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北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会

国際セミナー「日朝拉致協議の遅延をどう打開するか」報告5(2014/12/19)
★☆救う会全国協議会ニュース★☆(2014.12.19)

■国際セミナー「日朝拉致協議の遅延をどう打開するか」報告5

櫻井 どうもありがとうございました。北朝鮮の内部で、誰が本当に権力を握っ
ているか。日本では多くの専門家が見誤ってきたと思います。誰が権力を握って
いるかが分かって初めて、どこを突いたらいいのかという戦略、戦術も生まれて
くるわけです。今日のお話は非常に貴重だと思います。

 次に、西岡さんの問題提起をお願いします(拍手)。

◆「北朝鮮の権力の主体は組織指導部」は最先端の知識

西岡 力(救う会会長、東京基督教大学教授)

 実は今日皆さんが聞いている、北朝鮮の権力の核心に組織指導部があるという
ことは、皆さんは何回も聞いているんです。張真晟さんを我々は何回か呼びまし
た。そこでこの話を何回かしています。

 しかし、世界の北朝鮮学会の中では、これは新しい学説として今急速に脚光を
浴びています。彼が今年、「ディアー リーダー」という英語の本を書きました。
それが、イギリスの新聞社が選んでいる、今年世界に影響を与えた本の8位に入っ
た。

 8位に入った理由としてイギリスの新聞社は、北朝鮮の権力の主体が軍部では
なく組織指導部だということを暴いた本だと説明し、影響力を与えたと言ってい
ます。

 今年9月にオランダの大学で、張真晟さんが主軸になって、何人かの権力中枢
部出身の脱北者がいてセミナーをした。ヨーロッパとアメリカの北朝鮮問題専門
家が集まって、「そうだったのか」と。アメリカのCIAもこの本を大変参考に
して、もう一度分析を書き換えている。

 我々の方が先だと僕は思いましたが。我々家族会・救う会はずっと張真晟さん
と付き合っているので、当たり前じゃないかと思っているんですが、世界の北朝
鮮学の中で最先端の知識が今ここで披露されているということです。

 そして、なぜそれがなかなか分からなかったのかということですが、それは金
日成時代の権力構造が分からないと分からない。金日成が金正日を後継者にした。
金正日がライバルを蹴落として権力を奪い取ったのですが、その後今度は金正日
が、自分を後継者にした父親金日成から権力を奪い取ろうとした。そういう権力
闘争が内部であったのです。

 それに使ったのが組織指導部なんです。それまで組織指導部はそんなに強い組
織ではありませんでした。金正日が後継者になった73年、74年頃、金正日は
自分の腹心たち、同世代の大学の先輩や同窓生たちをみんな連れてきて組織指導
部に入れた。

 そして組織指導部の人間を使って、党、軍、政府を検閲したんです。今までの
やり方は全部間違っているとつるし上げて、そしてこれからは唯一独裁体制だと
しました。唯一思想体系というのはあったんですが、唯一独裁体制、つまり、命
令も唯一で、トップの言うことしか聞いてはいけないという体制を作った。それ
を組織指導部が管理した。

 しかし、表向きは唯一独裁体制、唯一思想体系と言って金日成を持ち上げた。
外向きには金日成の独裁制性が強まったように見えていながら、名目では金正日
が権力を奪うために組織指導部に権力を集中した。

◆77年9月から78年8月の約1年に世界中で拉致

 そのために、組織指導部の権力はないように見えた。つまり党の幹部にはしな
かった。軍の幹部にもしなかった。政府の幹部にもしなかった。一番上でも党の
第一副部長です。部長は金正日が兼ねている。大部分は副部長で低い。

 しかし、第一副部長が数人いて、軍をすべて掌握する第一副部長、党をすべて
掌握する第一副部長、政府をすべて掌握する第一副部長がいて、中央党の組織生
活を掌握する第一副部長が何人かいました。そしてそれをすべて金正日にくっつ
けた。

 そして、その延長線上で、党の工作機関にも組織指導部が行って、金日成時代
の工作機関の幹部たちは全部つるし上げた。「今までの対南工作は成果がゼロだっ
た」、「新しい方針を立てる」と言ったのが76年です。

 76年に、今まで南朝鮮に縁故がある人間を使って行っていた工作は全部だめ
だとして、北朝鮮社会のエリートを長い期間教育して工作員にすべきだと。その
工作員の条件の一つが現地化だった。日本に行ったら日本人に化けなくてはなら
ない。ヨーロッパに行ったらヨーロッパ人に化けなくてはならない。

 また韓国と北朝鮮は異質化していますから、韓国に入るには韓国人に化けなく
てはならない。そのための教育をしろ、と。そして「現地人の教師を連れてこい」、
あるいは「現地人を洗脳して工作員にしろ」ということが、金正日の組織指導部
体制のもとで決められた。それが1976年です。

 ここで何回も言いましたが、76年に命令が出た後、77年、78年の2年間
に世界中で拉致が起きています。政府認定の17人の内、よど号犯が拉致した3
人と原敕晁さんを除く13人はこの時期に拉致されています。特に77年9月か
ら78年8月の約1年に集中しています。

 世界13か国の内、アメリカ人の拉致を除いた12か国はみんなこの時期に拉
致されています。韓国は長い間拉致されていますが、それ以外の国、ルーマニア
も、タイも、マカオも全部この時期です。

