緊迫する北朝鮮情勢のもとで拉致被害者救出を考える?国際セミナー報告4(2017/12/21)
★☆救う会全国協議会ニュース★☆(2017.12.21)
■緊迫する北朝鮮情勢のもとで拉致被害者救出を考える?国際セミナー報告
◆日本という国にゆがみ、弱みがある
古森義久(ジャーナリスト、麗澤大学特別教授)
北朝鮮に拉致されたままの同朋の悲劇、その帰りを待ちわびておられるご家族
の方々の苦しみ、これが国際的に今ほど幅広く認知されるようになったのは初め
てだと思います。40年間で最も国際的な関心、国際的な論議が高まった時期だ
と思います。
特にわが同盟国であるアメリカ、北朝鮮が最も気にかける国であるアメリカで
の日本人拉致事件に関する認識も、これまでになく最も高まった。しかも、同情、
憤慨という言葉で表現できるような反応が明らかになってきた。
これは核兵器やミサイルへの反応とは違って、アメリカ側での人間の心とか感
情に通じる反響、同情だと言えます。
しかしその一方、なぜ事件発生から40年も経ってからやっと国際的関心が高
まるようになったのか。この点にこそ、この悲劇の特殊な複雑さが現れていると
思います。
特に日本にとって、国家的関心事と言っても結果的な関心事であるこの悲劇を、
なぜもっと早く国際的な関心事にできなかったのか。あるいは解決することがで
きなかったのか。こういう点にも、日本という国のゆがみとか弱みというものが、
ある部分証明されているように思われるわけです。
◆いつの時代でも、アメリカの動向が北朝鮮にとって重みを持つ
私自身は、ワシントン収財の記者として、日本人拉致事件に対するアメリカの
反応に触れるようになってからもう20年くらい経ちます。報道で取り組むよう
になった。
しかし、本格的できごとは今から16年前、2001年2月、拉致被害者の家
族の方々が初めて訪米された時のことです。その中には横田さんご夫妻とか、蓮
池さんのお父さん等もおられました。
その人たちが、アメリカで登場したばかりのジョージ.W.ブッシュ政権の要
人や専門家と一連の会談をした。それを終えての総括の集いに私も招かれました。
今でも覚えていますけど、非常に寒いワシントンの夜でしたが、皆様の様子を見
ると、一種の安堵とか希望を感じておられるように思いました。
これはアメリカ側の反応が思ったより前向きだった。当時の日本では、日本人
の悲劇に対して官民の反応や認知が遅かった。まだ北朝鮮が日本人を拉致していっ
たと言うだけでも、「この人は何を言っているんだよ」という反発が来るような
長い冬の時代からまだ抜けていなかった。ところがアメリカではもう少し前向き
な反応があって、トンネルの先に明かりが見えたような感じを得られたと思いま
す。
もちろん日本人拉致事件いうのは、日本にとっての問題で、あくまで日本自身
が解決すべき、国民的、国家的な課題です。しかし、アメリカがどう動くかとい
うことがやはり重要なんですね。
その例証の一つとしては、訪米の一年後にブッシュ大統領が、年頭の一般教書
を発表した。この時に「悪の枢軸」という言葉を使って、北朝鮮が犯罪国家であ
る、無法国家であるということをはっきりと語ったんです。
そして当時の金正日総書記が、アメリカにそこまで糾弾、非難されるのであれ
ば、日本との融和を求めた方がいいという判断を下して、拉致被害者5人の帰国
を認めることになった。この因果関係は国際的にほぼ認知されていることだと思
います。
ですからいつの時代でも、アメリカの動向が北朝鮮にとって巨大な重みを持つ
ということです。そのアメリカは、ブッシュ大統領が2006年4月に、横田早
紀江さん、拓也さんをホワイトハウスに招いて直接話を聞くという所までいって
くれた。
その後長い間ブッシュ大統領の任期いっぱい、誰も質問もしていないのに、
「拉致された日本人の母親に会って私は非常に感動を受けた」と。大統領がこん
なに感情的になるのかというくらい何度も、何度も語ったというできごとが残っ
ています。
◆かつてないトランプ政権の前向きな対応
こういうアメリカの前向きな対応を総括してみても、今この瞬間のトランプ政
