拉致問題セミナー報告４(2020/12/16)
★☆救う会全国協議会ニュース★☆（2020.12.16-2）
■拉致問題セミナー報告４
櫻井 長年拉致問題に取り組んできた西岡さん、そして古森さん、そしてめぐみ
さんの弟の横田哲也さんの３人で、金聖●（王へんに文）さんの報告を受けて、
いかにして私たちは拉致問題解決に取り組んでいけばいいのか、現状をどう分析
しているのか、お話を始めたいと思います。
金聖●さんの報告は、実に現実に即した厳しい内容のものでした。けれども北
朝鮮崩壊の時期は迫っているということを、客観的にお話をしてくださいました。
このような北朝鮮情勢を日本の立場から、また日本独自の情報も加えながら、ま
ず西岡さんに分析をお願いします。
◆経済制裁が効いていると金正恩が認めて人民に謝罪
西岡力（救う会会長、モラロジー研究所教授）
皆さん、こんにちは。私はレジュメ（配布資料）を準備しました。「全拉致被
害者の即時一括帰国への道」というタイトルです。まず、繰り返し言っています
が、我々の救出戦略を確認したいと思います。それは「先圧力、後交渉」です。
まず圧力をかける。その圧力を背景にして交渉するです。そしてその圧力はほ
ぼ完成しました。時期は２０１７年１２月です。２０１６年、１７年に北朝鮮が
３回核実験をして、４０発弾道ミサイルを撃って、それに対して厳しい制裁がか
かった。そしてその制裁の理由に拉致も入れることに成功した。
その制裁の目標は、北朝鮮の外貨を枯渇させることです。北朝鮮には、党３９
号室という組織があり、そこに金正恩氏が自由に使える外貨があるんです。昔は
スイスの銀行にありました。今は分散しているようですが、だいたい毎年４０億
ドルから５０億ドルの外貨があったのですが、最近私が聞いたところによると、
「１億ドルを切った」そうです。韓国の専門機関の分析でも同じでした。
４０から５０あったのが１億ドルを切った。それは意図的に、北朝鮮の外貨を
ターゲットに制裁をかけたからです。先ほど金聖●（王へんに文）氏が引用した
１０月１０日の演説でも、「今この惑星に苛酷で長期的な制裁のためあらゆるも
のが不足している」とあり、制裁が効いていることを金正恩氏が認め、涙を流し
たんです。
だから金正恩氏はアメリカとの交渉に踏み切ったわけです。「先圧力、後交渉」
の段階で、北朝鮮は日本ではなくアメリカを選んだ。実は小泉訪朝の時は、「先
日本」だったのです。ブッシュ政権が「悪の枢軸」だと言って軍事力もちらつか
せながら強い制裁をかけた。
しかし今回は「先アメリカ」です。内部の話を聞きますと、金正恩なりに小泉
訪朝を総括して、「日本は独立した外交ができない。総理大臣が国交正常化して
多額のお金を払うと言ったので、こちらは拉致を認めて５人も返したのに金がこ
なかった。核問題でアメリカが反対したからだ。今も核問題がある。だからアメ
リカとまず手打ちをしない限り日本から金はとれない」と。そういう総括があっ
たと聞いています。
しかし、その話し合いが始まったのは事実であり、アメリカとの交渉はまとまっ
ていません。トランプ大統領は（金正恩について）色んなことを言っています。
それは古森さんに分析していただきますが、制裁は緩めていない。
経済制裁はじわじわと効いてくるものです。すぐには効果がありませんが、２
０１７年１２月に完成して１８、１９、２０年と３年経ったわけです。そこで安
倍総理は、日本と交渉しましょうということで、「無条件で会いましょう」と言っ
て、菅総理もそれを受け継いでいるわけです。
その経済制裁だけでなく、北朝鮮には、コロナ、水害、（金正恩の）健康不安、
幹部と人民の不満、さらに中朝関係悪化という６重苦があります。コロナの蔓延
ですが、金聖●さんの話の中で重要なものがありました。
金正恩は水害の現場に平壌の党員たちをたくさん動員しています。また軍も動
員しています。そこでコロナが蔓延した。人が多いと蔓延するんです。もう一つ
