救う会全国協議会

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北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会

北朝鮮の食糧農業2018/19



2.2018/19年度の食糧生産量

 FAO/WFPは、国際社会で使用する玄米重ではなく、米の生産量は籾付重で、食糧需給表では精米重で報告している。また、北朝鮮ではメイズという飼料用とうもろこしが一般人民の主食となっているが、これはかつて製粉重85%としていたのを現在は100%換算にしており、さらに大豆はカロリーが高いとの理由で重量を20%増しにし、多めに、つまり北朝鮮には不利な報告をしている。じゃが芋は穀物ではないがカロリーで見ると重量の25%相当として計上している。じゃが芋に関しては生産量の表でも食糧需給表でも25%重で出しており、100%重では出していない。これらのため大変分かりにくい報告となっている。
 また、かつては面積、反収、生産量を一つの表にしていたが、今期はそれらを別々に表記したり、一部作物だけ報告したため分かりにくくなった。米、メイズ、大豆は各地の生産量と全国の合計値を出し、集計から生産量が小数点以下2桁まで報告している。雑穀、じゃが芋は反収について報告がなく、冬・春小麦、春じゃが芋は面積と反収の報告がない。また生産量は小数点以下1桁で報告し、かつてない報告となっている。
◆米
 米は北朝鮮では特権層の主食である。特権層の子弟だった脱北者に聞くと、田植えや収穫時に強制的に農村に応援に行かされた時しかメイズは食べたことがなかったという。従って、配給を受けている下層の住民に対する米の配給は極めて少ない割合になる。
 2018/19年度の米の生産量は、籾付で208.76万トン(前年度238.33万トン)、精米後では137.78万トン(157.3万トン)で、10a当たりの反収は籾付きで440kg、精米で330kgと報告された。国際基準である玄米なら、ロスがなければ約367.4kg(6.1俵強)くらいになる。
 世界の米の貿易では、質が劣化しないよう、精米する前の玄米量で計量し、取引きされる。統計も玄米重でなされる。国連機関が北朝鮮の米の収穫量を精米後の数値で計上するのは、人道支援を行うだけに、実際に人々の口に入る量が目安になるからと説明しているが、生産量を少なくし、食糧不足量を多く見せることにもなる。
 なお、日本や韓国では籾殻のついた米を玄米にすると重量が約80%になり、玄米を精米すると玄米重の約90%になる。従って籾殻付を精米にすると72%重になる。報告では脱穀機、籾摺機、精米機の劣化を理由に、北朝鮮の米に関してはさらに6%減らし、66%重としている。なお、報告では従来籾付きに対する精米値は65%としてきたが、2012/13年度から66%に変更し、生産量を少なくし、食糧不足量を多くしている。
 ちなみに、稲穂から籾を取り離すのが脱穀、籾から籾殻を取り除き玄米にするのが籾摺り、玄米から表皮や胚芽を取り離すのが精米である。日本では稲刈りから脱穀、水分量15%程度まで乾燥することをコンバイン及びそれとセットになっている乾燥機で一気に処理する。
 しかし北朝鮮では稲束を稲架(はさ)にかけて自然乾燥しない。刈り取った稲は野外に野積みされたままで、蒸れてロスが出る。筆者は籾から芽が出ているのを目撃したことがある。輸送が容易でないからである。山ははげ山になっており、稲架にする竹や木がないのだが、それよりも乾燥すると水分が減ってノルマを達成できないから水分を含んだまま出荷してきた。まさに水増しで、当然みかけの重量が重くなるわけである。
 さらに北朝鮮の食糧倉庫には冷凍設備がなく(あっても電気が1日4時間程度しかこないので使えない)、倉庫内で「自然乾燥」させていると現地で聞いたことがある。「問題はない」と言っていたが、倉庫に運ばれた穀物は水分を多く含んでいるため、自然乾燥すると、むれてかびが付いたり、腐ったりしてロスが出る。
 日本の2018年産米の平均反収(10アール当たり)は玄米で532kg(約8.9俵)であった。2018年の北朝鮮米は籾付で440kg/10a、精米で330kg/10aと報告されたので、玄米なら約366.7kg(6.1俵強)になり、日本の約69%採れたことになる。
 北朝鮮米で一般的な品種「統一」の種籾を持ち帰り、新潟県農業試験場で育てた結果が「This is 読売」(1998年8月号)に掲載されたことがある。結果は「日本の半分も採れなかった」というものだった。
 北朝鮮と比べて、土壌、気温、日射量、肥料、品種改良等あらゆる面で最高の条件が整った日本の農業試験場で栽培しても半分も採れなかったということは、「統一」を北朝鮮で栽培すれば日本の3分の1程度、実態は玄米で反収180kg(約3俵)程度であろう。従って、籾付で500kg、玄米で約367.4kg/10aという数値は、実際はロスが出るのでこれよりやや低い量になるが、著しく過大な数値と見るべきだろう。
