2024年の国際情勢と拉致問題2(2024/02/02)
★☆救う会全国協議会ニュース★☆(2024.02.02)
■2024年の国際情勢と拉致問題2
◆北朝鮮問題に関心がうすいバイデン政権
古森 例外もありますが、全体的に見ると北朝鮮問題に関して低調というか、関
心の低下が見られます。一つは、バイデン政権の政策による。あまり北朝鮮問題
を重視しない。二番目は、バイデン政権だけが悪いのではなく、今のアメリカに
とって、北朝鮮問題以外に緊急の対処をしていかなければならない課題が次々と
出てきています。
ロシアによるウクライナ侵攻、最近のハマスのイスラエル攻撃、中国が益々軍
事攻勢を強めているという状況で、なかなか手が回らない状況があります。
その中で北朝鮮の軍事動向、特に核に関する動向は、アメリカの国家安全保障
にとっても重大なできごとですから、最小限必要な注意は向けられています。外
から見ていて分からない部分も多いのですが、ワシントンでは民間の研究機関の
行動が分かりやすい。
2つの所が、コンスタントに北朝鮮の状況を追っています。1つは皆様もご存
じのCSISという戦略国際問題研究所で、ここに朝鮮研究のグループがあります。
国家安全保障会議等で活躍したビクター・チャという極めて優秀な韓国系のアメ
リカ人の学者がいて、ずっとフォローしています。
もう一つは、日本側でも報じられることはないんですが、「アメリカ第一政策
研究所(America First Policy Institute)」というのがあります。これは新し
い研究機関ですが、名前が象徴しているように、トランプ陣営の研究機関です。
これはトランプ政権が北朝鮮問題には特別の関心を払っており、資源を投入した
こともあり、北朝鮮問題をずっとフォローしています。バイデン政権には当然厳
しい態度を示しています。
バイデン政権の北朝鮮に対する姿勢ですが、その特徴は軍事面での動きがない
ことです。北朝鮮と対峙するには軍事が大事だというのがトランプ政権でしたが、
バイデン政権は軍事について語らない。
とにかくバイデンさんは、トランプがやったことには何でも反対する人で、選
挙中も就任当初も、トランプ氏は金正恩と1対1でやりましたが、バイデン氏は
無法国家のような国を認知するのかと非難を続けてきました。
もう一つ、それより大きいのは、民主党バイデン政権というのは、軍事をなん
となく避け、仲良くして話し合えばいいんじゃないのという姿勢で、日本の政府
と似たような感じがあります。
先ほど申し上げたCSISやアメリカ第一政策研究所は、中国や北朝鮮の軍事動向
をきちんと見ています。具体的には核兵器開発への動き、ICBM発射の動き、極超
音速ミサイル、中距離弾道ミサイル、準中距離弾道ミサイル、短距離弾道ミサイ
ル、巡航ミサイル、潜水艦発射ミサイルを北朝鮮が次々と発射していますが、こ
れの一つひとつを細かく追ってモニターし、どの程度やっているかを見ています。
そのことがバイデン政権の政策に反映されて、バイデン政権もそれらのことに
言及、注意喚起をするかというと、ほとんどない。
私が心配なのは、歴代政権が北朝鮮の核開発に最大の関心を持ってこれを阻止
し、「完全な、検証可能な、不可逆的な非核化」をめざしましたが、これがバイ
デン政権で骨抜きになってきたのじゃないかということです。
結局北朝鮮を核保有国として安易に認め、その上で対策を講じようという方向
に傾いてきている。その根拠の一つは、バイデン陣営の中でずっとやってきたスー
ザン・ライスという有力な学者がいました。この前までバイデン政権の国家安全
保障会議の一員でしたが、どういうわけかこの間辞めた。
この人が、トランプ在任中に有力新聞に寄稿して、「もう完全な非核化はあき
らめろ。どうせできない。だから北朝鮮を核保有国として認め扱おうじゃないか」
という論文を出しました。
トランプ政権や外にいる人たちが一斉に反対論を出したので引っ込んだことが
ありました。
もう一つ、今のバイデン政権というのは、オバマ政権で働いてきた人たちばか
りです。特にアジア問題、朝鮮半島問題に対しては、例えばウェンディ・シャー
マン(元国務副長官)という女性、(アメリカ国家安全保障会議の)インド太平
洋調整官をやったカート・キャンベル氏、この人もオバマ政権の有力なアジア担
当官でした。
もう一人、国家安全保障担当大統領補佐官のジェイク・サリバン氏、これもオ
バマ政権の時に(バイデン)副大統領補佐官をやっています。
オバマ政権の対北政策は、一言で言うと、「戦略的忍耐(Strategic Patience)」
です。我慢するということです。この人たちが何年間もそれをやってきていたわ
