北朝鮮の食糧農業2017/18
6.北朝鮮への食糧支援について
国連機関は20年以上にわたり北朝鮮の人道支援に関与し続けてきた。モニタリングはしていると主張しているが、それは配給のモニターのみで、消費のモニターではない。配給された食糧がほとんど回収されていることは報告していない。
餓死者がもっとも多く発生した96?98年のうち、一番苦しかった98年に脱北した人々は国際支援を恨んでいた。「98年当時、人民を弾圧する社会安全部などの末端組織が食料不足で崩壊寸前だったのに、国際支援でまず弾圧組織が息を吹き返した」という。「もう少し放置していたら弾圧機関が崩壊し、多くの人民が救われた」と彼らは恨んでいるのである。
人道が行われない国への「人道」支援は、独裁者を利することになりかねない。国連機関は、「配給のモニター」を力説するが、人道が行われない国で敢えて人道支援を行うなら、保存可能な穀物ではなく、調理された食事を提供し、その場で食べてもらうしかない。「配給のモニター」はモニターとはいえない。炊き出し支援のような、「消費のモニター」こそが独裁国の支援には重要である。
筆者は以前から「米よりご飯を」と主張してきたが、その場で消費される形での食糧支援以外には、北朝鮮では配給はできないだろう。それを受け入れないのなら、支援はすべきではない。
それでも国連機関やNGO等は、少しでも弱者に対して支援を届けようとしてきたが、北朝鮮のような個人独裁の国に対する支援はよほど効率性に配慮しないと自己満足に終わってしまうことになりかねない。
北朝鮮では米は特権層の主食で、人民の主食は飼料用とうもろこし(メイズ)である。特権層だった脱北者に聞くと、田植えや収穫時に強制的に農村に応援に行かされるが、そういう時しかメイズは食べたことがなかったという。メイズは食べられるというだけで、とてもおいしいとは思えない一般人民の主食なのである。それを数十年も食べさせられてきた。これだけでも重大な人権侵害である。
国内の弱者を支援する立場の国連機関は、総生産量と総人口から一人当たりの穀物消費量を示さず、北朝鮮政府が示した一人当たり需要に対して、「わずかに不足」とか「大幅に不足」等と報告しているが、人によって食べている穀物の種類が異なることは報告していない。これでは「米はほとんど食べられない」、「米を食べたい」という一般人民の声は理解できない。消費した穀物の内容に踏み込んで報告をすべきである。
また、国連機関はこれまで毎回自留地のデータを2.5万ヘクタールで7.5万トンが収穫されていると報告してきたが、2015/16年度には自留地の生産量を削除して不足分を減らし、その分も含めて緊急支援を訴えた。
さらに2016/17には、これまで22万トンとしてきた傾斜地の生産量を2万トンとし、2017/18年度から削除した。理由として北朝鮮政府が傾斜地の緑化計画を進めているからだとしている。
しかし、傾斜地は国家の収奪に対する人民の抵抗の場であり、本気で緑化するならその分を人民に担保しなければ、極めて厳しい収奪となってしまうのであるが、そのことには言及していない。
2018年8月22日には、国連環境計画(UNEP)のソールハイム事務局長が北朝鮮を訪問し、荒廃した山林復旧など議論したようであるが、今後北朝鮮は山林復旧で国連機関から支援を得ようとしているようである。
しかし、同じ国連機関でもFAOは、「世界の食糧生産と分配の改善と生活向上を目的とする国際連合の専門機関の一つ」であるが、人道が行われない国への人道支援の妥当性、有効性をきちんと説明せず、北朝鮮のような非人道国家への支援を継続してきた。独裁国家であろうと、多数の外国人を拉致し、人民を飢えさせ続ける非人道国家であろうと、ひたすら「人道」支援を続けることを正義としていることに矛盾を感じざるをえない。
さらに北朝鮮が、命令型の非主体的な「主体農法」を止め、家族農に転換できれば、食糧問題は一定程度解決するだろうが、国内の政治問題に一切関与しないことを方針としてきた国連機関の人道支援には疑問が残る。
以上
目次
1.はじめに
2.2017/18年度の食糧生産量
◆米は報告値157万トンの半分程度か
◆メイズの収量も報告の半分程度
◆じゃが芋の収量ももっと少ない
◆傾斜地・自留地生産を外し生産量を少なめに見せた
◆傾斜地の畑作は収奪への抵抗だった
3.北朝鮮は人口を水増して一人当たり食糧を少なく見せてきた
◆1995年から1998年まで300万人が餓死
◆人口と食糧生産量を水増し報告する理由
4.基準が異なる生産量報告で支援を訴え
◆国連機関は北朝鮮農業省の報告が過大であると分かっていた
5.国連機関の報告は水増し?北朝鮮の食糧生産
6.北朝鮮への食糧支援について