 北朝鮮の米づくりの環境について見ると、米は高温を好み、大量の水が必要だが、北朝鮮は日照量が少なく、平均気温が低く、雨も少ない。韓国の気象庁が2012年1月に発表した、「北朝鮮気象30年報」によると、北朝鮮の年平均気温は8.5度で韓国より4度低い。日本の年平均気温は15度で、韓国は12.5度、北朝鮮は8.5度なので、米作りには厳しい環境であることが分かる。
 また、北朝鮮の8月の平均気温は22.6度でしかない。年間降水量は919.7ミリ。なお、韓国に近い福岡県博多市の年間平均気温は17.1度で北朝鮮より8.6度高く、年間降水量は1,774ミリで北朝鮮の倍近くある。雪国の新潟市の場合、年平均気温は13.9 ℃で北朝鮮より5.4度高く、年間降水量は1,821ミリ。このよう環境で日本の3分の2も米が採れるはずがないのである。
 生産量が多くなるのは各地域からの、ノルマを達成したかのような報告をそのまま上に上げるために起きることであるが、FAO/WFPは恐らく知ってはいるのだろう。筆者も見たが、国連機関は特定の水田で1m四方を区切って収穫量を見る「坪刈り」をしているので、収穫量がどの程度かは分かっている筈である。しかし、報告で指摘したことがない。撤退したくないからだろうか。
 もともと北朝鮮は正確な計測などできない国なのである。食糧倉庫に送られたカマス(1袋50kg)の枚数の合計で米の生産量として報告される。しかしカマスには水分の多い籾付の米に砂やわら屑なども入っている。日本では排除される小米も入っているので味が落ちる。
 また、「This is 読売」の記事によると、「米の30%は未成熟で日本では規格外の米だった」、「また精米すると米粒が30%も割れて吹き飛んでしまう」とのことである。これを胴割れという。米に筋が入っていて、そこから割れる品種である。さらにすべての稲でいもち病が発生した。葉が3倍になること、いもち病が発生すること等いずれも品種改良がなされていないことを示している。
 なお、先述の記事では、北朝鮮の稲は、穂の数は日本と同じだが、葉が3倍もあり、盛んに枝分かれして無駄な養分を吸い取っていたというから肥料が無駄になっているわけだ。
 日本の農業団体が訪朝して種籾を提供したこともあったが、その後何の進展も見られない。種籾を使って栽培はされたのだろうが、収穫された種子を、食べるのを数年我慢して全国の種籾にするということができないらしい。どうしても関係者が我慢できず食べてしまうこと、そして数年でせっかくの遺伝子が現地米と受粉して優れた遺伝子が無くなってしまううからだろうということだった。
 日本では土がやわらかいので田植え機が使えるが、北朝鮮の土は粘土質のために、機械的に穴を開けたところに苗を植え付けることができない。田植えだけではないが、農作業全体が人力(農村支援隊という人海戦術)と牛力で行われている。苗を運ぶにも、一輪車や軽自動車がないので、天秤棒を使って人力で行うしかない。
 苗の成長は気温によるところが大きいため地域により成長に差が出るのは当然だが、北朝鮮では「主体農法」により全国一斉に20日間くらいの間に田植えが行われる。そのため冷害や霜害の影響を受けやすくなっている。稲刈りも同じように一斉に行われ、まだ実っていないまま刈られることもある。
 また水田の水を深くして温度を上げ苗を守るとか、根に酸素を送るため水をためたり、乾かしたりするというような水管理も行われていない。筆者は農業用水から水田に水を送るポンプを90年代後半に見たことがあるが、すでに能力が劣化していて、効率がよくなかった。またこのようなポンプの普及度はかなり低いと思われる。なお北朝鮮では木材がほとんど自給できないので水車もない。
 日本では田植えの前に、田んぼに水を張りトラクターで水と土をよく混ぜることで水と肥料を均一化しているが、北朝鮮ではそれができていないので葉の緑いろが多様になる。
 また、日本の稲作では窒素肥料成分1に対してリン酸肥料は1またはやや多め、カリ肥料は1より多めに与えるが、FAOの報告では、2017年の全国の農地に対する施肥量は、窒素20.5%含有肥料が60万トン、燐酸17%含有が1万トン、カリ48-62%含有が2千トンと窒素肥料に偏っている。これも収穫減の原因である。窒素が多いのは堆肥に加える糞尿に依存しているからでもある。各戸が人糞を提供するのは義務となっている。
 窒素は葉や茎の成長をうながす働きをするが、北朝鮮の「統一」は、このような状況から窒素を無駄に吸い取るような品種になってしまっている。そして実の成る稲などに窒素を与えすぎると、結実しにくくなる。燐酸は開花・結実を促す働きをし、カリは根の成長を促し、植物体を丈夫にして病気や寒さなどに対する抵抗力を高める働きがある。これも収穫減の原因となる。
 カリについて言うと、朝鮮半島の土壌は花崗岩が風化してできたものでケイ酸が多く、ケイ酸が多い土はマグネシウム、ナトリウム、カリウム等の微量元素をあまり含まないという特徴があり、この特徴は韓国より北朝鮮に行くほど強い。またケイ酸が多いと、植物に必要な成分を吸着保持する力が弱く、水分保持能力も少なく、有機物も吸着保持しにくい。つまり北朝鮮の土壌は元々生産性が低いということである。
