20枚の写真を検討したが、最近ではないと
いう決定的な証拠は見つからなかった。しかし、緑の青々とした写真が10月の
写真ということはありえない。
821軍部隊というのは、金正日が1997年に最初に視察して以来、過去6
回も視察に行っている。通常の軍部隊視察は1回だけなのに、これは異常なこと
であり、何かあるのだろうと思うが、分からない。
軍部隊視察は金正日の統治術の原点であり、訪問して演習を視察し、全員で記
念写真を撮る。最高司令官と一緒に写真を撮ったという名誉もあるが、一人ひと
りに2ケース配られるカップヌードルが兵隊の一番の喜び、というのが本音だ。
だから将軍様には来ていただきたい。しかもそのカップヌードルは、中国製でも
韓国製でもなく日本製でなければ価値がない。カップヌードルの麺を食べて、残っ
た汁にご飯を入れて食べることが兵隊たちの喜びなのだ。このように一人に2ケー
ス、大盤振る舞いしている。単純に言えば、カネで忠誠心を買っている。もっと
言えば、日本製で忠誠心を買っているということだ。
そのカップヌードルは当然、以前は万景峰号で運ばれていた。今は万景峰号は
止まっているけれども、しかし輸出禁止ではないので第三国経由で行っている。
あるいは日本製のカラーテレビであれば、作戦に成功した幹部に「ご苦労」といっ
て渡している。このように日本製が金正日の独裁に貢献している。だから私は、
全面輸出禁止にすべきだと思っている。
金正日はが821軍部隊に行ったのは、最新では2006年4月だと思う。去
年行っていれば辻褄を合わせることができるだろうが。夏に行ったのは2004
年だから4年前のことになる。しかし、虚偽、捏造写真だという決定的な証拠は
見つからなかった。
今まで見ている限り、金正日の視察報道に、虚偽報道、捏造報道はない。5年
ぐらい前までは何日に視察したという日付も報道されていたが、現在はいつ行っ
たということは全然報道しない。金正日がいつどこに行っていたということが分
かれば、それを衛星でチェックすると、こういう車列を組むと金正日の車列だと
いうことが分かるから、現在は一切言わない。視察報道に捏造があれば、国内で
は、来ていないという話が出て、騒ぎになる。今まで捏造報道がないからゆえに、
今回、58日間も報道がなかったと言えよう。しかし、おそらく今回821軍部
隊を訪問したという報道については、初めて捏造しているのではないか。
10月7日に黄海側で、爆撃機から短距離の巡航ミサイルを発射する実験を行っ
た。軍事技術的にいうと、ソ連製の空対地ミサイルはいくつか持っているが自前
製のものはなかった。おそらく空対地ミサイル実験を行ったのは初めてのことだ。
将軍様が倒れても我々はミサイル開発をやるんだという意思表示であるが、それ
以上に、これにも当然、金正日が、発射してよろしいというサインを出している。
2006年7月に7発のミサイルを発射した時、新聞、テレビの解説の方は、
軍が暴走したのではないかと言っていた。北朝鮮で軍が暴走してくれれば、それ
を期待して、クーデターも可能となるが、暴走などできない。すべて、金正日が
サインしなければ発射できない。ということは、10月7日のミサイル発射実験
も、金正日に判断能力があり、サインしている。ただしサインは、同じ筆圧で同
じタッチのサインマンが別にいるので、本人が書かなくてもできる。
一連の動きを見ていると、車椅子に乗っているのかベッドに寝ているのかは分
からないが、本人はとりあえず命に別状がなく、おそらくベッドに一番近い場所
に一番かわいがっていた妹の金敬姫がいて、その夫の張成沢と相談しあいながら
統治が行われているのではなかろうか。
西岡力(救う会会長代行 東京基督教大学教授)
最近、何回かソウルに行き、脱北者や情報関係者と意見交換してきたが、金正
日が倒れたことは間違いない。しかし、今も金正日が統治している。現段階では、
病床で統治しているのだろうと判断している。
拉致問題に引きつけて考えると、8月14日までは金正日の動静報道があるか
