流動化する北朝鮮情勢と救出戦略?12/10国際シンポ全記録2(2010/12/22)
★☆救う会全国協議会ニュース★☆(2010.12.22-2)
■流動化する北朝鮮情勢と救出戦略?12/10国際シンポ全記録2
櫻井よしこ
本当にありがとうございました。北朝鮮有事がいつ起きるか分からない。その
ために真剣に準備をしておかなければならないと思います。次に、救う会の会長
で、国家基本問題研究所のメンバーでもあり、東京基督教大学の教授でもある西
岡さんにお願いします。
▲=王ヘンに文、▼はサンズイに省
◆被害者救出の戦略
西岡 力
これから被害者救出の戦略についてお話したいと思います。金聖▲さんと許南
▼博士が、不安定さを増す北朝鮮の情勢、中国が覇権を目指し台頭する東アジア
情勢、その中で我々が何をすべきなのか、大きな話をしてくださいました。実は、
櫻井理事長の国家基本問題研究所で、既にこのような議論を繰り返ししてきまし
た。
この席で私に与えられたのは、そのような東アジア情勢の大きな枠組みの中で、
どうやってすべての被害者の安全を確保しながら取り戻すか、という個別課題で
す。
家族会・救う会は、運動方針として「拉致被害者救出の3条件」ということを
言ってきました。第1に、「世論を背景に政府が全被害者救出の体制を築くこと」、
第2に、「北朝鮮が我が国に接近せざるをえなくなる環境ができること」。その
ために制裁と国際連携が必要なのです。そして第3に、「金正日死亡などによる
北朝鮮急変事態に備えて被害者救出緊急プランを作っておくこと」です。
まず、第1条件と第2条件について見ておきたいと思います。
日本にはこれまで、第1条件がありませんでした。従って、第2条件が2回成立
したのに失敗しました。配布資料に年表がありますが、実は拉致は1963年の寺越
事件が確認されている一番古いものですし、それ以前にあった可能性も否定でき
ません。そして76年の金正日拉致指令と77年から78年にかけて全世界で拉致が多
発します。それ以降、79年にあったのかどうか、全世界の拉致がいつ終わったの
か分かりません。
日本の警察は79年に秘密会議を開いて、彼らが当時つかんでいた7人について
非公開を決めます。その8年後(1987)に大韓機テロが起き、そして有名な「北
朝鮮による拉致の疑いが十分濃厚」という梶山答弁(1788)があります。梶山答
弁の2年後(1990)に金丸・田辺訪朝があります。つまり、北朝鮮は冷戦崩壊に
よって対日接近が必要となったのです。
ところが日本側が拉致問題を議題にしなかった。第2条件があったのに、第1条
件がなかったので、ゼロ回答でした。
その後、日朝正常化交渉が8回ありましたが、飯塚さんの妹さんの田口さんの
ことを1回出しただけで、それ以外の梶山答弁で述べられたアベック3組6人につ
いて、日本政府は一度も出しませんでした。交渉の場があったのに、救出の体制
がなかったのです。梶山答弁(1788)から10年くらい経って横田めぐみさんの拉
致が発覚しました。これは1995年に韓国当局から情報の提供がありましたが、警
察はその情報を放置しました。私が編集長をしていた『現代コリア』に、テレビ
局記者が取材で得たことを寄稿したことによりその情報が公開され、めぐみさん
拉致が明らかになっていくプロセスがありました。
そして家族会、救う会が運動を開始(1997)し、世論ができて第1条件が少し
満ちてきました。世論を背景に政府が救出の体制を築くことが一部できました。
そこで2002年、2004年に小泉訪朝がありました。2回目に第2条件が整った絶好の
チャンスでしたが、全員取り戻すことに失敗しました。政府が、外交交渉を被害
者救出より優先したからです。2002年の9月に家族が呼ばれて、「死亡」だと言
われましたが、平壌では死亡確認をいっさいしていませんでした。当時、田中均
局長が主導していた外務省は「消息さえ伝えてくれれば国交正常化をする」と約
束して、1兆円のお金を北朝鮮に送ろうとする、国交正常化優先の外交をしたの
です。全員、助けようと思っていたのであれば、現場で死亡の根拠を聞くべきだっ
たと思いますが、いっさい聞いていない。
一方北朝鮮は、金正日の拉致指令とテロ指令を認めない範囲で、拉致を限定的
に認めました。大韓機爆破事件に関係する人、あるいは76年の金正日の拉致指令
に関係して帰国させればそれが暴露されると思われる人はみんな「死んだ」とさ
れました。それでもお金が貰えると、日本の外務省との裏交渉で彼らは判断をし
ていたわけです。しかし、日本は自由民主主義国家で、世論の力でそれを押さえ
ることができました。
2回目のチャンス、ブッシュ政権の圧力と日本のお金の魅力で、金正日は日本
に接近せざるをえなかったのに、第1条件が完全に満ちていなかったために、失
敗してしまいました。
その後、2005年に、安倍晋三氏が官房長官に就任して「厳格な法執行」制裁が
始まりました。これは先ほど許先生がおっしゃった朝鮮総連の送金を止めること
を一つの柱としていました。そして同じ年に、アメリカが金融制裁を始めました。
朝鮮総連の送金は北朝鮮政府の国庫に入らないで、金正日の個人資金である、党
の39号室というところに入ります。この39号室が世界に持っている秘密口座を使
えなくしようとしたのがアメリカの金融制裁でした。
これがかなり効いたのです。第2条件が満たされる近くまで来ました。制裁の
圧力で金正日が追い込まれて、交渉に出てこざるをえなくなって、福田政権の時、
「調査のやり直し」を約束しました。ところがアメリカが金融制裁を解除(2008)
し、テロ国家指定を解除の見通しが立った時点で、金正日は約束を反故にしまし
た。金正日が脳卒中で倒れて、拉致交渉という重大事案の決済が出なくなったこ
ともその背景にあったでしょう。
しかし、今年2010年になって、またアメリカのオバマ政権が8月末に金融制裁
を再開しました。日本は2005年以降、「厳格な法執行」、朝鮮総連に対する制裁
を続けています。仙谷官房長官には私も色々と言いたいことがありますが、しか
し先ほどの官房長官の挨拶の中で、「厳格な法執行」を決めましたと言いました。
実は自民党政権が決めた「厳格な法執行」は民主党政権になって落としていたの
です。国会で様々な議論があり、自民党の先生たちがかなり追及し、我々も要請
した結果、菅政権は8項目の新たな方針を出し(2010.11.29)、その中に「厳格
な法執行」を入れました。
そして今は、韓国が中途半端ではありますが制裁に参加しています。これは
2005年の時よりもいい材料です。3回目のチャンスが来る可能性があると思って
います。それは、金正日政権が、自分がレジーム・チェンジされる直前まで来て、
追い込まれて、過去の独裁者金正日、本人の犯罪を認めるところまで来なければ
ダメなのです。あるいは、金正日が死んだ後、さまざまな可能性がありますが、
金正恩政権か、あるいは金正恩政権がすぐ短命に終わり別の政権ができて、それ
が安定化し金正日を否定できる場合は、第1条件と第2条件が満ちる可能性が残っ
ていると思っています。
次に、第3条件があります。金正日が死んだ時、安定的に権力が継承されない
可能性です。許博士もそのことに言及されました。金聖?さんは、「傍観してい
て金正日独裁体制を続けさせてはダメだ」と、「べき」論をおっしゃいましたが、
私は与えられた課題である「拉致被害者救出」という観点からだけ限定的に申し
上げます。
「混乱が発生する可能性は十分ある。備えをしておかなければならない」という
ことです。自衛隊を使うことを考えなければならないと思っています。自衛隊を
使った単独救出作戦は議論としてはありえると思います。アメリカはイラン革命
政府に抑留された外交官救出作戦をやったこともあります。しかし、そのために
は現在の被害者の抑留場所など正確な情報が不可欠です。
本来なら、初動で自衛隊が出るべきだったと思っています。70年代後半に、日
本近海に工作船が頻繁に来ていた。そのことについて警察はつかんでいて、77年
の久米裕さん、78年の3件6人のアベック失踪事件と1件の拉致未遂事件について
は、北朝鮮による拉致だと最初から分かっていました。その証拠が配布資料の新
聞記事です(「読売新聞」2002年12月20日夕刊)。
これは2002年12月20日の記事ですが、77年、78年に警察庁の幹部として北朝鮮
の工作船が発信する電波を傍受する立場にいた人がインタビューに応じて、自分
が日本政府の中で、北朝鮮による拉致を最初に報告したと告白しています。いつ
なのか。事件直後だと言っています。今日、この会場に家族が来ている市川修一