 以上のような農業環境では農業生産は大変難しい。日本の平均生産量の69%も採れたという報告は全く信用できない。朝鮮半島は元々南半部が穀倉地帯で、食糧を南から北に送っていたことを考えると、北朝鮮だけで充分な米を確保するのは、現体制のままでは今後もかなり難しいだろう。
◆メイズ
 メイズはとうもろこしの品種の中のデントコーン種で、一般には飼料用穀物として栽培されているものであるが、北朝鮮では人民の主食として栽培されている。食用のスイートコーンより収穫量が多いことから、北朝鮮で食用とされたようだ。粘り気が強く、食べられなくはないが、糖度は大根程度でおいしいとはいえない。北朝鮮人民の大半の主食はまさに餌であり、大半の人々の楽しみを奪う人権蹂躙が長く行われてきたと言えよう。
 今期のメイズは、収量が187.62万トン(前期219.98万トン)、反収4.3t/ha(3.7 t/ha)と報告された。
  北朝鮮では農場にも倉庫にも計量器がないため、メイズも収穫後皮をはいだ状態が生産量になる。そうして作られた数字が187.62万トン、反収4.3t/haである。北朝鮮の食糧統計はすべて乾燥が不十分なまま計量されているが、国連機関は北朝鮮当局の報告値をそのまま計上してきた。
 収穫後、生のメイズの皮をはぎ、自然乾燥すると、65?70%もある水分を10%台まで少なくすることができる。日本では機械的に乾燥するので、粉末化する際、水分をほぼ0%にできるが、北朝鮮では乾燥機がほとんどなく、あっても電気が不足し機械的な乾燥はできない。
 メイズは皮をむいた穂軸のままの状態で野外で自然乾燥させる。この穂軸がついたままの重量が生産量になる。その上で脱穀して袋に詰め、倉庫でも「自然乾燥」させるのが北朝鮮での一般的な乾燥法である。野外では雨も降るし、この間にかなりのロスが出る。そして穂軸の分と、水分が抜けた分、生産量が大幅に減少する。残存水分割合15%とすると、50?55%も重量が減り、重量は約半分以下になる。メイズは北朝鮮で水増しが最も多い作物である。
 メイズはそのまま茹でて食べると消化がよくないので製粉化するが、その過程でも皮膜の除去と加工上のロスが出る。2008年までの国連機関の報告では、製粉値を85%(ロス15%)としており、その分生産量が少なくなっていた。国連機関はおかしなことに、その後ロスは出ないとして重量の100%を計上している。これは国連機関による水増しである。
 とうもろこしは水分が多い作物で、例えばスイートコーンは水分が77%もある。スイートコーンはそのまま食べるので水分が多くてもいいが、北朝鮮のメイズは粉末にしたものを調理して食べる。乾燥するとさらに収量が減り、国連報告の半分以下になるわけである。
 さらに倉庫で貯蔵する際に、水分を含んだメイズは、倉庫内で蒸れてカビが発生し、虫害やねずみ等の害でロスも出る。国連機関はメイズの収穫後ロスは従来通り17%としている。
 とうもろこしは比較的連作障害が起きにくい作物ではあるが、同じ土地に何十年も同じ作物を植え続ければ、肥料の大食漢であるだけに当然連作障害が起きる。しかし、北朝鮮独特の「主体農法」では毎年同じ土地に同じものを作り続けなければならず、輪作など農民の主体的な工夫の余地はない。従ってメイズに必要な肥料や微量元素が集中的に失われ、生産量が極端に悪くなるのである。
 従って187.62万トン収穫されたと報告されたが、実態は100万トン以下であろう。
 またトウモロコシには大量の水が不可欠である。旱魃が発生するとかなりの被害が出る。2018/19年度は「長期にわたる乾燥、異常な高温、洪水、および限られた農業資材」により32.36万トン減と報告された。
 北朝鮮の農業科学院出身の脱北者イ・ミンボク氏は、「北朝鮮は想像を超えた閉鎖的な国であるため、どんな専門機関であっても食糧問題に関しては正確な数値を予測できない。明確な分析がなされないまま、北朝鮮の統計に頼って数値を予測することは、北朝鮮の意図に巻き込まれる危険性がある」(「デイリーNK」2012.11.15)と指摘している。
 これについてはかつて金日成も水産部門の会議で次のように述べたことがある。「私が1973年に農業を指導した当時、農業部門には正確な統計数字がありませんでした。私に報告される党中央委員会の数字、政務院の数字、農業委員会の数字、中央統計局の数字がそれぞれみな違っていました」。おそらく今も正確な数字はないというのが実態だろう。
 トウモロコシはどちらかと言うと高温に強く、寒さに弱いため、定植後の低温は大変危険です。栽培期間中は平均気温15℃以上、最低気温10℃以上で霜の降りない事が条件。平壌辺りでも4月の最低気温は10度以下で、5月末にやっと15度程度になる。霜が降りたら上手く育たなくなる恐れがある。日本の寒冷地では苗を植え付けたら低いシートをかけて覆うか温室で育て、寒さを防ぐが、北朝鮮では機材がないためシートは使われていない。
 この寒さ対策として、まず苗の作り方が異例なものである。堆肥を手で丸くしたものの中にメイズの種を数粒入れて、発酵熱で育てる。しかし芽を出してもしばらくは堆肥の中なので、もやしのような苗になる。堆肥から出すまで約1か月半から2か月かかる。当然ひ弱な苗になる。育苗が栽培の一番の勝負だが、もやしのような苗では収量が減るのは当然となる。