ら、14日の夜に倒れたのか15日の倒れたのかは分からないが、8月11日か
ら12日にかけて行われた日朝実務者協議の時は、金正日は健在だったというこ
とだ。
6月の実務者協議の段階で北朝鮮は、人と船と飛行機の制裁解除を求め、その
見返りとして拉致の調査のやり直しをすると言った。8月の実務者協議では、船
の制裁解除については先送りとなって、人と飛行機の制裁解除だけで調査のやり
直しをすることになった。何を見返りにするかということについては金正日の決
済がなければ絶対できない。しかも6月段階と違う条件で調査やり直しをすると
いうことになったのだから、そういう意味でも、その時、金正日は健在であった。
そして、何かを狙って仕掛けてきたことは間違いないと思う。
強調しておきたいのは、今回の北朝鮮の要求がコメやカネではなく、制裁緩和
だったということだ。これは、今までにない日朝の交渉だったと言える。北朝鮮
は過去4回、拉致の調査をしてきたが、過去の調査の見返りはコメ・食料かカネ
だった。アメとムチに喩えていえば、今まではアメを要求してきたが、今回はム
チを緩めてくれと言ってきた。しかも6月と8月を比べると、その緩め方が少し
甘くてもいいと言ってきた。そこまでして北朝鮮は何を得たかったのか。制裁の
緩和、解除が当面の目的だったのかもしれない。
そして、8月15日、22日が過ぎて、9月1日に福田首相が首相辞任を表明
し、北朝鮮は9月4日に、福田辞任表明を理由に調査委員会の立ち上げを延期す
ると伝えてきた。この時点では金正日の病気報道はなかった。北朝鮮は金正日の
決済で動いているのであって、何か目的があって調査やり直しを約束して日本の
制裁を解除させようとしたはずだ。福田首相が辞めるから調査やり直しを延期す
るということは、福田首相が別途、秘密の交渉をしていて、何か表に出ていない
約束をしていたとして、その表に出ていない約束を担保した人が辞めてしまうの
だから延期するということであれば、あり得ると思っていたが、9月9日に金正
日が出てこなかったことから、どうもそうではなくて、彼らのほうの事情が何か
変わったと考えるべきなのではないかと今は思っている。
経済制裁をしたから拉致問題は膠着状態になった、安倍政権のやり方は間違っ
ていたという議論が一部にあるが、拉致問題は2002年9月以降、進展してい
ない。それ以前は、拉致はないと言っていた北朝鮮、金正日が拉致を認めたのは
大きな進展だった。そして5人が帰ってきた。その後は5人に付随する家族の問
題はあったけれども、死亡と言われた8人について、また、北朝鮮が拉致を認め
ていない曽我ひとみさんの母ミヨシさんや特定失踪者を含む多くの人たちについ
て、進展はゼロだ。それどころか、偽の遺骨が出てきたり、偽の交通事故記録が
出てきたり、ひどい目にあわされている。
その間6年経っているが、そのうち最初の4年間は制裁をかけていない。端的
にいうと、制裁をかけていなかったら偽の遺骨が出てきた。その後の2年間、制
裁をかけたら北朝鮮は調査のやり直しをするから制裁を緩めてくれて言ってきた。
これが現段階でいえる客観的事実だ。4年間の制裁をしないやり方と、2年間の
制裁をするやり方と比べて、どちらが効果を挙げたのか。たとえ効果が挙がらな
かったとしても、援助しかカードがなかった時と比べて、こちらに新しいカード
ができたという点で、交渉は有利になった。このことを押さえた上で、北朝鮮が
今回何をしようとしていたのか、それがなぜ止まったのか考えなければならない。
福田さんが辞任を表明しても、麻生政権が生まれるまで福田政権は続いていた。
その時、福田さんが辞めるから北朝鮮は様子を見るだろう、それでも仕方がない
というようなことを言った外務省の高官がいたけれども、向こうが犯人なのだか
ら一刻も早く返すべきであり、日本の首相が代わることと拉致被害者の帰国を要
求することに何の関係があろうか。調査すると言ったらさせるべきなのであって、
