第4部 拉致問題の解決策
4-1 櫻井よしこ・ジャーナリスト
櫻井 これまでのセッションで「拉致問題の全体像」などを語り合いながら、本当に多くの問題があるということに気がついてきた。しかし、問題を解決すにはどうしたらいいのか、そのためには何をしたらいいのか、具体的に詰めなければならない。単に抗議をするだけでなく、家族として、政治家として、言論人として何をすべきかということをお話しいただきたい。
まず、韓国からおいでいただいた金聖玟さんにお願いしたい。
4-2 金 聖玟・自由北朝鮮放送代表、脱北者同志会前会長
北朝鮮の住民に拉致を知らしめ、真の解放運動を起こそう
拉致問題をめぐって色々な方にお会いできた。また、痛みも分かち合うことができた。
拉致問題について、北朝鮮の元住民の一人としてこう思う。北朝鮮での生活が思い出される。私たちが苦しかった以上に、日本人拉致被害者がどんなに苦しい思いをしただろうか。どんなに辛い日々だっただろうか。奪われた自分の人生で、どんなに無念だろうかと思う。
私は北朝鮮で、人民軍の将校だった。このような会合の場に居合わせる度に、深い自責の念にかられる。拉致問題を解決するために自分にできることは何だろうか。自分自身に問うてみた。その方策として、北朝鮮向けのラジオ放送を始めた。また、先ほど李政哲氏が証言したが、北朝鮮の人々は拉致ということすら分かっていない。北朝鮮の住民に拉致という問題があるということを知らせること、このこと自体が北朝鮮を揺り動かす大きな力になると思い、放送を始めた。
最初から、北朝鮮の人々に拉致問題を知らせるために取り組んできた。また、韓国の多くの拉致被害者がいるということも北朝鮮の住民に知らせたいと思う。日本人では、1か月に一度、西岡力氏に必ず私たちの放送局に来ていただき、1か月分の録音をしていただいている。
私たちの放送は民間の放送局だ。西岡氏と何度も話しているうちに私も痛切に思う。「拉致被害者を守れ、情報を提供してくれ、そしたら我々は補償する。しかし、拉致被害者を傷つければ日本政府は許さないし、日本国民も許さない」という脅迫に近い放送を展開している。このような私たちのメッセージが北朝鮮に伝わるとすれば、特に拉致被害者に伝わるとすれば、必ず効果があると考え、日々の放送に臨んでいる。
私たちは2004年から、インターネットでこの放送を始めた。5分であってもいい、北朝鮮の人々に届いてほしい、という願いを込めて放送した。今年の11月3日からは1日3時間のラジオ放送をしている。米国の対北放送は「自由アジア放送」、「米国の声」という二つがあるが、私たちは彼らが20年かけて達成した1日3時間放送を1年半で実現できた。
私たちは北朝鮮出身なので、北朝鮮住民の心情に思いをはせながら、またその人たちにアピールできる内容を考えている。12月5日から試験放送を始めたが、朝の5時から5時半まで30分間、「拉致問題特別放送」を毎日やろうと準備している。1月1日から開始しようと思っている。370kw、民間放送でこれだけ高い周波数を使うのはあまりないと聞く。北朝鮮当局がコントロールできない高出力の周波数での放送だ。これからも放送を続けたいと思うし、拉致家族会の皆様、救う会の皆様の愛、そして信念、意思が北朝鮮側に伝わるように取り組みたいと思っている。
拉致問題を解決するために、是非お話ししたいことがある。拉致問題を解決するために色々な方法があるだろう。金正日が満足するくらいたくさんのお金を与えるという方法もあるだろう。「私は娘を失いこんなに辛い。なんとか助けてください。親愛なる指導者同志」と、ただひたすらお願いする方法もあるだろう。また、平壌に乗り込んで爆弾を投下する方法もあるだろう。しかし、合理的ではないと思う。