 またトウモロコシは茎がどんどん成長するので、倒れないようにするにはある程度深く植えなければならないが、北朝鮮の傾斜地は土壌がわずかしかない。私が見たところはほとんど1センチくらい。メイズはもう少し土壌がある所に植えるとは思いうが、それでも2?3センチくらいではないだろうか。平坦な畑地なら一定の収量は見込めるが、傾斜地ではかなり収量が減ると思われる。それでも収奪への対抗として植えざるを得ないのが長い伝統になっている。
 北朝鮮では雑草がほとんど見られない。雑草が生えるような空き地は必ず何かが植えられている。
 またメイズの多くは傾斜地に植えられるので、事前の堆肥運びも、苗箱を持って運ぶのも、収穫後に茎を引き抜いて降ろすのも大変な仕事になる。平地で葉や茎を粉砕してまた傾斜地に担ぎ上げ肥料にする。傾斜地なので機械に頼るのも難しい。
 さらにメイズも3倍密植されるが、密植すると1本当たりの肥料が少なくなる。しかしトウモロコシはどれでも肥料を多く必要とするので密植すると収量が減る原因になる。
 これらのことを考え合わせると、どう考えても実際の収穫量は報告値187.62万トンの半分以下になる。
◆じゃが芋
 じゃが芋の2018/19年度の生産量は、49.9万トン(前期47.33万トン)と報告された。これは国連機関がじゃが芋を穀物に入れるために、カロリーから見て実物重の25%が相当するということで25%重にしたもので、実物重は189.32万トンとなる。反収は実物重でメインシーズンが8.4トン/ha、春作が10トン/haということである。
 この内、飼料に2万トン、種子が8.5万トン必要で、収穫後ロスが12.5万トン発生するので、食糧になるのは26.9万トンとなるとのことである。
 じゃが芋は1995年に国連機関が北朝鮮に支援に入って調査して以来、収量を増やすための二毛作の候補として勧め、1998年以降支援してきたものであるが、これを受けて金正日が、1998年10月に中朝国境に接する両江道の大紅湍(テホンダン)農場で「じゃがいも生産に力を集中しよう」、「反収6トンを達成せよ」とと言ったことから始まったものである。
 その結果、小麦と大麦の作付面積が2003年以降減少し、その分じゃが芋の作付面積が特に両江道で急増した。国連機関は、「両江道では、配給量のほとんどがじゃが芋(80?90%)と米または小麦(10?20%)」と報告している。
 実は金正日が視察した大紅湍(テホンダン)農場やその近郊で、2001年から2004年まで、総連北海道本部の依頼で、日本人の専門家佐藤久泰氏がじゃがいも栽培について指導しており、同氏の報告「朝鮮民主主義人民共和国の馬鈴薯事情」(「北農」第69巻第4号、2002年10月)がある。
 それによると、大紅湍郡では1998年欧州から導入した10a当たり8トン収穫できる種芋を試験栽培したところ、それまで10a当たり2トンだった生産高を7.1トンに伸ばしたという。また、北朝鮮と取引のある機械メーカーを通じて十勝産の種芋も送り込まれていたが、十勝産は疫病に弱いということで、欧州産が植えられていたようである。
 なお、アメリカのとうもろこしの反収は約45トン/ha、日本約30トン/ha、韓国約25トン/ha程度なので、北朝鮮の10トン以下の収量はかなり低いと言える。佐藤氏が関与したた大紅湍農場やその近郊での栽培は当初、3トン?5.2トンとあまりふるわなかったが、その後大紅湍農場で6トンを達成したという。 しかし、2018/19年度のじゃが芋生産はメインシーズンが2.1トン/ha、春じゃが芋が2.5トン/haと著しく減少しており、外国の支援があったにも関わらず、同じように毎年連作した結果反収が落ちているようだ。
 そして、北朝鮮のじゃが芋栽培の問題点をいくつかあげている。まず窒素施肥量が10a当たり20キロと多く、茎が軟弱で茎の長さが1.5m?2mにもなる。密植も茎が長くなる原因とのこと。また、防除も葉裏に薬液が付着するような散布になっていない等疫病防除が適切でないことを挙げている。さらに、太陽光による浴光催芽では、芽が出る前の種芋選別が不十分で、病芋や奇形芋など種芋として不適切なものがかなり含まれており、その種芋消毒をしないため、切芋をしないため全粒の種芋となっている。種芋を切って消毒をするのだが、消毒剤がないので切ることができず、1個植えなので無駄が出る、と報告している。
 なお、北朝鮮では種芋を植える時期は食糧が一番不足する端境期のため、農民が種芋を植える仕事をしている時、責任者の目を盗んで一部の種芋を土中に埋めておき、後で取り出して市場で売ったりしているらしい。これも収奪に対する抵抗の一つだ。
 さて、密植について佐藤氏が、10a当たり5000株以上の栽培を止め4000個にしたらどうかと提案したが、「実施できない事情がある」と聞いている。これは「主体農法」のことで、農民が主体的に変えることができないということだ。
 小麦と大麦の作付面積を減少させてじゃが芋の面積を増やし、また外国の支援も受けてきたが、結局その後は北朝鮮で同じ品種を毎年継続して植えてきたため、連作による地力低下や連作障害が起きており、収量が減っている。