さんの拉致を最初から知っていた、と言っています。
しかし、警察庁で79年春に秘密会議が開かれて、公開しないことを決めたと彼
は語り、「あの時、広く拉致の実態を知ってもらえれば、もう少し早く事態を動
かせたのかもしれない」とインタビューは結ばれています。分かっていたわけで
す。それなら、日本は島国ですから、海上自衛隊を使って、工作船が日本近海に
入ってこないようにすれば、こんなに根こそぎやられなかったのです。これは領
海、領土を守る個別的自衛権だと思います。
そしてもう一つ、現時点でも、被害者の安全確保のための抑止力が必要だと思っ
ています。私はよく色々な所で言います、「日本の技術では、火葬した遺骨から
死亡時期も推定できる」と。「新たに『遺骨』というものが出てきて、その死亡
時期が2002年以降であれば、それが本物だとしても虐殺だ」と。「生きている人
を、証拠を作るために殺した」と。「そういうことが明らかになれば、国連安保
理事会に軍事制裁を要求するとともに、日本は自衛権を行使するということを言
うべきだ」と。
そして金正日政権崩壊後、「イスラエルがナチス・ドイツの責任者にやってい
るように、日本は草の根を分けても責任者を探し出し、処罰する」と、仙谷さん
をはじめとする政府高官に言ってもらいたいと思います。緊張関係の中でしか、
今人質になっている人の安全は守れないのです。
もう一つ、許博士の報告にもあったことですが、「混乱時に被害者処刑命令が
出てもそれに背いて救出に協力すれば、日本は協力者も救助し、報奨金を出す」
ということを、色々な媒体を使って北朝鮮の中に伝えることも、緊急にしなけれ
ばならないことだと思います。
今日の大きな課題である、北朝鮮の緊急事態、急変事態が起きた時には、米韓
軍が北進する作戦計画はすでにできています。当然、日本は在日米軍への様々な
支援、自衛隊を使った海上などでの後方支援、経済負担などアメリカと韓国との
作戦に戦略的な協力を求められるでしょう。しかし、アメリカや韓国に、日本人
被害者の救出まで任せるわけにはいかないわけです。ですから自衛隊を北朝鮮に
送ることができる法的枠組を是非作っていただいたいということについて、私も
加わっている国家基本問題研究所でも政策提言をしたところです。これについて
は、討論の中で、専門家の潮さんから詳しく述べていただきたいと思います。
自民党は既に前の国会に、自衛隊法の改正案を出しています。我々が言ってい
るほどは踏み込んでいませんが、しかし問題意識はほぼ同じです。民主党あるい
は菅政権が、急変事態に何を考えているのか、ほとんど見えてきません。ただ、
11月29日に決まりました菅政権の拉致問題8項目の方針の第8項目は、1?7以外の
「その他拉致問題解決に資するあらゆる方策の検討」と書いてあります。その
「あらゆる方策を検討する」ことを決めた会議に、防衛大臣もいたのです。防衛
大臣も「できることは何でもやれ」という命令を、本部長(総理)から受けたと
いう解釈が十分に成り立つと私は思っています。防衛大臣の責任で、防衛省とし
て自衛隊をどう活用できるのか、そして先ほど、許博士から提案があった、「日
韓拉致協力対策組織」というものを是非生かして、緊急事態に備えてほしいと思
います。
最後に、以上のことをまとめて、今日本がなすべき点を申し上げます。
第1に、国家意思発信です。「すべての日本人被害者の救出なしには国交正常
化も経済支援もしない。制裁と国際圧力を強化し続ける」という国家意思を、金
正日政権、後継政権候補者、それから金正恩に反対するかもしれない潜在的候補
者も含めてしっかり伝える。それから、韓米中露など関係国に伝え続けることで
す。
そのために、朝鮮学校公的支援など誤ったメーセージになりかねない動きには
絶対反対する。そして、拉致問題だけを理由に対北制裁を実施することです。人
の往来全面停止ができます。金丸訪朝以前の日本人のパスポートには、「エクセ
プト ノースコリア」と書いてありました。北朝鮮に行くためには、別途外務省
に旅券を申請しなければ行けなかったのです。今の法律体系でもそれに戻せばで
きます。やる気がないだけです。また、現時は北朝鮮の国会議員である在日朝鮮
人6人だけに「再入国許可」を出さないという制裁をしています。6人にできるこ
とが、なぜ全員にできないのか。北朝鮮を渡航先とする日本人と在日外国人すべ
ての旅行を停止してほしい。人の往来を完全に止めるということです。それを拉
致問題だけを理由にやってもらいたいと強く思います。これがメッセージになり
ます。
そして、これは有本さんご夫婦が先頭に立ってやっておられますが、国内で、
拉致被害者「死亡」説を根拠もなくいいふらす勢力と徹底的に戦うということで
す。根拠がないのに「死亡」と言いまわっている人たちが、国会議員の中にも、
学者の中にも、有名なジャーナリストの中にもいます。根拠があるなら言ってみ
なさい、ということです。根拠がないことは言うな、と思います。さらに、北朝
鮮内部への働きかけ、対北ラジオや風船ビラなどによる日本のメッセージ発信を
より積極的に行うことです。
第2が情報収集です。拉致被害者の現状と全体の規模に関して手がかりがほし
い、正確な情報がどうしても必要です。何人いるかもまだ分からないのです。ポー
カーゲームをしていて、相手がカードを何枚持っているかも分からないのです。
「全員安全に救い出す」と言いながら、全員が何人なのか、それすら分からない
というみじめな状態が30年も続いているのです。
そのために、これも潮さんにコメントをいただきたいのですが、警察や自衛隊
は過去の電波傍受記録を持っています。さきほど、警察幹部の証言を紹介したよ
うに、70年代後半電波を傍受していたので拉致が分かった、と言っているのです。
その記録を公開してほしい。
特定失踪者の失踪日と日本の警察が掴んでいた工作船接近日が近いのか、近く
ないのか。過去に遡れるだけ遡って電波情報を出してほしい。さらに、1976年の
金正日拉致指令にもとづく集中的拉致は77年、78年にあったのですが、79年にあっ
たのか。79年は政府認定ゼロです。では工作船が急激に減ったのか。繰り返しま
すが、電波情報が出てくれば、ある程度のことが分かる可能性がある。是非出し
てもらいたいと思います。
これは去年のこの国際会議で要請事項を決めて、中井大臣に持っていきました
が、1年間実現していません。今の対策本部にこの話をしていますが、なかなか
困難だと言われています。しかし、これは北朝鮮に人を入れる必要はないのです。
日本の警察や自衛隊の倉庫に当たればいいのです。それが、全員で何人なのかと
いうことが分かる重大な証拠になるのです。これも是非国会で取り上げていただ
きたいと思っています。
最後に、混乱時への備えです。法律だけでなく、演習も必要ですし、米韓との
協議も必要です。今日の大きな成果は、韓国側から協議だけでなく、合同組織を
作ったらいいという提案まであったということで、大変うれしいことだと思って
います。
【討論】
櫻井よしこ
どうもありがとうございました。今日のテーマは、「北朝鮮情勢と救出戦略」
です。いつ起きるか分からない、いつ起きてもおかしくない北朝鮮有事に際して、
どのように拉致被害者を救出していくのか、そのことについてなるべく具体的に
お話をうかがえればと思います。まず、帝京大学准教授の潮匡人さん、特定失踪
者問題調査会の代表で拓殖大学教授の荒木和博さん、救う会の副会長で福井県立
大学教授の島田洋一さんにも入っていただき討論をしていきたいと思います。で
はまず、これまでの討論を踏まえて、現実に救出するには一体何をしなければな
らないかをお話いただきたいと思います。まず潮さんからお願いします。
◆わが国もルビコン川を渡り、救出を可能とする憲法解釈変更と法改正を
潮匡人・帝京大学准教授
先ほど、拉致問題担当大臣から、「政府としてできることは何でも」という、
字句通り受け止めてよければ、大変力強いお言葉をいただいたわけですが、取り
合えずできることが一つあるとすれば、内閣として拉致問題担当大臣を更迭し、
例えば西岡力さんのような方にお願いをするということではないかと思います。
憲法上も民間人は登用できますし、内閣法上も今一人余っている筈です。さっさ
と、例えばそのようなことをしていただきたいと思いました。
色々と申し上げたいことがありますが、私は、政府として、特に自衛隊が関係
するところでできることは何なのかに絞って申し上げたいと思います。
西岡さんが紹介した「読売」の記事の中では、警察の無線傍受施設と書かれて
いますが、私の記憶が当たっていれば、少なくとも当時は、航空自衛隊の通信所
