「日朝合意「再調査」?こんな問題が起きないか緊急国民集会」全記録
◆合意文書の問題点、危険な点
西岡 力
救う会会長としては先ほど申し上げた評価ですが、これからは北朝鮮問題専門家として厳しいことを申し上げたいと思います。そういうことも頭に入れて北に臨んだ方がいいということですが、そういう点で見ると穴だらけだと私は思っています。
まず、前文の「双方は日朝平壌宣言にのっとって」はまあいいとして、「1945年前後に北朝鮮域内で死亡した日本人の遺骨及び墓地」がはいっている。「残留日本人」も「いわゆる日本人配偶者」も入っているということです。拉致問題だけではない。こういうことからして甘い。
それ以外の問題は人道問題です。このこと日本政府は制裁をかけていません。赤十字ですべきことだと思いますし、人道問題としてやるのは賛成です。しかしそれと、特別調査委員会にこれを入れるというのは全然違うことです。
北朝鮮は、何か別のことを出してこようとしているのではないか、遺骨ビジネスをしようとしているのではないかというおそれが出てきます。
次に、これは家族会の増元さんも伊原局長を追求していましたが、「過去北朝鮮側が拉致問題に関して傾けてきた努力を日本側が認めたことを評価」とあり、日本側が認めた。彼らが「傾けてきた努力」って何ですか。偽の遺骨を出してきたり、偽の死亡診断書を出してきたことじゃないですか。そして、「これは外交だからしょうがないんだ」と。
しかし、次に、「従来の立場はあるものの」という言葉を取ったんだと。従来の立場は「解決済み」だったが、「従来の立場はあるものの」再調査をするという言葉を取ったんだということですが、そういう文言のやり取り自体が外交交渉になっちゃっている。犯人と被害者側の交渉なのかと思うわけです。
そして一番心配なのは、「最終的に」と書いてあるところです。北朝鮮側は、最終的にこれで終わりにするというようにも読める。私も荒木さんも先ほど言いましたが、申告→検証を続けることになっていないんじゃないかということです。
その次に、「日本側は、これに応じ、最終的に現在日本が独自に取っている北朝鮮に対する措置(国連安保理決議に関連して取っている措置は含まれない)を解除する意思を表明した」ということですが、これも本来なら北朝鮮の調査結果が出てから解除すべきなのに、そうなっていないということです。
それから、(国連安保理決議に関連して取っている措置は含まれない)とありますが、5月30日、「朝鮮中央通信」が報道した内容では、( )内の文章が削られています。その翌日、北朝鮮はこれを入れたものを発表しましたが、北のテレビでは( )内の文章が削られています。彼らがもっと要求してくることが十分ありえるということです。
どうして( )書きにしたのか、もっとちゃんと書き込んだ方がよかったと思います。削られないように、ですね。
日本側がやるところの第2に、「北朝鮮側が包括的調査のために特別委員会を立ち上げ、調査を開始する時点で、人的往来の規制措置、送金報告及び携帯輸出届出の金額に関して北朝鮮に対して講じている特別な規制措置、及び人道目的の北朝鮮籍の船舶の日本への入港禁止措置を解除することとした」とあります。
「これに万景峰号は入っていない」と政府は説明していますが、私の聞いているところでは、万景峰号は北朝鮮で観光のために使われていて、修理をした、と。日本の安全基準に違反する部分を修理するためドックに入り修理をしている。つまり彼らは日本に入れようとして準備をしている。どこを治しなさいという情報を非公式に日本側が提供したのではないかという疑惑さえ私は聞いています。つまり、時間を彼らに与えただけであるということです。
そして「人道目的での北朝鮮の船の入港って何ですか」と聞いたら、朝鮮総連が日本から米や医薬品を北に送る時はいいと言うんです。じゃあ、物を送ることを許してしまうんじゃないですか。お金は送れないけど、人道物資だったらモニタリングをしなければならないんです。
国際機関に渡して、本当に困っている人にいくかどうかまで見なければいけない。北が積んでいったら人民軍に行くかもしれないんです。それなのに、人道という名目で許していること自体大変甘いということです。