金聖●さんの話からですが、１０月１０日の深夜の軍事パレードの結果、蔓延し
た。あの時はマスクをしていませんでした。数万の群衆を平壌に集めたのです。
それで今ピリピリしているわけです。
◆中朝関係悪化で幹部も人民も不満
そしてもう一つ、中朝関係です。先ほど、「読売新聞」の報道で、中国が制裁
破りをしていることを指摘されました。アメリカの国務省がそういう発表をした
のですが、それはだいたい４月から８月までのことです。９月に中朝関係が急激
に悪くなります。驚いたことに、１０月の中朝貿易はほぼゼロになりました。
資料に数字を上げておきました。中国政府の公式発表です。北朝鮮からの輸入
は、１?２月が２億７００万ドルですが、１月末に国境を閉じたのでそれまでは
このくらいあった。そして３月１９００万ドル、４月２，４００万ドル、５月に
持ち直して６，３００万ドル、６月９，７００万ドルでした。６月に戻ったわけ
です。そして７月７，４００万ドル、８月２，６００万ドル、９月２，１００万
ドル、１０月になると１６６万ドルという数字になりました。
２億ドルあったのが１６６万ドルというのはほぼゼロです。制裁の結果、中国
との貿易は既にマイナスになっていたのです。制裁は、人道的なこともあって、
食糧や衣料品や軽工業品等は対象になっていません。北朝鮮では作れないものが
いっぱいありますから、中国から物を買わないと経済が回っていかないんです。
そもそも北朝鮮の市場での使用通貨は中国元で、北朝鮮の通貨ではネギと大根
くらいしか買えないのです。人民元経済圏に入っているのに中国との貿易がゼロ
になった。コロナだけではないのです。
この９月、１０月の間に何か特別なことがあったわけではない。物にウイルス
は付いてこないのです。消毒すればいいんですから。私は情報源に、新義州と丹
東の間の橋、鉄橋があって車も通るのですが、時々見に行ってもらっています。
９月末から１０月になってからは列車も通らない、車も通らない。これは北朝
鮮側が中国からコロナが入るのを恐れて国境を閉じただけではなく、何らかの理
由で中国側との国境を閉じたのです。
その情報について様々な情報が飛び交っているのですが、資料にあるように金
正恩が、「習近平はわれわれを助けない。けしからん奴」と言ったのか、そこま
では言わないかもしれませんが。
あるいは、北朝鮮のハッカーが中国銀行から数億ドルを盗んだからか。これは
中国側が共犯の男を捕まえたということなので間違いないと思うんですが、これ
だけが原因なのかどうかは分かっていませんが、とにかく中国が北朝鮮に対し怒っ
ていて、最後の命綱である中朝貿易がゼロになったのが１０月、１１月です。コ
ロナが再度蔓延し始めたのと同じ時期です。
そこで金正恩は、先ほどの１０月１０日の演説で、「ありがとう」と18回言っ
て、「面目ない」と1回言いいました。そして朝鮮語の１人称代名詞「ナ」です
が、目下の人が目上に使う「チョ」を１回だけ使いました。こんなことは今まで
ないんです。北朝鮮は敬語にものすごく厳しいんです。
そして、「天のようで海のようなわが人民のあまりにも厚い信頼を受けるだけ
で、ただの一度も満足に応えることができず、本当に面目ありません。私は、全
人民の信頼を得て、金日成同志と金正日同志の偉業を継承して、この国を導いて
いく重責を担っていますが、まだ努力と真心が足りず、わが人民は生活上の困難
を脱することができずにいます」と言ったのですが、この時の「私は」で「チョ
ヌン」と言ったんです。目下の人が目上に言う言い方を最高指導者が使った。
もう一つ、「終わりに、全人民が無病息災であってくれたことに対して今一度
感謝の挨拶をささげます。そして、変わることなくわが党に信頼を寄せてくれる
真情に、心から感謝をささげます」と言い、この時の「くれる」で尊敬語の「シ」
を使いました。北朝鮮では目上の人が目下の人に尊敬語を使わないんです。とこ