という施設であり、実態的には陸幕2部別班と言われていた組織です。だとする
と、そこの情報は警察に上がる仕組になっていましたので、そのあたりの事がま
るめて報道されているのかな、と思います。
仮にそうだとすると、今その組織は、防衛省情報本部という立派な看板のつい
た公然たる組織となっており、その中に電波部があると、政府が白昼堂々と内外
に表明しています。読売記事の見出しは、そのこと自体が「極秘」なので公表し
なかった、できなかったとありますが、今更、公表できない理由がどこかにある
のか。公表すると、誰かが困るのか。北は困るのかもしれませんが、このことを
今の提言があったにもかかわらず、「できることは何でもする」筈の政府が公開
しないのだとすると、最近、尖閣の近くでも同じようなことがあったな、等と思っ
たりもします。
このような事実があったのであれば、少なくとも報告した文書を含めて、恐ら
くは生のデータとともに記録されている、保存されている、と思いますので、公
開することが一つの大きな圧力、国際世論に訴える武器になるのではないかと思
います。
また、本日の話の中では、「明日にも急変事態が」という話もありましたし、
また「災い転じて福となす」という話もあったのですが、実は現在、韓国大統領
がアジア歴訪中でKBSという韓国のテレビ報道によると、ちょうど昨日、韓国大
統領がマレーシアで同じように、「災い転じて福となす契機とすべき」、とおっ
しゃったのですが、ちょうどその中で、「統一が近づいている」と大統領として
明言しました。今日話しに出た、「明日にも急変事態が起きるかもしれない」と
いうようなことは、決して根拠のない話ではないということだと思います。
仮にそのような事態となった場合、当然拉致被害者の安全が課題になるわけで
すが、実は現行の自衛隊法で根拠になるのは、例えば、「自衛隊機を派遣して邦
人を輸送する」ということになります。その根拠の法令には、「当該輸送活動の
安全が確保された場合」と明記されており、逆に言うと、安全でない場合は輸送
すらできない。輸送もできないのですから、保護したり、救出したりというよう
なことは到底できない。法令上の任務は、外務省領事局の所掌になっており、そ
もそも自衛隊に任務付与もされていないので、仮に急変事態になれば、ソウル近
郊にいる多数の法人の安全が政府としては気がかりになる筈なのですが、そうし
た手当てすらありません。
すでに野党第1党の自民党が関連法案を提出しており、もし政府としてその気
があるのなら、圧倒的多数で可決される筈なのに、そういう動きすらしていない。
いわんや、北朝鮮の中にいる拉致被害者は、例えば自衛隊機を輸送して、「ど
うぞ乗ってください」という活動ですむとは、常識として考えられないわけです。
だからこそ、北朝鮮の拉致被害者の救出に関わる輸送活動については、自衛官に
よる武器使用規定の制限を大幅に緩和するなど、様々な必要な措置を講じるべき
であり、それを超えてさらに自衛隊機による救出活動を視野に入れるのであれば、
当然そのような類似の活動をしているであろう韓国軍やアメリカ軍と事前に様々
な連携をすることが必要であり、訓練もしておくべきだと思います。私たち国家
基本問題研究所ではそのような提言をしていますが、政府がそうした声に応えて
くださっているという形跡がないのが残念です。
北朝鮮はルビコン川を渡ったという話もありましたが、ならばこの際、わが国
もルビコン川を渡るべきでないか。これまでの日本国憲法第9条及びその政府解
釈というものは、少なくとも改めるべきだと思います。
特に、いわゆる集団的自衛権を行使できないということが、例えばアメリカと
の有効な連携、さらに言えば、韓国とそもそも軍事的な協力体制を組めないとい
う足かせになっているわけです。すでにアメリカの軍のトップが、堂々と米韓の
演習に自衛隊も参加してはどうかと呼びかけているわけです。どうぞ「何でもす
る」筈の政府は、そのような方向に舵を切っていただきたいと思います。
なお、そのことについてはまだ韓国の中にも多少わだかまり、ハードル、抵抗
があると聞いています。本日は韓国の第一人者も来られているわけですので、ぜ
ひ韓国世論としても、「もはやそのようなことを言っている時代ではない」と、
日米韓でしっかりと手を携えて、北に対峙する姿勢をとることが必要ではないか
と思います。
我々としては、現在できることは、いわゆる経済制裁しかないわけですが、本
来なら、その先にある、そうした軍事的措置を含めたカードを視野に入れて、少
なくとも日米韓の連携を強化するというくらいのことは直ちに取り組むべきだと
思います。
最後に一言。先ほど「善と悪との戦いだ」という話がありました。私も全くそ
の通りだと思います。奇しくも本日はノーベル平和賞の授賞式と重なっています。
私はある雑誌に、今回の劉暁波に対する授賞は、かつてのナチスが妨害したオシ
エツキーへの授賞と重なる、まさにあの再来だと申し上げたわけですが、要はあ
の時、ナチスが台頭したことを振り返っても、我々が今そこから教訓とすべきは、
善が悪に譲歩してはならないということだと思っています。
偶然とはいえ、今日この日に、我々は改めて、そのような決意を持ってこの問
題に取り組むべきだと思います。
櫻井よしこ
仙谷さんは、準備なさったスピーチを読んでいかれましたが、その中にはそれ
以上のことはなかったのですが、今潮さんがおっしゃったノーベル平和賞授賞式、
このノーベル賞授賞者に対してわが国政府は特段のメッセージを出していません。
人権を重んじる政権であるならば、もう少し踏み込むべきだろうと私は感じます。
では荒木さんは、特定失踪者問題で、誰よりも熱心に活動をしてこられました。
拉致被害者を救うために我々は一体何をしなければならないのか。お願いします。
◆実力組織が動くために一番必要なことはトップが責任を取って命令すること
荒木和博・特定失踪者問題調査会代表、拓殖大学教授
何年か前に、日比谷でやった国民大集会の壇上で、「拉致被害者をいつまでに
救出する。できなかったら責任を取る」と言いましたが、その期限はとっくに過
ぎています。今年も年が明けてしまったと、7日過ぎるともう1週間過ぎてしまっ
たと、15日過ぎたらもう半月過ぎてしまったと言っている内に、もう12月になっ
てしまいました。状況を変えることができない。本当に自分自身の無力さを感じ
ています。
先ほど、仙谷官房長官について、飯塚さんも櫻井さんも「誰か専任の大臣を」
という話をされていましたが、本気でもし取り返すのであれば、私は官房長官の
権限は決して悪くないと思います。それは専任の大臣でも、かつて中山さんがやっ
ていた時は、格好は確かによかったのですが、本人に何の権限も付与されない。
外務省も警察も動かすことはできないという状態で専任の大臣がいても、あまり
意味がないと私は思っていましたので、もし本気でやる気があるのであれば、私
は官房長官の兼任は悪くないと思います。
ただ、問題は、1970年代、80年代と、ずっと拉致問題は警察が色々やっていた
時に、さんざん邪魔をした政党の出身です。ついでに言えば、その同じ政党の方
が国家公安委員長ですので、自分たちが一番よく分かっているということでやる
のならばともかく、本気でやってくれるかについてはやり疑問を感じざるをえま
せん。
状況が変わらずにまた1年過ぎてしまった。来年は全く別のことをやらなけれ
ばいけないと私は思っています。先ほど平沼先生が踏み込んだ発言をされました
が、私もそう思っています。シンポジウムですから多少違う意見を出した方がい
いと思いますので、そういう見地で話します。
シンポジウムですから多少違う意見を出した方がいいと思いますので、そうい
う見地で話します。
特定失踪者で一番古い方は昭和23年の失踪です。一番最近の方は、非公開です
が、一昨年の方がおられます。もちろんこれが拉致だと断定することはできませ
ん。でも例えば、今日ここにおられる特定失踪者で秋田美輪さんはお父さんが徳
島からお出でですが、秋田さんは1985年、昭和60年の失踪です。古川了子さんは
お姉さんがお出でですが、1983年、昭和58年の失踪です。どちらも我々は拉致に
間違いないと思っています。
おそらくどんなに遅くても、昭和30年代以降、計画的な、国内の組織が動いて
拉致をするという状況にはもうなっていた。そしてその状況は今でも変わってい
ないと我々は認識しています。ですからこの問題は、これから先、起こさないと
いうことも含めた対応でないと意味がないと思っています。
拉致被害者の救出のために自衛隊を使うということについては私も言っていま
した。家族会・救う会で提言をされ、自民党でも出されている自衛隊法の改正あ