理解できるなどと言うのは利敵行為だ。
当時の中山拉致問題担当相は、福田辞任表明直後にもしかすると早く動くこと
もあるかもしれない、あるいは時間稼ぎに出るかもしれない、両方あると思って
対処しなければいけないと言っていた。福田政権は、調査委員会の立ち上げだけ
で制裁を解除すると約束した政権だから、北朝鮮がすることは立ち上げ通報でい
いのだから、彼らが朝鮮総連の人たちの北朝鮮渡航を始めたいなら、早くやれば
よかったはずだ。その後に、次の政権がけしからんから委員会の活動を停止した
と言えばよかったはずだ。北朝鮮はもともと委員会を立ち上げて調査しなくても
結果は分かっているのだから、結果をどう出すかということを検討するだけだろ
う。しかし北朝鮮は、当面のことを取ろうとしなかった。
それは、短期的には9月9日に関係していると思う。9月9日の国家創建60
周年の大行事に、制裁のため再入国許可が出ない最高人民会議代議員の朝鮮総連
の6人の幹部たちを呼んでいた。6人の幹部たちは北京行きの飛行機の予約をし
ていた。彼らは9月9日以前に委員会立ち上げがあり、制裁が解除されると考え
ていたから北朝鮮行きの準備をしたのだ。出来ればチャーター便で行って大々的
にお祝いをしたいということを考えていた可能性もある。それなら8月時点で金
正日が、万景峰号など船については先送りしてもよいと決済したことに一定程度
納得できる。しかし、その後に金正日が倒れて、大々的にお祝いする状況ではな
くなった。そういうことを隠すために、福田首相の辞任表明を使ったのではない
か。金正日は、調査委員会立ち上げ延期についても決済していると思う。その理
由は自分の健康なのではないか。
それでは金正日の健康状態はどうなのか、権力は今どうなっているのか。北朝
鮮の動きと金正日の健康問題との間に何らかの連関があることは間違いない。病
状については詳しくわからないが、少なくとも定期的に金正日から決済が出てい
るということは間違いない。金正日の病室に入れる人間はごく限られている。し
かしまだ、断定的なことはなかなか言えない。
ソウルで聞いてきたことの中で、成程と思ったことがある。あまりにも金正日
の病状の情報が出すぎている。特に中国から出ている。本当は、中国は知らない
と言っておかなければならないのに、ということだ。今回中国から入ったのは軍
医だと言われている。軍医は情報を守るから信用される。ところがあまりにも病
状の情報が漏れており、明らかにおかしな情報も漏れている。金正日が烽火病院
で治療を受けるということはあり得ない。中国軍がその気になれば完全に秘密に
できるのに、病状が漏れているということは、中国は知っているように見せてい
るのであって、本当は知らないのではないかという分析がある。一理あると思う。
でも、最低限言えることは、金正日が動く映像で出られない状態にあるという
ことだ。9月9日には立つこともできなかったのではないか。立てれば、その映
像を出すこともできたはずだ。
そして北朝鮮は今、病気ではないと言っている。病気報道は謀略だと言ってい
る。外部から情報が入ってくることに大変ぴりぴりしている。異常なのは、ビラ
に対する彼らの非難だ。韓国にいる脱北者のNGOが10月10日に撒いたビラ
を1枚もらってきた。今は風船につけてまとめて落としているが、ビラはもとも
と韓国政府が気球を使って50年間やっていたことだ。しかし今、北朝鮮は、1
0月の2回の軍事接触の機会に、NGOのビラをやめさせろと言っている。ビラ
にそんなにおびえていることが分かり、NGOの人たちは元気づいている。北朝
鮮は最近になって、外部の情報が入ることを恐れ始めたということだ。
9月9日の「労働新聞」の社説に、「敵が我々の秘密を狙っている」というフ
レーズがある。9月に入って新しく生まれた秘密とはなんだろうか。金正日が8
月に倒れたとすれば辻褄が合う。動く映像が出てくれば健康不安説は吹き飛ぶが、
それができないから外部と接触できない。金正日と一緒に写っている821軍部
