国際セミナー報告3(2024/12/20)
★☆救う会全国協議会ニュース★☆(2024.12.20)
■基調講演1
◆今、北朝鮮に何が起こっているのか?対外関係と国内情勢
李始瀛(イ・シヨン、自由北韓放送局長)
通訳 西岡力
皆さん、こんにちは。自由北韓放送で8年間働いています。
私は北朝鮮で生まれ、韓国に脱北してから11年になります。北朝鮮では富裕階
級の家に生まれたので、それなりの生活をしていました。30年間、北朝鮮の政権
に対して忠誠をしてきました。しかし、我が家の財産や地位は永続的なものでは
ありませんでした。
父は保衛省で働いて亡くなりました。弟は軍に服務中に亡くなりました。母は
金正日の方針通り自分の部下である職員に、よく食べさせたという理由で粛清さ
れました。
外国から入ってくる様々な情報をラジオで聞いて、私たち家族は脱北しました。
30年間洗脳を受けてきたので、韓国に行って生かしてくれるのか、殺されるので
はないかとも思いましたが、一度挑戦してみようという思いで脱北しました。
韓国に入って自由を得て、むしろ北朝鮮の事情が分かったように思います。
2016年に自由北韓放送の代表をしている金聖●(王へんに文)さんに会いました。
金聖●代表は私に、「3万4千人の脱北者が韓国で定着して、よい生活をしている
ということだけでも、金正恩にとって大変な脅威になる。しかし、その中で、北
朝鮮に対して声を出していくことが私たちの使命ではないか」と言われました。
北朝鮮の特権階級で、恵まれた生活をしていた私に対して、「なぜあなたは北
朝鮮人権運動をするのですか」という質問を受けることがあります。私は北朝鮮
で受けてきたそのような特権が、実は私が北朝鮮人権運動をしなければならない
理由だと思っています。
私が北朝鮮で、知らないで受けていた特権が実は誰かを苦しめ、そして市場で
子どもたちが死んでいったのです。だからそれを贖罪するところで生きていかな
ければならない。
2300万人の北朝鮮の人民が平等で自由を得る。そのためにやらなければならな
いと決意しました。
これからは配布資料にそってお話します。
◆90年代から始まった忠誠心の低下
ソ連をはじめとする社会主義圏が崩壊した1990年代初めから、北では中央集権
の下での計画経済の崩壊とともに、北住民の内部葛藤が始まったとみられます。
南北首脳会談への期待も次第になくなり、金日成が突然死亡するや外部よりも
内部で崩壊の危険をより感じて、身分社会の北朝鮮の最下層に置かれた敵対階層
(註1)は当時、心の中で崩壊を内心期待していました。
註1 北朝鮮は全住民を核心階層、動揺階層、敵対階層の3つに分離して管理している。
しかし、当時は金日成へのなつかしさに満ち、彼に忠誠を尽くしていた階層が
基本を成していた時期でした。それでも90年代半ば「苦難の行軍」と呼ばれる経
済難で飢え死にした人の死体が積み上げられると、金正日は先軍政治を掲げて銃
で人々を脅迫しました。
2000年初めから中国から流入してきた外部情報は、北韓にとって資本主義的な
市場経済、物質万能主義の基盤となり、現在の北韓のチャンマダン(市場)の発
展は完全に北の政権ではなく、当時の死を前にして子どもの命を守ろうとした女
性たちの力で成し遂げられた歴史の証拠物です。
2002年7月1日、金正日政権は国有市場での物価を20倍に引き上げ、その時貨幣
を変えて、これまで住民が持っていた資産のうち10万ウォンだけを認め、事実上、
住民の個人資産を燃やしてしまいました。
これを経験してから北韓内部では葛藤が始まり、おそらく住民は金日成が作り
出し、金正日が独裁を維持するために宣伝していた、「人民が主人となる人民大
衆中心の社会主義」を疑い始め、それまでの党に対する無限な忠誠から、生き残
るための「忠誠したふりゲーム」に変化したとみられます。
人々が飢え死にし、軍人たちも集団で餓死すると、金正日政権は2003年、チャ
ンマダンを総合市場という名で許容し、住民たちをしばらく解き放ち、これは独
裁政権下で住民が得た初めての勝利でした。
国営企業の独立採算制を拡大し、能力のある社長らが稼いだカネで職員を食べ