そこで次のような方法はどうだろうか。韓国政府が途中で止め、脱北者がやっているが、拉致があることすら分からない北朝鮮の住民に、アドバルーンを通じてビラを配る。大量のビラを撒くことだ。そこで北朝鮮の住民が、「拉致という問題がある。将軍は大変偉大と思っていたがこんなことをしていたのか」ということを北朝鮮の住民に知らしめることだ。また、ラジオを通じて、そういう事実があることを北朝鮮住民に知らしめる。続けていけば、北朝鮮の住民の気持ちを動かすことができる。そうすれば様々なルートで民主化の意識が芽生えるのではないか。北朝鮮内部で、真の民主化運動、真の解放運動が起こるのではないか。
金正日が死んで初めて拉致問題が解決できると思う。金正日政権が崩壊して初めて拉致問題が解決される。だから積極的な手立てとともに、北朝鮮内部での民主化運動を支援しなければならない。民主主義政権の発足に向けて、政府、家族会、国民の皆様に、共に力を合わせることを呼びかけたい。
櫻井よしこ
次に、タイのホーラーチャイクンさんにお願いしたい。
4-3 S.ホーラーチャイクン・チュラロンコーン大学政治学部助教授
通訳=海老原智治・パヤップ大学講師=北朝鮮に拉致された人々を救援する会(ARNKA)・チェンマイ代表
拉致被害者救出は人間としての共通した問題
今日はタイでは祝日で憲法記念日だ。バンコクに居れば、憲法問題についてのインタビューを、マスコミから一日中受け続けていただろう。私はこの10年、憲法の人権問題ばかりインタビューを受けてきた。この4、5年で考えると、人権問題はタイでも非常に複雑な状況にある。嬉しいことは、人権問題の解決ということで、人権という共通の価値に基づいて様々な国と連携が可能になりつつあることだ。また、難しくしている点というのは、この問題は、NGOだけでは解決が難しいが、政府だけでも解決は難しいということだ。従って、助け合いながら補い合わなければならないという面がある。
私が、海老原氏と会う前に人権問題で取り組んできた時は、ほとんど隣国であるビルマの人権問題だった。極めて当初の時期は、北朝鮮の状況はビルマと同じような状況かと漠然と思ったりした。しかし、今回のセミナーで色々な話を聞いて、北朝鮮という国のあまりの特異性、即ちどこの国とも共通しない特異性が浮き彫りになってきたと思う。
それは、人材が欠けていたり、自国が必要な人材獲得を拉致という方法に頼るという点だ。これは非常に組織された拉致であり、それをどのように組織してきたから前のセッションのパネラーが十分説明したと思う。詳しいことは英語のペーパーに書いたが、重複するのでここでは割愛する。
我々がタイで直面している北朝鮮の人権問題は脱北者の問題で、南中国からラオスを越えて北部タイの国境へ陸路でやってくる人たちだ。脱北者の人々がタイ政府当局から受けている扱いは十分に人道的な扱いとは言いがたいものがある。例えば、私たちは9月にタイで北朝鮮人権国際会議を開催したが、その中で明らかになったことの一つは、イミグレーションの収容所の中の状況が、まるで刑務所のようであるということだ。我々のセミナーの結果、在バンコクの北朝鮮大使館は、かなり態度を硬化させたもようだ。
実は、国際会議が終わった後、会議の主催者であった私は、私の友人とともに北朝鮮大使館の人に食事に招かれ、バンコク市内のレストランで食事を共にすることになった。
驚くことに北朝鮮の大使自らがレストランに待っていて、書記官と二人で食事した。北朝鮮とタイとの間には、タイ・北朝鮮友好協会というものがあり、その時にも「友好」や「学者」などということを前面に出して、「人権」は後に引っ込めたような話になった。その時私は、ジェンキンス氏から提供された、アノーチャーさんとジェンキンスさんが北朝鮮の海岸で撮った写真を持参し、北朝鮮の大使に見せた。すると大使は、非常に態度を硬化させて怒った。その時大使が言った言葉は、「事の是非を語る前に、このジェンキンスという男がどういう男なのかまずそれを語らなくてはいけない」。私はこう言ってやった。「ジェンキンスさんがどのような人物であれ、ここに写っているアノーチャーという人が問題だ。どうなっているのか」と。まずジェンキンスさんの問題を挙げて、目先をごまかしているのだ。
