国際セミナー「日朝拉致協議の遅延をどう打開するか」全報告
◆金正恩への国連の訴追に当惑し、慌てる北朝鮮
金聖●(キム・ソンミン、脱北者、自由北朝鮮放送代表) お会いできてうれしいです。まず、拉致問題解決のためには金正恩政権の崩壊が急務だという私たちの見解を共有していただきたいと思います。
その意味で、今回日本政府が、国連の場に拉致問題を持ち出し、安保理事会にまで持ち込もうとしている努力について感謝したいと思います。
今回の国連の状況は、2005年以降毎年北朝鮮人権決議案が採択されてきた状況とは違う様相をみせています。今回の決議案では、金正恩を人権の責任者として国際刑事裁判所に訴追しようという内容が書かれており、それに対して北朝鮮が当惑して、慌てています。
それがなぜ大きな問題なのかと疑問を持たれる方がいらっしゃるかと思いますが、私が北朝鮮で育ってきた体験から言えば、北朝鮮の人民は、小さい時からずっと、金日成、金正日、そして金正恩こそが偉大な指導者だと言われてきました。そして外部の情報が遮断されているなか、そのようなことを信じさせることができたのです。
そのような偶像である首領が、金正恩が、今回、国際社会によって刑事裁判所に引っ張られていくことが決まったというのは大変なショックであり、その意味で大きな意義があると思います。
そういう意味で日本政府が全力を尽くしてくださったことに感謝し、また韓国政府もそういう動きに参加してきたことを大変うれしく思っています。最後まで金正恩を国際刑事裁判所に訴追するまで努力していただきたいと思います。
2011年11月、金正日が死んだ時、私はここ東京にいて、皆さんの前で、このように申し上げたことを覚えています。「金正日が死んだあと、27歳の若い男が独裁者になった。必ず失敗をする。そのミスをどう突くかが勝負です」と。
ご承知のように叔父さんを粛清し、また総参謀長を粛清するというミスにミスを続けてきています。もう一度東京に呼んでいただ時、「2014年に何が起きるのか」というテーマで、「中国からも今はいじめられている」、「金正恩は日本しか手を出す相手がいない」、「2014年には対日関係が動くだろう」と申し上げたことを覚えています。
私は預言者ではありませんが、皆さんが考えるよりもっと早く金正恩が死んで北朝鮮社会に大きな変化が起きるだろう、と申し上げたいと思います。
第1のオプションは、張成沢(チャン・ソンテク)粛清、李英浩(リ・ヨンホ)粛清があり、「次は俺の番かもしれない」と思っている将軍たちがたくさんいるということです。自分の番が来る前に金正恩をやってしまえという形で金正恩が死ぬオプションです。
次は、30代の金正恩が実は自分の身体を管理できなくて、40日間姿を消して治療していたという事実があります。彼が出てきている姿を見ると、今服を着ていますが、ぜい肉がたくさん付いた大肥満状態です。自分の身体さえ管理できない金正恩が病気で死ぬ可能性があります。
北朝鮮で民主化運動が起きるということは大変可能性が低いと見ておられる方が多いと思います。しかし、私はそれは違うと思っています。市場で商売をしている多くの北朝鮮の住民たちは、自分の所有物に対する執着、これは自分のものだと、自分が持っている物を取り上げる人たちに対しては徹底的に戦う気分が生まれています。そこを土台として民主化運動が起きることは十分ありえることだと私は思います。
今まで申し上げたオプション、金正恩の死が北朝鮮の民主化運動に直結しているとも言えます。今日私は、韓国やアメリカの対北放送関係者と先ほどまで家族会の皆さんと話をしていました。家族と別れて37年になるという人たちにかける言葉もありませんでしたが、一日も早くその人たちが愛する家族と会えるためにも、早く金正恩が死ぬ方がいいと心から思っています。
ありがとうございました(拍手)。
櫻井 どうもありがとうございました。金聖●さんの自由北朝鮮放送は、脱北者が中心となって2005年につくられたもので、北朝鮮向けに、朝鮮半島の自由統一のために、短波と長波でラジオ放送をしておられます。朝鮮なまりで放送しているために、北朝鮮での対北ラジオ聴取率が第一位だそうです。●=王へんに文。
今日は参議院議員の井上義行さんが来てくださいましたので紹介します(拍手)。
また政治犯収容所から出て脱北した申東赫(シン・ドンヒョク)さんは今日ここにお出でになる筈だったんですが、彼の証言に対して、北朝鮮が実の父親を出してきて「それは違う」などと言わせています。申東赫さんには危険が迫っているということで警備上の問題から来日は取りやめになりました。
では、第1部の、「日朝拉致協議を遅延させる金正恩政権の狙い」についてディスカッションを始めたいと思います。第1部では、張真晟(チャン・ジンソン)さんと西岡さんにお願いし、コメントを惠谷治さん、荒木和博さん、島田洋一さんにお願いします。
まず、元朝鮮労働党統一戦線部(対南工作部門)幹部をしておられ、2004年に脱北して、今はインターネット情報誌の「ニューフォーカス」を主宰しておられる張真晟さんの問題提起、そして西岡さんの問題提起をうかがいます。(二人のレジュメは12/12メールニュース参照)。ちなみに西岡さんはこの度、正論大賞を受賞されました(拍手)。
では張真晟さんからお願いいたします(拍手)。