【正論】 拉致対応にみる菅首相の二面性(2010/06/21)
★☆救う会全国協議会ニュース★☆(2010.06.21)
産経新聞平成22年6月18日に掲載された西岡力救う会会長の論説を全文転載します。
■産経新聞平成22年6月18日
【正論】 拉致対応にみる菅首相の二面性
西岡力
菅直人総理は所信表明で北朝鮮の拉致について「国の責任において、すべての拉致被害者の一刻も早い帰国に向けて全力を尽くす」と述べた。しかし、総理の過去の北に対する取り組みからは、二つの相反する評価をすべき事例が思い浮かぶ。それを記して、改めて新政権の対北姿勢を問いたい。
≪拉致問題のタブー化に影響≫
まず、国会の代表質問にもあったが、菅総理が1989(平成元)年、拉致実行犯の釈放を求める韓国大統領宛の「要望書」に署名したことだ。同年7月14日付で、当時の盧泰愚韓国大統領に提出された要望書は、拉致実行犯の辛光洙(シン・ガンス)を含む29人について「日本における合法的な生活、交友の中の一言動を理由として罪に問われている」と無罪を主張していた。署名した国会議員は、村山富市元総理、土井たか子元衆院議長らを含む133人だった。
大阪の中華料理店のコックをしていた原敕晁(ただあき)さんは1980年、宮崎県青島海岸から辛を含む北朝鮮工作員らにより拉致された。辛は原さんに成りすまして日本旅券をとり、85年韓国に入国して逮捕された。88年3月、参院予算委員会で故梶山静六・国家公安委員長が、原さんを含む8人の被害者を取り上げて「北朝鮮による拉致の疑いが十分濃厚である」という歴史的答弁を行った。
菅総理は署名について、リストを確認せず不注意だったと詫びている。当時、拉致問題をめぐってはタブーが存在した。梶山答弁を朝日、読売、毎日各紙、NHKなどの主要メディアは一切報じなかった。要望書提出の翌年である1990年、金日成(当時の主席)と会談した金丸信自民党元副総裁も拉致に言及しなかった。
≪民主党工作を強める金政権≫
筆者は91年の『諸君!』誌で拉致問題について論文を書いたものの、政界や言論界からは無視された。一方で、公安関係者らからは「身の危険はないか」と囁かれた。当時の雰囲気をわかってもらえるだろうが、強調したいのは国会議員の「不注意さ」を利用する勢力がいまも懸命に活動を続けていることだ。
北朝鮮にとって辛は時限爆弾のような存在だった。原さんだけでなく、地村保志・富貴恵さんと横田めぐみさん拉致の実行犯、曽我ひとみさんの教育係でもあったからだ。辛は原さん拉致については自白したが、地村夫婦と横田さん、曽我さんについては自白せず無期懲役で韓国刑務所に収監された。北朝鮮からすればなんとしても辛の身柄を確保したかった。
そのための工作の一つが日本国会議員の署名集めだった。その後も執拗(しつよう)に努力を続け、2000年6月、金正日総書記が直接、金大中大統領との首脳会談で辛を含む元北朝鮮工作員らの送還を要求した。筆者は家族会の横田めぐみさんの両親らと韓国大使館に出向き、拉致実行犯を北朝鮮に送らず日本に送れと要求した。
しかし、河野洋平外相らはまったく動かず同年9月、辛は北朝鮮に送られ英雄として称(たた)えられた。地村夫婦と横田さん、曽我さん拉致について秘密を守り抜いたことが高く評価されたのだ。日本政府と菅総理を含む国会議員らが隠蔽(いんぺい)工作に乗らず、自国民を守るために行動していれば、拉致に関する決定的証言を1980年代か90年代に取れた可能性がある。
現在の金正日政権は昨年7月以降、朝鮮総連に対し、「民主党政権への政治工作を強めて拉致問題を棚上げにした形での制裁解除と国交正常化の雰囲気作りをせよ」との指令を下した。菅総理は拉致問題対策本部長に就任した現時点で、北朝鮮の対日工作に一度乗ってしまった「不注意さ」をあらためて猛省してほしい。
≪一党独裁反対発言は評価≫
しかし、菅総理を見直した言動もある。
2003年10月、北朝鮮中央通信から「われわれの最高首脳部(金正日総書記)を冒涜(ぼうとく)した」と非難された。これは当時、民主党代表だった菅総理が大阪での街頭演説で「(イラクの)フセインやスターリンの銅像が倒れた歴史の中で、いつの日か、北朝鮮のあの大きな銅像も倒れる日がくると確信している。できることなら、北朝鮮の民衆自らの手でやってほしい」と述べたことによる。
一党独裁に反対する社会民主主義者として、社会党を脱党した江田三郎氏らに合流して政治家となった菅総理の思想的原点を示す発言だろう。この原点を忘れることなく、金正日政権に対して毅然たる姿勢を貫いてほしいのだ。
菅総理は就任3日目の10日、炎天下に集まった千人のデモ隊の代表として官邸を訪れた飯塚繁雄家族会代表らと面会し、「韓国の哨戒艦沈没の原因が北朝鮮によるものと判明し、改めて韓国と連携し、拉致問題を含めて解決していく。今後は、北朝鮮に対する圧力を強めていく方向であり、さらなる制裁措置を強める状況である」と述べた。
菅総理が、拉致を理由に明示した制裁強化・送金と渡航の全面停止に踏み切れるかに注目したい。
(にしおか つとむ)
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■菅首相にメール・葉書を
首相官邸のホームページに「ご意見募集」があります。
下記をクリックして、ご意見を送ってください。
http://www.kantei.go.jp/jp/forms/goiken.html
葉書は、〒100-8968 千代田区永田町2-3-1 内閣総理大臣 菅 直人殿
■救う会全国協議会ニュース
発行:北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会(救う会)