ジェンキンスさんは、お母さんが二人いるような境遇の人かもしれない。アメリカに一人いて、また北朝鮮に一人いるかもしれない。ジェンキンスさんの個人的な背景をどう言おうとそれは何の問題でもない。なぜこの写真の後ろにアノーチャーさんが写っているのか。これがあくまで問題なのだ。そして北朝鮮側が言うには、また目先をくらませて、「私たち北朝鮮はタイの王室とも深い関係にある」という。それで私も言った。「ではなぜタイ人をこんな風に拉致するのか」と。そして「そのようなことを心配する以前に私たちが心配するのはアノーチャーのことで、いつアノーチャーが帰ってこられるか。これを説明してほしい」と言った。
あまり議論が白熱して互いに硬い口調になってきたので、私の友達が横にいて止めに入った。なにしろあちらは大使なので、それなりの遠慮が必要だ。私は少し席を立ってタバコを一服吸うことにした。そうしたら書記官の一人が立ち上がってやってきた。「ちょっと待ってくれ。俺もタバコが吸いたくなったから」と。そして、「あなたは言おうとしていることは話としては分かる」という。それで、「話が分かるも分からないもない。アノーチャーはここに写っているのであって、北朝鮮にいる。それが帰ってこられるのかどうか。それだけの話だ」と。
そうしている間に、大使が出てきて、私たちの前を通って駐車場に去っていった。目で追って、どこに行くのだろうと見届けた。そしたら不思議なことに駐車場まで行き、またとって返して店に戻ってきた。少し不快な態度を私に見せ付けることで、言外に北朝鮮にとって言っていいことと悪いこと、北朝鮮側のラインというものを私に見せ付けたと考えられる。
そこでタバコを吸い終えて私も店に戻った。私はまた言ってやった。「あなた方が説明することは、もうこれまでの報道等ですべて聞いたことばかりだ。私がそんなことを信じるわけがない」。それからまた様々なやりとりが続いた。
私と同行した友人も、タイは自由主義の国だから何を言ってもいい、そういうスタンスで北朝鮮側に物を言った。そうすると北朝鮮側は、まるで決まったせりふを言うかのように北朝鮮の美しい事柄を、北朝鮮労働党の20年の歴史と交えて20分も、とうとうとして語りだした。外交官はもちろん胸に金正日のバッジを付けている。そのようなことで私たちも非常に不快な思いをした。
そのような経緯があったわけだが、今後もタイの方で取り組みたい、また隣の海老原さんにも託したいと思っていることがある。アノーチャーの問題こそが今のタイと北朝鮮との間の大きな障害であって、これをどうしていくのか。ここがポイントとならざるをえない。
おととい、私の勤務校のチュラロンコーン大学で、「めぐみ引き裂かれた30年」のタイ語字幕版のタイでの初上映を行った。私の教え子も多数鑑賞したが、涙を流す子が何人もいた。このようないい映画なら私はお願いがある。あの著作権をすべて買い上げて、すべて無償でCDで配布してほしい。これは非常に大きな意味があるだろう。先ほどもNGOが連合を組むという話があったが、これも使い方によってはタイの人権教育に用いることができる。このような取組みを後輩たちに伝えていくよい学生の教育の歴史につなげていく可能性がある。
いずれにしても北朝鮮の人権の問題、これは国民の意思または世論の下にあるもので、時の政府の意向だけに限定されるものではない。私の学生もこのことを知り、こういうことを言っている。「このことを働きかける手紙を連名で作り、政府に出したらどうか。必要なら北朝鮮側に提出したらどうか」。今タイにおいても経済成長がめざましいが、経済成長に先立って必要なことは人権の尊重だ。これをいかに伸ばしていけるかだ。
北朝鮮側に対し、どうしたら北朝鮮側に働きかけ、方針を転換させてこの問題を解決できるのか。これは色々な方策があり、タイでも人権というアプローチから行う必要があるが、それをどこまで貫徹できるのか。実はここにいる我々、また国民すべてにかかっていると言える。もちろんこの拉致問題というのは、私たちタイ人も憤りを感じている。決して日本だけの問題ではないし、韓国だけの問題でもなく、人間としての共通した問題だ。また、私は仏教徒としてもそのような思いを持っているし、今後もこの活動が継続され大きな成功を得ることを強く願っている。
