拉致発覚から20年?我々はどこまで来たのかー東京連続集会93全報告
◆インチキ記事と書いた日教組、社民党機関紙
長谷川煕(ジャーナリスト、元「AERA」記者)
私がこの記事を書きましたら色々な反応がありました。その反応に私はむしろ慄然としました。日本の実態というものが、変な言い方ですが、あざやかに出ていると思ったのです。悪い意味で。
その反応のいくつかをちょっと紹介しますと、まず社内のある人が、「こんなものが出ていますよ」と言って、小さな版の新聞のような定期刊行物です。それをずっととっておいたのですが、いくさ探してもみつかりませんでした。あったら本日皆様にコピーしてもいいと思っていました。
それは日本教職員組合の槙枝元文元委員長が発行人となっている印刷物で、そこに「こんな記事を書きやがった」という気持ちが表れているような表現でした。「これは韓国情報機関の安全企画部のでたらめ宣伝の提灯を持ったようなインチキ記事」。そういう趣旨の中味で、しかも、「これを書いた記者は新潟の現場の取材もしていやがらない」ということまで付け加えてあるんです。
私には何の取材もありませんでした。新潟の現場の取材をしなくても十分に書ける内容ですが、私は繰り返し新潟の現場に行き、拉致された横田めぐみさんが住んでいた家、通っていた中学校付近一帯を何度も何度も歩いてみました。その他色々な取材を新潟市内でしています。全く虚偽の捏造を、この槙枝元文元日教組委員長が出しているミニコミにはそういうことが載っているわけです。
新聞社に入ると、かけだしの記者、新入生は2つくらいの支局を回らされます。私は2番目の支局が新潟支局でした。新潟市内のことはよく知っています。1年半くらい新潟にいて、市内を歩き回っていた人間です。さらに私は後に結婚した妻が新潟市の人間です。その関係もあって、新潟市にはしょっちゅう行っていましたのでよく知っています。
この槙枝元文元日教組委員長が出しているミニコミは、ただの一度も私に電話もしないで全くの嘘、でたらめを書き連ねている。そしてそのうち私が驚いたのは、当時の社会民主党、土井たか子委員長の機関雑誌に、「月刊社会民主」というのがあります。その1997年7月号、この記事が出た数か月後に、驚くべきことが書いてあるんです。これを持って来ましたので読み上げさせてください。
一言で言えば、横田めぐみさんという少女が北朝鮮に拉致されたというこの記事は全くのでたらめ、ということです。こういう言い方です。
「それが北朝鮮の犯行とする少女拉致疑惑事件は、新しく創作された事件というほかはない。拉致疑惑事件は、日本政府に北朝鮮への食糧支援をさせないことを狙いとして、最近になって考え出され、発表された事件なのである」と。
全くの捏造だと社会民主党の機関雑誌「月刊社会民主」がそう書いています。これは当時の党のホームページにも載っていました。これには私はびっくりしました。私が取材をしないでけしからんという以前のことです。
さらに、外務省の槙田邦彦アジア局長は自由民主党の関係会合で、「たった10人とか何人とかのことで日朝国交正常化交渉が止まっていいんですかねえ」という発言をしているんです。この暴言をした外務省局長は何ら処分されていません。それどころか某国の大使に栄転しています。これが日本の外務省なんです。あるいはこれが日本政府というべきなのか。
さらに、東大名誉教授の和田春樹という人は、この記事の4年後、2001年1、2月の雑誌「世界」で、一言で言えば。「そんなことはいい加減な話だ」と言っています。現物がここにあります。そういうことが延々と続いて、今も続いているのではないかと思います。
不思議なことに、今週、朝日新聞はこの和田春樹をにぎにぎしく取り上げた連載をしており、その第1回で、質問者が「北朝鮮との間では拉致問題で進展がありませんね」と聞くと、和田春樹という人は、「拉致は大変痛ましい問題ですが、北朝鮮が死亡したという人について、『生存しているはずだ、返せ』と言うだけでは交渉になりません」と一方的に北朝鮮側に立って話しています。北朝鮮が言っていることを真実だという前提に立っています。
この和田春樹についての「人間紹介」の第1回目ですが、「本日の夕刊第7回目によれば、この質問者は「雑誌世界」の2001年1月号と2月号に、『拉致疑惑には断定するだけの根拠は存在しない』という論文を発表していますね」と書かれています。
「これについてその時点ではっきりした証拠があったのは辛光洙に拉致された原敕晁さんだけでした」とか、色んなとんでもないことが書いてあります。これは全然違います。当時2001年、少なくとも2000年段階ではもう十分な証拠が出ていて、従って、極めて慎重で、政治的問題が起きるのを恐れてか、必要以上に慎重を極めていた警察庁でさえ、きちんと何件何人という数字を出して断定しているわけです。
こういうでたらめ発言を延々といまも続いているんです。こういうことを私は重視したいんです。
西岡 私も思い出すと、97年の夏くらいだったと思いますが、「朝まで生テレビ」という討論番組があり、「北朝鮮問題で討論してくれ」と言われて出たところ、吉田康彦さんという大阪法経大学の教授が前に坐っていて、当時「拉致事件はでっち上げである」ということを延々とやっていました。
2000年にもはやり「北朝鮮問題を議論するから出てほしい」と言われて、「いいですよ」と言ったんですが、その後電話がかかってきて、「司会者の田原総一朗さんと相談したが、今回は西岡先生の出演は取りやめになりました」と言われました。「理由は何ですか」と聞いたら、「今回は朝鮮総連に出てもらいたい。朝鮮総連は西岡先生との同席を拒否している。それで出演を取りやめにすることにした」と。
2000年当時、朝鮮総連は「拉致はでっち上げだ」と言っていました。私は「拉致がある」と言っていました。私は朝鮮総連と議論していいと言っていたのですが、朝鮮総連を出席させるために、「拉致がある」という人を一度頼んだのに辞めさせた。こういうのが2002年以前のマスコミの状況でした。