拉致も理由に北朝鮮に強力な制裁を?緊急集会報告
◆被害者の精神状態が厳しい、一刻も早くすべての日本人を助けなければ
西岡力(総合司会、救う会会長、東京基督教大学教授) 今の話を聞いていて、実は古屋大臣がストックホルム合意と同じ5月に、大臣声明を出されています。
下記ホームページ参照
http://www.rachi.go.jp/jp/minister/danwa/2014/0522danwajp.pdf
なぜそのトーンでいかなかったのか。それを読んだ時、我が意を得たりということが全部書いてあったんです。
北朝鮮は、被害者が死んだということを日本の世論に訴えかけている。そんなことは無駄だ、と。日本人は怒っていて、全員取り戻すんだ、というメッセージを、外務省合意でストックホルム合意ができるための交渉をしている時にわざわざ大臣の名前で出された。
言えないことも色々あると思いますが、厳しい戦いがそこにもあるんだなあと。北朝鮮は、ストックホルム合意をしましたが、私はその時、一番の危険が来たと思いました。
今中山先生は、帰ってこないんじゃないかとおっしゃいましたが、それ以上に危ないんじゃないかと思っていました。これは繰り返し皆さんにお話していますが、北朝鮮は何か物がほしくて、あるいは制裁の解除がほしくて日本に接近してきた。
金正恩は被害者を返す決定をしていない。それなのになぜ接近してきたのか。なぜ物がとれると思っているのか。様々な情報に耳を澄ますと、生きている被害者を殺して、死亡の証拠を作るという案が北朝鮮に数年前からあって、技術開発までやっている。
つまり、帰ってこられないどころか、生きている人を殺すということさえやりかねなかった。だから古屋大臣のところにすぐ行って、「大変なことになりますよ」と言ったら、一括帰国と拉致最優先、それから安全確保が安倍政権の方針だと繰り返し北朝鮮に発信していただき、私も、そういうことを知っているぞと今でもその危険があるから言うんですが、北朝鮮関係者はこの集会を注視しているでしょうから、そんなことはできませんよ、と。
まず、生存情報があるんです。「今生きている人を殺したら、もう遺骨が来た段階で、DNA鑑定をしなくても殺したと叫びますよ」ということを、古屋大臣声明も含めてやってきたので、最悪を抑止して、被害者を取り戻す可能性を残す中で、今年を迎えた。
しかし、本当に厳しい戦いです。相手が今も自由にできるんですよ。人質を向うが持っているんです。短気な独裁者が何を言うか分からない。そしてもう一つ、政権がどうなるか分からない。何か起きた時に、証拠を消せという可能性だってある。今元気な人が明日どうなっているか分からない中で、認定の有無に関わらず全員を助けるという方針を、古屋大臣と安倍政権は決めたわけです。
大変なことです。私は古屋先生は寝られないんじゃないかと思いました。名簿がない人まで助けるわけですから。しかし、国家としては当たり前です。主権を侵害されているんですから、全員助けなければいけない。その方法論を考えると、一国の政府を倒すということは色んなことができますが、相手が人質を取っている。どこにいるかどころか、その名簿さえこちらにはないのに全員助ける。本当に大きな課題です。
しかし少なくとも、助けるための組織があって担当大臣がいる。私が大臣なら本当に寝られないと思うんです。多分、寝られない思いを皆さんされていると思います。そのくらい厳しい課題の前に我々はいる。
しかし、日本人を助けるのは日本人しかない。全員助けるということを妥協してはならない。今古屋先生が「一括」とおっしゃいましたが、何人か帰ってくるというのは「進展」ではありますが、「解決」じゃないわけです。
安倍総理は、去年4月2日に、北朝鮮が「このままでは政府間対話ができなくなっている」と。向こうは対話を切ることがカードになると思って、脅してきたわけです。その時おっしゃったのは、「拉致問題が解決しなければ北朝鮮はその未来を描くことが困難であることを認識させなければならない」、と。
「解決」と言っているんです。「進展」とは言っていない。解決は全員帰ってくることです。2002年9月に5人帰ってきたことは大きな進展だったと思いますが、今回はそれじゃだめだと総理が言っているんです。
この総理と同じ怒りを、拉致問題で金正恩のところにまでぶつけられるかどうか。松原先生は、まだできていないんじゃないかとおっしゃいましたが、それをどうやってするのか。日本は本当に怒っているんだと、被害者を返さなかったら安倍政権は何をするか分からないという緊張関係を相手に持たせること以外に救出の道はない。
そういう点でも、13項目を核だけで使うということは、絶対してもらっては困るということです。
今対策本部ということで出ましたが、是非一昨年の大臣声明の線で、北朝鮮の謀略は通じないと、政府の中で様々なことをしていただきたいと思います。まだそうすれば希望はある。少なくとも大多数の人たちがまだ助けを待っているんです。