 実は日本時代の北朝鮮では、まず家畜を飼ってその糞尿をたい肥にして土壌を改良し、じゃが芋も含め毎年植える作物を変える輪作をしていた。とにかく土づくりを優先して行わせていたのである。さらに牛乳や肉を売って収入にもしていた。そんな農業が「主体農法」で一変してしまったのである。
 問題は「主体農法」だけでなく、北朝鮮の政権は農民を豊かにすると忠誠心が落ちてしまうので、食糧生産を重視せず生かさず殺さずの状態にしてきた。そのためまず生産資材が徹底的に不足し人力、畜力に頼る農業しかできていない。また電力や燃料が不足し、電力や燃料で動く機械や冷凍・乾燥設備もおろそかにされているため収穫後ロスが発生している。
 じゃが芋は長期間保存できない作物だが、毎年輸送事情がひっ迫しており野外に放置されているようだ。じゃが芋の芽には毒があり、特に野外で太陽の光をあびると毒が増える。近年は制裁の影響もあり、輸送コストも多くかかるらしい。
 なお、欧州各国の支援で農業科学院生物研究所でじゃが芋の試験栽培が行われている。種芋にウイルスが入り込まないよう培養液に漬けてから栽培するよう勧め、種芋栽培に一時的に成功もしている。
 筆者は90年代後半に、北朝鮮農業科学院で欧州産の種芋を見たことがあるがかなり大きいサイズだった。じゃが芋の専門家に聞くと、「大きな芋を北朝鮮で植えても小さな芋にしかならない」、「北朝鮮では土壌にウイルスがあるので10トン/haしかとれない」と聞いた。実態はもっと少ないがそう言わなければならないのだろう。
◆雑穀
 2018/19の報告では雑穀の生産量は全体の0.5%以下でしかない。「主体農法」によりメイズに代わられたからである。しかし、メイズより雑穀の方が栄養価が高く、はるかに美味である。
 雑穀は多くの水を必要とするメイズより旱魃に強く、荒地でもかなりの収穫が見込める。種を蒔くだけで育つので労働量も少なくて済む。メイズには大量の肥料が必要だが、雑穀には少量で足る。稗、粟、黍などの雑穀は栽培期間が短いので、稲やメイズが乾燥で枯れた田畑に植え直せば、ロスを補うこともできる救荒作物でもある。
 しかし、国連機関は未だ雑穀を薦めたようには見えない。北朝鮮が受け入れないから言わなくなったのか。おそらく国連機関はこれらの雑穀をよく知らないのではないか。粟ご飯とか稗かゆを食べたことがないのだろう。
◆自留地
 2013/14年度から2018/19年度までのの食糧生産量を並べてみたのが下記の表2である。

 自留地(家庭菜園)は宅地前の農地で家族が自由に栽培できる家庭菜園である。FAOはこれまで、自留地は02/03年度から、傾斜地は03/04年度からそれぞれの生産量を報告してきたが、自留地は2014/15年度から、傾斜地は2017/18年度から除外された。その結果、約30万トンも不足量が多くなり、支援必要量が多めになることになった。これは北朝鮮への迎合としか思えない。
 なお国連機関は、実際の収穫量を算定するため、2002年度報告から自留地における食糧生産を約5万トンで追加し、09/10年から7.5万トンとしてきた。傾斜地における食糧生産は03/04年度5.5万トンで追加し、09/10年から15万トンに、11/12年度から22万トン前後としてきた。これらは、不足量を産出するには不可欠な数値であるが、政府の配給の対象にはならないので、別枠で計上し、不足量の算定には加えてきたものであるが、それが外されることになったのである。
 世界食糧計画(WFP)が2013年7月に調査した結果では、北朝鮮人民の66%が自留地を持っているという。北朝鮮の農地でもっとも生産性が高い自留地をなぜ外したのか。また、70%が自宅で家畜を飼い、89%が山菜の採取を行っているという。余剰分は市場で売って現金収入を得るためである。
 北朝鮮の自留地は、農村に居住する住民一軒当たり30坪と法律に決められているが、筆者が1990年代後半に見た自留地はほとんど20坪程度であった。
 しかし、協同農場と比べて自留地の作物ははるかに生産量が高いことを目視することができた。協同農場での労働は苦役に等しいので可能な限り仕事をしている振りをして疲労しないよう努めているが、自留地の生産はすべて家族の食糧となるので、当然のことながら力の入れ方がまるで異なるからである。
 また可能な限り家畜を育て、肥料を自前で作る努力をしたり、より品質の高い種子を選別して次年度に使うなど、創意工夫もなされている。北朝鮮の農業は主体農法によってなされていると言うが、自留地こそ主体的な農業がある程度実現している現場である。しかし、これまで自留地について国連機関は、協同農場の生産量より低い反収で報告してきている。
 実は北朝鮮では自留地の畑作の反収が協同農場の反収よりどの作物も高い。しかし留地の反収は3t/haと報告してきた。そのことを国連機関は理解はしているが、北朝鮮当局の要請に屈しているようだ。
 今年度の不足量は約136万トンとされたが、自留地と傾斜地を含めていれば不足量は約106万トンになる。自留地の生産量は報告値よりもっと多いから不足量はさらに少なくなる。またかつては北朝鮮政府が自ら輸入して不足量の一部を補っており、その量は30万トン程度を見積もっていたが、今期は20万トンにして不足量を多く見せている。約束済み支援量は未だ2.1万トンに過ぎない。