させ始め、資本主義式の経営が導入され、労働党よりチャンマダン(註2)が優
先する時期を作り出し、これを防ぐために北朝鮮政権は再び血の嵐を起こします。
註2 労働党は朝鮮語で「ノドンダン」と発音されるので、最後の音が「チャン
マダン」と同じになります。
国境地域を中心に保衛司令部の軍人たちが、「非社会主義を粛清する」という
口実で、銃を持って住民部落を行き来しながら、住民たちをむやみに捕らえ、住
民たちを脅迫恐喝し独裁政権を維持するために公開銃殺で多くの幹部や住民を殺
しましたが、住民たちの忠誠は戻らず、彼らは外部情報に希望をかけ始めました。
◆金正恩の統一放棄発言の背後にある北朝鮮社会の大変化=韓国に対する憧れの
拡散
2000年代初めから徐々に流入してきた外部情報や韓流文化の拡散は、現在、北
韓の全域で止められなくなり、そのため金正恩が二つの国家論(註3)「韓国は
同族ではなく外国、統一はしない」という議論を、2023年12月と24年1月の金正
恩演説を持ち出すほど、独裁政権の危険として取りざたされています。
註3「韓国は同族ではなく外国、統一はしない」という2023年12月と24年1月の金
正恩演説
北で95年以降に生まれた世代をチャンマダン世代と呼び、核心階層の子どもた
ち以外は、政権崩壊を密かに期待しているとみられます。
これは金正恩政権が、先代の首領たちが住民の希望として掲げていた「赤化統
一」は不可能だという事実を認める契機となり、自分の体制を維持するために金
正恩政権はさらに強い脅迫と拘束の一環として、韓国を敵対国とする二つの国家
論を掲げ、若者の夢を押しつぶしたと見ることができます。
金正恩の登場は北韓住民にもう一度夢を持たせましたが、登場とともに進めら
れた2009年の貨幣改革(デノミ)で財産の大部分がなくなり、現在、北韓住民に
とって独裁政権下での改革開放は虚しい妄想であり、政権に対する希望は死だと
いう歴史の真実を固く認識させ、その後、住民は北韓のチャンマダンで北朝鮮の
貨幣ではなく外貨の使用を定着させ、政権が防ごうとしても防げない現実です。
◆チャンマダン世代は韓国主導の統一を夢見る
北韓で経済難後に生まれて成長した世代をMZ(註4)、つまり「チャンマダン
世代」と呼び、それらを分析してみると、大規模な餓死事態を目撃したM世代は
経済的自由を追求し、「チャンマダン」を通じて成長したZ世代は市場や韓流文
化の影響を受け、豊かな統一を夢見ているとみられます。
註4 MZ世代とは、ミレニアル世代(1980年代前半?1990年代中頃生まれ)とZ
世代(1990年代中頃?2010年代前半生まれ)をまとめた、韓国発祥の世代区分
北韓住民のこのような夢が、金正恩政権が核を放棄せず、国際社会に対する脅
迫や危険となり、分別を失い、ひいては結果として政権の崩壊を促す要素になり
得ると考えます。
現在、北韓の内部事情に詳しい消息筋によりますと、政権と住民は分離してい
て、今中国を全面的に遮断して中国の製品がチャンマダン(市場)に出なくなる
ことで、金正恩政権は親ロシアによって生き、チャンマダンで生きてきた住民は
生きる力を失いつつあるということです。
金日成の孫、金正日の息子というとんでもない資格一つで北韓を統治する独裁
者になった金正恩は、その金日成と金正日の統一政策を捨てなければならないほ
ど生き残る空間が狭まっていることを認知しています。北韓政権の終末が近づい
ているというシグナルだと思います。
およそ30年間の北の社会の変化を分析してみると、住民意識の変化を促し、独
裁の腐敗性を認知させるうえで、外部情報の流入は重要な役割を果たしてきたこ
とは否めません。
金正恩政権が最も嫌う外部思潮、これを防ぐために若者を対象に反動思想文化
排撃法、青年教養保障法、国家機密安全保障法、平壌文化語保存法を作り、血の
嵐を巻き起こしますが、これを通じて私たちは一つ明確な事実を知ることができ
ます。
金正恩が嫌うこと、金正恩が恐れること、金正恩の機嫌を損ねることを最大限
多く実行することが、北の2300万人の現代版奴隷の人権を守る道であり、北韓に