るいは特措法については、是非進めていただきたいと思っています。但し、私自
身はその時には出て行く立場の人間です。そのために自衛隊に入ったのですから、
その時は出ていこうと思っています。
その時に、やる方として何が必要か。法律ではないと私は思っています。一番
トップの方が、「取り返してこい」と、「責任は全部自分が取る」と言ってくれ
ることが、実力組織が動くために一番必要なことだと思います。法律はもちろん
必要です。あるならあるで越したことはないのですが、もともと軍隊が動くため
には、いわゆるポジリストとネガリストという言い方がありますが、ともかく
「これはするな」ということだけ決めておいてもらって、「あとは任せる」とい
う風にしてもらった方が、はるかに動きやすい。
行ってみたら何が起きるか分からないわけですから、その時は現場の判断で動
かざるをえない。やはり追認する、責任を取るというのが、まさにシビリアン・
コントロールにおける政治のあり方で、しかも民主党政権は政治主導と言ってい
るわけですから、そういう風にしてもらわなければならない。これが乗り越えら
れるかどうかですが、皆さんもお分かりのように、現在の政権でこれが乗り越え
られるとはとても思えない。一方で、谷垣さんの顔が見えてきて、これでできる
のかというと、それも到底できそうにない。これが残念ながら現状です。ではど
うするかというと、こうやって来ていただいている皆さんの声で政府を動かす。
北朝鮮に対する怒りというものが大きくなってこそ、動かざるをえなくなるとい
うことだろうと思います。
先ほど許先生の話で、韓国と日本の協力の話が出ていました。これは韓国の皆
さんに対する注文も含めての言い方ですが、現時点で韓国との協力は極めて難し
いと思わざるをえません。何かをやろうとした時に、既に国論が分裂した韓国の
中で、我々に協力をしてくれようとする人たちに対しては、親日派という攻撃が
なされます。その時に、日本と手を結んでも構わないのだと、韓国の中でその方
々がずっと耐えていただけるか。その勢力が一定の力を持って国民を説得できる
か。私は残念ながら今の韓国では極めて難しいと思います。
そこのところを、何とか韓国の中でクリアーしていただかないと、日本の方に
とって必要だから手を結ぶと言われても、正直言って難しい。韓国の方々が、許
先生とか、通訳をしていただいている洪元公使のような愛国者であれば問題はな
いのですが、残念ながらそうでない人が今の韓国にはあまりにも多すぎると思っ
ています。
もう一つ言えば、アメリカもあまりあてにならないと思います。今拡大してい
る中国の覇権がある中で、アメリカが中国と張り合ってまで、どこまで日本や韓
国を助けてくれるか。私は正直言ってかなり疑問を感じています。結局自分でや
るしかない。
そうならないことを望みますが、今のままでいくと、自分たちをグローバル・
スタンダードにして、民主化もしないで人権の弾圧をして危険な国家を変えなが
ら大きくなっていくということが、国際的に認められるという社会を作ろうとし
ている。今我々は本当にのんびりしていられない時だと思います。そういうこと
と、日本人が我々単独でも戦うのだという風にしていって、その結果としてアメ
リカとの同盟が機能し、そして韓国との協力が機能するのではないだろうかと思っ
ています。
櫻井よしこ
どうもありがとうございました。今の荒木さんの疑問については後ほど、許博
士、洪さんからもご意見を伺いたいと思います。次に島田さん宜しくお願いいた
します。
◆中国を動かすには中国が嫌がることをせねばならない
島田洋一・救う会副会長、福井県立大学教授
許先生の話に中国ファクターが出てきましたが、北朝鮮問題のガンが中国であ
ることははっきりしています。2日前、12月7日付の米紙「ウォールストリート・
ジャーナル」の論説は、「悪の枢軸の一つ中国」という題でしたが、核拡散問題
の専門家でソコルスキーという人の言葉が引用されていました。「あれほど意図
的に問題の一角をなしている中国に対して、解決の一角を担うよう求めて何の意
味があるのか」。無理であり、無駄であると。その通りで、中国を動かすには中
国が嫌がることをせねばならない。嫌がって動かざるをえないようにどう持って
いくか、これが戦略上のポイントです。
その点で先日、ある外務省の高官から大変興味深い話を聞きました。北京での
駐在経験も豊かな人ですが、彼が中国の当局者から得た感触によれば、「中国政
府も中国人拉致が中国人に知られることを恐れている」。マカオから拉致された
ホン・レンインさんらのケースが有名ですが、それ以外にも200人に及ぶ人々が
拉致されていると言われています。
その中国人拉致被害者の家族から、政府に対し、「何とかしてくれ」「北に解
決を求めてくれ」という圧力が、マグマのように高まってきている。中国政府は、
そのため、拉致事実の公然化に神経質になっている、というのです。中国政府が
下からの突き上げにピリピリしだしているということは、まさにそこが外部にとっ
て突くべきポイントだということです。「中国人の拉致被害者がいる」という事
実を、日本が積極的に中国国民に向け発信していかねばならない。
例えば先日、胡錦濤氏が日本に来ました。菅首相はおどおどと、「よくいらっ
しゃいました」などとメモを読んでいましたが、ああいう場でも、「中国人の拉
致被害者が大勢いますね。一緒に北に圧力をかけようじゃないですか」とドンと
言わねばならない。そうすれば、その発言がNHKニュースで流れるわけです。NHK
ニュースは国際放送で中国にも流れますから、中国人が見ることになる。「おや、
中国の人間が北に拉致されているらしいが、胡錦濤総書記はなぜ黙っているのか」
ということになる。
御承知の通り、中国では、政権にとって都合の悪い海外ニュースが流れ出すと、
慌てて回線を切り、画面を真っ黒にします。ノーベル平和賞受賞者・劉暁波氏の
顔が映ったりすると途端に真っ黒になる。しかし、胡錦濤の顔が写っている場面
をいきなり真っ黒にはできないでしょう。おそらく担当者としては、回線を切る
判断がつかず、そのまま流れると思います。
従って仙谷官房長官兼拉致担当大臣にしても、機会あるごとに、「中国人の拉
致被害者がいる」と、ホン・レンインさんらの名前も挙げながらやるべきです。
それがどんどんニュースに出る。それを一々中国側も消していられない。そうし
て一般中国人の間で、政府は北朝鮮ごときに舐められながら弱腰だという不信感
情が高まっていけば、中国政府としても動かざるをえなくなるだろうと思います。
ところが、日本政府部内においては、中国人拉致被害者のことが明らかになる
と中国政府が困るようだ、だから、この問題は取り上げないようにしようという
雰囲気が支配的なようです。その正当化の理屈は、北朝鮮体制がつぶれた時に日
本人拉致被害者を中国政府に頼んで助けてもらわなければならない、だから中国
の機嫌をそこねることはすべきじゃないというものです。しかし、中国人の拉致
被害者がいると言っただけで気分をそこねて日本人は助けないというような連中
なら、そもそも真面目に日本人の救出に手を貸すはずがない。日本人救出に関し
ては、日本が自衛隊を派遣して当たるという基本路線を追求していくべきだと思
います。
先日、ある拉致担当副大臣に、中国向け情報発信といういま述べた提案をした
ところ、「中国がどうせ動く筈がない。だからやっても無駄だ」という反応でし
た。「中国が動く筈がない」という理屈を用いて、自分が動きたくない消極姿勢
を正当化する―そういう政治家がまだまだ多いのが現実です。最後に、政府が
「やれることは何でもやる」と言うのなら、できるだけ早く解散総選挙をやって
もらいたいと思っています。
つづく
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
■菅首相にメール・葉書を
首相官邸のホームページに「ご意見募集」があります。
下記をクリックして、ご意見を送ってください。
[PC]https://www.kantei.go.jp/jp/forms/goiken.html
[携帯]https://www.kantei.go.jp/k/iken/im/goiken_ssl.html?guid=ON
葉書は、〒100-8968 千代田区永田町2-3-1 内閣総理大臣 菅 直人殿
■救う会全国協議会ニュース
発行:北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会(救う会)
TEL 03-3946-5780 FAX 03-3946-5784 http://www.sukuukai.jp