権の対応というのは、やはり前例がないほど前向きで積極的であると言えると思
います。
これは国連でのトランプさんの演説、「13歳のやさしい日本人少女」という、
「スウィート」という言葉を使いましたね。横田めぐみさんを表するのに。そこ
から広がって、北朝鮮をテロ支援国に再指定した。
こういうトランプ政権の前向きな状況を作り出した主要な原因の一つは、9月
11日に日本からの訪米団、家族会、救う会、拉致議連の代表の方々がホワイト
ハウスに行って、トランプ大統領の側近であるマット・ポッティンジャーという
国家安全保障担当のアジア部長に会って、直接にアピールをした。拓也さんが色
々なことを語りかけた。
私もその辺の記録は細かく拝見していますが、「トランプさんにも愛する娘さ
んがいるでしょう。人間が娘を奪われた時の悲しみがどんなものか」、というこ
とから始まって、「是非ともトランプ政権がこの問題を正面から取り上げて」と
いうことを訴えた。
ポッティンジャーという人はアメリカの海兵隊出身の人で、「海兵隊というの
はどんな戦いでも自分たちの仲間を後ろに置いて逃げるようなことはしないんだ」
というようなことを強調するくらいの前向きな発言をして、「トランプ大統領に
必ずこのことを伝える」と言った。
これが大きかったんですね。もちろんポッティンジャーという人は、「トラン
プさん自身が、安倍晋三首相から事件についてはよく聞いているから、だいたい
のことは知っているんだ」とはっきりおっしゃっていました。そういうことが展
開した。
◆アメリカ人拉致も日本人拉致を重視するようになった要因
そしてトランプ政権全体として、日本人拉致を政策として重視するようになっ
た。これにはあと2つの要因があります。
一つは、アメリカ人の26歳の青年でオットー・ウォームビアさんが北朝鮮を
訪問して、ホテルにあったポスターを盗んだという理由で懲役刑を宣告され、ずっ
と捕まっていた。そして非常に身体が弱くなった時に北朝鮮が帰してきた。
その返す時の方法が非常に残酷で、脳に決定的な障害があって、意識不明で瀕
しの状態にあった。それを返してきたが、1週間くらいで死んでしまった。これ
はいかにもアメリカ人の青年だという明るい感じで、元気な時があったというこ
とが分かるんです。
この時の北朝鮮の説明が、「ウォームビア氏が自分でボツリヌス菌というウイ
ルスにかかってこういう状態になったんだ」と。ところがアメリカで検査してみ
たところ、全くそういう見解は出てこなかった。
ここからですね、そういえば日本人拉致問題というのもあって、横田めぐみさ
んその他の被害者の遺骨だと称するものが北朝鮮から返されてきたけども、日本
側のDNAの鑑定で全く偽物だと分かった。このこととウォームビア氏に対する扱
い、特に事故に対する説明が似てるじゃないかということで、日本人拉致問題が
マスコミでプレイアップされるようになった。
もう一つ、2004年に中国の雲南省で行方不明になったアメリカ人青年、こ
れはデイヴィッド・スネドンという人物ですが、これがどうも北朝鮮の工作員に
拉致されて、今平壌にいるらしい。それを裏付ける状況証拠がいくつもあって、
その情報を掘り出すために、西岡さん等は調査をしてアメリカ側に渡し、あるい
は、前から古屋圭議員が行って、この問題は日米共通で被害を受けているんだと
いうことを訴え、アメリカ議会での動きになっていったんですね。
特に、トランプ政権と同じ共和党の人たちが動いてくれたということで、北朝
鮮の人権弾圧ということをトランプ政権、あるいはトランプさんの頭脳の中にイ
ンプットしていく大きな効果があった。
ウォームビア事件、そしてスネドン事件は、アメリカ政府としても北朝鮮の人
権弾圧を、核・ミサイルと並列的に並べて、政策の大きな柱にして追及していか
なければならない。こういう状況だと思います。
その中には、日本人拉致事件も入っていたということで、そういう展開があり
ました。そして今の北朝鮮の状況を見ると、核・ミサイル問題で、かつてない朝
鮮半島の危機が高まって、アメリカと北朝鮮の間で戦争が起きても不思議ではな
い。
◆日本は今までの外交交渉ではだめ
あるいは北朝鮮が、その他の理由で政権の崩壊という不測の事態を招くような
