玉虫色の米朝合意をどう読むか(2018/06/14)
★☆救う会全国協議会ニュース★☆(2018.06.14)
以下は本日、6月14日の「産経新聞」【正論】欄に西岡力・救う会会長が投
稿したものです。参考情報として送ります。
<参考情報>
■玉虫色の米朝合意をどう読むか―西岡力・モラロジー研究所教授/麗澤大学客
員教授
◆都合の良い「朝鮮半島の非核化」
12日の首脳会談で米朝は、「朝鮮半島の完全な非核化」実現で原則的な合意
をした。これが米国の思惑通り北朝鮮の核兵器完全廃棄の方向に進めば、北朝鮮
は見返りとして日本からの多額の経済協力資金を得ようと日本に接近してくる。
すでに5月段階で、北朝鮮政権内部筋は私に、米朝協議がうまくいけば、200
2年の小泉純一郎首相訪朝時の日朝協議で取ることに失敗した多額の過去清算資
金を受け取るという方針が決まっていると、話していた。
では米朝首脳会談はうまくいったのか。私は会談の結果は3つの可能性がある
と指摘してきた。すなわち、(1)金正恩委員長が譲歩して全ての核ミサイル、生
物化学兵器の廃棄を実行する(2)トランプ大統領が核問題での中途半端な合意を
してしまう(3)決裂して昨年10月頃の軍事緊張状態に戻る―だ。
少なくとも現段階では(3)にはならかった。共同声明は玉虫色の表現で書かれ
ており、トランプ氏側から読むと(1)とも解釈できるが、北朝鮮側から読むと(2)
とも解釈できる。両者が都合よく解釈できる鍵になる言葉が、「朝鮮半島の完全
な非核化」だ。共同声明では「金委員長は朝鮮半島の完全な非核化への揺るぎな
い、固い決意を再確認した」「北朝鮮は朝鮮半島の完全な非核化に向け取り組む」
と2回、この言葉が書かれた。
◆用語と実態を取引した可能性
「朝鮮半島の完全な非核化」という場合、すでに1990年代初め韓国から米
軍の核は撤収したのだから、北朝鮮の核兵器の完全な廃棄を意味すると考えるの
が常識だ。ところが、北朝鮮の定義は常識と大きくかけ離れている。
2016年7月6日に北朝鮮政府代弁人が「『北の非核化』詭弁(きべん)は朝
鮮半島非核化の前途をより険しくするだけだ」と題する声明を出した。そこで主
張した「朝鮮半島の非核化」は、核兵器があるかもしれない在韓米軍基地を査察
し、核を積める戦略爆撃機や空母、潜水艦など戦略兵器の北朝鮮接近を禁止し、
在韓米軍を撤退させることが含まれていた。これが2年前の北朝鮮の立場だった。
金正恩氏がこの立場を変えたのか、変えないままトランプ大統領をだまそうと
しているのか。共同声明とトランプ大統領の会見だけでは明確にならない。
しかし、北朝鮮のだましの手口をよく知っているジョン・ボルトン安保担当補
佐官が首脳会談に同席したから、むざむざとだまされたわけでもないはずだ。そ
のような目で共同声明を見直すと「金委員長は朝鮮半島の完全な非核化への揺る
ぎない、固い決意を再確認した」という先に引用した部分のすぐ前に「トランプ
大統領は北朝鮮に安全の保証を約束し」と書かれていることに大きな意味がある
ことが分かった。米朝の相互の約束が安全の保証と非核化なのだ。
来週にも始まるポンペオ米国務長官と北朝鮮当局者の協議で、北朝鮮側が在韓
米軍基地査察や米軍撤退などを持ち出せば、今回の首脳会談でトランプ大統領が
だまされたと分かる。そうなれば「北朝鮮の安全の保証」を無効にして、厳しい
軍事圧力をかけるだろう。
なぜ米国は「北朝鮮の非核化」という語を求めず、「朝鮮半島の非核化」とい
う語を使うことを許したのか。金正恩氏が核ミサイルを米国に持ち出されること
容認する決断をしたが、国内の動揺を抑えるために言葉上は過去に使ってきた
「朝鮮半島の非核化」を使わせてほしいと懇願した可能性がある。首脳会談の前
日夜に行われたポンペオ国務長官の会見でも「朝鮮半島のCVID(安全で検証
可能、不可逆的な非核化)が、米国が受け入れられる唯一の結果」と語っていた。
この時点で用語では譲るが、実態では譲らないというディール(取引)が米朝間
で成立していたのかもしれない。