担当:平田隆太郎(事務局長 info@sukuukai.jp)
〒112-0013 東京都文京区音羽1-17-11-905
カンパ振込先:郵便振替口座 00100-4-14701 救う会
みずほ銀行池袋支店(普)5620780 救う会事務局長平田隆太郎
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
■流動化する北朝鮮情勢と救出戦略?12/10国際シンポ全記録2
櫻井よしこ
本当にありがとうございました。北朝鮮有事がいつ起きるか分からない。その
ために真剣に準備をしておかなければならないと思います。次に、救う会の会長
で、国家基本問題研究所のメンバーでもあり、東京基督教大学の教授でもある西
岡さんにお願いします。
▲=王ヘンに文、▼はサンズイに省
◆被害者救出の戦略
西岡 力
これから被害者救出の戦略についてお話したいと思います。金聖▲さんと許南
▼博士が、不安定さを増す北朝鮮の情勢、中国が覇権を目指し台頭する東アジア
情勢、その中で我々が何をすべきなのか、大きな話をしてくださいました。実は、
櫻井理事長の国家基本問題研究所で、既にこのような議論を繰り返ししてきまし
た。
この席で私に与えられたのは、そのような東アジア情勢の大きな枠組みの中で、
どうやってすべての被害者の安全を確保しながら取り戻すか、という個別課題で
す。
家族会・救う会は、運動方針として「拉致被害者救出の3条件」ということを
言ってきました。第1に、「世論を背景に政府が全被害者救出の体制を築くこと」、
第2に、「北朝鮮が我が国に接近せざるをえなくなる環境ができること」。その
ために制裁と国際連携が必要なのです。そして第3に、「金正日死亡などによる
北朝鮮急変事態に備えて被害者救出緊急プランを作っておくこと」です。
まず、第1条件と第2条件について見ておきたいと思います。
日本にはこれまで、第1条件がありませんでした。従って、第2条件が2回成立
したのに失敗しました。配布資料に年表がありますが、実は拉致は1963年の寺越
事件が確認されている一番古いものですし、それ以前にあった可能性も否定でき
ません。そして76年の金正日拉致指令と77年から78年にかけて全世界で拉致が多
発します。それ以降、79年にあったのかどうか、全世界の拉致がいつ終わったの
か分かりません。
日本の警察は79年に秘密会議を開いて、彼らが当時つかんでいた7人について
非公開を決めます。その8年後(1987)に大韓機テロが起き、そして有名な「北
朝鮮による拉致の疑いが十分濃厚」という梶山答弁(1788)があります。梶山答
弁の2年後(1990)に金丸・田辺訪朝があります。つまり、北朝鮮は冷戦崩壊に
よって対日接近が必要となったのです。
ところが日本側が拉致問題を議題にしなかった。第2条件があったのに、第1条
件がなかったので、ゼロ回答でした。
その後、日朝正常化交渉が8回ありましたが、飯塚さんの妹さんの田口さんの
ことを1回出しただけで、それ以外の梶山答弁で述べられたアベック3組6人につ
いて、日本政府は一度も出しませんでした。交渉の場があったのに、救出の体制
がなかったのです。梶山答弁(1788)から10年くらい経って横田めぐみさんの拉
致が発覚しました。これは1995年に韓国当局から情報の提供がありましたが、警
察はその情報を放置しました。私が編集長をしていた『現代コリア』に、テレビ
局記者が取材で得たことを寄稿したことによりその情報が公開され、めぐみさん
拉致が明らかになっていくプロセスがありました。
そして家族会、救う会が運動を開始(1997)し、世論ができて第1条件が少し
満ちてきました。世論を背景に政府が救出の体制を築くことが一部できました。
そこで2002年、2004年に小泉訪朝がありました。2回目に第2条件が整った絶好の
チャンスでしたが、全員取り戻すことに失敗しました。政府が、外交交渉を被害
者救出より優先したからです。2002年の9月に家族が呼ばれて、「死亡」だと言
われましたが、平壌では死亡確認をいっさいしていませんでした。当時、田中均
局長が主導していた外務省は「消息さえ伝えてくれれば国交正常化をする」と約
束して、1兆円のお金を北朝鮮に送ろうとする、国交正常化優先の外交をしたの
です。全員、助けようと思っていたのであれば、現場で死亡の根拠を聞くべきだっ
たと思いますが、いっさい聞いていない。
一方北朝鮮は、金正日の拉致指令とテロ指令を認めない範囲で、拉致を限定的
に認めました。大韓機爆破事件に関係する人、あるいは76年の金正日の拉致指令
に関係して帰国させればそれが暴露されると思われる人はみんな「死んだ」とさ
れました。それでもお金が貰えると、日本の外務省との裏交渉で彼らは判断をし
ていたわけです。しかし、日本は自由民主主義国家で、世論の力でそれを押さえ
ることができました。
2回目のチャンス、ブッシュ政権の圧力と日本のお金の魅力で、金正日は日本
に接近せざるをえなかったのに、第1条件が完全に満ちていなかったために、失
敗してしまいました。
その後、2005年に、安倍晋三氏が官房長官に就任して「厳格な法執行」制裁が
始まりました。これは先ほど許先生がおっしゃった朝鮮総連の送金を止めること
を一つの柱としていました。そして同じ年に、アメリカが金融制裁を始めました。
朝鮮総連の送金は北朝鮮政府の国庫に入らないで、金正日の個人資金である、党
の39号室というところに入ります。この39号室が世界に持っている秘密口座を使
えなくしようとしたのがアメリカの金融制裁でした。
これがかなり効いたのです。第2条件が満たされる近くまで来ました。制裁の
圧力で金正日が追い込まれて、交渉に出てこざるをえなくなって、福田政権の時、
「調査のやり直し」を約束しました。ところがアメリカが金融制裁を解除(2008)
し、テロ国家指定を解除の見通しが立った時点で、金正日は約束を反故にしまし
た。金正日が脳卒中で倒れて、拉致交渉という重大事案の決済が出なくなったこ
ともその背景にあったでしょう。
しかし、今年2010年になって、またアメリカのオバマ政権が8月末に金融制裁
を再開しました。日本は2005年以降、「厳格な法執行」、朝鮮総連に対する制裁
を続けています。仙谷官房長官には私も色々と言いたいことがありますが、しか
し先ほどの官房長官の挨拶の中で、「厳格な法執行」を決めましたと言いました。
実は自民党政権が決めた「厳格な法執行」は民主党政権になって落としていたの
です。国会で様々な議論があり、自民党の先生たちがかなり追及し、我々も要請
した結果、菅政権は8項目の新たな方針を出し(2010.11.29)、その中に「厳格
な法執行」を入れました。
そして今は、韓国が中途半端ではありますが制裁に参加しています。これは
2005年の時よりもいい材料です。3回目のチャンスが来る可能性があると思って
います。それは、金正日政権が、自分がレジーム・チェンジされる直前まで来て、
追い込まれて、過去の独裁者金正日、本人の犯罪を認めるところまで来なければ
ダメなのです。あるいは、金正日が死んだ後、さまざまな可能性がありますが、
金正恩政権か、あるいは金正恩政権がすぐ短命に終わり別の政権ができて、それ
が安定化し金正日を否定できる場合は、第1条件と第2条件が満ちる可能性が残っ
ていると思っています。
次に、第3条件があります。金正日が死んだ時、安定的に権力が継承されない
可能性です。許博士もそのことに言及されました。金聖?さんは、「傍観してい
て金正日独裁体制を続けさせてはダメだ」と、「べき」論をおっしゃいましたが、
私は与えられた課題である「拉致被害者救出」という観点からだけ限定的に申し
上げます。
「混乱が発生する可能性は十分ある。備えをしておかなければならない」という
ことです。自衛隊を使うことを考えなければならないと思っています。自衛隊を
使った単独救出作戦は議論としてはありえると思います。アメリカはイラン革命
政府に抑留された外交官救出作戦をやったこともあります。しかし、そのために
は現在の被害者の抑留場所など正確な情報が不可欠です。
本来なら、初動で自衛隊が出るべきだったと思っています。70年代後半に、日
本近海に工作船が頻繁に来ていた。そのことについて警察はつかんでいて、77年
の久米裕さん、78年の3件6人のアベック失踪事件と1件の拉致未遂事件について
は、北朝鮮による拉致だと最初から分かっていました。その証拠が配布資料の新
聞記事です(「読売新聞」2002年12月20日夕刊)。
これは2002年12月20日の記事ですが、77年、78年に警察庁の幹部として北朝鮮