状況も、ひしひしと現実の展望として迫っている状況があるわけです。
こういう中で日本は拉致問題をどう新たに取り組んでいくべきかは、当然大き
な課題です。アメリカの場合を見ても、アメリカ人が命を左右されるような人道
問題、アメリカ人の運命がかかっているような時には、やはり他の外交とか安全
保障と切り離してそれを別に追及していくというのは、かなり確立したパターン
になっています。
ウォームビア青年をアメリカに取り戻すという時も、実はアメリカの特使が色
々な形で行って、核・ミサイルとは別に交渉をしていたことがあったんです。で
すから、ここで何度も繰り返さなければならないのは、日本人拉致問題というの
は、日本が行動をとって解決するしかないのです。
この日本の行動を見ると、先ほど日本のゆがみとか弱みについて言いましたが、
拉致事件は明らかに犯罪事件です。犯罪事件は一般の社会や国家の中で起きた場
合は、当然犯罪の取り締まりです。逮捕して起訴する、あるいは取り調べる犯罪
です。
ところが不幸にして、この拉致事件の場合は、外交交渉でしか応じてきていな
いんですね。秘密のうちに、我々の知らないところでそうではない手段がとられ
ているのかもしれないけれど、少なくとも我々が感知するところでは、外交でし
か応じていない。ここにどうしても限界が出てくる。
拉致事件は、残された時間というのは限られています。今日本が独自の行動を
とる上での国際的な環境というのは、これほど熟していることはなかったんです
ね。日本がかなりなことをやったとしても、国際的にそれを支持してくれるとい
う条件が必要です。特に同盟国のアメリカ、超大国であり、軍事大国であるアメ
リカが日本の行動を徹底して支援してくれるだろうという段階にある。
こういう時に、今の北朝鮮情勢の危機、残された時間の限度を考えると、やは
り私自身がこの問題を追っていて思うのは、今までのやり方では全くだめで、北
朝鮮を何とか動かす。それには北朝鮮が最も痛いと思うことをする。あるいは逆
に、北朝鮮が最も欲しいと思っていることを提供する。両極端でいればこうなん
ですが、それをパッケージとしてアプローチしていく上で、大事なのは外交交渉
のスタイルではできないんじゃないかということです。
秘密交渉もあるでしょうし、あるいは力の行使もあると思います。アメリカの
例や他の例を見ていても、自分の国の大事な国民が他の国に拉致され、あるいは
別の犯罪集団に拉致されて命が危ないという時には、まず力を使ってそれを解決
することを当然考えるわけです。
ですから、日本の場合は、例えば金正恩政権が崩壊したらどうなるのか、拉致
されている人の運命はどうなってしまうのか、こういう研究は残念なことに日本
ではなされず、アメリカで行われている。
◆アメリカは北朝鮮崩壊、拉致被害者への対応を研究している
国防大学の安全保障研究所が数回に渡って、北朝鮮が崩壊した時のアメリカの
対応から始まり、では日本はどう対応するかまでを研究し、その場合に日本人の
拉致被害者をどうすればいいのかということまで、かなり具体的なことを論じて
いるわけです。
そうすると、これは2011年の研究ですが、国防大学の報告書にはっきり銘
記されていますが、「金正恩政権が崩壊して、もしアメリカ軍が入っていった場
合に、日本は間違いなく日本人拉致被害者の救出を米軍に求めるだろう。米軍は
多分その余裕がないと断るかもしれない。断った場合の日本側の反発は大変なも
のがあるだろう。だからこれに対して、こういうことまで考えておかなければい
けない」というようなことを、2011年、今から6年も前に極めて明確な形で
触れているんですね。
◆「超法規」でテロリストを解放したのに、「超法規」で救出はしない
日本ではこういうことが発想としても浮かび得ない。例えば自衛隊が、拉致被
害者が生命を奪われる危険に歴然として直面している時に、普通だったら救出に
行きますよ。それが日本の場合は行かない。もちろん行っても無駄だとか、行く
だけの条件がないとか、実務的な要素がたくさんあるけれど、絶対そういうこと
はしてはいけないことになっている。