隊の女性兵士たちは、本当は来ていないということが広がらないために監禁状態
にあるかもしれない。そういうことをしなければならないような状態であること
は間違いない。
今後は、北朝鮮の権力全体がどうなっていくのかということが第一の問題であ
る。8月11日時点でやろうとしていた拉致問題での日本への何らかの回答と制
裁の一部解除とのバーター取引を、金正日が倒れた後の権力がどう判断するのか、
まだ読みきれない。北朝鮮は北朝鮮の事情で6月と8月に拉致問題で何らかの動
きをしようとしていたのだ。安倍さんは首相になる前に、「黙って真綿で首を絞
めるようにすれば、絶対に向こうが動いてくる」と言っていた。朝鮮総連に対す
る厳格な法執行などをやり始める前の話だ。その通り、動きが出てきた。
今、動きが出てきたのに向こうの都合で変わった。我々は反対だが、麻生政権
も北朝鮮が調査委員会を立ち上げたら、人と飛行機の制裁を解除すると言ってい
る。ただし、その時点でもエネルギー支援には加わらないということを言ってい
る。北朝鮮が8月11日時点で要求していたのは、エネルギー支援ではなかった
のだ。
北朝鮮が今後どうなっていくのかということについて、また惠谷さんに話して
いただきたい。
惠谷治氏(ジャーナリスト)
今後どうなっていくかというとき、集団指導制に移行するのではないかという
ようなことを、北朝鮮の政治風土を理解していない人が言っている。
一番のポイントは、金正日が後継者を指名しているのかどうかだ。金正男、金
正哲、金正雲の3人の息子がいつも話題になるが、金正日が誰を後継者にしたい
のかという問題と、それとは別に金正日が後継者を指名していない段階で、周り
が誰を後継者にしたいのかということが混同されている場合が多い。金正日が決
める場合、長男に決めれば、自分も長男だし、何の波風が起きない。金日成は韓
国の全州金氏という祖先から数えて12代目であって、後継者は皆長男だ。金正
日も長男を後継者とすれば波風は起こらない。それを次男だ、三男だと決めれば
波風が起こるに決まっている。金正男が後継者になりたくないといっても担ごう
とする勢力が必ずいる。それが権力だ。だから、本人の意志とは無関係に担ごう
とする勢力同士の争いがある。
5年前から「労働新聞」に「革命の首脳部」という言葉が頻発するようになっ
た。1970年代半ばから「党中央」という言葉を頻繁に使うようになったが、
それが金正日のことを示していたという例がある。現在はっきりとは分からない
が、「革命の首脳部」とは誰なのかというとき、将軍様の長男に決定と言ったら、
北朝鮮の人間にとってそれで何の問題もないわけである。
もう一つ、「尊敬するオモニム」という話がある。それは金正哲の母・高英姫
のことを示しているが、人民軍でそういう教育が始まったといって、それを持ち
上げて、金正哲を後継者にしようという動きがいかにもあるような話がマスコミ
で繰り返し報道された。今は下火になっている。私がこの次男坊の目はないと思っ
た一番の理由は、金正日自身が、あんな女みたいな男はダメだと言ったという精
神的な部分もある。肉体的にもホルモン異常でパッとしない。その代わり三男の
金正雲は日本語も、漢字もしっかり勉強しているという話もある。だが、まだま
だ歳も若いし、三男を指名したらどういう問題が起きるかということもある。
金正日は今のところ、意識があって、決断する能力がある。肉体的なことを別
とすれば健在であるという段階で、現状はさほど混乱はない。金正日が後継者を
決め関係者にそれを明言すれば、さほど混乱は起きないのではないか。しかし、
「革命の首脳部」という場合、金正男という個人の場合もあれば、「我が息子た
ち」という場合もある。息子でない者を排除するということをまず決め、それか
ら時間が経ってから最終決定することもあろう。金正日の腹の中では、金正雲が
大きくなればこれにやらせたいということかなと私は想像している。