の工作船が発信する電波を傍受する立場にいた人がインタビューに応じて、自分
が日本政府の中で、北朝鮮による拉致を最初に報告したと告白しています。いつ
なのか。事件直後だと言っています。今日、この会場に家族が来ている市川修一
さんの拉致を最初から知っていた、と言っています。
しかし、警察庁で79年春に秘密会議が開かれて、公開しないことを決めたと彼
は語り、「あの時、広く拉致の実態を知ってもらえれば、もう少し早く事態を動
かせたのかもしれない」とインタビューは結ばれています。分かっていたわけで
す。それなら、日本は島国ですから、海上自衛隊を使って、工作船が日本近海に
入ってこないようにすれば、こんなに根こそぎやられなかったのです。これは領
海、領土を守る個別的自衛権だと思います。
そしてもう一つ、現時点でも、被害者の安全確保のための抑止力が必要だと思っ
ています。私はよく色々な所で言います、「日本の技術では、火葬した遺骨から
死亡時期も推定できる」と。「新たに『遺骨』というものが出てきて、その死亡
時期が2002年以降であれば、それが本物だとしても虐殺だ」と。「生きている人
を、証拠を作るために殺した」と。「そういうことが明らかになれば、国連安保
理事会に軍事制裁を要求するとともに、日本は自衛権を行使するということを言
うべきだ」と。
そして金正日政権崩壊後、「イスラエルがナチス・ドイツの責任者にやってい
るように、日本は草の根を分けても責任者を探し出し、処罰する」と、仙谷さん
をはじめとする政府高官に言ってもらいたいと思います。緊張関係の中でしか、
今人質になっている人の安全は守れないのです。
もう一つ、許博士の報告にもあったことですが、「混乱時に被害者処刑命令が
出てもそれに背いて救出に協力すれば、日本は協力者も救助し、報奨金を出す」
ということを、色々な媒体を使って北朝鮮の中に伝えることも、緊急にしなけれ
ばならないことだと思います。
今日の大きな課題である、北朝鮮の緊急事態、急変事態が起きた時には、米韓
軍が北進する作戦計画はすでにできています。当然、日本は在日米軍への様々な
支援、自衛隊を使った海上などでの後方支援、経済負担などアメリカと韓国との
作戦に戦略的な協力を求められるでしょう。しかし、アメリカや韓国に、日本人
被害者の救出まで任せるわけにはいかないわけです。ですから自衛隊を北朝鮮に
送ることができる法的枠組を是非作っていただいたいということについて、私も
加わっている国家基本問題研究所でも政策提言をしたところです。これについて
は、討論の中で、専門家の潮さんから詳しく述べていただきたいと思います。
自民党は既に前の国会に、自衛隊法の改正案を出しています。我々が言ってい
るほどは踏み込んでいませんが、しかし問題意識はほぼ同じです。民主党あるい
は菅政権が、急変事態に何を考えているのか、ほとんど見えてきません。ただ、
11月29日に決まりました菅政権の拉致問題8項目の方針の第8項目は、1?7以外の
「その他拉致問題解決に資するあらゆる方策の検討」と書いてあります。その
「あらゆる方策を検討する」ことを決めた会議に、防衛大臣もいたのです。防衛
大臣も「できることは何でもやれ」という命令を、本部長(総理)から受けたと
いう解釈が十分に成り立つと私は思っています。防衛大臣の責任で、防衛省とし
て自衛隊をどう活用できるのか、そして先ほど、許博士から提案があった、「日
韓拉致協力対策組織」というものを是非生かして、緊急事態に備えてほしいと思
います。
最後に、以上のことをまとめて、今日本がなすべき点を申し上げます。
第1に、国家意思発信です。「すべての日本人被害者の救出なしには国交正常
化も経済支援もしない。制裁と国際圧力を強化し続ける」という国家意思を、金
正日政権、後継政権候補者、それから金正恩に反対するかもしれない潜在的候補
者も含めてしっかり伝える。それから、韓米中露など関係国に伝え続けることで
す。
そのために、朝鮮学校公的支援など誤ったメーセージになりかねない動きには
絶対反対する。そして、拉致問題だけを理由に対北制裁を実施することです。人
の往来全面停止ができます。金丸訪朝以前の日本人のパスポートには、「エクセ
プト ノースコリア」と書いてありました。北朝鮮に行くためには、別途外務省
に旅券を申請しなければ行けなかったのです。今の法律体系でもそれに戻せばで
きます。やる気がないだけです。また、現時は北朝鮮の国会議員である在日朝鮮
人6人だけに「再入国許可」を出さないという制裁をしています。6人にできるこ
とが、なぜ全員にできないのか。北朝鮮を渡航先とする日本人と在日外国人すべ
ての旅行を停止してほしい。人の往来を完全に止めるということです。それを拉
致問題だけを理由にやってもらいたいと強く思います。これがメッセージになり
ます。
そして、これは有本さんご夫婦が先頭に立ってやっておられますが、国内で、
拉致被害者「死亡」説を根拠もなくいいふらす勢力と徹底的に戦うということで
す。根拠がないのに「死亡」と言いまわっている人たちが、国会議員の中にも、
学者の中にも、有名なジャーナリストの中にもいます。根拠があるなら言ってみ
なさい、ということです。根拠がないことは言うな、と思います。さらに、北朝
鮮内部への働きかけ、対北ラジオや風船ビラなどによる日本のメッセージ発信を
より積極的に行うことです。
第2が情報収集です。拉致被害者の現状と全体の規模に関して手がかりがほし
い、正確な情報がどうしても必要です。何人いるかもまだ分からないのです。ポー
カーゲームをしていて、相手がカードを何枚持っているかも分からないのです。
「全員安全に救い出す」と言いながら、全員が何人なのか、それすら分からない
というみじめな状態が30年も続いているのです。
そのために、これも潮さんにコメントをいただきたいのですが、警察や自衛隊
は過去の電波傍受記録を持っています。さきほど、警察幹部の証言を紹介したよ
うに、70年代後半電波を傍受していたので拉致が分かった、と言っているのです。
その記録を公開してほしい。
特定失踪者の失踪日と日本の警察が掴んでいた工作船接近日が近いのか、近く
ないのか。過去に遡れるだけ遡って電波情報を出してほしい。さらに、1976年の
金正日拉致指令にもとづく集中的拉致は77年、78年にあったのですが、79年にあっ
たのか。79年は政府認定ゼロです。では工作船が急激に減ったのか。繰り返しま
すが、電波情報が出てくれば、ある程度のことが分かる可能性がある。是非出し
てもらいたいと思います。
これは去年のこの国際会議で要請事項を決めて、中井大臣に持っていきました
が、1年間実現していません。今の対策本部にこの話をしていますが、なかなか
困難だと言われています。しかし、これは北朝鮮に人を入れる必要はないのです。
日本の警察や自衛隊の倉庫に当たればいいのです。それが、全員で何人なのかと
いうことが分かる重大な証拠になるのです。これも是非国会で取り上げていただ
きたいと思っています。
最後に、混乱時への備えです。法律だけでなく、演習も必要ですし、米韓との
協議も必要です。今日の大きな成果は、韓国側から協議だけでなく、合同組織を
作ったらいいという提案まであったということで、大変うれしいことだと思って
います。
【討論】
櫻井よしこ
どうもありがとうございました。今日のテーマは、「北朝鮮情勢と救出戦略」
です。いつ起きるか分からない、いつ起きてもおかしくない北朝鮮有事に際して、
どのように拉致被害者を救出していくのか、そのことについてなるべく具体的に
お話をうかがえればと思います。まず、帝京大学准教授の潮匡人さん、特定失踪
者問題調査会の代表で拓殖大学教授の荒木和博さん、救う会の副会長で福井県立
大学教授の島田洋一さんにも入っていただき討論をしていきたいと思います。で
はまず、これまでの討論を踏まえて、現実に救出するには一体何をしなければな
らないかをお話いただきたいと思います。まず潮さんからお願いします。
◆わが国もルビコン川を渡り、救出を可能とする憲法解釈変更と法改正を
潮匡人・帝京大学准教授
先ほど、拉致問題担当大臣から、「政府としてできることは何でも」という、
字句通り受け止めてよければ、大変力強いお言葉をいただいたわけですが、取り
合えずできることが一つあるとすれば、内閣として拉致問題担当大臣を更迭し、
例えば西岡力さんのような方にお願いをするということではないかと思います。
憲法上も民間人は登用できますし、内閣法上も今一人余っている筈です。さっさ
と、例えばそのようなことをしていただきたいと思いました。
色々と申し上げたいことがありますが、私は、政府として、特に自衛隊が関係