ろが最高指導者が人民に、この「シ」を２回使ったのです。
そのくらいへりくだって、人民に感謝していると言って、このままでは不満が
収まらないと思って大パフォーマンスをやったのです。余談ですが金聖●はこの
演説を聞いて、「先生、感激しちゃいました」と。「最高指導者がこんなことを
言うなんて。私は金正恩とは長いし、私は感激してはいけないんですが、感激し
ちゃいました」と。
それで、「あんただけじゃないか。平壌に電話して聞いてくれよ」と頼んだら、
「平壌でも感激していました」と。それでひと月ほどもったのですが、また不満
が出ている。それくらいのことをしなければならないほど不満が高まっているん
です。
◆北朝鮮で治安が悪化
最後に治安の悪化のことをお話しします。「苦難の行軍」という９０年代後半
の時期に３００万人の餓死者が出たんですが、その理由は配給が止まったからで
す。そして今も配給は止まっています。配給はないけれども皆闇市で食べている
んです。それがチャンマダンという市場なんです。今は闇市で食べられる人だけ
が生き残っているんです。
しかし、その「苦難の行軍」後も配給があったのは、平壌市と治安機関、政治
警察の安全部と秘密警察の保衛部、そして軍でした。金正日は、「この３つがあ
るから大丈夫だ」と３００万人餓死した頃に言っていたんです。
今回の北朝鮮の体制危機の特徴は、庶民は苦しいけれどもそれなりに食べてい
るので大量餓死は起きないだろうが、平壌の配給は４月から止まりました。金聖
●さんが言っていましたが、彼に聞いてもらったのです。そうしたら中心部では
配給はあるが周辺部ではないということでした。東京でいうと千代田区や中央区
はあるが、それ以外の所はないという感じです。平壌でも配給ができなくなった。
さらに治安機関への配給も減っています。
それで庶民が市場で物を売っていると、安全部が来て「押収だ」と言って持っ
ていくそうです。配給が少ないから自分も食べなければならないんです。しかし
それを持っていかれたら飢え死にするので、安全員を市場でボコボコに殴るそう
です。緊迫している状態です。
清津（チョンジン）、順川（スンチョン）、咸興（ハムン）、平城（ピョンソ
ン）、沙里院（サリウォン）でこういうことが起きている。まだ政治的な反体制
活動ではないんですが、生活を守るためにやっている。しかし、治安の責任者を
庶民がなぐる。しかも一発なぐるだけでは後で捕まってしまいますからボコボコ
になぐって意識不明にする。犯人は捕まっていないそうです。
これは今まで聞いたこともないことです。これも制裁の結果で、外貨を減らす
ことによって治安機関や平壌市民にも配給ができなくなった。そして何らかの理
由で中国との関係も悪くなった。だからこそアメリカか日本に来たい。だからト
ランプ再選に非常に期待していたわけですが、今当惑している状況なので、「先
アメリカ」という戦術を取っていましたが、もしかしたら「先日本」もあり得る
のではないかという状況です。チャンスが来ているという話をしました。
櫻井 どうもありがとうございました。非常に金正恩が追い詰められている状況
を私たちはどう活用していくかということを考えなければいけないということで
すね。
（５につづく）
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
■菅首相にメール・葉書を
首相官邸のホームページに「ご意見募集」があります。
下記をクリックして、ご意見を送ってください。
[ＰＣ]https://www.kantei.go.jp/jp/forms/goiken.html
[携帯]http://form1.kmail.kantei.go.jp/cgi-bin/k/iken/im/goiken.cgi
葉書は、〒100-8968 千代田区永田町2-3-1 内閣総理大臣 菅義偉殿
■救う会全国協議会ニュース
