大統領選挙と拉致問題_東京連続集会112
◆対北融和派が対北政策を担当する可能性
島田洋一(救う会副会長、福井県立大学教授)
問題は、バイデンが交渉によって北朝鮮の核・ミサイルの削減を実現したいと思って動き出したら危ない。バイデンの周りの人間はみんな段階的に一歩一歩非核化を実現すべき、と。つまりこれは北朝鮮が言っていることです。
例えばまず、核施設の一部を凍結する。それに対して制裁の一部解除。それを積み重ねるということです。これはまさに騙されるパターンです。
バイデン氏は上院外交委員長だった頃、北朝鮮問題担当の補佐官は上院外交委員会のスタッフでもあるんですが、委員長の事実上の補佐官の役割をします。この人がフランク・ジャヌージ氏という人物がいて、私も7、8回色々な所で議論したことがあるんですが、現在マンスフィールド財団の理事長をやっています。
彼は「北朝鮮の人権侵害は許せない」と言うんですが、こちらが「じゃあ制裁強化を」と言うと、「それは間違っている。交渉は一歩、一歩誤解を解きながら協議を進めていかなければならない」というようなことを言って、宥和的な立場を守ることについてはかたくなです。
このジャヌージという人物が北朝鮮との交渉に携わるようになると、非常に危ない。こちらも何回も会って面識やルートはありますので、「会ってくれ」と言えば断ることはないと思います。起用されるかどうか分かりませんが、今から要注意です。
駐米日本大使館が早く接触して、拉致に関する日本の立場をしっかり打ち込んでおかなければならない。そういうポイント・マンの一人です。
一番危ないのが、スーザン・ライス氏が国務長官候補に上がっていることです。彼女はオバマ政権の時の国連大使を務め、その後オバマ氏が国務長官に指名しようとしたのですが、色々な問題があり、上院の承認がいるのですが共和党の反対もあり、断念して、国家安全保障問題担当大統領補佐官に起用しました。
オバマ自身、このスーザン・ライスを起用したのは、黒人であり女性であるからで、政権に多様性をもたらしたいと、政権のイメージ戦略の面が強かったのです。もちろん黒人女性には立派な人たちがたくさんいますが、実力のある黒人女性ならどんどん起用すべきですが、このスーザン・ライスという人はクリントン政権で国務長官を務めたマデレーン・オルブライトとライスのお母さんが親友ということもあって、オルブライトが国務長官の時にスーザン・ライスはまだ30代だったのですが、アフリカ担当の国務次官補に起用した。大抜擢です。
しかし、はっきり言って実力がついていかない感があった。具体的に言うと、彼女がオバマ政権の時の安保補佐官の時、「北朝鮮の核保有は絶対に認めない」と繰り返し言っていたんです。ところがトランプ政権になって、「北朝鮮を核保有国として認めるべき。認めた上で平和共存を図るべき」と。
だから定見がない。言っていることが信用できないタイプです。もともときとんと物を考えていないから変わるわけです。北朝鮮の核問題に関する彼女の言説は非常にドラマティックで問題です。
従って、スーザン・ライス国務長官で、フランク・ジャヌージが北朝鮮交渉を担当することになると、日本にとっては最も危ない、一言でいえば、「拉致問題の解決が遠のいて核問題でも騙される」ことになります。ちょうどブッシュ政権末期に、コンドリーサ・ライス国務長官とクリストファー・ヒル国務次官補のコンビが同じパターンで騙されたわけですが、その第2幕を演じかねない。
ブッシュ政権の時は、ディック・チェイニーという立派な副大統領がいましたので、彼がかなりブレーキをかけていたのです。チェイニーは回顧録に書いているんですが、「北朝鮮に対して制裁を解除したら、拉致問題を重視する日本との信頼関係が壊れる。だからだめだ」と。
ところが当時の福田康夫首相が北朝鮮にたぶらかされて、調査委員会設置と引き換えに、かなりの制裁を解除した。それでチェーニーは、はしごをはずされてしまった。そしてライス、ヒルが、「日本自身が制裁を緩和したじゃないか。だからアメリカが解除しても日本から文句は言われないでしょう」と。それでチェイニーがせっかくかけた制裁をかけられなくなった。