TEL 03-3946-5780 FAX 03-3946-5784 http://www.sukuukai.jp
担当:平田隆太郎(事務局長 info@sukuukai.jp)
〒112-0013 東京都文京区音羽1-17-11-905
カンパ振込先:郵便振替口座 00100-4-14701 救う会
みずほ銀行池袋支店(普)5620780 救う会事務局長平田隆太郎
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産経新聞平成22年6月18日に掲載された西岡力救う会会長の論説を全文転載します。
■産経新聞平成22年6月18日
【正論】 拉致対応にみる菅首相の二面性
西岡力
菅直人総理は所信表明で北朝鮮の拉致について「国の責任において、すべての拉致被害者の一刻も早い帰国に向けて全力を尽くす」と述べた。しかし、総理の過去の北に対する取り組みからは、二つの相反する評価をすべき事例が思い浮かぶ。それを記して、改めて新政権の対北姿勢を問いたい。
≪拉致問題のタブー化に影響≫
まず、国会の代表質問にもあったが、菅総理が1989(平成元)年、拉致実行犯の釈放を求める韓国大統領宛の「要望書」に署名したことだ。同年7月14日付で、当時の盧泰愚韓国大統領に提出された要望書は、拉致実行犯の辛光洙(シン・ガンス)を含む29人について「日本における合法的な生活、交友の中の一言動を理由として罪に問われている」と無罪を主張していた。署名した国会議員は、村山富市元総理、土井たか子元衆院議長らを含む133人だった。
大阪の中華料理店のコックをしていた原敕晁(ただあき)さんは1980年、宮崎県青島海岸から辛を含む北朝鮮工作員らにより拉致された。辛は原さんに成りすまして日本旅券をとり、85年韓国に入国して逮捕された。88年3月、参院予算委員会で故梶山静六・国家公安委員長が、原さんを含む8人の被害者を取り上げて「北朝鮮による拉致の疑いが十分濃厚である」という歴史的答弁を行った。
菅総理は署名について、リストを確認せず不注意だったと詫びている。当時、拉致問題をめぐってはタブーが存在した。梶山答弁を朝日、読売、毎日各紙、NHKなどの主要メディアは一切報じなかった。要望書提出の翌年である1990年、金日成(当時の主席)と会談した金丸信自民党元副総裁も拉致に言及しなかった。
≪民主党工作を強める金政権≫
筆者は91年の『諸君!』誌で拉致問題について論文を書いたものの、政界や言論界からは無視された。一方で、公安関係者らからは「身の危険はないか」と囁かれた。当時の雰囲気をわかってもらえるだろうが、強調したいのは国会議員の「不注意さ」を利用する勢力がいまも懸命に活動を続けていることだ。
北朝鮮にとって辛は時限爆弾のような存在だった。原さんだけでなく、地村保志・富貴恵さんと横田めぐみさん拉致の実行犯、曽我ひとみさんの教育係でもあったからだ。辛は原さん拉致については自白したが、地村夫婦と横田さん、曽我さんについては自白せず無期懲役で韓国刑務所に収監された。北朝鮮からすればなんとしても辛の身柄を確保したかった。
そのための工作の一つが日本国会議員の署名集めだった。その後も執拗(しつよう)に努力を続け、2000年6月、金正日総書記が直接、金大中大統領との首脳会談で辛を含む元北朝鮮工作員らの送還を要求した。筆者は家族会の横田めぐみさんの両親らと韓国大使館に出向き、拉致実行犯を北朝鮮に送らず日本に送れと要求した。
しかし、河野洋平外相らはまったく動かず同年9月、辛は北朝鮮に送られ英雄として称(たた)えられた。地村夫婦と横田さん、曽我さん拉致について秘密を守り抜いたことが高く評価されたのだ。日本政府と菅総理を含む国会議員らが隠蔽(いんぺい)工作に乗らず、自国民を守るために行動していれば、拉致に関する決定的証言を1980年代か90年代に取れた可能性がある。
現在の金正日政権は昨年7月以降、朝鮮総連に対し、「民主党政権への政治工作を強めて拉致問題を棚上げにした形での制裁解除と国交正常化の雰囲気作りをせよ」との指令を下した。菅総理は拉致問題対策本部長に就任した現時点で、北朝鮮の対日工作に一度乗ってしまった「不注意さ」をあらためて猛省してほしい。
≪一党独裁反対発言は評価≫
しかし、菅総理を見直した言動もある。
2003年10月、北朝鮮中央通信から「われわれの最高首脳部(金正日総書記)を冒涜(ぼうとく)した」と非難された。これは当時、民主党代表だった菅総理が大阪での街頭演説で「(イラクの)フセインやスターリンの銅像が倒れた歴史の中で、いつの日か、北朝鮮のあの大きな銅像も倒れる日がくると確信している。できることなら、北朝鮮の民衆自らの手でやってほしい」と述べたことによる。
一党独裁に反対する社会民主主義者として、社会党を脱党した江田三郎氏らに合流して政治家となった菅総理の思想的原点を示す発言だろう。この原点を忘れることなく、金正日政権に対して毅然たる姿勢を貫いてほしいのだ。
菅総理は就任3日目の10日、炎天下に集まった千人のデモ隊の代表として官邸を訪れた飯塚繁雄家族会代表らと面会し、「韓国の哨戒艦沈没の原因が北朝鮮によるものと判明し、改めて韓国と連携し、拉致問題を含めて解決していく。今後は、北朝鮮に対する圧力を強めていく方向であり、さらなる制裁措置を強める状況である」と述べた。
菅総理が、拉致を理由に明示した制裁強化・送金と渡航の全面停止に踏み切れるかに注目したい。
(にしおか つとむ)
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