発行：北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会（救う会）
TEL 03-3946-5780 FAX 03-3946-5784 http://www.sukuukai.jp
担当：平田隆太郎（事務局長 info@sukuukai.jp)
〒112-0013 東京都文京区音羽1-17-11-905
カンパ振込先：郵便振替口座 00100-4-14701 救う会
みずほ銀行池袋支店（普）5620780 救う会事務局長平田隆太郎
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■拉致問題セミナー報告４
櫻井 長年拉致問題に取り組んできた西岡さん、そして古森さん、そしてめぐみ
さんの弟の横田哲也さんの３人で、金聖●（王へんに文）さんの報告を受けて、
いかにして私たちは拉致問題解決に取り組んでいけばいいのか、現状をどう分析
しているのか、お話を始めたいと思います。
金聖●さんの報告は、実に現実に即した厳しい内容のものでした。けれども北
朝鮮崩壊の時期は迫っているということを、客観的にお話をしてくださいました。
このような北朝鮮情勢を日本の立場から、また日本独自の情報も加えながら、ま
ず西岡さんに分析をお願いします。
◆経済制裁が効いていると金正恩が認めて人民に謝罪
西岡力（救う会会長、モラロジー研究所教授）
皆さん、こんにちは。私はレジュメ（配布資料）を準備しました。「全拉致被
害者の即時一括帰国への道」というタイトルです。まず、繰り返し言っています
が、我々の救出戦略を確認したいと思います。それは「先圧力、後交渉」です。
まず圧力をかける。その圧力を背景にして交渉するです。そしてその圧力はほ
ぼ完成しました。時期は２０１７年１２月です。２０１６年、１７年に北朝鮮が
３回核実験をして、４０発弾道ミサイルを撃って、それに対して厳しい制裁がか
かった。そしてその制裁の理由に拉致も入れることに成功した。
その制裁の目標は、北朝鮮の外貨を枯渇させることです。北朝鮮には、党３９
号室という組織があり、そこに金正恩氏が自由に使える外貨があるんです。昔は
スイスの銀行にありました。今は分散しているようですが、だいたい毎年４０億
ドルから５０億ドルの外貨があったのですが、最近私が聞いたところによると、
「１億ドルを切った」そうです。韓国の専門機関の分析でも同じでした。
４０から５０あったのが１億ドルを切った。それは意図的に、北朝鮮の外貨を
ターゲットに制裁をかけたからです。先ほど金聖●（王へんに文）氏が引用した
１０月１０日の演説でも、「今この惑星に苛酷で長期的な制裁のためあらゆるも
のが不足している」とあり、制裁が効いていることを金正恩氏が認め、涙を流し
たんです。
だから金正恩氏はアメリカとの交渉に踏み切ったわけです。「先圧力、後交渉」
の段階で、北朝鮮は日本ではなくアメリカを選んだ。実は小泉訪朝の時は、「先
日本」だったのです。ブッシュ政権が「悪の枢軸」だと言って軍事力もちらつか
せながら強い制裁をかけた。
しかし今回は「先アメリカ」です。内部の話を聞きますと、金正恩なりに小泉
訪朝を総括して、「日本は独立した外交ができない。総理大臣が国交正常化して
多額のお金を払うと言ったので、こちらは拉致を認めて５人も返したのに金がこ
なかった。核問題でアメリカが反対したからだ。今も核問題がある。だからアメ
リカとまず手打ちをしない限り日本から金はとれない」と。そういう総括があっ
たと聞いています。
しかし、その話し合いが始まったのは事実であり、アメリカとの交渉はまとまっ
ていません。トランプ大統領は（金正恩について）色んなことを言っています。
それは古森さんに分析していただきますが、制裁は緩めていない。
経済制裁はじわじわと効いてくるものです。すぐには効果がありませんが、２
０１７年１２月に完成して１８、１９、２０年と３年経ったわけです。そこで安