するところでできることは何なのかに絞って申し上げたいと思います。
西岡さんが紹介した「読売」の記事の中では、警察の無線傍受施設と書かれて
いますが、私の記憶が当たっていれば、少なくとも当時は、航空自衛隊の通信所
という施設であり、実態的には陸幕2部別班と言われていた組織です。だとする
と、そこの情報は警察に上がる仕組になっていましたので、そのあたりの事がま
るめて報道されているのかな、と思います。
仮にそうだとすると、今その組織は、防衛省情報本部という立派な看板のつい
た公然たる組織となっており、その中に電波部があると、政府が白昼堂々と内外
に表明しています。読売記事の見出しは、そのこと自体が「極秘」なので公表し
なかった、できなかったとありますが、今更、公表できない理由がどこかにある
のか。公表すると、誰かが困るのか。北は困るのかもしれませんが、このことを
今の提言があったにもかかわらず、「できることは何でもする」筈の政府が公開
しないのだとすると、最近、尖閣の近くでも同じようなことがあったな、等と思っ
たりもします。
このような事実があったのであれば、少なくとも報告した文書を含めて、恐ら
くは生のデータとともに記録されている、保存されている、と思いますので、公
開することが一つの大きな圧力、国際世論に訴える武器になるのではないかと思
います。
また、本日の話の中では、「明日にも急変事態が」という話もありましたし、
また「災い転じて福となす」という話もあったのですが、実は現在、韓国大統領
がアジア歴訪中でKBSという韓国のテレビ報道によると、ちょうど昨日、韓国大
統領がマレーシアで同じように、「災い転じて福となす契機とすべき」、とおっ
しゃったのですが、ちょうどその中で、「統一が近づいている」と大統領として
明言しました。今日話しに出た、「明日にも急変事態が起きるかもしれない」と
いうようなことは、決して根拠のない話ではないということだと思います。
仮にそのような事態となった場合、当然拉致被害者の安全が課題になるわけで
すが、実は現行の自衛隊法で根拠になるのは、例えば、「自衛隊機を派遣して邦
人を輸送する」ということになります。その根拠の法令には、「当該輸送活動の
安全が確保された場合」と明記されており、逆に言うと、安全でない場合は輸送
すらできない。輸送もできないのですから、保護したり、救出したりというよう
なことは到底できない。法令上の任務は、外務省領事局の所掌になっており、そ
もそも自衛隊に任務付与もされていないので、仮に急変事態になれば、ソウル近
郊にいる多数の法人の安全が政府としては気がかりになる筈なのですが、そうし
た手当てすらありません。
すでに野党第1党の自民党が関連法案を提出しており、もし政府としてその気
があるのなら、圧倒的多数で可決される筈なのに、そういう動きすらしていない。
いわんや、北朝鮮の中にいる拉致被害者は、例えば自衛隊機を輸送して、「ど
うぞ乗ってください」という活動ですむとは、常識として考えられないわけです。
だからこそ、北朝鮮の拉致被害者の救出に関わる輸送活動については、自衛官に
よる武器使用規定の制限を大幅に緩和するなど、様々な必要な措置を講じるべき
であり、それを超えてさらに自衛隊機による救出活動を視野に入れるのであれば、
当然そのような類似の活動をしているであろう韓国軍やアメリカ軍と事前に様々
な連携をすることが必要であり、訓練もしておくべきだと思います。私たち国家
基本問題研究所ではそのような提言をしていますが、政府がそうした声に応えて
くださっているという形跡がないのが残念です。
北朝鮮はルビコン川を渡ったという話もありましたが、ならばこの際、わが国
もルビコン川を渡るべきでないか。これまでの日本国憲法第9条及びその政府解
釈というものは、少なくとも改めるべきだと思います。
特に、いわゆる集団的自衛権を行使できないということが、例えばアメリカと
の有効な連携、さらに言えば、韓国とそもそも軍事的な協力体制を組めないとい
う足かせになっているわけです。すでにアメリカの軍のトップが、堂々と米韓の
演習に自衛隊も参加してはどうかと呼びかけているわけです。どうぞ「何でもす
る」筈の政府は、そのような方向に舵を切っていただきたいと思います。
なお、そのことについてはまだ韓国の中にも多少わだかまり、ハードル、抵抗
があると聞いています。本日は韓国の第一人者も来られているわけですので、ぜ
ひ韓国世論としても、「もはやそのようなことを言っている時代ではない」と、
日米韓でしっかりと手を携えて、北に対峙する姿勢をとることが必要ではないか
と思います。
我々としては、現在できることは、いわゆる経済制裁しかないわけですが、本
来なら、その先にある、そうした軍事的措置を含めたカードを視野に入れて、少
なくとも日米韓の連携を強化するというくらいのことは直ちに取り組むべきだと
思います。
最後に一言。先ほど「善と悪との戦いだ」という話がありました。私も全くそ
の通りだと思います。奇しくも本日はノーベル平和賞の授賞式と重なっています。
私はある雑誌に、今回の劉暁波に対する授賞は、かつてのナチスが妨害したオシ
エツキーへの授賞と重なる、まさにあの再来だと申し上げたわけですが、要はあ
の時、ナチスが台頭したことを振り返っても、我々が今そこから教訓とすべきは、
善が悪に譲歩してはならないということだと思っています。
偶然とはいえ、今日この日に、我々は改めて、そのような決意を持ってこの問
題に取り組むべきだと思います。
櫻井よしこ
仙谷さんは、準備なさったスピーチを読んでいかれましたが、その中にはそれ
以上のことはなかったのですが、今潮さんがおっしゃったノーベル平和賞授賞式、
このノーベル賞授賞者に対してわが国政府は特段のメッセージを出していません。
人権を重んじる政権であるならば、もう少し踏み込むべきだろうと私は感じます。
では荒木さんは、特定失踪者問題で、誰よりも熱心に活動をしてこられました。
拉致被害者を救うために我々は一体何をしなければならないのか。お願いします。
◆実力組織が動くために一番必要なことはトップが責任を取って命令すること
荒木和博・特定失踪者問題調査会代表、拓殖大学教授
何年か前に、日比谷でやった国民大集会の壇上で、「拉致被害者をいつまでに
救出する。できなかったら責任を取る」と言いましたが、その期限はとっくに過
ぎています。今年も年が明けてしまったと、7日過ぎるともう1週間過ぎてしまっ
たと、15日過ぎたらもう半月過ぎてしまったと言っている内に、もう12月になっ
てしまいました。状況を変えることができない。本当に自分自身の無力さを感じ
ています。
先ほど、仙谷官房長官について、飯塚さんも櫻井さんも「誰か専任の大臣を」
という話をされていましたが、本気でもし取り返すのであれば、私は官房長官の
権限は決して悪くないと思います。それは専任の大臣でも、かつて中山さんがやっ
ていた時は、格好は確かによかったのですが、本人に何の権限も付与されない。
外務省も警察も動かすことはできないという状態で専任の大臣がいても、あまり
意味がないと私は思っていましたので、もし本気でやる気があるのであれば、私
は官房長官の兼任は悪くないと思います。
ただ、問題は、1970年代、80年代と、ずっと拉致問題は警察が色々やっていた
時に、さんざん邪魔をした政党の出身です。ついでに言えば、その同じ政党の方
が国家公安委員長ですので、自分たちが一番よく分かっているということでやる
のならばともかく、本気でやってくれるかについてはやり疑問を感じざるをえま
せん。
状況が変わらずにまた1年過ぎてしまった。来年は全く別のことをやらなけれ
ばいけないと私は思っています。先ほど平沼先生が踏み込んだ発言をされました
が、私もそう思っています。シンポジウムですから多少違う意見を出した方がい
いと思いますので、そういう見地で話します。
シンポジウムですから多少違う意見を出した方がいいと思いますので、そうい
う見地で話します。
特定失踪者で一番古い方は昭和23年の失踪です。一番最近の方は、非公開です
が、一昨年の方がおられます。もちろんこれが拉致だと断定することはできませ
ん。でも例えば、今日ここにおられる特定失踪者で秋田美輪さんはお父さんが徳
島からお出でですが、秋田さんは1985年、昭和60年の失踪です。古川了子さんは
お姉さんがお出でですが、1983年、昭和58年の失踪です。どちらも我々は拉致に
間違いないと思っています。
おそらくどんなに遅くても、昭和30年代以降、計画的な、国内の組織が動いて
拉致をするという状況にはもうなっていた。そしてその状況は今でも変わってい
