非主体的農業で北朝鮮の食糧は常に不足
?.「北朝鮮の食糧事情は安定」報告と北朝鮮から伝わる多くの悲鳴
2.不足しているから聞こえてくる悲鳴
食糧が絶対的に不足していることは、脱北者等の証言で明らかであるが、その他北朝鮮当局の動きや、人民から聞こえる悲鳴の一端を知るだけで、誰でも認識できる。また、北朝鮮の人々の身長が韓国の人々より少なくとも12cm低い等、様々な客観的データを見ても、食糧不足は金氏政権時代約60年を通じて解決されたことがないことを示している。
韓国は2008年に李明博政権が誕生して以降、現在の朴槿恵政権まで食糧・肥料支援を行っていない。米国上院は2013年6月に、2017年まで対北朝鮮支援を禁止する農業法改正案を可決した。下院も可決すると見込まれている。米国は2010年以降食糧支援を行っていない。
また、中国「環球時報(2013.01.25)」紙は、「北朝鮮が新たな核実験や『衛星(長距離ロケット)』の再打ち上げに踏み切れば、中国はためらわず北朝鮮に対する援助を縮小する」と報じた。そして北朝鮮は3月31日に3回目の核実験を強行した。中国は制裁を強化し、支援を縮小したと述べている。
事実上中国を除けば国際支援の量は少なく、北朝鮮の食糧事情は引き続き厳しい中で、人民からの悲鳴が聞こえ続けている。
食料が不足しているからこそ、北朝鮮は2012年の「新年共同社説」で、2012年を「人民の年」と規定した。
<北朝鮮から聞こえる悲鳴や情報、2013年>
◆金正恩新年の辞で、「今年の経済建設の主力分野は農業と軽工業」
2013年1月1日、北朝鮮の「朝鮮中央通信」は金正恩新年の辞を掲載し、「穀物生産目標を必ず達成」と述べたが、これは食糧事情が改善しておらず、人民の不満が高まっている一つの証左である。
また、「農業に国家的な力を集中し、農業生産の科学化、集約化の水準を高めて今年の穀物生産目標を必ず達成し、軽工業工場への原料、資材の供給対策を徹底的に立てて良質の一般消費財をさらに多く生産しなければなりません。畜産と水産、果樹の部門を決定的にもり立て、人民の食生活を改善してより豊かにしなければなりません」と述べている。
人民にとっては、何十年も前から「米のご飯」の公約を聞いてきており、期待はできない公約と見なされるだろう。
◆黄海道で1万人の餓死か
「2012年度、平壌南西部に位置する黄海南北道で飢饉が発生し、詳細は不明であるが多くの死亡者が発生した。その原因は、軍隊と首都平壌市民への配給食糧を確保するために、北朝鮮随一の穀倉地帯である同地で生産された米やトウモロシなどの食糧が、大量に搬出されたため、一部の農村で絶糧状態になったためである。アジアプレスは昨年3月から同地での飢餓の発生に気付き、継続して現地住民たち、労働党幹部たち、病院幹部に取材し、飢饉の発生を確信した。我々は一万人以上の死者が出たものと推定している」(「アジアプレス」2013.1.30)。
◆絶望的な食糧不足により我が子を共食いする親が急増中
「飽食の国に住む人間には考えられない深刻な事態が、近くて遠い隣国である北朝鮮で起こっている」、「子どもたちがその犠牲になる痛ましいケースである。(英)サンデータイムスがアジアプレスの覆面記者から得たのは、埋葬された孫や子の墓を掘り返して食用とした者たち。さらに朝鮮労働党メンバーの言葉を引用したとして、飢餓のため発狂して子どもを殺害し、食したとして逮捕されたケースなども紹介された」(「連合通信」2013.01.25)
◆核開発で私たちが飢えてきた
「北朝鮮にいた頃は、核保有だけが「米帝」の侵略に対抗して民族が生存できる方法だと考えた。Aさんは、『ここに来てみると、人工衛星を作って核開発をするために、(食糧など)配給ができないと言っていた。朝鮮にいた頃は、幹部が横取りしているためだと思っていたが、実は祖国がコメではなく、核開発を選択したために私たちが飢えてきたのだ』と憤った」(「東亜日報」2013.02.06)