そして、先ほどもいいましたが、第3になぜ遺骨のことが入っているのか。アメリカは米軍の兵士の遺骨を北朝鮮から収集する作業をしています。実費と称して1柱2万ドル払っているそうです。アメリカも払っているんだとすると、日本にも1柱2万ドルを要求してくるのではないか。あるいは水面下で要求しているのではないかという情報がたくさん私の所に入っています。2万柱あるんです。1柱2万ドルだと、4億ドル、400万円になります。
第5の「在日朝鮮人の地位に関する問題」は、先ほどもいいましたが、総連に対する取り締まりを緩めよということをこれでやろうとしているんではないかということです。
そしてもう一つ、第6の、「包括的かつ全面的な調査の過程において提起される問題を確認するため、北朝鮮側の提起に対して、日本側関係者との面談や関連資料の共有等について、適切な措置を取ること」となっています。
北朝鮮側にも同じ文章がありますが、今平壌に駐在事務所を作って、北が出してきた報告内容を検証すると言っています。危ないです。日本人が行ったって捜査権がないんですからちゃんとした捜査はできないです。
それより、持ってきてこちらで検証する方がいいんです。向こうに行って事務所を作って、色々見せられる。「この木が首を吊った木です」とか「ここの海岸で海水浴をしていて死にました」とか、いくら見たってしょうがないんです。それなのに、それをやってしまうと日本にも見せたじゃないかと言われてしまう。事実上の合同調査になってしまう危険があるのではないかと思っています。
第7に「人道支援」も、適切な時期とはいつなのか。全員帰ってきたらと書いてないことも「適切」という言葉に大変危険があります。
北朝鮮側がやるところでは、(拉致以外のことも)全部をやると言っていることがおかしなことです。
第2の「調査は一部の調査のみを優先するのではなく、全ての分野について、同時並行的に行うこととした」とあります。これは外務省の説明では拉致が置き去りにされないよう「同時並行的」を何とか入れたんだということでした。その努力は多としたいと思いますが、本来なら「犯罪の解決を優先してそれ以外の人道問題はその次にする」となぜ書き込めなかったのか。
つまり外交交渉じゃないんです。犯罪の解決のために交渉しているのだという意識が弱いのではないか。
第3の、「特別権限(全ての機関を対象とした調査を行うことのできる権限)が付与された特別調査委員会を立ち上げる」は、この( )の中も「朝鮮中央通信」の報道ではなかったです。そもそもメンバーの名前を見たって分からないです。本当に権限があるかどうかが分かるのは、金正恩の決裁した書類が出てくることだけです。
それを取れるのかどうか。サインした書類を見せなさい、と。そうじゃない限り形式になってしまいます。
次に第5、「調査の過程において日本人の生存者が発見される場合には、その状況を日本側に伝え、帰国させる方向で去就の問題に関して協議し、措置を講じる」とあります。これは中山恭子首元大臣が大変危惧していました。先ほど平沼先生がおっしゃったことです。
協議じゃだめなんです。「行きたくない」と言わされるに決まっているんです。なぜ協議すると書かせたのか。「帰国させる」となぜ書けなかったのか。これも危険です。
そして第6、「北朝鮮滞在、関係者との面談、関係場所の訪問」が合同調査になってしまうんじゃないかということです。これだけの文章しかないのであれば、危険があふれていると思います。
しかし、これで動いたんですから、どうするのかとは思いますが、専門家としては今申し上げた通りの危機感を持っています。
櫻井よしこ
どうもありがとうございました。この調査開始の文章を1行1行見ながらの今の西岡さんの専門家としての分析は、非常に問題点を明らかにしてくれたと思います。そこで荒木さん、今回のこの文書ですが、さっき北朝鮮側が前のめりになっているという情報が流れたけれども、実際に前のめりになっているのは日本側の外務省ではないかとおっしゃいました。これは実は非常に重要なことなんですね。
安倍政権が拉致問題の解決を政治的課題としていて、そのことに一生懸命になっていることは家族会も救う会もみんな承知のことで、大変ありがたいことだと思っているんですが、それとは別に、外務省が前のめりになったとしたら、これまで外務省がどのような交渉をしてきたかということを私たち全員が知っているわけで、必ずしも高い評価ではないわけです。
その意味で、外務省前のめりとおっしゃった点に立って、この文章をもう一回見直していただけますか。