 拉致被害者蓮池薫さんは、「協同農場の畑は赤茶けてやせて見えたが、個人農地はいつも黒々としていた」として、自留地についてこう記述している。
 協同農場の農業は年間を通して単作かせいぜい二毛作だが、個人のうちでは三毛作が普通だった。凍土が溶ける3月末に早生のジャガイモを植え付け、それが芽を出し何枚かの葉をつけるころになると、すかさず横にトウモロコシをまいた。さらに、成長したトウモロコシがまわりに影を落とすころにはジャガイモを収穫し、代わりに白菜や大根など秋野菜の種をまく。9月初めにトウモロコシが刈り取られると、秋野菜は日光を浴びてすくすく育ち、11月中旬のキムジャン(キムチづくりの年中行事)の直前に収穫される。この間、畑には雑草一本見当たらない。表土が絶えずホミという朝鮮独特の除草具で掻きまわされているからだ。一年間フル回転した個人の土は、ようやく翌春までの眠りにつく。ただ、畑の一角にはニンニクが植えられ、その上は枯れたトウモロコシの茎でうずたかく覆われる。その下でじっくりと根を伸ばしたニンニクは、翌年の三月初めごろになって勢いよく芽を出すが、これまで含めると実に四毛作となる。
 中国ではかつて改革開放政策に転じ、農地の使用を家族単位とすることを認めてから食糧生産量が飛躍的に増加した。中国の自留地は北朝鮮より広く、以前から耕地面積の約5%が自留地だったが、北朝鮮の農地は約200万haの内、傾斜地55万haを除外すると145万haになる。自留地2.5万haは、その1.7%程度にしかならない。自留地が一番生産性が高いのだから、自留地の面積を少し増やすだけで、国連機関が訴える不足量などすぐに改善できるだろう。
 問題は、それだけでは北朝鮮の食糧問題は改善しないということだ。なぜなら、国連機関の報告は、北朝鮮農業省の報告のままに実態の約2倍の収穫があるように公表しているからだ。
 国連世界食糧計画(WFP)のビーズリー事務局長は2018年5月15日、ソウルで記者会見し、「北朝鮮では年間約100万?200万トンの食料が不足し、1990年代のような深刻な飢饉ではないが、栄養不足が依然として続いている」と述べている。不足量がFAOの報告値よりかなり多い。実態は分かっているということなのか、北朝鮮に復帰したかったから不足量を多めにしたのか不明である。
 さらに北朝鮮が自留地を増やさないのには理由がある。脱北者で、強制収容所に入れられていた姜哲煥(カン・チョルファン)氏は、「今、北朝鮮で個人的に農業ができないのは、全人口の半分を占める農民階級を国が統制できなくなるからだ。北朝鮮でも民主化運動が可能な『自由な土壌』が生まれるのを根本から防ぐためには、多数の農民を奴隷化するしかない」と述べている(産経新聞2011.04.27)。
 北朝鮮が改革・開放すれば食糧問題は解決するが、問題は、独裁政権を維持するために、金王朝を維持するために、朝鮮人民に意図的に最低の生活を強いているということなのである。
◆傾斜地
 今回、以下のような報告がなされた。
 傾斜が15度未満の耕作地は協同農場で管理され、傾斜が15度以上の土地は国土環境保護省(MoLEP)によって公式に管理されている。傾斜地は、協同農場と都市部の両方の家庭でも、トウモロコシ、大豆、野菜、その他の作物を自家消費のために栽培するために使用されている。この慣行は、1990年代後半に遡る。
 これは、一般的な食料不足により、土地利用規制が緩和され、世帯が傾斜地に耕作を拡大した時である。しかし、2014年に政府は植林プログラムを開始し、傾斜地からの生産が徐々に低下した。
 これは、「傾斜地からの生産が徐々に低下」したから生産量からはずしたという言い訳である。
 北朝鮮の山には縦と横に線が見える。縦の線は水が流れた跡で、横の線は土留めの跡である。また、北朝鮮には木がないので山の稜線がはっきり見える。傾斜地にはほとんど土壌がなく生産性は極めて低い(0.5トン/ha)が、それでも生きるために傾斜地での栽培を止めるわけにはいかなかったのである。
 筆者が見た傾斜地は土壌が1センチ程度しかないものが多かった。北部の一部高山地域を除き、全土に300m程度の岩山が連なり、山と山の間に傾斜地があり、その下に小さな畑があり、水田稲作が可能な所は畑の下に2枚か3枚の水田がある。一番下に道路がある。これが北朝鮮の風景である。
 さらに、「傾斜が15度未満の耕作地は協同農場で管理され」とあるが、朝鮮では傾斜15度を改め、傾斜16度まで畑作が許されていた。今は15度に戻されたのか不明ながら、実際にはそれよりはるかに急な傾斜地でも作物が植えられている。それより上の山には木がほとんどなく、今にも転げ落ちそうな大小の岩が傾斜地に留まっているのが見える。また、木がある山でも土壌が浅いから直径15cm以上の木はほとんどない。
 「この慣行は、1990年代後半に遡」るとあるが、「苦難の行軍」の時代から傾斜地利用が始まったのではない。1990年代後半どころか李王朝時代から収奪への対応として傾斜地での栽培行われていた。傾斜地栽培は山腹の歴史的な隠し畑で、古くから中央集権制による収奪への抵抗の一つとしてなされてきたものなのである。その他、小さな自留地に植えられている柿、さつまいも、屋根にはわせるかぼちゃなども抵抗の一つと言えよう。
