北朝鮮に未来を描かせないためにやるべきこと‐東京連続集会85 全記録
◆日本政府が「生きている人を返せ」と言ったと批判
西岡 力(救う会会長、東京基督教大学教授)
そして、朝鮮総連議長の次男の逮捕の後、南昇佑(ナム・スンウ)という副議長が記者会見をしました。そこでも、ストックホルム合意を破ったのは日本だからもうやめるとは言わないで、「我々はストックホルム合意をちゃんと守ってきたんだ。ストックホルム合意は北朝鮮と外務省が合意したんだ。それを警察や拉致対策本部が知らないのはおかしい」と。
警察や拉致対策本部は批判するんですが、安倍政権と外務省の批判はしないんです。そして、「日本側は拉致以外の報告はだめ、拉致が入っていなければだめと言っている」と。そんなことは議長の次男の逮捕とは関係ないのに、そんなことを会見で言っている。
それだけでなく、「日本側は生きている人を返さなければだめだ、と言ってきている」、「拉致被害者の調査をすればいいとは言わないで生存者を出せと言っている」と、そんな理不尽なことがあるかという口ぶりで、そんなことを言いました。
そんなことではなく、「議長の息子を逮捕したんだから、調査を打ち切るぞ」と言えばいいのに、それを言わないで、「生きている人を返せと日本政府が言っている」と。それは私や飯塚さんは言っています。でも政府がそういうことを言っているという説明は一度も受けたことがないんです。
実は、南昇佑という人は4月に平壌に行って帰ってきています。そして5月に記者会見している。日本がどういうことを言っているか、聞いてきている可能性がある。情報雑誌で、「選択」という雑誌があるんですが、その5月号に「拉致問題『諦めた』安倍官邸」という刺激的なタイトルの原稿ですが、外務省関係者等を取材してもので、この原稿自体はあまりいい原稿ではないと私は判断しています。
その中に、注目すべき情報が入っています。「2月中に、官邸側は小野課長に『横田、有本の生存という調査結果しか認めない』と言い出した」とあります。つまり、これは名前が入っていますが、「死んだではだめ。生きている人を返しなさい」と外務省が言い始めたとも読める。
「2002年に金正日が行った、『8人死亡』というのは受け入れられませんよ。生きている人を返さなければだめですよ」と本当に言っているのならたいしたもんだと思います。
私はそう言っているんですが、この本(「横田めぐみさんたちを取り戻すのは今しかない」PHP刊)も書きましたが、選択は「無理難題を求めることで官邸は今回の交渉を事実上けったのだ」と書いていますが、無理難題じゃないわけです。それがゴールです。
外務省が、「生きている人を返せ」と言った要求が無理難題だと思っているとすれば、2002年に「死亡」と言ったことをもう一度出してきてもいいと思っていることになります。
これは匿名の原稿ですから、よく分かりませんが、しかし先ほどの朝鮮総連の副議長の記者会見と、この外務省から取材したと思われる雑誌原稿によると、2月頃から安倍総理は、「ただの紙を出させるのではだめだ。生きている人を返しなさい」と、先ほど飯塚さんが言ったことと同じことを言っているという方向の間接情報があるということになります。
それに対して北朝鮮は、繰り返し批判はしていますが、それでも北朝鮮が批判している、国際社会に持ち出すことと総連の議長の息子の逮捕までいった。そして向こうは「やめた」とはまだ言っていない。
まさに正念場だなあと思います。最終的に金正恩氏がどういう決断をするのか、まだ分かりません。ただ、交渉を始めた時には、彼らは彼らなりにほしいものがあったはずです。それがもう取れないと判断したら止めるはずです。日本がこれだけ、彼らがやってほしくないことを、国連の人権外交と朝鮮総連の幹部に対する取り調べをやっているのに、「止める」と言わない。それにはそれなりの彼らの理由があるはずです。