4-4 横田滋・家族会前代表
世論を風化させないように努力を
めぐみが北朝鮮に拉致されて、11月15日で30年になった。この日は新潟市で県民集会が開かれた。
北朝鮮でのめぐみの生活については、あまりよく分からないが、平成14年の10月15日に蓮池さんたちが帰り、話を聞くと、専業主婦で食料は全く困っていないということだった。夫は非常にやさしい人で、ヘギョンさんをベビーカーに乗せて一緒に散歩した姿を見たとか、めぐみは体が弱いので家事を手伝っていた、バンジョン・パンジョイさんが持っている写真とまったくそっくりと言っていいほどの写真で、前に蓮池さんたちが大きく写り、後ろにめぐみとヘギョンさんと夫の金英男さんが写っている写真があった。時々バスを仕立てて海水浴に行くということなので、私たちが想像していたよりずいぶん幸せな生活もあったのだと感じた。
しかし、2004年に蓮池さんらの子どもたちが帰ってきてからは本当のことを話してくれるようになり、子育てに非常に困っていたという。制度的に、赤ちゃんが生まれたらおばさんが手伝いに来てくれるのが、来なくなったということ。また、(めぐみが拉致された時)子どもだったので、家に帰りたいということで、空港がある方に許可証も持たずに逃亡というほどのことではないが、歩いていって何度も連れ戻された。それで蓮池さんや地村さんが、「そんなことをしたら罰せられるから帰りたいと言うな」と言っても、なかなか言うことを聞かずに困らせたという話もあった。また紙に、拓也、哲也という名前を何回も書いて、兄弟のことを思っていたという。だからそんなに幸せな生活だったはずがないと思う。しかし、ヘギョンさんが立派な子どもに育ったということは、我々としてもよかったと思うし、一日も早く救出したいと思っている。
今回のテーマは、どうやって救出するかだが、家族にできることには限度があり、政府に救出をお願いすることしかなく、また世論を風化させないために講演会や集会にでかけたりすることしかできない。実際に昨日も長野県の飯田に行ってきたが、会場は立見がでるくらいの方が来てくださった。長野県の南部は初めてだったが、みんな大変なことだと言ってくださり、行けばとても効果があるということを感じた。
私は体調の関係があるので以前よりは少なくなるが、そのような活動をして世論を風化させないことくらいしかできないと思う。家族会としては、先般、飯塚さんと増元さんが、議員連盟の方々と一緒に訪米し、北朝鮮をテロ支援国家指定から解除しないように要請に行った他、色々な活動をしている。その時、私共は、テロ支援国家の指定の解除について反対する外交委員会の委員等107名に、協力依頼の手紙を、署名入りで、訪米直前に届くように出した。
個人的には、私の札幌時代の高校の同級生がフルブライト留学でアメリカに行き、そのまま留まってアメリカの市民権をとって大学の先生をやり、現在医者の人がいる。その人が、「昔の友だちの子どもが、ブッシュ大統領もご存知で、お会い下さった早紀江さんの子どものめぐみさんだ」という手紙を書いて、大統領とライス国務長官に出してくれた。色々な形で協力してくださる方々の力をお借りして我々は世論を風化させないように努力している。これからも続けていきたいので皆様のお力をお貸しいただき、救出してほしいと願っている。
4-5 横田早紀江・横田めぐみさん母
生命がどんなに大切なものかを一人ひとりが真剣に考える運動に
多くの方々の努力で、こんなに大変な問題がこのまま置き去りにされていいのだろうかというところまで、ようやく心が一つになって動くことができるようになった。一つの問題について、色々な方が、国内だけでなく、国外にも広がって、大事な生命がどんなにないがしろにされているのかということを真剣に考えるようになり、それを平然と冷酷なまでに行い続けている北朝鮮の指導者が、今も堂々とテレビに出てきているという状況だ。そんなことが許されるはずがない、必ず解決しようという大きな力となってここまでこれたことは、何というありがたいことかと思っている。