完全な自由を築く道であり、ひいては北に拉致された日本人を救出する道だと確
信しています。
◆ウクライナ戦争への参戦
北韓住民の中で北韓の軍人がロシアに派兵されることを公然と口にすると、軍
事秘密漏洩罪で処罰されるということです。
国民の安全と財産を守らなければならない軍人の基本義務は北韓政権下では存
在しておらず、北韓軍はただ金父子のために必要な銃、爆弾となり、彼らの独裁
のために必要な手段に過ぎません。
現在、ロシアに派兵された軍人たちは、北朝鮮政権が宣伝する集団主義精神で、
党と国家の配慮の下で成長した世代ではなく、苦難の行軍を経てチャンマダンの
発展を通じて物質万能主義に慣れたチャンマダン世代です。
彼らの空腹と寒さは独裁者が解決してくれず、ただ子どもを食べさせようとす
る両親の努力で解決されました。
おそらく、北の政権がロシア派兵問題を住民に正式に公開すれば、高度に発展
した現代戦で自分たちの息子が弾除け、大砲の的として使われていることに気付
くでしょうし、金正恩政権はそれまでも存在するかしないかであった住民の信頼
を完全に失うことになるでしょう。
ただ、息子の死の前でも堂々と泣くことができない恐ろしい独裁ファッショ政
権下で、残る息子と娘を守らなければならない住民たちの心情は、そこに住む人
々のほか、どの世の中の人々も理解しがたい現実なのです。
◆北朝鮮住民の最近の困窮生活
最近、北の政権は親露政策を展開し、民生と密接な関係がある中朝関係を全面
的に統制し、住民はその影響で真冬に空腹と寒さに苦しんでいます。
数日前に北韓の娘から脱北者の母親に連絡があり、こちらにいる母親が「お金
を送る」というと娘は「送らないでいい」と言ったといいます。
あまりにも荒唐無稽な答えに理由を尋ねたところ、「今は物がないのでお金が
あっても買えない。また送金手数料に5割とられる」と答えました。外貨の為替
レートはほぼ2倍に跳ね上がったそうです。夏なら山で草でも取って食料の足し
にするでしょうが、今山は雪で覆われていて、暮らすのがとても大変だといいま
す。
金日成の死に直面したときに北韓内部の住民は崩壊を心配しました。しかし、
「苦難の行軍」が始まり、内部の住民は崩壊を望むようになりました。外部では
すぐに崩壊すると予想しました。金正日の死や金正恩の登場は再び北の住民に改
革開放を夢見させましたが、より残忍な暴力政治が始まりました。
現在、北韓の金正恩政権は確実に動揺していると思います。その理由は、金日
成、金正日時代に無限忠誠を尽くした世代は消え、現在、北韓の住民や若者は外
部情報の流入で多くのことを知っていて、外部では北韓住民の知る権利のために
活動する人が増えています。
飢えと人権弾圧がよりひどくなる北韓内部の劣悪な状況は最悪に突き進んでい
て、このタイミングで外部からの情報流入が技術的にうまく配合されれば、金日
成の孫、金正日の息子という名分しかない金正恩政権は崩壊するでしょう。北韓
政権によって拉致された日本人も愛する家族のもとに戻ってくるでしょう。
その日まで、すべての努力を最大限、慎重かつ迅速に進め、そのために皆さん
の多くの応援と助けが必要です。元気を出して、ご家族に会える日まで希望を失
わないで下さい。
◆自由北韓放送の活動と木船脱北家族
最後に、去年5月に自由を求めて木造船で脱北して家族11人で大韓民国に定着
した金イルヒョク、金イヒョクさん兄弟のうち、今月4日に次男のイヒョクさん
が事故で死亡しました。この場を借りて謹んで故人の冥福を祈ります。
命をかけて自由を求めましたが、私たちは心の痛む別れを金イヒョクさんとし
なければなりませんでした。
彼らに脱北の動機を尋ねた時、イヒョクさんは、「生まれ育った故郷の祖国を
飢えと困難で捨てることは難しかった」と言いました。
何としてでも生きてみようと努力し、努力したおかげで家族が飢えで苦しまな
い程度の生活をしたと言います。
そんなイヒョクさんは、2020年に作られた「反動思想文化排撃法」に基づき、
韓国ドラマを見たという罪ではない罪で高校生10人以上を公開処刑する現場を目