けですから、当然そういう感じの方向に行ってしまう。
トランプ政権が2017年1月に誕生して、北朝鮮に対する最初のスローガン
は、「最大圧力(maximum pressure)」でした。国連演説その他で、「北朝鮮が
とんでもないことをしたら軍事的に抹殺するぞ」と言っていました。「炎と怒り」
という言葉を使い強硬に出ました。今はそれとは違い、我慢です。
この間北朝鮮は軍事的行動を活発にしてきました。ミサイル発射の頻度が今高
くなっています。CSISは、北朝鮮側の軍事挑発行動のほとんどはミサイル発射で、
バイデン政権の3年間で91回ありました。トランプ政権の4年間では41回だっ
た。
バイデン政権も、「金正恩と会って話し合おう」ということは何回も言ってい
ます。しかし北朝鮮側が応じない。なぜ応じないかはあとで議論します。とにか
くアメリカを甘く見て挑発的なことをどんどん続けているのが今の状況です。
それに対しアメリカ側が、「じゃあこういう新しい抑止策をとるぞ」となるか
というと、それはない状況です。
2024年は大統領選挙がありますが、今までの例を見ると、大統領選挙の年
は、北朝鮮は色々な意味でアメリカ側に揺さぶりをかけてくる。軍事的挑発をよ
り活発にします。色々な報告書でもそうなるだろうと書いてあります。
トランプ政権は、北朝鮮に関する色々な論評を見ている。トランプ政権の時は、
「北朝鮮問題をどうするか」というのが常に主要な課題として出てきました。マ
スコミにも出てくる。研究機関あるいは議会でも、公式、非公式に出てくる。そ
の時の特徴は、強く出る、必ず軍事的手段が含まれている。それを色々な人が見
ます。
しかし、日本もそうですが、どんな場合でも戦争はできない。戦争になったら、
38度線の北に集結している何十万の北朝鮮軍が、ソウルに対して雨あられのよ
うに攻撃をかけ、何十万もの犠牲者が出るから、それもあっという間に起きるか
ら、絶対に軍事的対立にすることはできない、ということになる。
トランプ政権の時のワシントンの議論を見ても、「それはだめだ。そうじゃな
い方法もある」ということでした。例えば電磁波攻撃。レーザー光線で攻撃する
とか、サイバー攻撃とか、あるいは電撃的な斬首作戦、金正恩の首を取ることで
すが、そういう生々しい表現も含めて軍事オプションが語られました。そういう
議論は今無くなっています。
では日本はどうするか。やはりアメリカが貴重なパートナーになりえる。です
から米政府と議会への接近が大事です。拉致問題はアメリカにとっても大事な問
題だ、と。これは家族会・救う会がこれまでずっとしてきたことで、トランプ政
権の時は特に成果があった。トランプ大統領が、「13歳のやさしい少女」と言
いました。
もう一つ、アメリカ側でも人道的な事件があります。オットー・ワームビアと
いう大学生が北朝鮮に拘束され、昏睡状態で帰国しましたが、その後死んでしまっ
た。これは両親が活発に動いて、議会でも話題になりました。
それからデヴィッド・スネドン氏が2004年に中国の雲南省で失踪。平壌に
いると思われています。この件を調査するとの決議案が議会で通っています。こ
の問題を日本側からアメリカ側にリマインドし(思い出させ)て、「北朝鮮の人
権弾圧はけしからん」と。その中には日本人拉致も入っているとのアピール効果
があります。
政権が代わるかどうか分かりませんが、アメリカが日本の拉致問題解決のため
に何かをするという基本姿勢は変わらないと思います。そういう状況です。これ
からも今までのように、日本側がアメリカへのアプローチを続けることが必要だ
と思います(拍手)。
◆韓国政局が大統領夫人問題で混乱
久保田るり子(「産経新聞」編集委員、國學院大學客員教授)
皆さん、こんばんは。私は韓国の政局と日韓の拉致問題への協力体制等につい
てお話したいと思います。
古森さんから、「アメリカは力だ」、「力を軍事力の形で示したのがトランプ
政権だった」という話がありました。その通りだと思います。では韓国はどうか
と言いますと、情報だと思います。
思い出しますと、横田めぐみさんが拉致されたことを日本政府が認めるに至っ
たのは、「北朝鮮に女の子がいる」と話したのは韓国の情報機関でした。それが
ひそかに日本に伝えられました。めぐみさんはバドミントンのラケットを持って
いたのですが、それを持っていた女の子がいるとヒューミント(人間を媒介とし
た諜報)を使って知りました。人間は動くことによって情報を収集するわけです
が、韓国の情報機関が動いて、情報が取れたのです。
北朝鮮内部の話は北朝鮮の人でないと分からないし、北朝鮮の内部に入らない
と分からないわけです。なので日韓が拉致問題で協力するというのは、やはり日
