国際セミナー「北朝鮮は世界の拉致被害者をすぐに返せ!」全記録
【第2部】世界の拉致被害者家族の訴え
櫻井よしこ
今日は各国の拉致被害者家族が集まっています。本当に遅々として進んでこなかった拉致問題の解決ですが、今が大きなチャンスであることは間違いありません。その間、ご家族の皆様がどんな思いで過ごされたか、そして何を今考えているかについてそれぞれのお訴えをさせていただきます。
まず、韓国からいらっしゃいました金聖浩(キム・ソンホ)さん。85歳でいらっしゃいます。朝鮮戦争拉致被害者家族協議会名誉理事長です(拍手)。
◆北朝鮮が作った拉致名簿に父の名が
金聖浩 朝鮮戦争拉致被害者家族協議会名誉理事長<通訳=西岡力>
みなさまこんにちは。私は今回の人権委員会の報告書で、「人間の尊厳に対する重大な挑戦だ」という表現を使いながら、我々の戦時拉致についてA4用紙7ページにわたって具体的に書いてくれたことを喜んでいます。
人権委員会の報告書は、北朝鮮の行っている人権侵害がとうてい許すことのできない重大な犯罪であるということを彼らに分からせる大きな契機になったと思います。
問題は、今日の午前中の国際拉致解決連合の総会でもお話ししましたが、北朝鮮がそのことを認めていないということです。そしてもう一つ、中国もそのようなことを認めていないだけではなく、安全保障理事会でそのようなことが議論されることを拒否していることです。
そして先ほど櫻井さんも指摘されましたが、アメリカも北に対する強力な制裁をしていないことです。
そういう中で私たちは今、3つの事業をしています。その事業を通じて、アメリカにより強い制裁が必要だということ、中国に客観的事実を分からせ、北朝鮮にお前たちがやっていることがどういうことか分からせるためにやっている3つの事業です。
第1に、我々朝鮮戦争拉致家族会は、8年前から北の金正日をICC(国際刑事裁判所)に提訴する問題について検討してきました。この間、困難もありましたが、今私たちは直接被害を受けた家族の名前で文書を準備しています。
金正日をICC(の法廷)に立てさせることができたとすれば、世界の人権の歴史の中で1ページをかざれるようになったと思います。それが実現しなかったとしても、北の拉致犯罪の事実をより広く国際社会に伝えるための助けになるだろうと思っているからです。
第2に、先週行われました南北離散家族面会において、今回は我々戦時拉致被害者名簿にある人間6人が北朝鮮から出てきて家族と面会しました。その面会を通じて、北朝鮮が拉致をしたということを彼らに分からせる作業をしています。
その6人全部が韓国に住んでいて、北朝鮮に拉致されていった人です。拉致被害者名簿に出ています。実は私が理事長をしていた9年前に、ニューヨークの北朝鮮代表部を訪れて、1953年に韓国政府が作った拉致被害者名簿をそこに置いてきたことがあります。
北朝鮮の国連代表部は、「拉致はありません。こんな名簿は受け取れません」と最初は協力に拒否しました。実はその時、北朝鮮による龍川(ヨンチョン)爆破事件があり、それに対する人道的な寄付金を持っていったので代表部の中に入れたのです。
そしてお金を置いてくると同時に名簿を置いていったので彼らもそれを受け取ったのです。しかし北朝鮮は、韓国から連れて行った被害者がまだ北朝鮮に生きているという事実を否定できなくなっています。ですから中国も否定できなくなるでしょう。
第3に、我が家族会は昨年重要な文書を発見しました。1950年10月にアメリカのCIAが作成した、ソウル近郊から拉致された人たち653人の名簿でした。その名簿を見ると、韓国の中で大変有力な名士たちの名前が入っています。私の父の名前もその中に入っていました。
このCIAの文書がいったいどこから出てきたのか、だれがどう作ったのかについて文書を検討しました。CIAの文書を検討すると、CIAは韓国の名簿を参考にしたのではなくて、北朝鮮が作った拉致被害者名簿を参考にしてCIAが独自に作ったものである明確な証拠がいくつか発見できました。
韓国政府が最初に拉致被害者名簿を作る前に、CIAが北の名簿を入手して作ったのです。韓国の被害者名簿では、被害者の住所について番地は入っていません。何々洞で終わっているんですが、この名簿では何番地まで入っています。
また名前の英語表記も北の表記が使われています。李(リ)という名前がありますが、韓国では李(イ)と発音してスペリングしますが、北では李(リ)なんです。
そして拉致の日付、番地すべて正確です。そして表記は北朝鮮式の英語表記です。それを見ると、北朝鮮がソウル近郊から連れて行った人たちを、その後調査して作った名簿をCIAが入手して作った名簿ではないかということです。
この文書がいつ、どう作られたかについて説明はないんですが、多分、北朝鮮軍がソウルから撤収する時、あるいは国連軍が北朝鮮地域を占領した時に北朝鮮が置いていったものを入手したのではと推測しています。
この文書は、去年アメリカの公文書館に、我々家族会のメンバーを派遣して、その名簿を点検したところ出てきたんです。
我々が今推進している3つの事業を通じて、北朝鮮にその犯罪事実を認めさせ、中国にも客観的な事実を認めさせ、そしてアメリカに強い制裁をさせるということが助けになると思います。
最後に、実は韓国でも、左翼政権10年の間、韓国政府が、「北朝鮮は拉致はないと言っているんだ」と言って我々家族会の活動を弾圧し、困難にたくさん直面しました。
しかし、それが終わり、李明博(イ・ミョンバク)政権になって、「戦時拉致の実態を明らかにし名誉回復をするための法律案」が国会に提出され、それが通過しました。
そこで、総理の直属で、統一部に事務所を置いて、戦時拉致の再調査を政府レベルでしています。まず被害者家族会から申告を受けて、それを調査して、政府として認定するという作業をしています。
しかし今になって、私も父が拉致されていますので2世です。私のような世代はみんな死んでしまっているわけです。そういうわけでなかなか届出が難しく、また届出て認定されたとしても金銭的な保証がないということもあって、低調ではありますが今4500人が届出をしました。
そして何段階かの審議を経て、認定し、家族の名前を大統領に通知するんですが、認定者が2700人です。今年の年末で終わる認定事業ですが、認定被害者が確定されたらその名簿を国際社会により一層広報したいと思いますし、そして韓国政府に対して、南北会談でこれを出せと強く要求したいと思います。
今日は国際セミナーを通じて大変な知識を得ることもできましたし、勇気を得ることもできました。我々の先に行って戦っているみなさんに感謝いたします。
ありがとうございます。
次に、韓国拉致被害者家族協議会事務局長をしておられる安炳●(アン・ビョンスン)さんにお願いします。この協議会は戦後に拉致された人たちの家族会です。●=王へんに睿