撃し、こんな所に愛する子どもの未来をこれ以上置くことはできないと考え、決
心をし、それが家族全員の脱北につながりました。
イヒョクさんは北で対北韓ラジオ放送やビラを通じて外部世界の変化を知るこ
とができました。自由北韓放送も聞いていた。自由北韓放送が送る自由キャンペー
ン活動の一環であるペットボトル、これにコメ1キロが入っていて、それを食べ
たと。
その他に聖書、韓流ドラマが入っているUSB1個、1ドル紙幣1枚は、ここにいらっ
しゃる方々や大韓民国の国民にとっては取るに足らないものですが、北韓住民と
して暮らしていたイヒョクさんがそれを受け取って感じた希望や自由への渇望は
言葉では言い表せなかったと言っていました。 イヒョクさんのその言葉は、私
たちの力になっています。
韓国に来てわずかの期間しか自由を享受できずに、先に私たちのそばを離れた
としても、北韓の独裁政権が崩壊し、北韓に完全な自由と人権が訪れる日まで私
たちは活動を止めません。皆さんも家族が帰ってくるまで戦いをやめないでしょ
う。一緒に戦いましょう。ありがとうございました(拍手)。
(4につづく)
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
■石破首相にメール・葉書を
首相官邸のホームページに「ご意見募集」があります。
下記をクリックして、ご意見を送ってください。
https://www.kantei.go.jp/jp/iken.html
葉書は、〒100-8968 千代田区永田町2-3-1 内閣総理大臣 石破茂殿
■救う会全国協議会ニュース
発行:北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会(救う会)
TEL 03-3946-5780 FAX 03-3946-5784 http://www.sukuukai.jp
担当:平田隆太郎(事務局長 info@sukuukai.jp)
〒112-0013 東京都文京区音羽1-17-11-905
カンパ振込先:郵便振替口座 00100-4-14701 救う会
みずほ銀行池袋支店(普)5620780 救う会事務局長平田隆太郎
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■基調講演1
◆今、北朝鮮に何が起こっているのか?対外関係と国内情勢
李始瀛(イ・シヨン、自由北韓放送局長)
通訳 西岡力
皆さん、こんにちは。自由北韓放送で8年間働いています。
私は北朝鮮で生まれ、韓国に脱北してから11年になります。北朝鮮では富裕階
級の家に生まれたので、それなりの生活をしていました。30年間、北朝鮮の政権
に対して忠誠をしてきました。しかし、我が家の財産や地位は永続的なものでは
ありませんでした。
父は保衛省で働いて亡くなりました。弟は軍に服務中に亡くなりました。母は
金正日の方針通り自分の部下である職員に、よく食べさせたという理由で粛清さ
れました。
外国から入ってくる様々な情報をラジオで聞いて、私たち家族は脱北しました。
30年間洗脳を受けてきたので、韓国に行って生かしてくれるのか、殺されるので
はないかとも思いましたが、一度挑戦してみようという思いで脱北しました。
韓国に入って自由を得て、むしろ北朝鮮の事情が分かったように思います。
2016年に自由北韓放送の代表をしている金聖●(王へんに文)さんに会いました。
金聖●代表は私に、「3万4千人の脱北者が韓国で定着して、よい生活をしている
ということだけでも、金正恩にとって大変な脅威になる。しかし、その中で、北
朝鮮に対して声を出していくことが私たちの使命ではないか」と言われました。
北朝鮮の特権階級で、恵まれた生活をしていた私に対して、「なぜあなたは北
朝鮮人権運動をするのですか」という質問を受けることがあります。私は北朝鮮
で受けてきたそのような特権が、実は私が北朝鮮人権運動をしなければならない
理由だと思っています。
私が北朝鮮で、知らないで受けていた特権が実は誰かを苦しめ、そして市場で
