国際セミナー「日朝拉致協議の遅延をどう打開するか」全報告
◆金正日体制が動揺しなかったわけ
だから金日成が死んだ後も全然動揺しなかったのです。金日成がいる時も金正日政権だったから大丈夫だったわけですが、それが外にいる人間には分からなかった。
これがなぜ分かるか。朝鮮労働党の中央委員会にいたから分かるんです。労働党中央委員会出身の幹部で脱北者した人はほとんどいないんです。黄長〓(ファン・ジャンヨプ)さんがそうでした。
金賢姫さんや安明進や我々がたくさん教えてもらった人たちは工作員です。工作員は中央委員会の幹部ではない。与えられた使命だけをやる人です。与えられた使命のことだけ訓練を受けており、狭い意味の党幹部ではない。
しかし張真晟さんは、統一戦線部の幹部で、金正日にも会ったことがある人間で、さらに金日成の歴史を書けと言われて、作家として過去の記録を見ているから今の権力の秘密が分かるんです。それを英語にした本に今世界の北朝鮮学者が驚いているというのが現状です。
では、今の枠組みで金正恩政権を見たらどうなるか。実は組織指導部は、金正日の側近たちが今も残っているんです。金正日は死んだけど、金正日政権は残っているんです。金正恩が金正恩政権を作るのならば、組織指導部を自分の腹心で別途作って、金正日時代の幹部を全部つるし上げて、「お前たちの成果はゼロだ」と言って全部排除し、自分の組織指導部を作らなければ独裁はできないのです。
しかし、彼には同窓生もいない。ヨーロッパに留学して帰ってきた。友だちはバスケット選手とか日本のすし屋くらいしかいない。自分の腹心がいない。そして、張成沢と組織指導部の関係が微妙なんです。なぜ張成沢が殺されたか。実は組織指導部との血で血を洗う権力闘争の結果なんです。
金正日時代に、金正恩は何回か組織指導部に入っています。第一副部長になりました。しかし、もともと金正日の同窓生たちは張成沢を一番警戒していた。彼はナンバーツーを絶対に作らない。
ナンバーツーを作ったら金正日の権力はあやしくなる。陰にいながら金正日を守るためには、ナンバーツーを絶対に作らないと言って、張成沢を二度粛清したんですが、殺すまでの力はなかった。妻の金敬姫(金正日の妹)が守った。
そして最後に金正日が脳卒中で倒れた後、金正日は、自分はあとの寿命が短いと思ってどうするか考えた。70年代からの腹心の組織指導部を取るか、血のつながった妹の夫である張成沢をとるか。