国際セミナー「激動する朝鮮半島情勢の下で拉致被害者救出を考える」全報告
◆拉致問題が米韓同盟問題等、大きな問題と絡み合ってくることも
古森義久(ジャーナリスト、麗澤大学特別教授)
北朝鮮の今の動きは核兵器の全廃ということをなんとか先に延ばすかあるいはしないですまして、その一方でアメリカのあるいは国連の経済制裁を緩和、あるいは除去して経済的な利益を得ようとする、基本的にはそういう特徴の制作です。
それに対して今、アメリカのトランプ政権がここに来て、急に批判し、問題視し始めたのは、今キムさんもおっしゃいましたが、韓国の文在寅大統領の態度です。これは非核化という本来の、そして韓国にとっても非常に重要であるべき問題をないがしろにして、とくかく北朝鮮の要請に応じて経済的利益だけを与え始めている。あるいは軍事的な緊張緩和措置を許していると言っています。
これはマイク・ポンペオというトランプ政権の国務長官が11月20日に、国務省で記者会見をして、はっきり韓国という国名を挙げて、「今の状態では困る。とにかく非核化を優先した上で、それが実現できることが分かった上でこそ経済面での利益供与を北朝鮮に対してやってくれ」、と。
ご存知のように今、韓国と北朝鮮は南北共通の鉄道を作るとか、あるいは天然ガスなどのエネルギーのパイプラインを作るとか、あるいは非武装地帯、軍事境界線のあたりの監視所を全部なくしてしまうとか、非武装地帯の上の空域を飛行禁止にしてしまう。空軍力は韓国軍が米軍より強いですから、最悪の場合の有事に備えてこの空域を使って演習などをすることを一切やめてしまう。これらは明らかにアメリカにとって不利、北朝鮮にとって有利ということで、いくつもいくとも北朝鮮を利するような措置を文在寅政権がとっている。
これに対し、かなり強い言葉でポンペオ国務長官が公式の会見の場で抗議しています。それに対して文在寅政権はすぐに、大丈夫だ、大丈夫だというようなことを言っているわけです。
韓国というのはアメリカの北朝鮮政策にとって不確定、頼りにならない要因になってきたということです。やはり日本人拉致事件の解決という点でも、金正恩政権が弱い立場にいく、核問題で完全に核を放棄することをしない限りは、自分たちが滅びてしまうというところまで行けば、アメリカ側の政策目的としては理想的なわけです。
北朝鮮が、強くなる、生き残る、なんとか切り抜けてしまうというようなことはだめで、これは拉致問題解決の展望とも密接に絡み合った問題として、韓国が果たす役割、あるいは役割を果たすべきなのに果たさないというのは米韓間で非常に大きな問題になっています。
将来的には米韓同盟はどうなんだと、北朝鮮が全く脅威でなくなったら在韓米軍はいらないんじゃないのというような議論が当然出てくるわけで、大変次元の大きな問題です。私が報道で申し上げているのは、幸か不幸か拉致問題が非常に大きな問題と絡み合ってきたということです。