子どもたちが死んでいったのです。だからそれを贖罪するところで生きていかな
ければならない。
2300万人の北朝鮮の人民が平等で自由を得る。そのためにやらなければならな
いと決意しました。
これからは配布資料にそってお話します。
◆90年代から始まった忠誠心の低下
ソ連をはじめとする社会主義圏が崩壊した1990年代初めから、北では中央集権
の下での計画経済の崩壊とともに、北住民の内部葛藤が始まったとみられます。
南北首脳会談への期待も次第になくなり、金日成が突然死亡するや外部よりも
内部で崩壊の危険をより感じて、身分社会の北朝鮮の最下層に置かれた敵対階層
(註1)は当時、心の中で崩壊を内心期待していました。
註1 北朝鮮は全住民を核心階層、動揺階層、敵対階層の3つに分離して管理している。
しかし、当時は金日成へのなつかしさに満ち、彼に忠誠を尽くしていた階層が
基本を成していた時期でした。それでも90年代半ば「苦難の行軍」と呼ばれる経
済難で飢え死にした人の死体が積み上げられると、金正日は先軍政治を掲げて銃
で人々を脅迫しました。
2000年初めから中国から流入してきた外部情報は、北韓にとって資本主義的な
市場経済、物質万能主義の基盤となり、現在の北韓のチャンマダン(市場)の発
展は完全に北の政権ではなく、当時の死を前にして子どもの命を守ろうとした女
性たちの力で成し遂げられた歴史の証拠物です。
2002年7月1日、金正日政権は国有市場での物価を20倍に引き上げ、その時貨幣
を変えて、これまで住民が持っていた資産のうち10万ウォンだけを認め、事実上、
住民の個人資産を燃やしてしまいました。
これを経験してから北韓内部では葛藤が始まり、おそらく住民は金日成が作り
出し、金正日が独裁を維持するために宣伝していた、「人民が主人となる人民大
衆中心の社会主義」を疑い始め、それまでの党に対する無限な忠誠から、生き残
るための「忠誠したふりゲーム」に変化したとみられます。
人々が飢え死にし、軍人たちも集団で餓死すると、金正日政権は2003年、チャ
ンマダンを総合市場という名で許容し、住民たちをしばらく解き放ち、これは独
裁政権下で住民が得た初めての勝利でした。
国営企業の独立採算制を拡大し、能力のある社長らが稼いだカネで職員を食べ
させ始め、資本主義式の経営が導入され、労働党よりチャンマダン(註2)が優
先する時期を作り出し、これを防ぐために北朝鮮政権は再び血の嵐を起こします。
註2 労働党は朝鮮語で「ノドンダン」と発音されるので、最後の音が「チャン
マダン」と同じになります。
国境地域を中心に保衛司令部の軍人たちが、「非社会主義を粛清する」という
口実で、銃を持って住民部落を行き来しながら、住民たちをむやみに捕らえ、住
民たちを脅迫恐喝し独裁政権を維持するために公開銃殺で多くの幹部や住民を殺
しましたが、住民たちの忠誠は戻らず、彼らは外部情報に希望をかけ始めました。
◆金正恩の統一放棄発言の背後にある北朝鮮社会の大変化=韓国に対する憧れの
拡散
2000年代初めから徐々に流入してきた外部情報や韓流文化の拡散は、現在、北
韓の全域で止められなくなり、そのため金正恩が二つの国家論(註3)「韓国は
同族ではなく外国、統一はしない」という議論を、2023年12月と24年1月の金正
恩演説を持ち出すほど、独裁政権の危険として取りざたされています。
註3「韓国は同族ではなく外国、統一はしない」という2023年12月と24年1月の金
正恩演説
北で95年以降に生まれた世代をチャンマダン世代と呼び、核心階層の子どもた
ち以外は、政権崩壊を密かに期待しているとみられます。
これは金正恩政権が、先代の首領たちが住民の希望として掲げていた「赤化統
一」は不可能だという事実を認める契機となり、自分の体制を維持するために金
正恩政権はさらに強い脅迫と拘束の一環として、韓国を敵対国とする二つの国家
論を掲げ、若者の夢を押しつぶしたと見ることができます。
金正恩の登場は北韓住民にもう一度夢を持たせましたが、登場とともに進めら
れた2009年の貨幣改革(デノミ)で財産の大部分がなくなり、現在、北韓住民に