本に対して友好的な政権があり、人道問題に関心が高く、日韓で情報収集につい
ての協力ができる相手じゃないと困るわけです。
つまり左派の政権の時は絶対だめで、保守の政権の中でも人権に人一倍関心を
持ってくれている政権が長もちしてくれないと困るんですね。
アメリカの11月の大統領選挙はトランプになるのかバイデンになるのか、こ
れは日本にとって非常に重要ですが、同時に近隣のアジアでは、台湾では日本に
親和的な民進党政権ができましたが、韓国では今年4月に総選挙があります。尹
錫悦(ユン・ソンニョル)政権は任期が3年残っていますが、その任期内にさら
に協力関係が組めるのか。次の政権につなぐことができるかで、総選挙が大事な
んです。
韓国の国会議員は与党が113で野党が164です。300議席の中で野党が
過半数を持っています。そうすると、政権与党が法律で政策を担保しようとして
も野党に国会で拒否されてしまいます。
そうなると期待しているような政策が作れない、政権の力が発揮できない状況
です。今回の選挙で過半数を取れば動かせるようになるのですが、実は大変危な
い状況です。
リスクが色々あって、韓国の選挙は前日まで分からないという選挙です。ここ
に来て、危機感が大変強まっています。尹錫悦さんはここ1年9か月で30%代
後半程度の支持率です。
残念ながら野党の左派が30%から40%近くを取っています。拮抗していま
す。他に浮動票があり、これがどちらに行くか。韓国では国民感情のことを、
「民心」と言いますが、「民心」がどちらに動くかで浮動票が動きます。
実は今「民心」が政権側に不利とされています。焦点になっていることが3つ
あり、与党は1年9か月やってきたのですが、政権が安定するためには票をくれ
という思いですが、「民心」の方は、「この政権を審判する」という感じです。
2つ目に、今までは与党と野党が対決するのがほとんどでしたが、今第3極が
浮上しており、これが台風の目になりかねない状況です。
この台風の目は、台湾の時は野党が分裂する形になり、ぎりぎりで与党が勝て
たのはこの分裂が大きかった。分裂が与党有利に働いたのです。しかし、韓国の
第3極が影響力を持つと与党保守側に不利になります。
最悪の場合、300議席の3分の2は200になりますが、野党が3分の2以
上になると韓国では大統領弾劾ができます。今かろうじて113で13議席上回っ
ていますが、もし与党が惨敗して100を切るようになると、野党側の構成にも
よりますが、断崖が可能になる可能性があるのです。
そうなるとようやく日韓関係をここまで改善してきた今の政権が途中で下野し
てしまうことになります。
3番目のリスクは、大統領夫人をめぐるリスクです。安倍さんも昭恵さんで苦
労しましたが、やはり票の半分は女性ですからリーダーの奥さんは女性に嫌われ
るようでは困るし、リーダーがあまりにもかばうと、リーダーが立派な人でも奥
さんでものすごくマイナスになります。
尹錫悦さんがそれほどすばらしいリーダーとは思いませんが、この奥さんに引
きずり回されるような状況が起きています。なかなか日本の新聞には載りません
が、奥さんはやり手の実業家で、イベント会社などをやっています。シャガール
とかモネとかドガ等のヨーロッパの絵画を輸入して絵画展をやったりとか、美術
に関心が深く、美術の大学院を出た方です。
また金融関係に関心が高く株等への投資が好きな人です。12歳年下で大変な
韓国美人です。金建希(キム・ゴンヒ)さんという方で、行動力があります。
「私が大統領夫人でも、それほど政府に縛られたくないわ」と発言しています。
大統領官邸には本来夫人の担当者がいて、どういう人と接触したらまずいとか、
式典ではこういう礼儀を守ってくださいと振付をしますが、彼女はそれを断って
担当がいません。
SNSで色々発信したり、例えばバイデン大統領に会ったら、大統領と肩を組
んでみたりとか、あるいは写真を撮る時に前に出てしまうとか目立つようなこと
をしています。制御がきかないわけです。
ご主人は奥さんに甘い方で、料理が得意で、「毎日ご飯はぼくが作る」と言っ
ていることも聞こえてきます。奥さんにあまり??りつけないようです。去年秋に、
夫人が持っている事務所に来た支援者を名乗り、夫人のお父さんと知り合いだと
名乗った牧師さん、アメリカ駐在の人ですが、その人が訪ねてきて、クリスチャ
ンディオールの高級バッグをプレゼントで貰った。
それが盗撮されていたんです。当人は牧師さんでスマホで撮った。盗撮は仕組
まれていて、盗撮しようしてやった。それを「ソウルの声」というユーチューブ
で国民に知られるようにしたのです。顔を隠すこともなく、こういう人物なのだ
ということを流した。