 森林面積に関連するデータがある。国連開発計画(UNDP)が最近ウェブサイトで公開した報告書『人間開発指数と指標(2018統計資料改訂版)』によると、2015年現在で北朝鮮の国土に占める山林の割合は41.8%だった。1990年(68.1%)と比べると38.7%減少している。
 北朝鮮の山は、北部の高山地帯を除き、ほとんど木がなくはげ山になっている。「韓国のアカマツの森林とはげ山の風景は、人間がくり返し森林を伐採した結果形成されたことが明らかとなった。そして、アカマツの優先する風景は、すでに6,500年前に始まっていたことも明らかとなった」とのことである。(安田喜憲他「韓国における環境変遷史と農耕の起源」文部省海外学術調査報告1980)。
 なお、平壌放送は2018年8月22日、日本が「朝鮮の山をはげ山にした」として、「わが人民は、日本の山林資源略奪の犯罪行為を徹底的に清算し、その代価を受け取らずにはいない」と、平気で嘘の主張をしている。今はげ山化が進んでいるのは、収奪に対する人民が生きるためのやむを得ない抵抗のためである。
 また、傾斜地栽培の結果、河川や港に土壌が堆積し、元山では1万トンの万景峰号すら接岸できなくなり、豪雨の度に洪水を起こすようになったのも農民収奪の結果である。
  2008年の人口センサス調査の時、いくつもの追加調査がなされたが、「暖房や料理の木材依存度が5割弱ある」と報告された。北朝鮮では木材は貴重品で、人民が燃料に使える余地はほとんどないのに不思議な調査結果である。その他、「児童の学校出席率100%」等、多くの子どもたちが食べられるものを探して町に出ているのに、信じられないことが多数報告された。
 北朝鮮では、雨が降った時に傾斜地の大きな岩が道路まで転げ落ちてくる。北朝鮮では対向車線に自動車が走っていることはまれなので、転がり落ちた岩を避けるには、中央分離帯がない道路を対向車線に入ってよけるしかない。
 また、道路は舗装されていても大きな穴があいている所があるので、この場合も対向車線に入る。北朝鮮における交通事故はこの岩や穴によって起きることが多いのではないか。開いた穴を塞ぐために10人くらいの人々が集まって、のんびりと手作業している所を何度か見たことがある。
◆国連機関の報告は、国際社会の支援を訴えるためだけに作られる

 表3を見ると、国連機関は基準が異なる生産量報告で支援を訴えてきたことが分かる。2018/19年度は、「食糧不足がこの10年で最も深刻」と訴えた。しかし、自留地、傾斜地の収量29.5万トンを削除しておいて、このような訴えをするのは詐欺的である。この分を加えると、2009/10年度から3年間の方が少ないのである。
 以下に、国連機関が公表した食糧生産量の変遷について見てみたい。
 例えば傾斜地は2004年の報告で初めて登場し、7.5万haで5.5万トン(メイズとじゃが芋のみ)生産、反収73.3kg/10aであったが、2008年の報告で30万haに急増し、この年のみ製粉値75%を適用して11.3万トンとした(反収37.6kg/10a)。さらに、2012年の報告で50万haに急増した。メイズの製粉値は2009年の報告で100%に戻し、2012年の報告では、傾斜地の面積を55万haに増やし、収量22万トンとした(反収40 kg/10a)。
 これは、EUの食料安全保障局がグーグルアースを使って調べ、傾斜地面積は約55万haとしたのを受けて変更したものである。2004年の報告の5.5万トンが、いつのまにか22万トンに化けてしまったのであるが、このようななデータを元に支援を訴えてきたということになる。そして、2018年の報告で消えてしまった。
 そもそも国連機関が食糧危機として北朝鮮の支援に入った1995年には米とメイズしか報告していなかった(表3)。翌年から二毛作を奨励し、じゃが芋の種芋と麦の種を支援し始め、1999/00年度からじゃが芋、雑穀を報告値に追加した。2009年には雑穀から大豆を独立した項目にした上で、カロリーが高いという理由で120%重で報告するようになった。
 さらに、2008/09年までは国連機関はメイズの製粉などのロスがあるとして収穫量の85%重を生産量として公表してきたが、その後100%に変更した。この時は生産量を増やして、支援量を減らしたのである。あるいは国際社会への期待度が減ったので、支援量を減らしたのかもしれない。
 ちなみに、かつては米の精米重は66%、雑穀は92%、麦類92%、傾斜地・自留地75%だったが、現在はメイズ、雑穀、麦類、傾斜地・自留地は100%としている。生産量はさじ加減次第で増やすことも、減らすこともできるということである。
 要するに国連機関の報告は、国際社会の支援を訴えるためだけに作られるもので、調査基準が毎回異なり、支援される側の実態を正確に報告したデータではない。
◆水増し報告を受け入れた国連機関
 国連機関初めて北朝鮮の支援に入った1995年は、8月の大洪水を受けての緊急事態ということから、北朝鮮の主食で、7割から8割弱を占める米とメイズだけの生産量を聞き取り、それを元に調査も確認もしないで国際社会に支援を訴えたようだ。
