拉致発覚から20年?我々はどこまで来たのかー東京連続集会93全報告
◆実名を出すかどうかでみんなが深刻に悩んだ拉致問題
長谷川煕(ジャーナリスト、元「AERA」記者)
ともかく昼夜取材に取り組んで一応原稿にしました。「AERA」は月曜日発売ですが、都内には土曜日には出ます。私の記事はトップ記事で、締め切りが金曜日でした。1月20日には出るというつもりで作業していたところ、編集長から「これは重大な話だ。よくよく裏付けを取ってほしい。ご両親にもゲラ(校正刷り)を読んでもらってきちんと確認を取ってほしい、と。どういうお宅だったか色々書いてあるわけですから。
私はそういう取材は全部済ませていましたが、編集長の気持ちも分かりますので、この辺の記憶はあいまいですが、また横田家を訪ねてじっくり読んでもらったと思います。それで一応いいということになりかけていましたが、横田早紀江さんから「めぐみの名前が載っている。両親の名前も載っている。親はともかく娘の名前だけは削ってくれ、と。仮名でもいい」と頑強におっしゃったんです。「そうでなければ掲載してもらいたくない。もし娘の名前が出たら北朝鮮に殺されるかもしれない」と。
「AERA」の記事のタイトルは「北朝鮮で生きている」です。拉致されたということですが、編集部内で「北朝鮮に拉致された」と書いた時の政治的影響の大きさに憂慮して、本文では拉致となっていますが、見出しは「北朝鮮で生きている」にきゅうきょ変えました。
いずれにしても、めぐみさんの命をお母さんが大変心配して、「ともかく名前だけはやめてくれ」と。しかし、横田めぐみさんという名前を削れば真偽も危うくなってくる。しかしそういうことよりも命の問題が優先されるべきじゃないかと考えざるをえなくて、大変私は苦しみました。
結論から言えば、名前を載せたわけです。それは滋さんが、「ここまで来た以上は名前を出した方が物事が進展するのではないのか」という判断をされたからだと思います。それは私の一方的な受け取り方かもしれませんが、滋さんが了解されたと私は思います。
そういうことで1週間延びて、2月3日(月曜日)発売の「AERA」に掲載されました。しかし、土曜日には都内には出ていましたので、(西岡さんが言った)同じ日にというのは間違いです。
それはともかくとして、印刷にかかる直前だったと思いますが、夜遅く、早紀江さんから編集部に電話があり、私が出たか編集長が出たか記憶があいまいですが、「やっぱりやめてくれ」、「名前を出すのだったら掲載しないでくれ」という強い、強い申入れがありました。
色々な議論が交わされた後、結果的に名前は掲載されました。それについては今もって色々考えるべきことがあると思っています。そういう経過でした。