後継者問題だけで言えば、金正日が決めている可能性もある。しかし、金正日
の病状が悪化あるいは急死したという時に後継者が決まっていないとなれば、取
り巻きの主導権争いが起きる可能性がある。
もう一つ、金正日が死んだということが内外に伝えられた場合、どこかで暴動
が起き、それを軍が鎮圧に出て流血騒ぎが起こる。それを我々が伝え、各地に飛
び火するということになる。そういうことにならない限り、人民軍あるいは労働
党という組織は変わりようがない。米韓軍の5029概念計画が作戦計画に格上
げされて、後継者争いで内戦状態になった段階ですぐ介入できればいいのだが、
なかなか国際関係上難しいということもある。
拉致問題に関しては、北の朝日交渉担当者は再調査延期を認めてもらおうとし
て様々なことをしているのではないか。ブッシュ政権がテロ支援国指定解除に踏
み込んだということもある。調査委員会を立ち上げたとして調査結果がどの程度
なのか読めると思うが、いずれにしろ何でもいいから向こうからアクションを起
こさせるべきだ。麻生首相は向こうが何かをすべきだと言っているように見える
が、麻生首相のほうからプッシュをしていくべきだと思う。ブッシュ政権がなぜ
テロ支援国指定解除をしたかというと、今がチャンスというか、金正日は判断が
できると見たということだ。プッシュしていけば何かが起きる。今こそ改めて、
麻生首相のほうからプッシュすべきだと思う。
西岡力(救う会会長代行 東京基督教大学教授)
金正男の今の弱点は母親のことをオープンにできないことだ。金正日がとった
人妻から生まれたから。そういうことをどう処理していくのかという問題が一つ
残っている。高英姫が健在で力が強くなった頃、金正男が海外に行くようになっ
たのは高英姫から金正男を守るためもあったということをある人から聞いた。
もう一つ、惠谷さんは、米国がテロ支援国指定を解除したのは金正日がしっか
り判断できると判断したからだということだが、判断ができるかどうかテストし
ようと思って解除したという部分もあると言う米国人もいる。
さらにもう一つ、金正哲はもう組織指導部にいることはほぼ間違いない。20
04年に入ったと言われている。2004年に労働党組織指導部のトップ、第一
副部長だった張成沢が学習という名目で組織指導部から出されて、李済強という
組織指導部に長くいた党人でかなり年上の人が組織指導部を握る。李済強も張成
沢と同じ第一副部長だったが、張成沢がいたときは張成沢の下で動いていた。そ
の李済強は高英姫に近かったと言われている。そして、国防委員会の委員の一人、
あの正体の分からないペク・セホンは金正哲であるという有力な情報がある。ペ
ク・セホンというのは白頭山の三つの峰と書く。恵谷さんの説通り「革命の首脳
部」が金正男なら、金正哲は「白三峰」という名前で出ている。しかし高英姫が
死んでしまったから、また張成沢の力が強くなっているのは間違いない。張成沢
は金正男を支持しているというのが大方の見方だ。そしてその後ろには中国がい
る。中国はもちろん金正男、金正哲、金正雲の3人ともに紐をつけていると言わ
れている。
2年前に張成沢が復権し、今は行政部長と言われている。張成沢を戻す時、組
織指導部の中の公安に関係する権限を全部行政部に持っていって張成沢に与えた。
李済強と張成沢を同じ部署にしないようにした、とある人が説明している。
今後、李済強組織指導部第一副部長がそのままいるのかどうか。張成沢行政部
長の力が強くなってくれば李済強がいつの間にかいなくなるということが起こり
得るのではないか。金正日は張成沢を信用しているが、少し警戒していて、ナン
バー2を作らないように対処してきた。しかし病床にあって統治ができないよう
な状況にあれば、肉親である妹の夫・張成沢に頼らざるを得なくなってくる。金
正日の強いカリスマが弱まれば、朝鮮労働党は中国に近づいていく。
黄長燁(火ヘンに華)氏から聞いたところでは、労働党の幹部たちの中で数人