ずっと遡っていくと、戦ってはいけないんですね。愛するものを守るためにも、
戦ってはいけない。戦うことは憲法9条で禁止されているということまで言って
しまう。
いまさらこんなことをここで言っても意味がないとおっしゃる方が多いかもし
れませんが、結局拉致問題がこれだけ長く伸びて、残念ながらこれだけ国際環境
がよくなってきているのに、今日本が独自で解決しようという兆しが全くない。
みんながおっしゃるのは「国際社会との連帯」、「アメリカとの協力」、「国
連の制裁」です。ではわが日本はどうするのかというと、沈黙してしまうという
状況です。ですから、日本が戦後選んできた国のあり方というのはこわれている。
そのままの枠組みでは解決する見通しは立たない。
もう一歩具体的なことを言いますと、私は政府に恨みも何もないですから自由
なことを言えますが、何かの形で、日本の部隊が日本人たちを救う会ために動く
んだということを考えて、準備をしなければいけない(拍手)。
「超法規」という言葉がありますよね。テロリストに脅されて、テロリストと
して日本の刑務所で服役している人間をどんどん解放した「超法規」があるんで
す。正反対にあるような「超法規」があって、日本人の被害者をいざという時に
は救出する「超法規」も我々は考えているんだというような、そのくらいの発想
はあって然るべきだと思います(拍手)。
アメリカの状況やわが国の状況を見ていると、すごく思うわけです。アメリカ
での状況は、日本が普通であれば、力の行使も含めて日本が日本人の命を救うこ
とを考えるだろう、するだろうというところから始まって、でも考えるとそれは
できないようだなとなる。じゃあどうしようとアメリカもとまどってしまうとこ
ろがある。
ですから出発点に戻っての発想の転換で、そして今目の前にある国際的な変化、
これまでにないよい状況というのをなんとか活用していきたい。そんなことで私
の報告とさせていただきます。ありがとうございました(拍手)。
◆「国際法上は自衛隊が救出にいけるが憲法上行けない」と答弁
島田 古森さんが最後に提起された問題について若干補足すると、北朝鮮が混乱
自体に陥った場合に拉致被害者を自衛隊が救出に行けるかどうかということです
が、政府の過去の国会答弁では、「国際法による問題なんだ」と。「当該国がそ
こにいる外国人を保護する意志や能力がない場合、その国の軍隊が出て行って救
出することは国際法上何ら問題はない」。「だけど日本は憲法がそれを禁じてい
るから行けない」。
こういう解釈をとっているわけです。「拉致被害者救出が最重要課題」と言い
ながら、「国際法上も自衛隊が助けに行ける」と言っていながら、「憲法上でき
ない」と。こういう解釈を未だに続けている。
2年目の安保法制ではいくつかの点で政府は憲法解釈を変えたわけですが、な
ぜこの点の憲法解釈を変えないのかと私は思っています。
西岡さんの提出ペーパーの最後のページには、「日本はあまりにものんき過ぎ
る」という言葉が書いてあります。日本はこういう切迫した状況の中で、何をし
べきなのかということを西岡さんからお願いします。
(5につづく)
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■安倍首相にメール・葉書を
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葉書は、〒100-8968 千代田区永田町2-3-1 内閣総理大臣 安倍晋三殿
■救う会全国協議会ニュース
発行:北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会(救う会)
TEL 03-3946-5780 FAX 03-3946-5784 http://www.sukuukai.jp
担当:平田隆太郎(事務局長 info@sukuukai.jp)
〒112-0013 東京都文京区音羽1-17-11-905
カンパ振込先:郵便振替口座 00100-4-14701 救う会
みずほ銀行池袋支店(普)5620780 救う会事務局長平田隆太郎
