特別セミナー「拉致問題の全体像と解決策」全記録
◆国交正常化ではなく、拉致問題の解決のための交渉を
増元 皆さんこんにちは。拉致問題の解決策ということでのディスカッションですが、究極は、総理が訪朝することが解決の究極の姿だと思いますが、その前に総理を補佐する方、そして拉致対、外務省が北朝鮮と交渉を何回も重ねて総理の訪朝に結びつけることが必要なのですが、それがなかなか今目に見える形でやられていないというのが問題だと思います。
ただ、小泉さんの時、田中均さんが二十数回、三十回ほど交渉したと言って実現した平壌宣言ですけれども、あの時に一番の問題は、田中均さんは拉致問題の解決ではなくて、国交正常化をするために拉致問題をどうにか目に見える形での解決に結び付けたいという方向性に軸足を置いた交渉をしていたことが一番の問題だと私は思っています。
ですから総理もそういうような対応しかしなかった。結局、あの「5人生存、8人死亡」をそのまま鵜呑みにして、あの時から、平壌に行った時から、総理小泉さんは、死亡した被害者に対してお悔やみを申し上げるようなコメントを出してしまっている。ここがまず大きな間違いであった。その後小泉総理は、拉致被害者の救出に重点を置くのではなくて北朝鮮との国交正常化に重点を置いたがために、その後の4年間を全く無駄なものにしてしまったというか、空白の4年間をつくってしまった。
2004年にめぐみさんの骨が送られてきて、それが偽物だと分かって、細田官房長官が怒りのコメントを出されましたけれども、その怒りが北朝鮮に伝わるような日本の制裁も日本の姿勢も全く見えませんでした。こんなことを続けていたから北朝鮮サイドとしては日本が拉致問題を重要視していないという強い印象を受けたとしか私は思っていません。ですから国交正常化のための交渉をするのではなくて拉致問題の解決のための交渉を、その上にあるのが国交正常化だという、そのスタンスを崩さないで総理の訪朝を実現してほしいと思います。
今の安倍政権は、私はそういう考え方をしていると思っているので心配はしていないですが、ただ拉致被害者家族としては早くやっていただきたい。1年経っても何も見えていないという状況は非常に我々にとっては厳しいものなんです。 これは11月の集会でも申し上げましたけれども、2002年の暮れに、ある信頼できる組織から、「あるお金を出せば拉致被害者を連れてこられる。姉を含めて2人一緒に連れてこられる」という話がありました。その金額は私個人的にも用意できる金でしたので用意しました。そして、「お願いします」と申し上げました。
それから数日経って、「やはり2人を連れて帰ってくるのはとても危険な状況になる可能性があるので、でも1人だったら何とかなります」と言われて、「どうしますか」という問いかけをされました。その時に私は悩んで、でも即答しました。連れ帰ってこられた方がいいかもしれないが、残された被害者はどうなりますか。それを考えると、とてもその計画を実行してほしいとは言えませんでした。お断りしました。で、最終的にはDNAだけでも持ってきましょうという行動をされたようですけれども、その後立ち消えになりました。
でも皆さん、拉致被害者家族が自分の家族を犠牲にすることを考えなければいけない状況をなぜ日本政府は放っておくんですか。残念ながら今ここにおられる先生方は一緒にずーっとこの拉致問題に関して私たちのサイドに立っていろいろと協力をしていただきました。
でも何となく私たち被害者家族は少し、やっぱり緊張感というか、切羽詰った感情があまり感じられないんです。皆さん確かにきれいにおっしゃるんです。そして冷静に、さらに相手を見極めてというふうに言っておられるんです。それは確かなんでしょう。でも被害者家族の気持ちはそんなものではないです。
中山恭子さんがおっしゃったように今でも日本の政府に動いていただきたい。それがもう危ない状況かもしれない。この11年間、いろいろな情報の中で、田口八重子さんの重篤説とか横田めぐみさんの死亡説も一時流れましたけれども、本当にこの11年の間に病気になって死んでいる可能性もあるということを考えると、私は今、あの2002年の暮れに一か八かの賭けをすべきだったかなということを思ってしまいました。
被害者家族や被害者の命を賭けた博打をしなければ取り戻せない国というのは何なんでしょうか。そのことをもっと緊張感を持って考えていただきたいと思っています。
私は2年前の金正日の死亡の時に思ったんですけれども、悪は悪なりに体制を維持するために組織作りをしっかりとやっていた金正日のもとで拉致被害者は生かされてきました。食料も与えられてきました。でもその体制が、金正日が死亡することによって体制が変化し組織が崩れて拉致被害者に食事がいかない状況に陥る可能性もあるじゃないかという、その思いがしました。
それから2年間、どうなっているか私は分かりませんけれども、今回の金正恩この人間がどんな考えを持っているのか分かりません。若い時期にあのような強力な権力を握らされて、それが彼の性格にどのように影響を及ぼしたのか分かりませんけれども、ただ金正日が50から60の間に自分の体制を確立している間に彼は君臨していたわけで、その中で私がいくら金正日の悪口を言っても笑ってくれたかもしれませんが、今あの金正恩の悪口を私が言うことによって姉にどういう危害が加えられるかわからないという恐れまで私は抱いています。それでも言っていかなければ分からないから。
本当に、この張成沢の処刑、あの体制の変化、これを悠長には考えていってほしくないと思っています。早期に情報を集めて、そして早期の対策を採って、下手をすれば本当に北朝鮮との交戦を含めて日本人は覚悟しなければならないところまで来ているのではないか。そうしなければ取り戻せないのではないかと私は本当に危惧しています。
それだけの危機感を国会議員の皆さんに共有していただきたいんです。私たちの家族に、他人事ではなく本当にそれだけの危機感を家族が持っているということ、そしてそれを解消し解決するのが国会議員の皆さんだということを毎日のように考えていただきたいんです。その緊張感を持って今後1か月、2か月、やっていただきたいと思っています。ありがとうございました(拍手)。
島田 それでは、最後に拉致問題対策本部事務局長の立場から、三谷さんの方から一言お願いします。