大騒ぎになったのですが、大手メディアはほとんど報じなかった。大統領府も
何も言わなかった。なぜならば、それがいわく付のユーチューブで、そんなもの
を軽々しく扱うと根拠がはっきり分からないので無視することにしたのです。
ところが韓国はSNSが広がっているので、国民がみんな見るわけです。大統
領夫人となれば面白いわけです。特に女の人は「あの奥さんは礼儀もないし、趣
味もなく、大統領夫人にふさわしくなかった」と。それで人気が落ちてしまった。
夫人は金融関係に関心があって、結婚する前に株価操作疑惑というのがありま
した。それに一枚かんでいた、と。大統領選挙の前から告発されたりしていたの
です。それに加えてブランドバッグですから、今一番選挙にリスクになっていま
す。
これがスキャンダルだけで終わっていればまだよかったのですが、選挙状況が
あまろ芳しくないものですから与党が非常対策委員会を作って、尹錫悦さんが一
番信頼している右腕の元検事で法務大臣だった韓東功(ハン・ドンフン)さんを
やめさせて、この委員長に据えて、実質的に与党のボスにしたのです。
選挙のために何をやるかということになると、その人は尹錫悦さんの後輩で忠
誠心の高い人ですが、奥さんのリスクに危機感を持って、「これは国民目線でこ
の問題に対処しなければならない」と言ったのです。
その途端に大統領は激怒して、「委員長をやめさせる」と言ったという報道が
広がった。二人の仲は険悪になってしまった。先週のことです。これも夫人リス
クの一つです。
結論的に、この二人がこんなことをやっていると、益々状況が悪くなるという
ことで、一応和解はしましたが、肝心な問題が残っていて、夫人がバッグを貰っ
た問題について大統領、あるいは夫人はちゃんと国民の前で説明しなければなら
ないということです。
それができるかできないかが今最大の焦点です。非常に下世話な話かもしれな
いですが、それが大統領選挙に、微妙なところで票が分かれた時に左右する、あ
るいは政権に対するイメージが左右するのは、どんな国でもあると思います。今
そういう状況です。
◆尹錫悦政権が貢献したこと
最後に、尹錫悦政権が貢献したことの一つは、日韓関係の改善で、韓国として
かなり譲歩した形です。「徴用」をめぐる問題で、日本に対する判決を韓国が肩
代わりし、日韓関係の基礎になる日韓基本条約ですべてのことを解決したという
点に戻って、日韓関係はものすごくよくなりました。
また前の文在寅 (ムン・ジェイン)政権は本当に北朝鮮寄りだったので、米韓
関係が悪化していたのですが、米韓関係を見事なくらいこの1年間で修復しまし
た。相手はバイデンさんですが。米韓合同軍事演習をやり、日米韓でも合同軍事
演習をできるようにした。
さらにミサイルを発射した時の情報を日米韓でできるようにしました。そうい
うことではこの政権は我々にとっては大事にしなければならない部分がすごくあ
ります。
拉致問題では、尹錫悦政権は人権問題に関心が高く、韓国にも拉致被害者がい
ますし、日本人拉致問題もよくご存じです。拉致問題について協力体制を取りた
いと就任直後から言っていました。統一部という南北問題を扱っている所で協力
してもらっても何の役にも立たない。
冒頭申し上げたように「情報」ですから、情報機関が日本と協力体制を取らな
ければ、我々にとって必要な北朝鮮の内部情報は入ってこない。脱北者もたくさ
んいますので、今回国家情報院院長を変えました。
趙太庸(チョ・テヨン)という人で、外交官出身の方で日本のことを大変よく
知っています。情報機関に知日派の方が入った。今の政権は情報の重要性を分かっ
ており、人権問題に力点を置いているということです。日韓関係で拉致問題につ
いてもっと情報共有できるようになってもらいたいと思っています。この経験な
らできるのではないかと思っています(拍手)。
(3につづく)
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
■岸田首相にメール・葉書を
首相官邸のホームページに「ご意見募集」があります。
下記をクリックして、ご意見を送ってください。
https://www.kantei.go.jp/jp/iken.html
葉書は、〒100-8968 千代田区永田町2-3-1 内閣総理大臣 岸田文雄殿
■救う会全国協議会ニュース
発行:北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会(救う会)
TEL 03-3946-5780 FAX 03-3946-5784 http://www.sukuukai.jp
担当:平田隆太郎(事務局長 info@sukuukai.jp)