◆拉致組み込みは大きな外交成果
金正恩氏は父の死後、父ができなかった日本からの過去清算資金を取ることで、
父の権威を乗り越えたいと考えていた、という内部情報がある。金正恩氏の狙い
を安倍晋三首相とトランプ大統領は十分承知し、CVIDを呑め、呑んだら日本
が多額の経済協力をするというメッセージを送ったのだ。トランプ大統領の立場
では、自分が金正恩氏と行うディールの中に日本が出す資金を見せ金として組み
込んでいるのだ。トランプ大統領が拉致問題を取り上げたのは、安倍首相の熱意
や人道主義の立場だけではない。自国の財布は開かず、かわりに日本の資金をディー
ルに使おうとしているのだ。
日本から見ると米朝首脳のディールに拉致問題が組み込まれたことは、大きな
外交成果だ。米国の軍事圧力を拉致解決の後ろ盾に使うことができる構造を作り
上げたことになるからだ。日本は蚊帳の外などではなく、米朝のディールの一角
に拉致問題解決と経済協力を組み込ませることに成功した。
次は、日朝の裏交渉だ。そこで全被害者の即時一括帰国が実現できると判断し
たとき、安倍首相が果敢に平壌を訪れ、金正恩氏と最終談判するしかない。
以上
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■安倍首相にメール・葉書を
首相官邸のホームページに「ご意見募集」があります。
下記をクリックして、ご意見を送ってください。
[PC]https://www.kantei.go.jp/jp/forms/goiken.html
[携帯]http://form1.kmail.kantei.go.jp/cgi-bin/k/iken/im/goiken.cgi
葉書は、〒100-8968 千代田区永田町2-3-1 内閣総理大臣 安倍晋三殿
■救う会全国協議会ニュース
発行:北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会(救う会)
TEL 03-3946-5780 FAX 03-3946-5784 http://www.sukuukai.jp
担当:平田隆太郎(事務局長 info@sukuukai.jp)
〒112-0013 東京都文京区音羽1-17-11-905
カンパ振込先:郵便振替口座 00100-4-14701 救う会
みずほ銀行池袋支店(普)5620780 救う会事務局長平田隆太郎
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以下は本日、6月14日の「産経新聞」【正論】欄に西岡力・救う会会長が投
稿したものです。参考情報として送ります。
<参考情報>
■玉虫色の米朝合意をどう読むか―西岡力・モラロジー研究所教授/麗澤大学客
員教授
◆都合の良い「朝鮮半島の非核化」
12日の首脳会談で米朝は、「朝鮮半島の完全な非核化」実現で原則的な合意
をした。これが米国の思惑通り北朝鮮の核兵器完全廃棄の方向に進めば、北朝鮮
は見返りとして日本からの多額の経済協力資金を得ようと日本に接近してくる。
すでに5月段階で、北朝鮮政権内部筋は私に、米朝協議がうまくいけば、200
2年の小泉純一郎首相訪朝時の日朝協議で取ることに失敗した多額の過去清算資
金を受け取るという方針が決まっていると、話していた。
では米朝首脳会談はうまくいったのか。私は会談の結果は3つの可能性がある
と指摘してきた。すなわち、(1)金正恩委員長が譲歩して全ての核ミサイル、生
物化学兵器の廃棄を実行する(2)トランプ大統領が核問題での中途半端な合意を
してしまう(3)決裂して昨年10月頃の軍事緊張状態に戻る―だ。
少なくとも現段階では(3)にはならかった。共同声明は玉虫色の表現で書かれ
ており、トランプ氏側から読むと(1)とも解釈できるが、北朝鮮側から読むと(2)
とも解釈できる。両者が都合よく解釈できる鍵になる言葉が、「朝鮮半島の完全
な非核化」だ。共同声明では「金委員長は朝鮮半島の完全な非核化への揺るぎな