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■緊迫する北朝鮮情勢のもとで拉致被害者救出を考える?国際セミナー報告
◆日本という国にゆがみ、弱みがある
古森義久(ジャーナリスト、麗澤大学特別教授)
北朝鮮に拉致されたままの同朋の悲劇、その帰りを待ちわびておられるご家族
の方々の苦しみ、これが国際的に今ほど幅広く認知されるようになったのは初め
てだと思います。40年間で最も国際的な関心、国際的な論議が高まった時期だ
と思います。
特にわが同盟国であるアメリカ、北朝鮮が最も気にかける国であるアメリカで
の日本人拉致事件に関する認識も、これまでになく最も高まった。しかも、同情、
憤慨という言葉で表現できるような反応が明らかになってきた。
これは核兵器やミサイルへの反応とは違って、アメリカ側での人間の心とか感
情に通じる反響、同情だと言えます。
しかしその一方、なぜ事件発生から40年も経ってからやっと国際的関心が高
まるようになったのか。この点にこそ、この悲劇の特殊な複雑さが現れていると
思います。
特に日本にとって、国家的関心事と言っても結果的な関心事であるこの悲劇を、
なぜもっと早く国際的な関心事にできなかったのか。あるいは解決することがで
きなかったのか。こういう点にも、日本という国のゆがみとか弱みというものが、
ある部分証明されているように思われるわけです。
◆いつの時代でも、アメリカの動向が北朝鮮にとって重みを持つ
私自身は、ワシントン収財の記者として、日本人拉致事件に対するアメリカの
反応に触れるようになってからもう20年くらい経ちます。報道で取り組むよう
になった。
しかし、本格的できごとは今から16年前、2001年2月、拉致被害者の家
族の方々が初めて訪米された時のことです。その中には横田さんご夫妻とか、蓮
池さんのお父さん等もおられました。
その人たちが、アメリカで登場したばかりのジョージ.W.ブッシュ政権の要
人や専門家と一連の会談をした。それを終えての総括の集いに私も招かれました。
今でも覚えていますけど、非常に寒いワシントンの夜でしたが、皆様の様子を見
ると、一種の安堵とか希望を感じておられるように思いました。
これはアメリカ側の反応が思ったより前向きだった。当時の日本では、日本人
の悲劇に対して官民の反応や認知が遅かった。まだ北朝鮮が日本人を拉致していっ
たと言うだけでも、「この人は何を言っているんだよ」という反発が来るような
長い冬の時代からまだ抜けていなかった。ところがアメリカではもう少し前向き
な反応があって、トンネルの先に明かりが見えたような感じを得られたと思いま
す。
もちろん日本人拉致事件いうのは、日本にとっての問題で、あくまで日本自身
が解決すべき、国民的、国家的な課題です。しかし、アメリカがどう動くかとい
うことがやはり重要なんですね。
その例証の一つとしては、訪米の一年後にブッシュ大統領が、年頭の一般教書
を発表した。この時に「悪の枢軸」という言葉を使って、北朝鮮が犯罪国家であ
る、無法国家であるということをはっきりと語ったんです。
そして当時の金正日総書記が、アメリカにそこまで糾弾、非難されるのであれ
ば、日本との融和を求めた方がいいという判断を下して、拉致被害者5人の帰国
を認めることになった。この因果関係は国際的にほぼ認知されていることだと思
います。
ですからいつの時代でも、アメリカの動向が北朝鮮にとって巨大な重みを持つ
ということです。そのアメリカは、ブッシュ大統領が2006年4月に、横田早
紀江さん、拓也さんをホワイトハウスに招いて直接話を聞くという所までいって
くれた。
その後長い間ブッシュ大統領の任期いっぱい、誰も質問もしていないのに、
「拉致された日本人の母親に会って私は非常に感動を受けた」と。大統領がこん
なに感情的になるのかというくらい何度も、何度も語ったというできごとが残っ
ています。
◆かつてないトランプ政権の前向きな対応
こういうアメリカの前向きな対応を総括してみても、今この瞬間のトランプ政
権の対応というのは、やはり前例がないほど前向きで積極的であると言えると思
います。