このような国民運動、これからは国際運動という形になるが、生命がどんなに大切なものかを一人ひとりが真剣に考える大きな国民運動、国際運動になっていくということは、とても大切なことだと思っている。
かわいそうな子どもたちだが、この被害者たちがこのまま埋没していくことがないように、そしてこの大変な30年間の苦労をした被害者たちが、私たち皆の苦労の中でこんなに素晴らしい日があったのだと、そして友好関係を作り出したのだという思いで、喜んで後の人生を迎えることができるようにと毎日お祈りしている。絶対にこれが無駄にならないように、子どもたちが本当によかったと思ってそれぞれの家族の所に帰ることができるように、私たちを助けていただきたい。一生懸命自分の国の人のために、またすべての人のために活動していただきたいと思う。
4-6 有本明弘・家族会副代表
国の安全保障と危機管理が一緒になった問題
私が拉致の問題に関わったのは、子どもが北朝鮮で生活しているという手紙を受け取ってからだ。色々な所に協力をお願いして運動してきた。その中で、拉致家族会もできた。この20年間の思いの中で、一番大きな問題は、拉致をした隣国北朝鮮が核武装したテロ国家であることだ。わが国はこれにどう対峙していくのか。これが一番大きなテーマで、わが国の憲法上、アメリカという同盟国を生かして対処するしか方法がない。ところがアメリカの態度が少し軟化した状況が生まれてきた。
そこで拉致議連の先生方がアメリカに行き、国民の意思と日本政府の意思をアメリカの政府要人に伝えてくださった。今後はこの日米同盟をどう生かして、あの北朝鮮の金正日のテロ国家体制に対決して北朝鮮を謝らせて普通の国にもっていく。これが日米同盟にとって今後に残された一番大きな課題であると思う。
あの国は、どんなことを言ってもみな嘘だ。テロを起こして、その犯人がつかまり、色々なことを話しても、韓国のでっち上げというようなことをうそぶいている。国の安全保障と危機管理が一緒になった問題だと思う。そういう認識に立って、注意深く見守ってほしい。
4-7 有本嘉代子・有本恵子さん母
全世界から拉致された人を全部返しなさい
1988年9月6日に、北海道から手紙が来て、北朝鮮に娘がいることが分かってから独自に動いたが、その時点では恵子だけが連れていかれたと思っていた。その思いで9年間動いたが、1995年に、朝日放送の石高氏が来て、「実はあなたのところだけじゃない。日本海から3組のアベックが拉致されている」と聞いた。「その方々にも声をかけて運動したらどうか」とのアドバイスをもらった。その時は家族会はできなかったが、横田めぐみさんのことが表に出て、横田さんが決心してくださって、10年前に運動が始まった。今思うと、こんなに大勢の方が支援してくださるとは、その時には夢にも思わなかったが、すぐに救う会ができ、救う会の力で政府とも交渉ができるようになった。
そういう段階を経て、2002年9月17日を迎えた。これで北朝鮮が拉致を認め、5人が帰ってきた。そのことにより報道が大きく報道した。一番ショックだったのは、9月17日、「8人は死んだ」と言われた時の記者会見で、早紀江さんが、「めぐみさんが本当に強い足跡を残していった」とはっきり言われ、「私はめぐみが死んだとは思いません。これからも運動を続けていきます」と力強く言われた。これで、国民の皆様が、「こんなことがあったのか」という思いで支援してくださるようになったと思う。
それで救う会もたくさん各地にでき、全国協議会となり、また国民の皆様がひとつになり支援してくださったことにより大きく動いたと思う。日本の国だけかと思っていたら、12か国の人が拉致されたことが、徐々に分かってきた。世界中にこのことが知れ渡るようになり、運動が大きくなった。私たちは、特定失踪者を含めて全部返してと北朝鮮に言わなくてはいけないと思うし、全世界から拉致された人を全部返しなさいと、はっきり北朝鮮に言わなければならない。