〒112-0013 東京都文京区音羽1-17-11-905
カンパ振込先:郵便振替口座 00100-4-14701 救う会
みずほ銀行池袋支店(普)5620780 救う会事務局長平田隆太郎
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
■2024年の国際情勢と拉致問題2
◆北朝鮮問題に関心がうすいバイデン政権
古森 例外もありますが、全体的に見ると北朝鮮問題に関して低調というか、関
心の低下が見られます。一つは、バイデン政権の政策による。あまり北朝鮮問題
を重視しない。二番目は、バイデン政権だけが悪いのではなく、今のアメリカに
とって、北朝鮮問題以外に緊急の対処をしていかなければならない課題が次々と
出てきています。
ロシアによるウクライナ侵攻、最近のハマスのイスラエル攻撃、中国が益々軍
事攻勢を強めているという状況で、なかなか手が回らない状況があります。
その中で北朝鮮の軍事動向、特に核に関する動向は、アメリカの国家安全保障
にとっても重大なできごとですから、最小限必要な注意は向けられています。外
から見ていて分からない部分も多いのですが、ワシントンでは民間の研究機関の
行動が分かりやすい。
2つの所が、コンスタントに北朝鮮の状況を追っています。1つは皆様もご存
じのCSISという戦略国際問題研究所で、ここに朝鮮研究のグループがあります。
国家安全保障会議等で活躍したビクター・チャという極めて優秀な韓国系のアメ
リカ人の学者がいて、ずっとフォローしています。
もう一つは、日本側でも報じられることはないんですが、「アメリカ第一政策
研究所(America First Policy Institute)」というのがあります。これは新し
い研究機関ですが、名前が象徴しているように、トランプ陣営の研究機関です。
これはトランプ政権が北朝鮮問題には特別の関心を払っており、資源を投入した
こともあり、北朝鮮問題をずっとフォローしています。バイデン政権には当然厳
しい態度を示しています。
バイデン政権の北朝鮮に対する姿勢ですが、その特徴は軍事面での動きがない
ことです。北朝鮮と対峙するには軍事が大事だというのがトランプ政権でしたが、
バイデン政権は軍事について語らない。
とにかくバイデンさんは、トランプがやったことには何でも反対する人で、選
挙中も就任当初も、トランプ氏は金正恩と1対1でやりましたが、バイデン氏は
無法国家のような国を認知するのかと非難を続けてきました。
もう一つ、それより大きいのは、民主党バイデン政権というのは、軍事をなん
となく避け、仲良くして話し合えばいいんじゃないのという姿勢で、日本の政府
と似たような感じがあります。
先ほど申し上げたCSISやアメリカ第一政策研究所は、中国や北朝鮮の軍事動向
をきちんと見ています。具体的には核兵器開発への動き、ICBM発射の動き、極超
音速ミサイル、中距離弾道ミサイル、準中距離弾道ミサイル、短距離弾道ミサイ
ル、巡航ミサイル、潜水艦発射ミサイルを北朝鮮が次々と発射していますが、こ
れの一つひとつを細かく追ってモニターし、どの程度やっているかを見ています。
そのことがバイデン政権の政策に反映されて、バイデン政権もそれらのことに
言及、注意喚起をするかというと、ほとんどない。
私が心配なのは、歴代政権が北朝鮮の核開発に最大の関心を持ってこれを阻止
し、「完全な、検証可能な、不可逆的な非核化」をめざしましたが、これがバイ
デン政権で骨抜きになってきたのじゃないかということです。
結局北朝鮮を核保有国として安易に認め、その上で対策を講じようという方向
に傾いてきている。その根拠の一つは、バイデン陣営の中でずっとやってきたスー
ザン・ライスという有力な学者がいました。この前までバイデン政権の国家安全
保障会議の一員でしたが、どういうわけかこの間辞めた。
この人が、トランプ在任中に有力新聞に寄稿して、「もう完全な非核化はあき
らめろ。どうせできない。だから北朝鮮を核保有国として認め扱おうじゃないか」
という論文を出しました。
トランプ政権や外にいる人たちが一斉に反対論を出したので引っ込んだことが
ありました。
もう一つ、今のバイデン政権というのは、オバマ政権で働いてきた人たちばか
りです。特にアジア問題、朝鮮半島問題に対しては、例えばウェンディ・シャー
マン(元国務副長官)という女性、(アメリカ国家安全保障会議の)インド太平
洋調整官をやったカート・キャンベル氏、この人もオバマ政権の有力なアジア担
当官でした。
もう一人、国家安全保障担当大統領補佐官のジェイク・サリバン氏、これもオ
バマ政権の時に(バイデン)副大統領補佐官をやっています。