 この時国連機関は過去の米とメイズの食糧生産量として、1989年810万トンだったのが1993年に664万トンにまでに落ち込み、1995年は493万トンに減少したと聞いている。その後もずっとこの数値をグラフで出し続けており、少なくともそれだけの生産があったことについては疑っていないようだ。
 そして米の反収に関して言えば、1989年は約600kg/10a、1993年は約530 kg /10a、1995年は約400kg /10aだったという。
 97年に報告されたグラフから推定するとこれは籾付重である。米の生産量を表すのは国際的に玄米重だが、籾付重を報告したのは、不足量を大きく見せようとしたのであろう。
 しかし、後の報告では実際に食べられる量が重要ということで籾付重に加えて精米重も報告するようになった。そのため玄米重がどのくらいになるのか明確でない。国連機関で北朝鮮を担当する人々の中に米の専門家がおらず、玄米率が分からないまま、その後ずっと籾付重と精米重で報告していると思われる。精米率は当初65%相当としていたが、後に66%に訂正している。
 1989年に600kg/10a取れたという報告を前提に、国連機関は一定の条件が整えばまたこのくらい採れると、報告書で北朝鮮の努力を奨励したりもしている。1989年の反収600kg/10aは、籾摺りの過程でロスがなかったとすると、玄米なら480kg/10aになる。日本の2017年の534kg/10aの約90%程度にもなってしまう。
 国連機関で米の専門家がいれば、おかしいと思ったであろうが、国連機関の目的は弱者に食糧を与え命を救うことにあるので、農業に関する詳細にはあまり関心を向けてこなかったようである。
 加えて、北朝鮮の食糧不足ということで新しい仕事を増やし、スタッフを増やすこともできた。ともかく悲惨さを国際社会に訴え、一定の支援を得ることができれば幹部の実績にもなる。
 北朝鮮の種籾を、気候条件を含め、あらゆる点で北朝鮮よりすぐれた日本の農業試験場で栽培したところ、日本の半分以下の米しか収穫できなかったことを考えると、いい時には日本の約9割とれたという数値が如何に過大であるか分かる。
 北朝鮮としては、国連機関に支援を訴えるため少ない数値を作って、1995年の籾付重を493万トンにしたのであろうが、これでさえ日本の約6割程度とれたことになり、かなり過大な数値だったのである。
 実は北朝鮮側には国際支援を受けるのに躊躇があった。北朝鮮はそれまで自力更生を国家、国民のスローガンとしており、他国の支援を受けることには強い抵抗感があった。支援を受けるために北朝鮮の様々なデータを出さねばならないことには拒否感があった。
 1991年に、国連機関のWFPに北朝鮮からスタッフが派遣されていた。そのスタッフから、本国の上司に対し、食糧生産量や人口のデータを適当に出せば簡単に国際支援が得られるとの報告がなされた。しかし金日成存命中は、国連機関は「北朝鮮の国家秘密を探り、体制を崩壊させようとしている」として反対したが、金日成の死亡後、金正日が人民の飢饉に背に腹は代えらず支援を受けることにしたのである。
 とはいえ、1995年、96年に、筆者が北朝鮮で聞き取った話では常に自力更生が強調されており、まだ金日成時代の雰囲気が残っていた。しかし、最後に、「でも支援が得られるのはありがたいと」付け足しのように話していた。
 それが1997年から事情が変わり、やせこけた子どもの写真を積極的に取らせるなど、国際社会から支援を得るには宣伝が必要であることを学習した。筆者も、97年以降は一般の民家の家族から聞き取りをすることが許された。「私たちは将軍様のふところに抱かれているので自力更生できる」と言いつつ、「米を食べたい。米を支援してほしい」との声を聞いた。
 そしてこの時期に北朝鮮は莫大な量の食糧をただで手に入れることに成功したのである。国連機関から支援が得られることを通報した北朝鮮のスタッフは、後に金正日に表彰されたという。しかし、外の世界に出ることができた彼はその後脱北したので我々が以上の経過を知ることができるようになったわけである。
 なお、北朝鮮では飼料用とうもろこしであるメイズを一般人民の主食としている。しかし、国連機関が餓死の最中の1995年に初めて聞き取った米とメイズだけで493万トン収穫という数値は、その後報告された生産量の中で、米とメイズの収穫量が最大だった2014年の508.2万トンにほぼ等しい生産量だった。1995年には50万人も餓死があったとされるが、2014年には餓死者の報告がない。1995年の実態は生産量がもっと少なかったので餓死者が出たのである。
 1995年と96年は作物別の生産量もなく総量だけが計上されていた。おそらくこの時点で国連機関は、北朝鮮に新たな拠点ができたということだけで、つまり仕事を増やしたことだけで満足し、十分な調査はしていなかったと思われる。
 しかも、1996年は299.5万トンと激減したと聞き、ともかく国際社会に支援量を増やすよう訴える努力に集中したと思われる。



  
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