国際セミナー「激動する朝鮮半島情勢の下で拉致被害者救出を考える」全報告
◆生きて故郷(北朝鮮・日本)に帰らなければならない思いは同じ
金聖玟(自由北朝鮮放送代表、脱北者)
昨年脳腫瘍に転移した肺癌の末期でした。脳の手術を受けた後、抗がん剤の治療を続けています。そして金正恩がいない故郷にどうしても帰らなければならないという思いで、また皆さん方に申し上げなければならないという思いで、なんとか死なないでこうして生き残りました。
どんなことがあっても、生きて故郷に帰らなければならないという私や脱北者たちの考えは、今北朝鮮の凍土の中でどうしても日本に帰りたいと思っている、横田めぐみさんを初めとする拉致被害者の考えと同じではないかと思います。
◆米高官との対話
まず私が今年7月にアメリカのワシントンを訪問してきた報告を簡単にいたします。クルーズ上院議員、ルビオ上院議員等上院、下院の多くの皆さんに会いましたし、NSC、国務省等北朝鮮問題を担当する人たち、さらに副大統領東アジア上級補佐官等に会いました。
もちろん核心的な主題は6月のシンガポール会談で、この会談を通じて北朝鮮の核問題がどのようになっていくのかということでした。お会いしたアメリカの方々はみんな、我々の要求は「包括的・不可逆的で検証可能な核の放棄」だと言いました。
北朝鮮が、核物質、核兵器、核物質生産能力、弾道ミサイルとその生産能力廃棄に関するアメリカの立場は断固たるものでした。一例としてクルーズ上院議員は、「0.1グラムでも核物質が残っているならば、対北制裁を絶対に弱めることはない」と言っていました。
そのために初期の措置としてアメリカは核兵器と施設、核物質、弾道ミサイル等の在庫と現在の位置、核プログラム等に関する全体のリストを提出するよう金正恩に要求しています。
これに対して私は、北の考えは違うのではないか。北は核リストの提出の後の交渉が破れてしまう場合、人権問題等を口実に対北制裁が緩むのではないか、そして体制の転覆までも考えてくると思っているのではないかと私は言いました。
このような私に対して、エド・ロイス議員は、「核リストの提出のような、北朝鮮が先にやる措置があって初めて経済制裁の解除とアメリカの政治的な譲歩が行える」と言いました。
ルビオ議員の補佐官とは長い時間話ができました。私はそこで北朝鮮の人権問題を取り上げて、核問題だけが解決すれば制裁が解除されるというのがアメリカの立場なのかと聞きました。
彼らは北朝鮮の政治犯収容所の解体、宗教弾圧問題、そして日本人拉致問題等が含まれる包括的な人権問題を扱う大統領の行政命令があれば、それに従ったアメリカの独自制裁が存在するということを確認してくれました。言い換えるならば北朝鮮の核とは別に、北朝鮮の人権問題に照準を合わせたアメリカの独自制裁も存在するということです。
またホワイトハウスにも行って、この問題の関係者たちと多くの話をしました。北の非核化に対する韓国とアメリカの認識の違いについても重点的に話をしました。文在寅大統領は平和を、トランプ大統領は非核化を優先しているということを私は強調しました。
そのような中で金正恩は何の費用も払わないで米韓合同軍事訓練の中断という成果を得ています。そして韓米関係の根幹が揺さぶられる現象が生まれたのではないかと指摘しましたが、それに対してアメリカ側はまんまと騙されてはいないという話でした。ポッティンジャーNSCアジア上級部長やエリソン・フッカーNSC韓半島担当補佐官の話です。