これは国連でのトランプさんの演説、「13歳のやさしい日本人少女」という、
「スウィート」という言葉を使いましたね。横田めぐみさんを表するのに。そこ
から広がって、北朝鮮をテロ支援国に再指定した。
こういうトランプ政権の前向きな状況を作り出した主要な原因の一つは、9月
11日に日本からの訪米団、家族会、救う会、拉致議連の代表の方々がホワイト
ハウスに行って、トランプ大統領の側近であるマット・ポッティンジャーという
国家安全保障担当のアジア部長に会って、直接にアピールをした。拓也さんが色
々なことを語りかけた。
私もその辺の記録は細かく拝見していますが、「トランプさんにも愛する娘さ
んがいるでしょう。人間が娘を奪われた時の悲しみがどんなものか」、というこ
とから始まって、「是非ともトランプ政権がこの問題を正面から取り上げて」と
いうことを訴えた。
ポッティンジャーという人はアメリカの海兵隊出身の人で、「海兵隊というの
はどんな戦いでも自分たちの仲間を後ろに置いて逃げるようなことはしないんだ」
というようなことを強調するくらいの前向きな発言をして、「トランプ大統領に
必ずこのことを伝える」と言った。
これが大きかったんですね。もちろんポッティンジャーという人は、「トラン
プさん自身が、安倍晋三首相から事件についてはよく聞いているから、だいたい
のことは知っているんだ」とはっきりおっしゃっていました。そういうことが展
開した。
◆アメリカ人拉致も日本人拉致を重視するようになった要因
そしてトランプ政権全体として、日本人拉致を政策として重視するようになっ
た。これにはあと2つの要因があります。
一つは、アメリカ人の26歳の青年でオットー・ウォームビアさんが北朝鮮を
訪問して、ホテルにあったポスターを盗んだという理由で懲役刑を宣告され、ずっ
と捕まっていた。そして非常に身体が弱くなった時に北朝鮮が帰してきた。
その返す時の方法が非常に残酷で、脳に決定的な障害があって、意識不明で瀕
しの状態にあった。それを返してきたが、1週間くらいで死んでしまった。これ
はいかにもアメリカ人の青年だという明るい感じで、元気な時があったというこ
とが分かるんです。
この時の北朝鮮の説明が、「ウォームビア氏が自分でボツリヌス菌というウイ
ルスにかかってこういう状態になったんだ」と。ところがアメリカで検査してみ
たところ、全くそういう見解は出てこなかった。
ここからですね、そういえば日本人拉致問題というのもあって、横田めぐみさ
んその他の被害者の遺骨だと称するものが北朝鮮から返されてきたけども、日本
側のDNAの鑑定で全く偽物だと分かった。このこととウォームビア氏に対する扱
い、特に事故に対する説明が似てるじゃないかということで、日本人拉致問題が
マスコミでプレイアップされるようになった。
もう一つ、2004年に中国の雲南省で行方不明になったアメリカ人青年、こ
れはデイヴィッド・スネドンという人物ですが、これがどうも北朝鮮の工作員に
拉致されて、今平壌にいるらしい。それを裏付ける状況証拠がいくつもあって、
その情報を掘り出すために、西岡さん等は調査をしてアメリカ側に渡し、あるい
は、前から古屋圭議員が行って、この問題は日米共通で被害を受けているんだと
いうことを訴え、アメリカ議会での動きになっていったんですね。
特に、トランプ政権と同じ共和党の人たちが動いてくれたということで、北朝
鮮の人権弾圧ということをトランプ政権、あるいはトランプさんの頭脳の中にイ
ンプットしていく大きな効果があった。
ウォームビア事件、そしてスネドン事件は、アメリカ政府としても北朝鮮の人
権弾圧を、核・ミサイルと並列的に並べて、政策の大きな柱にして追及していか
なければならない。こういう状況だと思います。
その中には、日本人拉致事件も入っていたということで、そういう展開があり
ました。そして今の北朝鮮の状況を見ると、核・ミサイル問題で、かつてない朝
鮮半島の危機が高まって、アメリカと北朝鮮の間で戦争が起きても不思議ではな
い。
◆日本は今までの外交交渉ではだめ
あるいは北朝鮮が、その他の理由で政権の崩壊という不測の事態を招くような
状況も、ひしひしと現実の展望として迫っている状況があるわけです。