い、固い決意を再確認した」「北朝鮮は朝鮮半島の完全な非核化に向け取り組む」
と2回、この言葉が書かれた。
◆用語と実態を取引した可能性
「朝鮮半島の完全な非核化」という場合、すでに1990年代初め韓国から米
軍の核は撤収したのだから、北朝鮮の核兵器の完全な廃棄を意味すると考えるの
が常識だ。ところが、北朝鮮の定義は常識と大きくかけ離れている。
2016年7月6日に北朝鮮政府代弁人が「『北の非核化』詭弁(きべん)は朝
鮮半島非核化の前途をより険しくするだけだ」と題する声明を出した。そこで主
張した「朝鮮半島の非核化」は、核兵器があるかもしれない在韓米軍基地を査察
し、核を積める戦略爆撃機や空母、潜水艦など戦略兵器の北朝鮮接近を禁止し、
在韓米軍を撤退させることが含まれていた。これが2年前の北朝鮮の立場だった。
金正恩氏がこの立場を変えたのか、変えないままトランプ大統領をだまそうと
しているのか。共同声明とトランプ大統領の会見だけでは明確にならない。
しかし、北朝鮮のだましの手口をよく知っているジョン・ボルトン安保担当補
佐官が首脳会談に同席したから、むざむざとだまされたわけでもないはずだ。そ
のような目で共同声明を見直すと「金委員長は朝鮮半島の完全な非核化への揺る
ぎない、固い決意を再確認した」という先に引用した部分のすぐ前に「トランプ
大統領は北朝鮮に安全の保証を約束し」と書かれていることに大きな意味がある
ことが分かった。米朝の相互の約束が安全の保証と非核化なのだ。
来週にも始まるポンペオ米国務長官と北朝鮮当局者の協議で、北朝鮮側が在韓
米軍基地査察や米軍撤退などを持ち出せば、今回の首脳会談でトランプ大統領が
だまされたと分かる。そうなれば「北朝鮮の安全の保証」を無効にして、厳しい
軍事圧力をかけるだろう。
なぜ米国は「北朝鮮の非核化」という語を求めず、「朝鮮半島の非核化」とい
う語を使うことを許したのか。金正恩氏が核ミサイルを米国に持ち出されること
容認する決断をしたが、国内の動揺を抑えるために言葉上は過去に使ってきた
「朝鮮半島の非核化」を使わせてほしいと懇願した可能性がある。首脳会談の前
日夜に行われたポンペオ国務長官の会見でも「朝鮮半島のCVID(安全で検証
可能、不可逆的な非核化)が、米国が受け入れられる唯一の結果」と語っていた。
この時点で用語では譲るが、実態では譲らないというディール(取引)が米朝間
で成立していたのかもしれない。
◆拉致組み込みは大きな外交成果
金正恩氏は父の死後、父ができなかった日本からの過去清算資金を取ることで、
父の権威を乗り越えたいと考えていた、という内部情報がある。金正恩氏の狙い
を安倍晋三首相とトランプ大統領は十分承知し、CVIDを呑め、呑んだら日本
が多額の経済協力をするというメッセージを送ったのだ。トランプ大統領の立場
では、自分が金正恩氏と行うディールの中に日本が出す資金を見せ金として組み
込んでいるのだ。トランプ大統領が拉致問題を取り上げたのは、安倍首相の熱意
や人道主義の立場だけではない。自国の財布は開かず、かわりに日本の資金をディー
ルに使おうとしているのだ。
日本から見ると米朝首脳のディールに拉致問題が組み込まれたことは、大きな
外交成果だ。米国の軍事圧力を拉致解決の後ろ盾に使うことができる構造を作り
上げたことになるからだ。日本は蚊帳の外などではなく、米朝のディールの一角
に拉致問題解決と経済協力を組み込ませることに成功した。
次は、日朝の裏交渉だ。そこで全被害者の即時一括帰国が実現できると判断し
たとき、安倍首相が果敢に平壌を訪れ、金正恩氏と最終談判するしかない。
以上
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TEL 03-3946-5780 FAX 03-3946-5784 http://www.sukuukai.jp
担当:平田隆太郎(事務局長 info@sukuukai.jp)
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