◆北、脱走兵急増
「韓国政府筋によると、韓国との境界に展開する北朝鮮軍の前線部隊でここ数か月間、脱走兵が例年の7?8倍に急増した。多くが下級兵士で食糧不足の中、訓練に耐えられなくなったとみられる」、「軍人が近隣の農作物を盗み食いするなど規律弛緩が深刻だ。現在北朝鮮軍最前方部隊はキー・リゾルブ演習に対応して部隊別に訓練しながら脱営者探しという二重苦に苦しめられている」(「連合通信」2013.03.12)
◆軍人の脱北事件は食糧難から
韓国政府当局者が、「昨年現役軍人の脱北事件が3件も発生したが、原因を調べるとほとんどが食糧難にともなう飢えに耐えられなかったためだった」、「政権維持の砦である軍人すらまともに食べさせられない状況が広がり、一部軍人が民間人を相手に食糧略奪までする事例が頻発し民心はさらにすさんでいる」と語った(「中央日報」、2013.03.13)」
◆国家最大の祝日に「特別配給」無し、貧弱
「北朝鮮で今月15日の国家最大の祝日である「太陽節(故金日成主席の誕生日)」に、住民への「特別配給」が実施されなかったことが分かった。毎年、同記念日を前後する時期には米をはじめ、食用油、酒などの臨時配給があったが、今年は子どもたちへの菓子類の配給だけだった」、「太陽節に配給がないのは今回が初めて」。
「特別配給の中身が貧弱だとの不満の声が、現地では上がっている」、「北部咸鏡北道に住む女性は、15日夕刻アジアプレスとの電話で『特別配給』の内容について伝えてきた」、「私の地域で出た『特別配給』は、一世帯あたりトウモロコシ、白米、大豆合わせて15日分の食糧と、ビール一本、食用油は一人あたり250グラム、味噌、ビニール袋入り焼酎一袋、飴、食品以外では傘、男物のランニングシャツなど。子供のいる家は制服も出ました。まだ受け取っていないけれど毛布もくれるということです」(「デイリーNK」2013. 04.16)
◆わが国だけでなく世界が食糧危機に苦しんでいる
「わが国だけでなく世界が食糧危機に苦しんでいる。帝国主義者どもの食糧支配戦略のせいである」(「労働新聞」2013.05.07)
◆北、戦時の備蓄食糧を住民に配給
「17日付の韓国紙、東亜日報は、北朝鮮が収穫期前の春の食糧不足を乗り切るため、3月初めから戦時用の備蓄食糧を住民に配給していると報じた。複数の北朝鮮消息筋の話としている。北朝鮮は戦時用に3か月分の備蓄食糧を確保、窮乏時にも放出していなかったとされ、同紙は『北朝鮮の食糧難の深刻さを示している』としている。北朝鮮当局は配給に当たり『われわれは核を持ったので戦争を数か月もする必要がなく、戦時用食糧をたくさん保管する必要がなくなった』と説明しているという」(「共同通信」2013.05.18)。
◆北朝鮮の子ども47万5,868人が慢性的な栄養欠乏
「北朝鮮の幼児をはじめとする脆弱階層は食糧不足問題にさらされている。 今年3月、国連児童基金(UNICEF)とWFPが共同発表した北朝鮮食糧報告書によると、調査対象の子どもの27.9%に当たる47万5868人が慢性的な栄養欠乏問題を抱えている。 このうち8.4%は深刻な状態だった」(「東亜日報」2013.05.30)。
◆北朝鮮の食糧難深刻 脱走兵・行方不明住民が増加
「北朝鮮の平壌で『戦勝節』(7月27日の朝鮮戦争休戦記念)行事に向けた大々的な準備が進む一方、地方では食糧難が深刻さを増しているようだ。北朝鮮事情に詳しい韓国政府筋は24日、『今年に入り、平壌を除く北朝鮮の各地方で食糧難が深刻になっている。軍からの脱走だけでなく、家族ごと行方不明になる事例が頻発している』と明らかにした。食糧難で姿を消した北朝鮮住民が中国に脱出する可能性があることから、北朝鮮の公安当局が捜索を強化しているという。別の消息筋は『5月ごろに北朝鮮軍の前方部隊で、ジャガイモ6個を盗んだ兵士が仲間の兵士に殴られ死亡する事件もあった』とし、軍では厳しい食糧事情の中で訓練が続けられており、脱走兵の数が減っていないと伝えた」(「連合通信」2013.07.24)。
