「アメリカから見た拉致問題?東京連続集会74」全記録
◆裏切られたテロ指定解除?北朝鮮が核兵器開発で譲歩してくる
さてこのバンコ・デルタ・アジアへの金融制裁が実施されたこの時期、日本側からは毎年のように、拉致解決のための代表たちがアメリカを訪れて、北朝鮮のテロ支援国家指定の継続と制裁の強化を求めてきました。北朝鮮の政権を弱めるという政策が、日本人拉致解決につながるという期待からです。
金正日総書記が拉致を認めたのも経済援助への欲求が動機だったとすれば、経済面で苦痛が増せば増すほど、日本人のさらなる解放にも応じるだろうという計算があったということでしょう。この路線に沿った措置がバンコ・デルタ・アジアの口座凍結だったわけです。
この時に中心になって動いたのがデービッド・アッシャーという、割合に若い人物でした。当時は国務省所属でしたが、キャリアの外交官ではなく政治任命の人です。私はアッシャー氏とは気さくに会うことが多いのですが、ごく最近も、当時を振り返ってこんな次のようなことをいっていました。
「私たちが標的とした北朝鮮の労働党作戦部、偵察総局、35号室など金総書記直轄の諜報工作機関こそが対外的犯罪の主体で、そのなかには日本人拉致に関与した人間や組織も含まれていました。その種の工作員を世界規模で一網打尽にすることが目標でした。成功すれば必ず日本人拉致の解決も進められたはずでした。しかし、ブッシュ大統領は当時国務長官になっていたコンドリーザ・ライス、この下のクリス・ヒルという次官補だった人たちの意見を受け入れ、この北朝鮮の犯罪摘発自体を中断してしまったのです」
これは後でも申し上げますが、核兵器の放棄ということに期待をかけたブッシュ政権の新たな動きでした。ぎゅっと引き締めて、金政権が本当に痛みを感じ始めた金融制裁をゆるめれば、北朝鮮が核兵器開発で譲歩してくるんじゃないかという期待があったのです。しかしアメリカ側のこの期待は、みごとなほど無残に砕かれてしまったわけです。