を除いてあとは中国式の改革・開放をやったほうがいいと思っている。しかし、
言ったら殺されるから誰も言わない。言ったら殺されるというのは、金正日が最
高幹部まで含めて全部盗聴し、見張っているからだ。その金正日が最高幹部の動
静を監視ができないくらい体力が弱っていると、党幹部たちの方向は、自分たち
の独裁が続き特権が続くためには、共産党が独裁している中国式のやり方がいい
となる。中国もそれを応援すると言っている。そういう方向になるのか。その場
合には李済強ら金正哲につながるラインが目に見える形で排除されるようなこと
が起きるか起きないか、まずそこを注目しなければならない。
一方で、中国の統治でいいのかということ、あるいは労働党の統治が続くこと
について強い拒否感が人民の間にあることは間違いない。金正日が労働党の党首
になるまでに人口の15%が餓死した。労働党を信用していた人間が死んでいっ
た。配給はあると思い、闇をしてはいけないと言われているから闇をしなかった
人間が死んでいき、労働党を早く諦めて自分で食べようとした人が生き残った。
餓死者が人口の15%だから、自分の家族や親戚で餓死しなかった人は、最高幹
部以外ほぼいないだろう。そういう中で、中国の影響下で労働党の統治が続くの
がいいのか。中国はあくまでも異民族である。それとも韓国という自由民主主義
の国があるのだから、ドイツ型の統一をするという選択肢があり得るのではない
か。北朝鮮の人々には、今は韓国のほうが経済的に上で、韓国は北の人民を皆食
べさせることができると考えるだけの力はある。
その場合、もう一つの大きな変数は韓国だ。李明博政権が西独のコール政権の
ように統一を最優先課題として乗り出す覚悟があるのかということになる。
韓国は、北に対する中国の影響が強まる前に中国と話をつけなくてはいけない。
その場合、韓国は今の中朝国境を認めていない。あれは日本が韓国から外交権を
奪った時代に清と作った国境だから、本当はもうちょっと北だったというのが韓
国政府の公式の立場だけれども、今、統一ということを目の前にしては、今の国
境を守ると言うべきだ、と韓国保守派の北朝鮮問題専門家の洪ガンヒ先生たちが
提言している。
当時、西独は英、仏にまで行って、統一ドイツは英、仏の脅威にはならないと
説得したように、韓国は米、日に対して、韓国は韓米同盟、韓日友好を続ける、
自由民主主義、人権、法の支配という同じ価値観を続けて大韓民国による統一を
する、統一韓国は日米の脅威にはならないとはっきり言って説得すべきであり、
その後、日米の後押しを得て中国に、内政問題に干渉しないでほしい、中国にい
る朝鮮族に手を伸ばしたりしない、中国の安全保障の脅威になるようなことはし
ない、そして北を開発するときには中国の業者も使うというようなことも言って
説得すれば、統一できる可能性がある。先般私は、韓国で開かれたあるシンポジ
ウムで、そういうスピーチをしてきた。
しかし、韓国の中も割れている。そういう声は少しずつ上がりつつあるけれど
も、お金がかかるのだったら中国に北朝鮮の面倒を見てもらったほうがいいでは
ないかという声もかなりある。それについては、韓国の中でどちらが勝つのかま
だわからない。
最後に、もう一度拉致問題に戻り、今何をすべきかというと、北朝鮮が8月時
点でやろうとしたことを今なぜ延期しているのか、その理由が何なのか、情報が
ほしい。そして政府には、そのような北朝鮮内部情報をぜひとってもらいたい。
それと同時に、日本は拉致問題で絶対に譲歩しない、今日本政府が求めている
認定されていない人も含めて全被害者の帰国については妥協の余地がない、交渉
の余地はない、日本国民は皆怒っていて、そこで譲歩するような政府はもたない、
それは民主党政権になっても同じだということを、金正日だけでなく、ポスト金
正日候補、中国にも、韓国に対しても、米国に対してもどれだけ植えつけること
ができるかにかかっている。
日本外交は今まで、与えられた条件の中で足して2で割るようなことをやって