オバマ政権の対北政策は、一言で言うと、「戦略的忍耐(Strategic Patience)」
です。我慢するということです。この人たちが何年間もそれをやってきていたわ
けですから、当然そういう感じの方向に行ってしまう。
トランプ政権が2017年1月に誕生して、北朝鮮に対する最初のスローガン
は、「最大圧力(maximum pressure)」でした。国連演説その他で、「北朝鮮が
とんでもないことをしたら軍事的に抹殺するぞ」と言っていました。「炎と怒り」
という言葉を使い強硬に出ました。今はそれとは違い、我慢です。
この間北朝鮮は軍事的行動を活発にしてきました。ミサイル発射の頻度が今高
くなっています。CSISは、北朝鮮側の軍事挑発行動のほとんどはミサイル発射で、
バイデン政権の3年間で91回ありました。トランプ政権の4年間では41回だっ
た。
バイデン政権も、「金正恩と会って話し合おう」ということは何回も言ってい
ます。しかし北朝鮮側が応じない。なぜ応じないかはあとで議論します。とにか
くアメリカを甘く見て挑発的なことをどんどん続けているのが今の状況です。
それに対しアメリカ側が、「じゃあこういう新しい抑止策をとるぞ」となるか
というと、それはない状況です。
2024年は大統領選挙がありますが、今までの例を見ると、大統領選挙の年
は、北朝鮮は色々な意味でアメリカ側に揺さぶりをかけてくる。軍事的挑発をよ
り活発にします。色々な報告書でもそうなるだろうと書いてあります。
トランプ政権は、北朝鮮に関する色々な論評を見ている。トランプ政権の時は、
「北朝鮮問題をどうするか」というのが常に主要な課題として出てきました。マ
スコミにも出てくる。研究機関あるいは議会でも、公式、非公式に出てくる。そ
の時の特徴は、強く出る、必ず軍事的手段が含まれている。それを色々な人が見
ます。
しかし、日本もそうですが、どんな場合でも戦争はできない。戦争になったら、
38度線の北に集結している何十万の北朝鮮軍が、ソウルに対して雨あられのよ
うに攻撃をかけ、何十万もの犠牲者が出るから、それもあっという間に起きるか
ら、絶対に軍事的対立にすることはできない、ということになる。
トランプ政権の時のワシントンの議論を見ても、「それはだめだ。そうじゃな
い方法もある」ということでした。例えば電磁波攻撃。レーザー光線で攻撃する
とか、サイバー攻撃とか、あるいは電撃的な斬首作戦、金正恩の首を取ることで
すが、そういう生々しい表現も含めて軍事オプションが語られました。そういう
議論は今無くなっています。
では日本はどうするか。やはりアメリカが貴重なパートナーになりえる。です
から米政府と議会への接近が大事です。拉致問題はアメリカにとっても大事な問
題だ、と。これは家族会・救う会がこれまでずっとしてきたことで、トランプ政
権の時は特に成果があった。トランプ大統領が、「13歳のやさしい少女」と言
いました。
もう一つ、アメリカ側でも人道的な事件があります。オットー・ワームビアと
いう大学生が北朝鮮に拘束され、昏睡状態で帰国しましたが、その後死んでしまっ
た。これは両親が活発に動いて、議会でも話題になりました。
それからデヴィッド・スネドン氏が2004年に中国の雲南省で失踪。平壌に
いると思われています。この件を調査するとの決議案が議会で通っています。こ
の問題を日本側からアメリカ側にリマインドし(思い出させ)て、「北朝鮮の人
権弾圧はけしからん」と。その中には日本人拉致も入っているとのアピール効果
があります。
政権が代わるかどうか分かりませんが、アメリカが日本の拉致問題解決のため
に何かをするという基本姿勢は変わらないと思います。そういう状況です。これ
からも今までのように、日本側がアメリカへのアプローチを続けることが必要だ
と思います(拍手)。
◆韓国政局が大統領夫人問題で混乱
久保田るり子(「産経新聞」編集委員、國學院大學客員教授)
皆さん、こんばんは。私は韓国の政局と日韓の拉致問題への協力体制等につい
てお話したいと思います。
古森さんから、「アメリカは力だ」、「力を軍事力の形で示したのがトランプ
政権だった」という話がありました。その通りだと思います。では韓国はどうか
と言いますと、情報だと思います。
思い出しますと、横田めぐみさんが拉致されたことを日本政府が認めるに至っ
たのは、「北朝鮮に女の子がいる」と話したのは韓国の情報機関でした。それが
ひそかに日本に伝えられました。めぐみさんはバドミントンのラケットを持って
いたのですが、それを持っていた女の子がいるとヒューミント(人間を媒介とし
た諜報)を使って知りました。人間は動くことによって情報を収集するわけです
