北朝鮮の食糧農業2017/18
2018年10月15日記
平田隆太郎
平田隆太郎
1.はじめに
2018年7月9日、FAO(国連食糧農業機関)が報告した、「北朝鮮の食糧需給概要2017/18」についてコメントしたい。なお、2017/18農業年度の期間は、2017年11月1日から2018年10月末までを指すが、2017年9月、10月の主要期に収穫された穀物(秋作)がこの時期に消費されるので、この期間の食糧に含まれ、2018年6月までに収穫された早期作物(冬春作)と合わせて報告された。
国連機関のFAOとWFP(世界食糧計画)の報告は、北朝鮮で餓死が多発した1995年以降数年間はデータも少なかったが、その後2013/14年度までは、2005、2006、2007、2009年を除いて秋作の収穫後に、長文の「北朝鮮の食糧需給概要」が公表されてきた。
しかし、2014年には報告がなく、2014/15年度報告は2015年2月3日に、FAOが単独で短く報告しただけであった。以来、現在まで毎年FAOが短い報告をするだけになった。WFPは2005年以降北朝鮮が入国を拒否し、一時的に復活したこともあったがその後援助から撤退した。
国連の安全保障理事会は、核実験やミサイルの発射を繰り返す北朝鮮に対して、2006年10月以降何度も制裁決議を採択してきた。しかし、制裁決議で禁じられてはいない人道支援に対しても国際社会の支援は急速に減少してきた。
そういう中で、国連機関の中で食糧問題に関わるFAOは北朝鮮との関係を断ち切らず一定の支援を継続し、北朝鮮もかつてほどの量は期待できないとしても、国連機関から一定の支援を受けられることに期待して、国連機関への食糧生産量等の報告を続けてきた。
また、国連機関は北朝鮮農業省の報告数値に対し、それなりの調査に基づく調整値を出してきたが、近年は北朝鮮農業省の食糧生産報告をほぼそのまま公表しているようである。
その上、食糧需給に関しては、かつては自留地と傾斜地の食糧生産量を報告してきたにも関わらず、生産量をゼロにして総生産量を少なく見せ、その分多めの不足量を出し、北朝鮮に有利になるよう一定の配慮もしている。
FAOは、2017/18年度の総生産量は548.66万トンで、前年度の574.4万トンで前年に比べ約5%減少と報告した。米の生産量は玄米で表示するのが一般的であるが、米についてはは籾付重で計量した数値である。
他方、食糧需給概要では、米は籾付の66%重として精米重で出し、また大豆はカロリーが高いことを理由に20%増しの重量で生産量は472.2万トンと報告した。これでは前年度の515.1万トンに比べ約9.1%減少となる。そして人口2,528万人に対する需要を推計し、純不足量約65万トンについて国際社会に支援を訴えた。
生産量減少の原因は旱魃等とされるが、FAOは2017年7月20日、「2001年以来の大規模な旱魃により食糧不足が深刻化しており、食料の輸入が必要」との報告書を出し、国際社会に支援を要求した。しかし、不足の実態は、傾斜地の生産量22万トンをゼロとみなしたもので、2015/16年度からは最も反収の多い自留地の生産量もゼロとして報告している。
北朝鮮にとっては、「食糧不足が深刻化」等と大げさな宣伝をしてくれた上に、見かけの不足量も大きく見せてくれるという点では国連機関はありがたい存在となっている。
他方、国連機関も立ち入り禁止地域をなくせなど、これまで北朝鮮が見せたくない領域にも踏み込んだり、国の機密である人口統計を、嘘ではあっても提出させられる等、北朝鮮のふところに一定程度踏み込んでもきた。
また、2018年4月に、国連食糧農業機関(FAO)と世界食糧計画(WFP)が共同で発表した「2018年世界食糧危機報告書」では、「データの不足により正確な予想が立てられない」と率直に述べている。
目次
1.はじめに
2.2017/18年度の食糧生産量
◆米は報告値157万トンの半分程度か
◆メイズの収量も報告の半分程度
◆じゃが芋の収量ももっと少ない
◆傾斜地・自留地生産を外し生産量を少なめに見せた
◆傾斜地の畑作は収奪への抵抗だった
3.北朝鮮は人口を水増して一人当たり食糧を少なく見せてきた
◆1995年から1998年まで300万人が餓死
◆人口と食糧生産量を水増し報告する理由
4.基準が異なる生産量報告で支援を訴え
◆国連機関は北朝鮮農業省の報告が過大であると分かっていた
5.国連機関の報告は水増し?北朝鮮の食糧生産
6.北朝鮮への食糧支援について