倍総理は、日本と交渉しましょうということで、「無条件で会いましょう」と言っ
て、菅総理もそれを受け継いでいるわけです。
その経済制裁だけでなく、北朝鮮には、コロナ、水害、（金正恩の）健康不安、
幹部と人民の不満、さらに中朝関係悪化という６重苦があります。コロナの蔓延
ですが、金聖●さんの話の中で重要なものがありました。
金正恩は水害の現場に平壌の党員たちをたくさん動員しています。また軍も動
員しています。そこでコロナが蔓延した。人が多いと蔓延するんです。もう一つ
金聖●さんの話からですが、１０月１０日の深夜の軍事パレードの結果、蔓延し
た。あの時はマスクをしていませんでした。数万の群衆を平壌に集めたのです。
それで今ピリピリしているわけです。
◆中朝関係悪化で幹部も人民も不満
そしてもう一つ、中朝関係です。先ほど、「読売新聞」の報道で、中国が制裁
破りをしていることを指摘されました。アメリカの国務省がそういう発表をした
のですが、それはだいたい４月から８月までのことです。９月に中朝関係が急激
に悪くなります。驚いたことに、１０月の中朝貿易はほぼゼロになりました。
資料に数字を上げておきました。中国政府の公式発表です。北朝鮮からの輸入
は、１?２月が２億７００万ドルですが、１月末に国境を閉じたのでそれまでは
このくらいあった。そして３月１９００万ドル、４月２，４００万ドル、５月に
持ち直して６，３００万ドル、６月９，７００万ドルでした。６月に戻ったわけ
です。そして７月７，４００万ドル、８月２，６００万ドル、９月２，１００万
ドル、１０月になると１６６万ドルという数字になりました。
２億ドルあったのが１６６万ドルというのはほぼゼロです。制裁の結果、中国
との貿易は既にマイナスになっていたのです。制裁は、人道的なこともあって、
食糧や衣料品や軽工業品等は対象になっていません。北朝鮮では作れないものが
いっぱいありますから、中国から物を買わないと経済が回っていかないんです。
そもそも北朝鮮の市場での使用通貨は中国元で、北朝鮮の通貨ではネギと大根
くらいしか買えないのです。人民元経済圏に入っているのに中国との貿易がゼロ
になった。コロナだけではないのです。
この９月、１０月の間に何か特別なことがあったわけではない。物にウイルス
は付いてこないのです。消毒すればいいんですから。私は情報源に、新義州と丹
東の間の橋、鉄橋があって車も通るのですが、時々見に行ってもらっています。
９月末から１０月になってからは列車も通らない、車も通らない。これは北朝
鮮側が中国からコロナが入るのを恐れて国境を閉じただけではなく、何らかの理
由で中国側との国境を閉じたのです。
その情報について様々な情報が飛び交っているのですが、資料にあるように金
正恩が、「習近平はわれわれを助けない。けしからん奴」と言ったのか、そこま
では言わないかもしれませんが。
あるいは、北朝鮮のハッカーが中国銀行から数億ドルを盗んだからか。これは
中国側が共犯の男を捕まえたということなので間違いないと思うんですが、これ
だけが原因なのかどうかは分かっていませんが、とにかく中国が北朝鮮に対し怒っ
ていて、最後の命綱である中朝貿易がゼロになったのが１０月、１１月です。コ
ロナが再度蔓延し始めたのと同じ時期です。
そこで金正恩は、先ほどの１０月１０日の演説で、「ありがとう」と18回言っ
て、「面目ない」と1回言いいました。そして朝鮮語の１人称代名詞「ナ」です
が、目下の人が目上に使う「チョ」を１回だけ使いました。こんなことは今まで
ないんです。北朝鮮は敬語にものすごく厳しいんです。
そして、「天のようで海のようなわが人民のあまりにも厚い信頼を受けるだけ
で、ただの一度も満足に応えることができず、本当に面目ありません。私は、全
人民の信頼を得て、金日成同志と金正日同志の偉業を継承して、この国を導いて