 そして拉致もしたのが組織指導部です。しかし、それを表面には出さないよう
にしている。しかも、あたかも親孝行で父親を崇拝しているように外向けには見
せながら、実は父親から権力を奪うというのが70年代後半から80年の第6回
大会以後ほぼ完成した。

◆金正日体制が動揺しなかったわけ

 だから金日成が死んだ後も全然動揺しなかったのです。金日成がいる時も金正
日政権だったから大丈夫だったわけですが、それが外にいる人間には分からなかっ
た。

 これがなぜ分かるか。朝鮮労働党の中央委員会にいたから分かるんです。労働
党中央委員会出身の幹部で脱北者した人はほとんどいないんです。黄長〓(ファ
ン・ジャンヨプ)さんがそうでした。

 金賢姫さんや安明進や我々がたくさん教えてもらった人たちは工作員です。工
作員は中央委員会の幹部ではない。与えられた使命だけをやる人です。与えられ
た使命のことだけ訓練を受けており、狭い意味の党幹部ではない。

 しかし張真晟さんは、統一戦線部の幹部で、金正日にも会ったことがある人間
で、さらに金日成の歴史を書けと言われて、作家として過去の記録を見ているか
ら今の権力の秘密が分かるんです。それを英語にした本に今世界の北朝鮮学者が
驚いているというのが現状です。

 では、今の枠組みで金正恩政権を見たらどうなるか。実は組織指導部は、金正
日の側近たちが今も残っているんです。金正日は死んだけど、金正日政権は残っ
ているんです。金正恩が金正恩政権を作るのならば、組織指導部を自分の腹心で
別途作って、金正日時代の幹部を全部つるし上げて、「お前たちの成果はゼロだ」
と言って全部排除し、自分の組織指導部を作らなければ独裁はできないのです。

 しかし、彼には同窓生もいない。ヨーロッパに留学して帰ってきた。友だちは
バスケット選手とか日本のすし屋くらいしかいない。自分の腹心がいない。そし
て、張成沢と組織指導部の関係が微妙なんです。なぜ張成沢が殺されたか。実は
組織指導部との血で血を洗う権力闘争の結果なんです。

 金正日時代に、金正恩は何回か組織指導部に入っています。第一副部長になり
ました。しかし、もともと金正日の同窓生たちは張成沢を一番警戒していた。彼
はナンバーツーを絶対に作らない。

 ナンバーツーを作ったら金正日の権力はあやしくなる。陰にいながら金正日を
守るためには、ナンバーツーを絶対に作らないと言って、張成沢を二度粛清した
んですが、殺すまでの力はなかった。妻の金敬姫(金正日の妹)が守った。

 そして最後に金正日が脳卒中で倒れた後、金正日は、自分はあとの寿命が短い
と思ってどうするか考えた。70年代からの腹心の組織指導部を取るか、血のつ
ながった妹の夫である張成沢をとるか。

◆組織指導対張成沢で権力闘争

 金正日が生きている時は、実は張成沢をとったんです。金正日が死んだ年に組
織指導部の第一副部長が二人、突然死にます。

 李済剛(イ・ジェガン)という第一副部長のトップが交通事故で死にました。
これはおかしい。内部で李済剛のことを知っている人に聞くと、「彼は平壌の外
には出ない」。そして彼のベンツは大変頑丈で、絶対に自分で運転なんかしない。
金容淳のように酔っぱらって自分で運転するような男じゃない。それが交通事故
で死んだ

 そしてもう一人、第一副部長が癌で死にましたが、その時、張成沢系列の私が
つながっている人はこう言っていました。「拉致問題を動かせますよ。張成沢は
やる気ですよ。西岡先生を張成沢に会わせますよ」と。

 「本当かなあ。李済剛がいるじゃないか。組織指導部がいるから無理じゃない
か」と言ったら、「組織指導部はもうすぐ力がなくなります」と言ったら李済剛
がいつの間にか死んだ。

 ところが金正日が生きている時、金正日は、「張成沢系列は組織指導部のトッ
プの二人を除去することを許した」と。金正日の死後、張成沢が金正恩の後見人
になって軍から外貨稼ぎ部門をとったり、人事をしていた。

 軍に不満が高まった時、軍が組織指導部と保衛部と組んで張成沢をたたこうと
した。そうしないと張成沢にやられるからです。二度も張成沢を革命家教育に送っ
ているわけです。そして二人殺された。結局、張成沢が油断をして組織指導部に
負けたのが、去年の政変です。

◆金正日型のシステムが続いたままの金正恩政権

 より組織指導部が強くなったが、それは金正恩の腹心ではない。金正日の腹心
で、金正日は死んだのに、金正日型のシステムが続いているということです。そ
れが金聖?さんの言い方で言うと、「独裁者は決裁をしますが独裁者はミスが多
くなる」ということです。

 ただ、そこで隙が出てくる。組織指導部は一人じゃないんです。第一副部長が
誰なのかも分からない。3人か4人いる。部長はいません。副部長も何人かいる。
その第一副部長の一人が軍では総政治局長になります。隠れた隠密のような存在
が軍のトップです。それがどうなるのか。組織の中で派閥争いが起きるのではな
いか。

 金正日なしの金正日体制は続くのかというのが今の権力の第一の矛盾です。そ
の話を張真晟さんがずっとしてくれ、そのことを頭に入れないと今の北朝鮮は分
からない。それが分からなければ、金正日政権ではない金正恩政権を相手とする
拉致の交渉もできないということです。

 一端ここまでとします。

(6につづく)

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