きたが、この問題に対しては我々が条件を作る。安部政権の時、日本がエネルギー
支援をするのであれば拉致問題の進展がなければダメだと言ったのは、我々が条
件を作っているということだ。
テロ支援国指定理由に拉致を入れるよう働きかけたのは、米国を巻き込もうと
したものだ。今、拉致問題に進展がなければエネルギー支援をしないということ
は日本政府の決定だから、国民が支持すればこれを守りきることができる。それ
をやり続けることだ。
人質になっている被害者の安全を守ることが前提だ。この人たちがお金になる
と思えば大切にする。病気になった時、最高の医療をするだろう。
対日担当者たちは、6年前に金正日に謝らせて8人死亡で終わらせるという決
済をもらったのに、まだ終わっていないから、8人死亡で終わらせたい。そのた
めに去年の秋以降、田原総一郎さんのような有名なジャーナリストとか、山崎拓
さんのような政治家に働きかけて、日本人は拉致にこだわりすぎている、拉致に
こだわると外交が進まないという世論を作ろうとした。そのような勢力が日本で
一定の力を持っていると北朝鮮が判断している以上被害者は帰ってこない。日本
人が拉致にこだわらなくなる日がくるという希望があるから、担当者はそれで決
済をとったのだから、これで行きたいのだ。
それではダメなんだということを思わせることができるかどうか。それには絶
対に制裁を緩めないこと、強めていくことだ。制裁だけで金正日政権を倒すこと
ができるかどうか分からないが、少なくとも制裁で金正日政権に痛みを与えてい
ることは事実であり、それは日本人が怒っているというコミュニケーションになっ
ている。被害者が帰ってこない限り北朝鮮に不利益が続く。惠谷さんが言ったカッ
プヌードルを買うのにも直接運べないという不利益があるわけだ。本当はカップ
ヌードルを買えないようにするのが一番よい。だから、輸出全面禁止の追加制裁
をやってもらいたい。制裁という形でのコミュニケーションは続けていくべきだ。
もう一つ重要なことは情報をとることだ。具体的に、髪の毛でも写真でも取れ
れば、決定的証拠になる。それについての希望は、韓国の政権が代わったという
ことだ。北朝鮮に関する情報は韓国が一番持っている。この10年間おかしかっ
たとはいえ、その前、例えば横田めぐみさんが拉致されているということを教え
てくれたのは韓国だ。韓国が情報を取ってくれて、それを日本の警察に通報した
けれども、日本の警察は握りつぶそうとしたから、韓国が日本のテレビ局にリー
クしたのだ。
最近、韓国にいる脱北者の人たちに会うと感触が違ってきている。前は、私に
会ったというだけで国情院に呼び出されて懲戒処分を受けたというケースもあっ
たが、今はそういうことはない。だからといって、11年前のように韓国が積極
的に情報を取って日本にくれるまでにはなっていない。しかし、日本に拉致問題
の証拠を出すことを邪魔しようという動きはなくなったことからしてもかなりの
余地が生まれている。
拉致被害者の救出は、絶対に制裁を緩めず日本人は皆怒っているということを
思わせ続けることと、情報を取ることの二つにかかっている。
以上
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●救う会全国協議会ニュース
発行:北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会(救う会)
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担当:平田隆太郎(事務局長 info@sukuukai.jp)
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みずほ銀行池袋支店(普)5620780 救う会事務局長平田隆太郎
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