が、韓国の情報機関が動いて、情報が取れたのです。
北朝鮮内部の話は北朝鮮の人でないと分からないし、北朝鮮の内部に入らない
と分からないわけです。なので日韓が拉致問題で協力するというのは、やはり日
本に対して友好的な政権があり、人道問題に関心が高く、日韓で情報収集につい
ての協力ができる相手じゃないと困るわけです。
つまり左派の政権の時は絶対だめで、保守の政権の中でも人権に人一倍関心を
持ってくれている政権が長もちしてくれないと困るんですね。
アメリカの11月の大統領選挙はトランプになるのかバイデンになるのか、こ
れは日本にとって非常に重要ですが、同時に近隣のアジアでは、台湾では日本に
親和的な民進党政権ができましたが、韓国では今年4月に総選挙があります。尹
錫悦(ユン・ソンニョル)政権は任期が3年残っていますが、その任期内にさら
に協力関係が組めるのか。次の政権につなぐことができるかで、総選挙が大事な
んです。
韓国の国会議員は与党が113で野党が164です。300議席の中で野党が
過半数を持っています。そうすると、政権与党が法律で政策を担保しようとして
も野党に国会で拒否されてしまいます。
そうなると期待しているような政策が作れない、政権の力が発揮できない状況
です。今回の選挙で過半数を取れば動かせるようになるのですが、実は大変危な
い状況です。
リスクが色々あって、韓国の選挙は前日まで分からないという選挙です。ここ
に来て、危機感が大変強まっています。尹錫悦さんはここ1年9か月で30%代
後半程度の支持率です。
残念ながら野党の左派が30%から40%近くを取っています。拮抗していま
す。他に浮動票があり、これがどちらに行くか。韓国では国民感情のことを、
「民心」と言いますが、「民心」がどちらに動くかで浮動票が動きます。
実は今「民心」が政権側に不利とされています。焦点になっていることが3つ
あり、与党は1年9か月やってきたのですが、政権が安定するためには票をくれ
という思いですが、「民心」の方は、「この政権を審判する」という感じです。
2つ目に、今までは与党と野党が対決するのがほとんどでしたが、今第3極が
浮上しており、これが台風の目になりかねない状況です。
この台風の目は、台湾の時は野党が分裂する形になり、ぎりぎりで与党が勝て
たのはこの分裂が大きかった。分裂が与党有利に働いたのです。しかし、韓国の
第3極が影響力を持つと与党保守側に不利になります。
最悪の場合、300議席の3分の2は200になりますが、野党が3分の2以
上になると韓国では大統領弾劾ができます。今かろうじて113で13議席上回っ
ていますが、もし与党が惨敗して100を切るようになると、野党側の構成にも
よりますが、断崖が可能になる可能性があるのです。
そうなるとようやく日韓関係をここまで改善してきた今の政権が途中で下野し
てしまうことになります。
3番目のリスクは、大統領夫人をめぐるリスクです。安倍さんも昭恵さんで苦
労しましたが、やはり票の半分は女性ですからリーダーの奥さんは女性に嫌われ
るようでは困るし、リーダーがあまりにもかばうと、リーダーが立派な人でも奥
さんでものすごくマイナスになります。
尹錫悦さんがそれほどすばらしいリーダーとは思いませんが、この奥さんに引
きずり回されるような状況が起きています。なかなか日本の新聞には載りません
が、奥さんはやり手の実業家で、イベント会社などをやっています。シャガール
とかモネとかドガ等のヨーロッパの絵画を輸入して絵画展をやったりとか、美術
に関心が深く、美術の大学院を出た方です。
また金融関係に関心が高く株等への投資が好きな人です。12歳年下で大変な
韓国美人です。金建希(キム・ゴンヒ)さんという方で、行動力があります。
「私が大統領夫人でも、それほど政府に縛られたくないわ」と発言しています。
大統領官邸には本来夫人の担当者がいて、どういう人と接触したらまずいとか、
式典ではこういう礼儀を守ってくださいと振付をしますが、彼女はそれを断って
担当がいません。
SNSで色々発信したり、例えばバイデン大統領に会ったら、大統領と肩を組
んでみたりとか、あるいは写真を撮る時に前に出てしまうとか目立つようなこと
をしています。制御がきかないわけです。
ご主人は奥さんに甘い方で、料理が得意で、「毎日ご飯はぼくが作る」と言っ
ていることも聞こえてきます。奥さんにあまり??りつけないようです。去年秋に、
夫人が持っている事務所に来た支援者を名乗り、夫人のお父さんと知り合いだと
名乗った牧師さん、アメリカ駐在の人ですが、その人が訪ねてきて、クリスチャ
ンディオールの高級バッグをプレゼントで貰った。
それが盗撮されていたんです。当人は牧師さんでスマホで撮った。盗撮は仕組