北朝鮮が、「これでは返さなければならない」というところまで追い詰めて、運動を続けていくことが一番大きなことだと思う。それには国民の皆様が最後まで、力を抜かないで支援してくださることだと思う。私たちはほうぼうに出かけると、必ず何人かの人が声をかけてくださる。「頑張ってください」と。声をかけてくださることがほんとうに心強い。国民の皆様が見てくださっているということで心丈夫になる。その思いで最後まで戦っていきたいと思っているが、歳には勝てず、自分の身体の衰えを感じるが、気持ちだけはしっかり持って最後まで頑張っていきたい。
櫻井よしこ
ご家族の方々の話を聞けば聞くほど、本当にどうやって解決できるのか、どうやって解決しなければならないのか真剣に考えるところだ。
4-8 西村眞悟・拉致議連幹事長
まず、拉致を否定させられる拉致被害者の「拉致認定」を
目的を明確に確定すれば、それを獲得する戦略が生まれる。その目的とはなにか、金聖玟氏が言われたように、金正日が死ぬ、政権が崩壊する、北に民主的政権が生まれる、ここに目的を設定すれば、我々は必ず勝つ。なぜなら、邪悪な政権は存続する筈がないからだ。
その上で、日本国政府は未だに危険な論理を持っている。それは寺越武志君のことだ。今年59歳になる男が、13歳で漁に出て、岸から見える所で漁をしていて行方不明になった。数十年後に北朝鮮にいることが分かった。これをテロと言わずして何というのか。
然るに、日本国政府は、寺越武志君が拉致された被害者であるとの認定をしていない。その理由は、寺越武志君自身が、「私は拉致された」と言っていないからだ。これは私が質問した時に、運輸大臣(当時)が答弁した。「本人が拉致されたと言っていない」、この論理こそ拉致被害者救出を崩壊させる論理だ。
明日北朝鮮が、平壌に拉致被害者を集めて、「我々は拉致されたのではない。我々は首領様を慕ってここに来た」と、帰国前の5人が、帰国前に平壌で語っていたとおりのことを語らせれば、その瞬間日本国政府の論理においては、拉致被害者はいなくなることになる。日本国政府は未だに危険な論理にしがみついている。これを脱却しない日本国政府は拉致救出運動の敵である、と思う。一刻も早く、寺越武志が北朝鮮で何を言わされようと、寺越一家は拉致されたという断定を日本国政府はしなければならない。懸念しているのはこの一点だ。
東京にあるアメリカ大使館は、インド洋における日本の給油活動がいかに大切であるか、日本の国会議員を招いてレクチャーしている。ワシントンにあるわが日本国大使館は、何をやっているのか。アメリカの議会では、テロ支援国指定解除に反対する法案を提出した議員が数を増やしている。それにも関わらず、アメリカの国会議員を日本の大使公邸に集めて、拉致被害者救出運動は単なる日本人被害者の救出運動ではなく、東アジアにおける朝鮮人民をその苦しみから解放する運動であること、それにアメリカも参加しなければならないこと、なぜこれをレクチャーしていないのか。
単に内閣の中に拉致対策本部を作るだけで事は済んでいるという現在の惰性を、我々は見抜かねばならないと思う。
在米日本国大使館の対米議会対策要員がたった4名であることをご承知おきください。韓国で40名、イスラエルに至っては100名、中国はその実数が定かではない。北朝鮮のテロ支援国家指定解除反対の法案に10月現在賛同している議員の数も知らない。島田洋一氏は福井県の田舎にいてインターネットを駆使しながら明確にその数を把握して訪米している。ワシントンにいる者、それを専門職として、そのためにワシントンに駐在している外交官がその数を知らなかった。隠蔽すべきことではなく、報告すべきことと思うので、お伝えしたい。
最後に、家族会代表を長らく勤められた横田滋さんと奥様に心から敬意を表し、横田めぐみさんのご家族というある意味で象徴的なご家族があったからこそ拉致被害者救出運動がこのように前進できたということを皆さんにご報告したい。
4-9 古屋圭司・拉致議連事務局長
対アメリカ議会対策に大使館人員強化を
指摘があった寺越武志さんのみならず、全員をこの地に取り戻すことが我々の究極の目的だ。そのために全力を尽くして頑張っている。