とって独裁政権下での改革開放は虚しい妄想であり、政権に対する希望は死だと
いう歴史の真実を固く認識させ、その後、住民は北韓のチャンマダンで北朝鮮の
貨幣ではなく外貨の使用を定着させ、政権が防ごうとしても防げない現実です。
◆チャンマダン世代は韓国主導の統一を夢見る
北韓で経済難後に生まれて成長した世代をMZ(註4)、つまり「チャンマダン
世代」と呼び、それらを分析してみると、大規模な餓死事態を目撃したM世代は
経済的自由を追求し、「チャンマダン」を通じて成長したZ世代は市場や韓流文
化の影響を受け、豊かな統一を夢見ているとみられます。
註4 MZ世代とは、ミレニアル世代(1980年代前半?1990年代中頃生まれ)とZ
世代(1990年代中頃?2010年代前半生まれ)をまとめた、韓国発祥の世代区分
北韓住民のこのような夢が、金正恩政権が核を放棄せず、国際社会に対する脅
迫や危険となり、分別を失い、ひいては結果として政権の崩壊を促す要素になり
得ると考えます。
現在、北韓の内部事情に詳しい消息筋によりますと、政権と住民は分離してい
て、今中国を全面的に遮断して中国の製品がチャンマダン(市場)に出なくなる
ことで、金正恩政権は親ロシアによって生き、チャンマダンで生きてきた住民は
生きる力を失いつつあるということです。
金日成の孫、金正日の息子というとんでもない資格一つで北韓を統治する独裁
者になった金正恩は、その金日成と金正日の統一政策を捨てなければならないほ
ど生き残る空間が狭まっていることを認知しています。北韓政権の終末が近づい
ているというシグナルだと思います。
およそ30年間の北の社会の変化を分析してみると、住民意識の変化を促し、独
裁の腐敗性を認知させるうえで、外部情報の流入は重要な役割を果たしてきたこ
とは否めません。
金正恩政権が最も嫌う外部思潮、これを防ぐために若者を対象に反動思想文化
排撃法、青年教養保障法、国家機密安全保障法、平壌文化語保存法を作り、血の
嵐を巻き起こしますが、これを通じて私たちは一つ明確な事実を知ることができ
ます。
金正恩が嫌うこと、金正恩が恐れること、金正恩の機嫌を損ねることを最大限
多く実行することが、北の2300万人の現代版奴隷の人権を守る道であり、北韓に
完全な自由を築く道であり、ひいては北に拉致された日本人を救出する道だと確
信しています。
◆ウクライナ戦争への参戦
北韓住民の中で北韓の軍人がロシアに派兵されることを公然と口にすると、軍
事秘密漏洩罪で処罰されるということです。
国民の安全と財産を守らなければならない軍人の基本義務は北韓政権下では存
在しておらず、北韓軍はただ金父子のために必要な銃、爆弾となり、彼らの独裁
のために必要な手段に過ぎません。
現在、ロシアに派兵された軍人たちは、北朝鮮政権が宣伝する集団主義精神で、
党と国家の配慮の下で成長した世代ではなく、苦難の行軍を経てチャンマダンの
発展を通じて物質万能主義に慣れたチャンマダン世代です。
彼らの空腹と寒さは独裁者が解決してくれず、ただ子どもを食べさせようとす
る両親の努力で解決されました。
おそらく、北の政権がロシア派兵問題を住民に正式に公開すれば、高度に発展
した現代戦で自分たちの息子が弾除け、大砲の的として使われていることに気付
くでしょうし、金正恩政権はそれまでも存在するかしないかであった住民の信頼
を完全に失うことになるでしょう。
ただ、息子の死の前でも堂々と泣くことができない恐ろしい独裁ファッショ政
権下で、残る息子と娘を守らなければならない住民たちの心情は、そこに住む人
々のほか、どの世の中の人々も理解しがたい現実なのです。
◆北朝鮮住民の最近の困窮生活
最近、北の政権は親露政策を展開し、民生と密接な関係がある中朝関係を全面
的に統制し、住民はその影響で真冬に空腹と寒さに苦しんでいます。
数日前に北韓の娘から脱北者の母親に連絡があり、こちらにいる母親が「お金
を送る」というと娘は「送らないでいい」と言ったといいます。
あまりにも荒唐無稽な答えに理由を尋ねたところ、「今は物がないのでお金が
あっても買えない。また送金手数料に5割とられる」と答えました。外貨の為替