これは繰り返し言っていますが、(被害者の)蓮池薫さんが、最近様々なところでこう言っています。私も直接蓮池さんに、北朝鮮での生活、待遇を聞いたことがあります。
「90年代後半、100万人以上の餓死者が出た時、どうだったんですか」と聞きました。そうしたら、「食糧配給は特別だったから困ることはなかった。大飢饉の時も、肉など食べていた。しかし暖房が厳しかった」と。
「石油ボイラーを使っていて、電気で回していたが、停電して暖房が使えなかった」と。オンドルは畳より冷たいんです。床下で燃やしているから温かいわけで、そうでなければ本当に冷たいんです。
「零下二十度のところで、暖房が使えない。しんしんする寒さの中で、家中のふとんとか、コートとかセーターを全部出して、それを着て耐え忍びました」と言っていました。
今、そういう状況だと思います。しかし蓮池さんが心配しているのはそういうことではなくて、精神状態です。これは横田さんたちにも蓮池さんが伝え、最近は講演でも言っています。
「物質的には北朝鮮の平均水準よりは上だ。しかし、精神の安定を保つのが大変なんだ。今回調査が始まったということを知っている。前回小泉訪朝の時は5人だけだった。自分たちは死んだと言われた。認定もされていない。そのことを知っている人たちが、今回はと期待しているが、今回だめだったら精神の安定を保てなくなると心配している」と。向こうで暮らしていた人の心配です。
目の前の家族を見ていて、家族が高齢化してきたなと心配ですが、向こうにいる人たちのことをもっと、もっと心配しなければならない。どんな気持ちで今の状況を見ているのか。
繰り返し言いますが、曽我ひとみさんに、「いつまで日本の助けを待っていましたか」と聞いたことがあります。これを質問したのは動機があります。蓮池さんから、「自分は北朝鮮に拉致されて3、4年経った後、日本に帰るのをあきらめた」と。
希望を持ったらつらいんです。だから希望を持たないことで精神の安定をはかった。「これからの自分の人生は、北朝鮮で生まれた子どもを守るということだけに捧げる」と。
しかし、めぐみちゃんは、韓国の人と結婚したということもあって、帰りたいという気持ちがあった。だから精神を乱した。蓮池さんは「希望を持つのをやめなさいという説得をした」そうです。
希望を持つのをやめなさいとはげましをする世界と言うのは本当に想像を絶するような精神状態だと思います。それで曽我ひとみさんに、「曽我さんあなたはいつまで日本の助けを待っていましたか」という質問をしたんです。
そうしたら曽我さんは、「ずっと待っていました」と言ったんです。「昼間は家事や子育てで忙しい。忘れています。しかし、夜になると、月や星を見て、同じ月や星が佐渡でも見えているんだろうなあ」と。
曽我さんは、お母さんは佐渡にいると北朝鮮に伝えられていましたので、「お父さん、お母さんがこの月や星を見ているんだろう。近所の人が見ているんだろう。いつになったら日本から助けが来るんだろうか」と。認定されていなかった曽我さんがそう言ったのです。
そして曽我さんはこう言いました。「1990年に金丸信という自民党の政治家と田辺誠という社会党の政治家が北朝鮮を訪問した。その時北朝鮮のテレビニュースでやっていた。自分はそれを見て、日本の政治家が来て、金日成主席に会ったんだから、自分のことが議題になっているはずだ」と。「日本の政治家は日本国民を守ってくれるはずだと思ってテレビを見ていました」と。
しかし、何も起きなかった。そういう思いをずっと持ち続けているわけです。
それからもう一つ、蓮池薫さんが平壌のある公園に行ったら、日本のテレビ局が取材をしていた。ニュース番組です。ここで飛び出せば自分が北にいることが分かると思ったけど、家族のことを思って隠れたそうです。
そういう厳しいところに被害者をおいて、これは増元さんがよく言いますが、「一番闘っているのはそこにいる被害者だ」と。その人たちが北に抑留されている日数が増えるということは、1年が1年半になったということは、それだけ被害者の苦しみが、辛い生活が延びたということです。
だから1年半でなぜ怒らないのかと我々は思って、今日の集会を組織したわけです。各党に対策本部があって、政府に対策本部があって大臣がいてくださる。向こうにいる人たちを見捨てていないんだということを発信し、日本はしつこい、どうしようもない、返すしかないと思わせるところまで怒りを高めるしかないと思っています。
今日は加藤大臣、3人の元大臣、ありがとうございました(拍手)。
西岡 1年半経っても誰も帰ってきていない。本当に何が起きるか分からないという中で待っているというのは精神的に本当に厳しい状況だと思います。そういう中で、ずっと先頭に立って、世論をリードして、被害者を取り戻そうと戦ってこられた家族の訴えを聞きたいと思います(拍手)。