いく重責を担っていますが、まだ努力と真心が足りず、わが人民は生活上の困難
を脱することができずにいます」と言ったのですが、この時の「私は」で「チョ
ヌン」と言ったんです。目下の人が目上に言う言い方を最高指導者が使った。
もう一つ、「終わりに、全人民が無病息災であってくれたことに対して今一度
感謝の挨拶をささげます。そして、変わることなくわが党に信頼を寄せてくれる
真情に、心から感謝をささげます」と言い、この時の「くれる」で尊敬語の「シ」
を使いました。北朝鮮では目上の人が目下の人に尊敬語を使わないんです。とこ
ろが最高指導者が人民に、この「シ」を２回使ったのです。
そのくらいへりくだって、人民に感謝していると言って、このままでは不満が
収まらないと思って大パフォーマンスをやったのです。余談ですが金聖●はこの
演説を聞いて、「先生、感激しちゃいました」と。「最高指導者がこんなことを
言うなんて。私は金正恩とは長いし、私は感激してはいけないんですが、感激し
ちゃいました」と。
それで、「あんただけじゃないか。平壌に電話して聞いてくれよ」と頼んだら、
「平壌でも感激していました」と。それでひと月ほどもったのですが、また不満
が出ている。それくらいのことをしなければならないほど不満が高まっているん
です。
◆北朝鮮で治安が悪化
最後に治安の悪化のことをお話しします。「苦難の行軍」という９０年代後半
の時期に３００万人の餓死者が出たんですが、その理由は配給が止まったからで
す。そして今も配給は止まっています。配給はないけれども皆闇市で食べている
んです。それがチャンマダンという市場なんです。今は闇市で食べられる人だけ
が生き残っているんです。
しかし、その「苦難の行軍」後も配給があったのは、平壌市と治安機関、政治
警察の安全部と秘密警察の保衛部、そして軍でした。金正日は、「この３つがあ
るから大丈夫だ」と３００万人餓死した頃に言っていたんです。
今回の北朝鮮の体制危機の特徴は、庶民は苦しいけれどもそれなりに食べてい
るので大量餓死は起きないだろうが、平壌の配給は４月から止まりました。金聖
●さんが言っていましたが、彼に聞いてもらったのです。そうしたら中心部では
配給はあるが周辺部ではないということでした。東京でいうと千代田区や中央区
はあるが、それ以外の所はないという感じです。平壌でも配給ができなくなった。
さらに治安機関への配給も減っています。
それで庶民が市場で物を売っていると、安全部が来て「押収だ」と言って持っ
ていくそうです。配給が少ないから自分も食べなければならないんです。しかし
それを持っていかれたら飢え死にするので、安全員を市場でボコボコに殴るそう
です。緊迫している状態です。
清津（チョンジン）、順川（スンチョン）、咸興（ハムン）、平城（ピョンソ
ン）、沙里院（サリウォン）でこういうことが起きている。まだ政治的な反体制
活動ではないんですが、生活を守るためにやっている。しかし、治安の責任者を
庶民がなぐる。しかも一発なぐるだけでは後で捕まってしまいますからボコボコ
になぐって意識不明にする。犯人は捕まっていないそうです。
これは今まで聞いたこともないことです。これも制裁の結果で、外貨を減らす
ことによって治安機関や平壌市民にも配給ができなくなった。そして何らかの理
由で中国との関係も悪くなった。だからこそアメリカか日本に来たい。だからト
ランプ再選に非常に期待していたわけですが、今当惑している状況なので、「先
アメリカ」という戦術を取っていましたが、もしかしたら「先日本」もあり得る
のではないかという状況です。チャンスが来ているという話をしました。
櫻井 どうもありがとうございました。非常に金正恩が追い詰められている状況
を私たちはどう活用していくかということを考えなければいけないということで
すね。
（５につづく）
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