国際セミナー「日朝拉致協議の遅延をどう打開するか」全報告
◆北が安倍批判をしないのはまだ取りたいものがあるから
次に、私から今の拉致についてお話します。
張真晟さんが話した大きな枠組みの中で、先ほど言いましたように、北が困って日本に接近してきたという状況ですが、ではなぜ今延期されているのか。
今日の議題は、「日朝拉致協議の遅延をどう打開するか」ですが、なぜ遅延しているのかという、やや戦術的な情勢分析です。
一言で言うと、今張真晟さんが言ったことですが、首領独裁体制が動揺するのを抑えるために国連対策を最優先にしているからです。
9月に何らかの報告をしようとしていたという情報がたくさんあります。しかし、9月に出そうとしていた報告は、認定被害者についてもう一度「死亡」とする方向で死亡の証拠を出すということだった。最悪の場合は、生きている人を殺して、「遺骨」にして出すということさえ検討していた。これは分析ではなく、そういう情報を私は複数入手しています。しかし、それは起きなかった。
しかし、その案が完全に廃棄されたかどうかは分かりません。それよりも9月以降、まさに首領独裁体制の根幹を揺るがすようなことが国連で起きた。それを絶対に止めなければいけないということです。
北朝鮮人権報告書は大きく2本立てになっています。今までは1本立てだったんです。つまり、北の国内でひどい人権侵害が行われている。政治犯収容所がある。宗教の自由はない。脱北者者が弾圧されている、ということだったんですが、もう一つ、被害者は北朝鮮住民だけではなく、外国人もいる。世界中で拉致が行われていることも、これは拉致対策本部のかなりの努力もあって書き込まれた。この2本柱です。
彼らはその2本柱にそれぞれ対策を立てた。国内問題については、脱北者者の人権活動家がみんな嘘つきだ。張真晟も金聖●もみんな嘘つきだ。申東赫も嘘つきだ、と。●は王へんに文。
そして任意の時間に、無主孤魂という言葉があるんですが、あるじのいない孤独な魂にしてやると、張真晟も金聖●も、今日大変なことがあって来なかった申東赫も言われています。
そして肉親を出して、肉親に張真晟や申東赫は嘘をついていると言わせて、それをビデオに撮って、ニューヨークで外交官に見せています。国内の人権問題はみんな嘘だ、それを言っている脱北者が嘘つきだとやる。
拉致についてはどうするか。一番拉致問題について厳しく言っている安倍政権と話がついて、調査委員会で調査をしているということを見せる。だから、10月に日本の代表を呼んで平壌に行ったら、英語の看板があったわけです。なぜ平壌に英語の看板があるのか。日本のテレビに映すなら漢字で書けばいい。ニューヨークで見せるためです。
そして誠実に調査をしていますと、過去の調査に問題があったかのようなふりまでしてやっている。しかし、結果は出さない。
ここで考えなければいけないのは、首領体制を崩すような人権外交をやっているのは安倍政権なんです。だから安倍さんに対し、もっと厳しい悪口が出てこなければならない。でもほとんどないんです。日本につていの悪口はいっぱいありますが、過去をきちんと清算していないこと、あるいは拉致問題について「一部の勢力が拉致を持ち出して」と。悪いのは西岡と荒木だと言ってるのか(笑)。しかし、安倍晋三は出てこないんです。
本来なら、金正恩の責任を追及するなら特別調査委員会を止めますよと言ってもいいのに、いっさいそれがない。今の所、そうです。日本批判はしますが、特別調査委員会とリンケージさせる批判はまだ出てきていません。つまり彼らは、まだ日本から取りたいものが残っているのです。お金や制裁解除ですね。
ですから、今遅延しているのは、ある面で国連外交で彼らを追い込んでいる結果でもあり、彼らが慌てた結果でもあるので、まだ勝負は終わっていないと私は思っています。以上です(拍手)。
櫻井 ではここで荒木和博さん、惠谷治さん、島田洋一さんに、それぞれのお考え、どのように遅延に対処するかをお話しいただければと思います。