いくつかのポイントがある。まず、現時点で我々が早急にやらなければならないこと。アメリカの与党が中間選挙で負けた後の色々な状況の中で、宥和政策を取り始めた。これは極めてゆゆしき状況だ。日米連携が大前提にあるので、場合によっては我々がしっかり圧力をかけてでも、その宥和政策を訂正する原動力になっていく必要がある。
第2に、福田内閣に代わったが、安部内閣の基本スタンスは絶対変えるべきではない。
第3に、金聖玟氏から話があったように、世界世論、国民世論をしっかり形成していく。この3点が一番喫緊の課題として取り組むべきことだ。
以上を前提に、訪米の報告をしたい。超党派でシングル・イシューで議員が訪米したのは初めてのケースではないかと思う。日米友好議連があるが、まったく有名無実で機能していない。やはり拉致問題、とりわけテロ支援国家指定解除を現時点で絶対すべきでないということを米議会及び関係者、国務省、国防総省、大統領府関係者に申し入れをして強く訴え、これは相当な効果があったと思う。
実は、訪米前にアメリカの大使館関係者からアプローチがあった。ヒル国務次官補の下にいるアービッシュ国務次官補代理が日本に来ているから話をしたいということだった。ドノバン公使から、「テロ支援国家指定解除は既定事実で、12月31日には解除する」との言及があった。我々は猛烈な反論をした。それに対し、米国側から、「核の脅威があるだろう。日本はどう考えるのか」との発言があり、西村議員はみごとに反論した。「日本は過去に2発落とされている。その日本が言っていることだから、あなたの言うことは説得力がない」と。
アメリカは、日本が福田内閣に代わって宥和政策を取るのではないか、つまりハードルを下げてくるのではないかと思うかもしれない。そういう懸念を持って訪米した。大統領府はもちろん理解があったが、議員も相当理解があった。ただ、ロスレーティネン議員など30人が、解除反対の法律案を提出しているが、成立の可能性はほとんどない。ラントス議員を初め、要になる人がまだそこまで行っていない。だから、次の段階でやらなければならないのは、共和党の議員だけではなく、民主党の議員へのアプローチが不可欠だと思う。大統領選挙もあり、もしかして民主党が勝つかもしれない。そうなった時のことも考えて、しっかり民主党議員ともパイプを作って同志を増やしていくことが重要だ。この法案が現実に通るような取組みを早急にしていく必要がある。
日本に戻って、すぐに衆議院拉致特別委員会が開催され、そこで質問したが、2点報告をしておきたい。2月13日の合意がまとまった際、安倍政権が決めた「拉致問題の進展がない限り、核問題で進展があっても、その見返りとしてのエネルギー支援に日本は参加しない」との大原則に変化がないのかを質問したところ、担当大臣である町村官房長官から「変わらない」との答弁を引き出すことができた。また、「拉致問題の進展」の定義について、「全員帰国との日朝双方の合意ができ、北朝鮮が具体的行動をとること」、これは安倍元総理の答弁だが、この立場に変更がないか質問した。「全く変更はない」との答弁があった。その他は玉虫色の答弁だったが、この2点はしっかりした答弁が得られたので成果だったと思う。
もう1点は、今日ここに持ってきたが、拉致特別委員会で決議を行った。「アメリカはテロ支援国家指定を解除すべきでない。今そのような動きがあることには反対である」という趣旨で、アメリカ政府に強く申し入れるものだ。明日午後3時半、シーファー駐米大使に直接申し入れを行うこととなっている。立法府として明確な意思を示すことが重要だと思う。
対アメリカ議会対策として大使館の人員強化の必要はもちろんあると思うが、もう1点は、問題ごとにロビイストと契約し、戦略的対応をとる必要があると思う。ボルトン前国連大使など、有能な専門的知識を持つ人々、拉致問題を解決したいという熱意を持つ人、米議会に色々なコネクションを持つ人がたくさんいる。ホーガ&ハートソン事務所と契約しているというが、例えば今年5月、例の従軍慰安婦問題でいわれなき決議をされてしまったが、阻止できなかった。戦略をしっかり立てて、契約すべきだ。中国などが使っているお金に比べれば微々たるものだ。