こういう中で日本は拉致問題をどう新たに取り組んでいくべきかは、当然大き
な課題です。アメリカの場合を見ても、アメリカ人が命を左右されるような人道
問題、アメリカ人の運命がかかっているような時には、やはり他の外交とか安全
保障と切り離してそれを別に追及していくというのは、かなり確立したパターン
になっています。
ウォームビア青年をアメリカに取り戻すという時も、実はアメリカの特使が色
々な形で行って、核・ミサイルとは別に交渉をしていたことがあったんです。で
すから、ここで何度も繰り返さなければならないのは、日本人拉致問題というの
は、日本が行動をとって解決するしかないのです。
この日本の行動を見ると、先ほど日本のゆがみとか弱みについて言いましたが、
拉致事件は明らかに犯罪事件です。犯罪事件は一般の社会や国家の中で起きた場
合は、当然犯罪の取り締まりです。逮捕して起訴する、あるいは取り調べる犯罪
です。
ところが不幸にして、この拉致事件の場合は、外交交渉でしか応じてきていな
いんですね。秘密のうちに、我々の知らないところでそうではない手段がとられ
ているのかもしれないけれど、少なくとも我々が感知するところでは、外交でし
か応じていない。ここにどうしても限界が出てくる。
拉致事件は、残された時間というのは限られています。今日本が独自の行動を
とる上での国際的な環境というのは、これほど熟していることはなかったんです
ね。日本がかなりなことをやったとしても、国際的にそれを支持してくれるとい
う条件が必要です。特に同盟国のアメリカ、超大国であり、軍事大国であるアメ
リカが日本の行動を徹底して支援してくれるだろうという段階にある。
こういう時に、今の北朝鮮情勢の危機、残された時間の限度を考えると、やは
り私自身がこの問題を追っていて思うのは、今までのやり方では全くだめで、北
朝鮮を何とか動かす。それには北朝鮮が最も痛いと思うことをする。あるいは逆
に、北朝鮮が最も欲しいと思っていることを提供する。両極端でいればこうなん
ですが、それをパッケージとしてアプローチしていく上で、大事なのは外交交渉
のスタイルではできないんじゃないかということです。
秘密交渉もあるでしょうし、あるいは力の行使もあると思います。アメリカの
例や他の例を見ていても、自分の国の大事な国民が他の国に拉致され、あるいは
別の犯罪集団に拉致されて命が危ないという時には、まず力を使ってそれを解決
することを当然考えるわけです。
ですから、日本の場合は、例えば金正恩政権が崩壊したらどうなるのか、拉致
されている人の運命はどうなってしまうのか、こういう研究は残念なことに日本
ではなされず、アメリカで行われている。
◆アメリカは北朝鮮崩壊、拉致被害者への対応を研究している
国防大学の安全保障研究所が数回に渡って、北朝鮮が崩壊した時のアメリカの
対応から始まり、では日本はどう対応するかまでを研究し、その場合に日本人の
拉致被害者をどうすればいいのかということまで、かなり具体的なことを論じて
いるわけです。
そうすると、これは2011年の研究ですが、国防大学の報告書にはっきり銘
記されていますが、「金正恩政権が崩壊して、もしアメリカ軍が入っていった場
合に、日本は間違いなく日本人拉致被害者の救出を米軍に求めるだろう。米軍は
多分その余裕がないと断るかもしれない。断った場合の日本側の反発は大変なも
のがあるだろう。だからこれに対して、こういうことまで考えておかなければい
けない」というようなことを、2011年、今から6年も前に極めて明確な形で
触れているんですね。
◆「超法規」でテロリストを解放したのに、「超法規」で救出はしない
日本ではこういうことが発想としても浮かび得ない。例えば自衛隊が、拉致被
害者が生命を奪われる危険に歴然として直面している時に、普通だったら救出に
行きますよ。それが日本の場合は行かない。もちろん行っても無駄だとか、行く
だけの条件がないとか、実務的な要素がたくさんあるけれど、絶対そういうこと
はしてはいけないことになっている。
ずっと遡っていくと、戦ってはいけないんですね。愛するものを守るためにも、
