特別セミナー「拉致問題の全体像と解決策」全記録
◆国民の声が北朝鮮を動かすことができる
井上 皆さんこんにちは。ご紹介いただきました井上です。私が拉致問題にとりかかったのは2000年です。当時、額賀官房副長官から安倍副長官に代わり、安倍副長官が就任のその日に、北朝鮮の拉致被害者を何とか救出したい、政府の重要課題に何とかできないかというような話が一番最初にありました。事務方では、今では考えられないような対応しかしてくれなかったんですね。ですから政治的に動かすということで、副長官のPT(プロジェクトチーム)ということで北朝鮮の拉致問題のPTを立ち上げまして、政府を動かす原動力に使いました。
当時は、皆さんもご承知かと思いますが、森総理と会う時に家族の増元さんが本当に土下座をしたそのシーンが頭を離れないんですね。あの時には、家族に会う時も、西岡さんとか荒木さんに会う時も、なんで真正面から会うことができないんだ、そんな状況から私はこの拉致問題をスタートしました。
北朝鮮から拉致被害者が帰ってきて、そして子どもたちと離れ離れになって、そして膠着状態になりました。そして私や、ここにおられる中山参与や安倍副長官、そして谷地(やち)次官とプロジェクトチームを作り、私が、2003年のちょうど今頃ですね、12月、1月に訪朝しました。
その時の経験、そしてその後の私が官房長官の秘書官、そして総理大臣の秘書官になった時に、やはり北朝鮮が再度訪朝してくれという話がありました。多分、第一次安倍内閣が参議院選に勝利して続いていれば、私は北朝鮮に訪朝していたと思います。そこまで段取りがついていましたので。それが実現できなかった。この悔しい思いが、私が政治家になった理由です。
私は、今は政府の人間ではないので、いろんな細かな情報というのはありませんが、私の独自のいろんな情報やそして見方をすると、この間も政府に話をしたんですが、11月7日の政府与野党協議会で、張成沢というのはそんなに力がないんじゃないかというようなことも申し上げました。
なぜかというと、私が訪朝した時もロジをすごく大事にする国なんですね。ですから、国家を挙げてロジを仕組むんです。私のようなあまり地位のない人間でさえ公園の周りの人間を全部替えてしまうんですね。いなくしてしまう。そして保衛部のような黒服を着た人間しかしない。そして観光客も作ってしまう。それがどうして分かったかというと、私も非常に好奇心が強いので、車で行った時に、「ちょっとすみません。トイレに行かせて下さい」と。そうしたら、もう観光客が散らばって草むらにいて、また戻ってきますね。そういうような光景からすると、やはり北朝鮮というのは結果を全部ロジに表わす。そう考えると張成沢の登場の仕方はやはりナンバー2の登場の仕方ではない。そしていろんな情報を見ていると、どうやら、ないということがすごく分かってきました。
私の少ない情報からすると、今の金第一書記の下がすっぽり空いてしまっているんじゃないかなという感想を持っております。今まで私が訪朝した時には、金正日体制は独裁者ではありますが、最終的には金正日が決めたんですが、何となく合議体で物事を決めていたような気がいたします。そうすると、ある程度詰まってもそこの中で意見が分かれて大胆な行動ができなくなってしまう。今はこの中間がすぽっと抜けている。これからそれぞれの担当が決まっていく過程ではないかなと思っております。そのために、日本担当が誰になるのかということを常に注視をして情報を収集していかなければならないと思っています。北朝鮮というのは権限がすべてですから。
例えば先ほどチャンネルの話がありましたが、そのチャンネルが必ずしも毎年権限を持っているとは限らない。常に毎年、毎回その人が権力を持っているかどうかを確かめる作業が非常に重要になってきます。権力を持っていない人といくら話をしても先に進まない。ですから権力を持っている人を、情報を集め、そしてその人と話をすることができるように一つ一つの情報の積み重ね、権力があるかどうかの積み重ねをやることが政府に求められていると思っています。
そしてやはり私は、アメリカの動向が非常に大切だと思っております。やはりアメリカの動向によって北朝鮮が動き出す。ですから私は、日米同盟というのは安倍総理とオバマ大統領の確固たる絆、そして同盟が北朝鮮を動かすことになるんだろうと思っております。私は、アメリカが北朝鮮に対して厳しい対応を取っていただくことが拉致問題を大きく動かしてくれると思っております。
そして政府の交渉力を高めていくためには、やはり国民の強い世論の声というのが大きな交渉の力になります。私も北朝鮮と交渉した時に、やはりその声で非常に強気な交渉に入れる。そのために交渉力が増しますので、私は世論の強い声というのは非常に大きな力になっていくと思っております。そのために、この声がなくなると、北朝鮮では、関心がないのかなという形で逆にどんどん、どんどん冷めてしまう。こういうことがありますので、ぜひこの世論、国民の純粋な声をあげてもらいたいと思います。
よく向こうが言うのは、家族会とか救う会とか、どんどん、どんどん言っているじゃないかと言ってきます。そうじゃないんです。我々は当たり前のように自分の娘や息子や兄弟を返したいだけです。そのための声なんです。そして誰だって家族が囚われたらこうなるに決まっているじゃないか、こういうことを私は申し上げました。こうした純粋な国民の声というのが北朝鮮を大きく動かすことができますので、ぜひ私も先頭になって声をあげていきたいと思っております。