レートはほぼ2倍に跳ね上がったそうです。夏なら山で草でも取って食料の足し
にするでしょうが、今山は雪で覆われていて、暮らすのがとても大変だといいま
す。
金日成の死に直面したときに北韓内部の住民は崩壊を心配しました。しかし、
「苦難の行軍」が始まり、内部の住民は崩壊を望むようになりました。外部では
すぐに崩壊すると予想しました。金正日の死や金正恩の登場は再び北の住民に改
革開放を夢見させましたが、より残忍な暴力政治が始まりました。
現在、北韓の金正恩政権は確実に動揺していると思います。その理由は、金日
成、金正日時代に無限忠誠を尽くした世代は消え、現在、北韓の住民や若者は外
部情報の流入で多くのことを知っていて、外部では北韓住民の知る権利のために
活動する人が増えています。
飢えと人権弾圧がよりひどくなる北韓内部の劣悪な状況は最悪に突き進んでい
て、このタイミングで外部からの情報流入が技術的にうまく配合されれば、金日
成の孫、金正日の息子という名分しかない金正恩政権は崩壊するでしょう。北韓
政権によって拉致された日本人も愛する家族のもとに戻ってくるでしょう。
その日まで、すべての努力を最大限、慎重かつ迅速に進め、そのために皆さん
の多くの応援と助けが必要です。元気を出して、ご家族に会える日まで希望を失
わないで下さい。
◆自由北韓放送の活動と木船脱北家族
最後に、去年5月に自由を求めて木造船で脱北して家族11人で大韓民国に定着
した金イルヒョク、金イヒョクさん兄弟のうち、今月4日に次男のイヒョクさん
が事故で死亡しました。この場を借りて謹んで故人の冥福を祈ります。
命をかけて自由を求めましたが、私たちは心の痛む別れを金イヒョクさんとし
なければなりませんでした。
彼らに脱北の動機を尋ねた時、イヒョクさんは、「生まれ育った故郷の祖国を
飢えと困難で捨てることは難しかった」と言いました。
何としてでも生きてみようと努力し、努力したおかげで家族が飢えで苦しまな
い程度の生活をしたと言います。
そんなイヒョクさんは、2020年に作られた「反動思想文化排撃法」に基づき、
韓国ドラマを見たという罪ではない罪で高校生10人以上を公開処刑する現場を目
撃し、こんな所に愛する子どもの未来をこれ以上置くことはできないと考え、決
心をし、それが家族全員の脱北につながりました。
イヒョクさんは北で対北韓ラジオ放送やビラを通じて外部世界の変化を知るこ
とができました。自由北韓放送も聞いていた。自由北韓放送が送る自由キャンペー
ン活動の一環であるペットボトル、これにコメ1キロが入っていて、それを食べ
たと。
その他に聖書、韓流ドラマが入っているUSB1個、1ドル紙幣1枚は、ここにいらっ
しゃる方々や大韓民国の国民にとっては取るに足らないものですが、北韓住民と
して暮らしていたイヒョクさんがそれを受け取って感じた希望や自由への渇望は
言葉では言い表せなかったと言っていました。 イヒョクさんのその言葉は、私
たちの力になっています。
韓国に来てわずかの期間しか自由を享受できずに、先に私たちのそばを離れた
としても、北韓の独裁政権が崩壊し、北韓に完全な自由と人権が訪れる日まで私
たちは活動を止めません。皆さんも家族が帰ってくるまで戦いをやめないでしょ
う。一緒に戦いましょう。ありがとうございました(拍手)。
(4につづく)
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■石破首相にメール・葉書を
首相官邸のホームページに「ご意見募集」があります。
下記をクリックして、ご意見を送ってください。
https://www.kantei.go.jp/jp/iken.html
葉書は、〒100-8968 千代田区永田町2-3-1 内閣総理大臣 石破茂殿
■救う会全国協議会ニュース
発行:北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会(救う会)
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