ないと我々は認識しています。ですからこの問題は、これから先、起こさないと
いうことも含めた対応でないと意味がないと思っています。
拉致被害者の救出のために自衛隊を使うということについては私も言っていま
した。家族会・救う会で提言をされ、自民党でも出されている自衛隊法の改正あ
るいは特措法については、是非進めていただきたいと思っています。但し、私自
身はその時には出て行く立場の人間です。そのために自衛隊に入ったのですから、
その時は出ていこうと思っています。
その時に、やる方として何が必要か。法律ではないと私は思っています。一番
トップの方が、「取り返してこい」と、「責任は全部自分が取る」と言ってくれ
ることが、実力組織が動くために一番必要なことだと思います。法律はもちろん
必要です。あるならあるで越したことはないのですが、もともと軍隊が動くため
には、いわゆるポジリストとネガリストという言い方がありますが、ともかく
「これはするな」ということだけ決めておいてもらって、「あとは任せる」とい
う風にしてもらった方が、はるかに動きやすい。
行ってみたら何が起きるか分からないわけですから、その時は現場の判断で動
かざるをえない。やはり追認する、責任を取るというのが、まさにシビリアン・
コントロールにおける政治のあり方で、しかも民主党政権は政治主導と言ってい
るわけですから、そういう風にしてもらわなければならない。これが乗り越えら
れるかどうかですが、皆さんもお分かりのように、現在の政権でこれが乗り越え
られるとはとても思えない。一方で、谷垣さんの顔が見えてきて、これでできる
のかというと、それも到底できそうにない。これが残念ながら現状です。ではど
うするかというと、こうやって来ていただいている皆さんの声で政府を動かす。
北朝鮮に対する怒りというものが大きくなってこそ、動かざるをえなくなるとい
うことだろうと思います。
先ほど許先生の話で、韓国と日本の協力の話が出ていました。これは韓国の皆
さんに対する注文も含めての言い方ですが、現時点で韓国との協力は極めて難し
いと思わざるをえません。何かをやろうとした時に、既に国論が分裂した韓国の
中で、我々に協力をしてくれようとする人たちに対しては、親日派という攻撃が
なされます。その時に、日本と手を結んでも構わないのだと、韓国の中でその方
々がずっと耐えていただけるか。その勢力が一定の力を持って国民を説得できる
か。私は残念ながら今の韓国では極めて難しいと思います。
そこのところを、何とか韓国の中でクリアーしていただかないと、日本の方に
とって必要だから手を結ぶと言われても、正直言って難しい。韓国の方々が、許
先生とか、通訳をしていただいている洪元公使のような愛国者であれば問題はな
いのですが、残念ながらそうでない人が今の韓国にはあまりにも多すぎると思っ
ています。
もう一つ言えば、アメリカもあまりあてにならないと思います。今拡大してい
る中国の覇権がある中で、アメリカが中国と張り合ってまで、どこまで日本や韓
国を助けてくれるか。私は正直言ってかなり疑問を感じています。結局自分でや
るしかない。
そうならないことを望みますが、今のままでいくと、自分たちをグローバル・
スタンダードにして、民主化もしないで人権の弾圧をして危険な国家を変えなが
ら大きくなっていくということが、国際的に認められるという社会を作ろうとし
ている。今我々は本当にのんびりしていられない時だと思います。そういうこと
と、日本人が我々単独でも戦うのだという風にしていって、その結果としてアメ
リカとの同盟が機能し、そして韓国との協力が機能するのではないだろうかと思っ
ています。
櫻井よしこ
どうもありがとうございました。今の荒木さんの疑問については後ほど、許博
士、洪さんからもご意見を伺いたいと思います。次に島田さん宜しくお願いいた
します。
◆中国を動かすには中国が嫌がることをせねばならない
島田洋一・救う会副会長、福井県立大学教授
許先生の話に中国ファクターが出てきましたが、北朝鮮問題のガンが中国であ
ることははっきりしています。2日前、12月7日付の米紙「ウォールストリート・
ジャーナル」の論説は、「悪の枢軸の一つ中国」という題でしたが、核拡散問題
の専門家でソコルスキーという人の言葉が引用されていました。「あれほど意図
的に問題の一角をなしている中国に対して、解決の一角を担うよう求めて何の意
味があるのか」。無理であり、無駄であると。その通りで、中国を動かすには中
国が嫌がることをせねばならない。嫌がって動かざるをえないようにどう持って
いくか、これが戦略上のポイントです。
その点で先日、ある外務省の高官から大変興味深い話を聞きました。北京での
駐在経験も豊かな人ですが、彼が中国の当局者から得た感触によれば、「中国政
府も中国人拉致が中国人に知られることを恐れている」。マカオから拉致された
ホン・レンインさんらのケースが有名ですが、それ以外にも200人に及ぶ人々が
拉致されていると言われています。
その中国人拉致被害者の家族から、政府に対し、「何とかしてくれ」「北に解
決を求めてくれ」という圧力が、マグマのように高まってきている。中国政府は、
そのため、拉致事実の公然化に神経質になっている、というのです。中国政府が
下からの突き上げにピリピリしだしているということは、まさにそこが外部にとっ
て突くべきポイントだということです。「中国人の拉致被害者がいる」という事
実を、日本が積極的に中国国民に向け発信していかねばならない。
例えば先日、胡錦濤氏が日本に来ました。菅首相はおどおどと、「よくいらっ
しゃいました」などとメモを読んでいましたが、ああいう場でも、「中国人の拉
致被害者が大勢いますね。一緒に北に圧力をかけようじゃないですか」とドンと
言わねばならない。そうすれば、その発言がNHKニュースで流れるわけです。NHK
ニュースは国際放送で中国にも流れますから、中国人が見ることになる。「おや、
中国の人間が北に拉致されているらしいが、胡錦濤総書記はなぜ黙っているのか」
ということになる。
御承知の通り、中国では、政権にとって都合の悪い海外ニュースが流れ出すと、
慌てて回線を切り、画面を真っ黒にします。ノーベル平和賞受賞者・劉暁波氏の
顔が映ったりすると途端に真っ黒になる。しかし、胡錦濤の顔が写っている場面
をいきなり真っ黒にはできないでしょう。おそらく担当者としては、回線を切る
判断がつかず、そのまま流れると思います。
従って仙谷官房長官兼拉致担当大臣にしても、機会あるごとに、「中国人の拉
致被害者がいる」と、ホン・レンインさんらの名前も挙げながらやるべきです。
それがどんどんニュースに出る。それを一々中国側も消していられない。そうし
て一般中国人の間で、政府は北朝鮮ごときに舐められながら弱腰だという不信感
情が高まっていけば、中国政府としても動かざるをえなくなるだろうと思います。
ところが、日本政府部内においては、中国人拉致被害者のことが明らかになる
と中国政府が困るようだ、だから、この問題は取り上げないようにしようという
雰囲気が支配的なようです。その正当化の理屈は、北朝鮮体制がつぶれた時に日
本人拉致被害者を中国政府に頼んで助けてもらわなければならない、だから中国
の機嫌をそこねることはすべきじゃないというものです。しかし、中国人の拉致
被害者がいると言っただけで気分をそこねて日本人は助けないというような連中
なら、そもそも真面目に日本人の救出に手を貸すはずがない。日本人救出に関し
ては、日本が自衛隊を派遣して当たるという基本路線を追求していくべきだと思
います。
先日、ある拉致担当副大臣に、中国向け情報発信といういま述べた提案をした
ところ、「中国がどうせ動く筈がない。だからやっても無駄だ」という反応でし
た。「中国が動く筈がない」という理屈を用いて、自分が動きたくない消極姿勢
を正当化する―そういう政治家がまだまだ多いのが現実です。最後に、政府が
「やれることは何でもやる」と言うのなら、できるだけ早く解散総選挙をやって
もらいたいと思っています。
つづく
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■救う会全国協議会ニュース
発行:北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会(救う会)
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担当:平田隆太郎(事務局長 info@sukuukai.jp)
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