◆北の住民苦しめる「金正恩3大重点事業」
「政府筋は4日、金正恩朝鮮労働党第1書記が政権を掌握した後に統治力をアピールするため着手した馬息嶺スキー場・平壌美林乗馬クラブ建設・芝生による緑化の『3大重点事業』が北朝鮮住民を苦しめていることを明らかにした」、「金第1書記は昨年、『ヨーロッパ諸国の芝生を見るとうらやましくなる。地面がむき出しになっている国土全体を緑化せよ』と芝張りによる全国緑化事業を指示した。北朝鮮はその後、国で芝生研究所を設立、海外公館では芝生の種を送る運動を始めた。北朝鮮住民に対しては『学校や家庭菜園用の空き地に芝生を植えよ』と促した」(「朝鮮日報」2013.09.05)。
金正恩は「空地」に芝生を植えよと人民に命じたが、北朝鮮で土のあるところはすべて何らかの食料が植えられている。平壌空港の端、高麗ホテルの脇などを初め北朝鮮に空地はない。洪水ですべての収穫が失われる可能性がある河川敷でも、すべて何かが植えられている。人民の生活を金正恩は全く知らないようだ。
◆人口の32%に当たる800万人が栄養失調
「国連世界食糧計画(WFP)と国連食糧農業機関(FAO)は9日に発表した報告書で、北朝鮮住民の3人に1人が栄養失調だと明らかにした。米国営放送ボイス・オブ・アメリカ(VOA)が10日、報じた。報告書によると、2010年から2012年までの平均を出した結果、北朝鮮の人口の32%に当たる800万人が栄養失調の状態にある」(「連合通信」2012.10.10)。
FAOとWFPは、自ら発表した「レポート」が正しいと思っているのだろうか。
なお、北朝鮮に向けて韓国から飛ばされたビラには次のように書かれていた。
「300万人が飢えて死んだ『苦難の行軍』の時、3年間も北朝鮮人民らを養うことのできる8億9千万ドルを投じて自分の父の金日成の死体を飾るのに費やしました。このお金で食糧を買い、飢える人民に食べさせたら、数百万人が餓死はしなかったはずです。これがまさに人民の父母、人民の指導者と騒ぎ立てる金正日の正体です」
どちらの報告が正しいのかは明らかだろう。各国は本当に北朝鮮の食糧は足りていると信じているのか。各国が、「北朝鮮の食糧事情は危機的ではない」と言うことによって、北朝鮮に圧力をかける効果はある。圧力をかけるために国連機関も含め敢えてそういうことを言っているのであればそれでいいが、筆者にはそうは思えない。結果としてそうなっているだけで、国連機関の報告に各国、各機関が惑わされていると思われる。
目次
※ 北朝鮮食糧問題最新事情(2015.03.26)
はじめに
?.「北朝鮮の食糧事情は安定」報告と北朝鮮から伝わる多くの悲鳴
1.北朝鮮の食糧事情は安定したのか
2.不足しているから聞こえてくる悲鳴
?.国連機関の報告は約300万人水増し?北朝鮮の人口
1.「2008年人口調査」は虚偽調査
2.おかしな報告の数々?北朝鮮人口調査
3.人口は300万人水増し
?.国連機関の報告は水増し?北朝鮮の食糧生産
1.米は10a当たり180kg程度
2.メイズは約100万トン水増し
3.国連機関の報告は毎回基準が異なる
4.飢餓を無視して核・ミサイルを開発
?.水増し統計を発表し続ける理由
1.個人独裁の責任が問われる
2.人口の水増しで国際支援を訴え
3.国連による食糧支援の問題点
4.独裁国家への「人道支援」は非人道
5.米よりご飯を(配給のモニターより消費のモニターを)
6.国連は家族農業を認めない国家には人道支援を行うな
資料: FAO/WFP「北朝鮮の穀物および食糧安全保障調査団特別報告」
1995年?2012年(英文)
資料: FAO/WFP北朝鮮食糧事情合同調査報告書2013