まれていて、盗撮しようしてやった。それを「ソウルの声」というユーチューブ
で国民に知られるようにしたのです。顔を隠すこともなく、こういう人物なのだ
ということを流した。
大騒ぎになったのですが、大手メディアはほとんど報じなかった。大統領府も
何も言わなかった。なぜならば、それがいわく付のユーチューブで、そんなもの
を軽々しく扱うと根拠がはっきり分からないので無視することにしたのです。
ところが韓国はSNSが広がっているので、国民がみんな見るわけです。大統
領夫人となれば面白いわけです。特に女の人は「あの奥さんは礼儀もないし、趣
味もなく、大統領夫人にふさわしくなかった」と。それで人気が落ちてしまった。
夫人は金融関係に関心があって、結婚する前に株価操作疑惑というのがありま
した。それに一枚かんでいた、と。大統領選挙の前から告発されたりしていたの
です。それに加えてブランドバッグですから、今一番選挙にリスクになっていま
す。
これがスキャンダルだけで終わっていればまだよかったのですが、選挙状況が
あまろ芳しくないものですから与党が非常対策委員会を作って、尹錫悦さんが一
番信頼している右腕の元検事で法務大臣だった韓東功(ハン・ドンフン)さんを
やめさせて、この委員長に据えて、実質的に与党のボスにしたのです。
選挙のために何をやるかということになると、その人は尹錫悦さんの後輩で忠
誠心の高い人ですが、奥さんのリスクに危機感を持って、「これは国民目線でこ
の問題に対処しなければならない」と言ったのです。
その途端に大統領は激怒して、「委員長をやめさせる」と言ったという報道が
広がった。二人の仲は険悪になってしまった。先週のことです。これも夫人リス
クの一つです。
結論的に、この二人がこんなことをやっていると、益々状況が悪くなるという
ことで、一応和解はしましたが、肝心な問題が残っていて、夫人がバッグを貰っ
た問題について大統領、あるいは夫人はちゃんと国民の前で説明しなければなら
ないということです。
それができるかできないかが今最大の焦点です。非常に下世話な話かもしれな
いですが、それが大統領選挙に、微妙なところで票が分かれた時に左右する、あ
るいは政権に対するイメージが左右するのは、どんな国でもあると思います。今
そういう状況です。
◆尹錫悦政権が貢献したこと
最後に、尹錫悦政権が貢献したことの一つは、日韓関係の改善で、韓国として
かなり譲歩した形です。「徴用」をめぐる問題で、日本に対する判決を韓国が肩
代わりし、日韓関係の基礎になる日韓基本条約ですべてのことを解決したという
点に戻って、日韓関係はものすごくよくなりました。
また前の文在寅 (ムン・ジェイン)政権は本当に北朝鮮寄りだったので、米韓
関係が悪化していたのですが、米韓関係を見事なくらいこの1年間で修復しまし
た。相手はバイデンさんですが。米韓合同軍事演習をやり、日米韓でも合同軍事
演習をできるようにした。
さらにミサイルを発射した時の情報を日米韓でできるようにしました。そうい
うことではこの政権は我々にとっては大事にしなければならない部分がすごくあ
ります。
拉致問題では、尹錫悦政権は人権問題に関心が高く、韓国にも拉致被害者がい
ますし、日本人拉致問題もよくご存じです。拉致問題について協力体制を取りた
いと就任直後から言っていました。統一部という南北問題を扱っている所で協力
してもらっても何の役にも立たない。
冒頭申し上げたように「情報」ですから、情報機関が日本と協力体制を取らな
ければ、我々にとって必要な北朝鮮の内部情報は入ってこない。脱北者もたくさ
んいますので、今回国家情報院院長を変えました。
趙太庸(チョ・テヨン)という人で、外交官出身の方で日本のことを大変よく
知っています。情報機関に知日派の方が入った。今の政権は情報の重要性を分かっ
ており、人権問題に力点を置いているということです。日韓関係で拉致問題につ
いてもっと情報共有できるようになってもらいたいと思っています。この経験な
らできるのではないかと思っています(拍手)。
(3につづく)
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■救う会全国協議会ニュース
発行:北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会(救う会)
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担当:平田隆太郎(事務局長 info@sukuukai.jp)
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