戦ってはいけない。戦うことは憲法9条で禁止されているということまで言って
しまう。
いまさらこんなことをここで言っても意味がないとおっしゃる方が多いかもし
れませんが、結局拉致問題がこれだけ長く伸びて、残念ながらこれだけ国際環境
がよくなってきているのに、今日本が独自で解決しようという兆しが全くない。
みんながおっしゃるのは「国際社会との連帯」、「アメリカとの協力」、「国
連の制裁」です。ではわが日本はどうするのかというと、沈黙してしまうという
状況です。ですから、日本が戦後選んできた国のあり方というのはこわれている。
そのままの枠組みでは解決する見通しは立たない。
もう一歩具体的なことを言いますと、私は政府に恨みも何もないですから自由
なことを言えますが、何かの形で、日本の部隊が日本人たちを救う会ために動く
んだということを考えて、準備をしなければいけない(拍手)。
「超法規」という言葉がありますよね。テロリストに脅されて、テロリストと
して日本の刑務所で服役している人間をどんどん解放した「超法規」があるんで
す。正反対にあるような「超法規」があって、日本人の被害者をいざという時に
は救出する「超法規」も我々は考えているんだというような、そのくらいの発想
はあって然るべきだと思います(拍手)。
アメリカの状況やわが国の状況を見ていると、すごく思うわけです。アメリカ
での状況は、日本が普通であれば、力の行使も含めて日本が日本人の命を救うこ
とを考えるだろう、するだろうというところから始まって、でも考えるとそれは
できないようだなとなる。じゃあどうしようとアメリカもとまどってしまうとこ
ろがある。
ですから出発点に戻っての発想の転換で、そして今目の前にある国際的な変化、
これまでにないよい状況というのをなんとか活用していきたい。そんなことで私
の報告とさせていただきます。ありがとうございました(拍手)。
◆「国際法上は自衛隊が救出にいけるが憲法上行けない」と答弁
島田 古森さんが最後に提起された問題について若干補足すると、北朝鮮が混乱
自体に陥った場合に拉致被害者を自衛隊が救出に行けるかどうかということです
が、政府の過去の国会答弁では、「国際法による問題なんだ」と。「当該国がそ
こにいる外国人を保護する意志や能力がない場合、その国の軍隊が出て行って救
出することは国際法上何ら問題はない」。「だけど日本は憲法がそれを禁じてい
るから行けない」。
こういう解釈をとっているわけです。「拉致被害者救出が最重要課題」と言い
ながら、「国際法上も自衛隊が助けに行ける」と言っていながら、「憲法上でき
ない」と。こういう解釈を未だに続けている。
2年目の安保法制ではいくつかの点で政府は憲法解釈を変えたわけですが、な
ぜこの点の憲法解釈を変えないのかと私は思っています。
西岡さんの提出ペーパーの最後のページには、「日本はあまりにものんき過ぎ
る」という言葉が書いてあります。日本はこういう切迫した状況の中で、何をし
べきなのかということを西岡さんからお願いします。
(5につづく)
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首相官邸のホームページに「ご意見募集」があります。
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葉書は、〒100-8968 千代田区永田町2-3-1 内閣総理大臣 安倍晋三殿
■救う会全国協議会ニュース
発行:北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会(救う会)
TEL 03-3946-5780 FAX 03-3946-5784 http://www.sukuukai.jp
担当:平田隆太郎(事務局長 info@sukuukai.jp)
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カンパ振込先:郵便振替口座 00100-4-14701 救う会
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