櫻井よしこ
ワシントンの日本大使館の働きは、個人的には極めて不満足だと思う。慰安婦問題についても拉致問題についても全く同じだ。安倍政権で一生懸命やっていた人々が、福田政権になるとなぜこのように変わるのか。政治の意思をはっきり示すこと、外交官の能力があろうがなかろうが、日本国の国益、国民の国益を担う政治家の責任としてはっきりと定めなければだめだということを痛感した。日米関係も含め、私たちは大きな曲がり角に来ていると思う。日本国の決意をもとに、国家は何のために存在するのか、国民を守るためではないのか、そのこと念頭に置かなければならない。次は松原仁さんにお願いしたい。
4-10 松原 仁・拉致議連事務局長代理
「拉致は現在進行形のテロ」から逃げたヒル次官補
クリストファー・ヒル氏との懇談について、議論した一人として報告したい。11月15日の昼に面会したが、テロ支援国家指定解除の動きに反対する主張をしてきた。
第1点は、拉致ということばがテロ支援国家指定に含まれると国務省の年次報告書に書かれていることだ。拉致が解決していないのに解除するということは、米側が拉致を含めて(北朝鮮につき)一定の評価をしたことにつながるのではないか。我々はそれはとうてい許容できない。従って、日本人は拉致がテロ国家指定の要件となっているなら、それが解決されないのに解除されれば、裏切られたと思うに違いない。
第2点は、いわゆるシリアやイラン、そして北朝鮮をテロ国家と指定し、特に(北朝鮮と)シリアとの核施設の関係が指摘される中で、なぜ北朝鮮がはずれるのか理解しがたい。
第3点は、ドノバン筆頭公使の家で話をした時にも、米国の国内法では、半年間テロを行わなければテロ指定解除の用件になることについて反論したことだ。北朝鮮はこの半年間テロをし続けている。横田めぐみさんを帰さないということは、毎日テロをし続けているのであり、そのことはアーミテージ元国務副長官も「拉致は現在進行形のテロ」と言ったではないか、と。これらを我々は、米側と話す時に必ず主張した。特に、ヒル氏には、「私が間違っているのなら指摘してほしい」と言って質問した。つまり、「我々は、北はこの6か月の間テロをしている。アーミテージさんもそう言っていた。ヒル氏は北朝鮮が半年間テロをしていないと思うのか」と。これに対し彼は答えなかった。「ブッシュ大統領が判断することだ」と逃げたわけだ。
もし彼が、「間違っている」と言うのなら、アーミテージさん以降どの段階で見解を変更したのか、という議論になる。「間違っていない」と言えば、テロ支援国家指定を解除しないことになる。少なくとも、交渉の実務担当者がこういうことの認識、見解を持たずして大統領に丸投げするということは現実的にありえないし、もしことば通りだとすれば、こんないいかげんな交渉担当者はいないと大きな憤りを感じた。
実はその日の午前中に、ブラウンバック上院議員に会ったが、彼は、ヒル氏のことだと思うが、「交渉担当者が前のめりで自分の実績を作らんがためにやっているのではないか」と指摘した。私は、我々がきちんと日本側の強い懸念を伝え、論理的に話をすることで「解除」については大きく流れが変わるのではないかとの期待も持った。
では今何をするべきか。今回、訪米団が、下院議員2名、上院議員1名、そして政府関係者と議論したというのは、拉致問題に関しては、新しいインパクトではなかったかと思う。翻って、我々が日本の議会で議論している時にも、そこにはテーマがあり、たくさんのことを週代わりでこなさなければならない。どこかでインパクトをもって誰かが訴えることをしなければ、時間の流れで流されてしまいかねない。大使館の強化やロビイストとの契約も必要だろうが、議員外交は重い。これを継続すべきだと思う。
先ほど、「金正日が満足するほどのものをあげれば」と、これは冗談として言われたことだと思うが、私は北に対しては、一貫して毅然とした態度で臨むべきだと思う。拉致問題の解決は金正日政権が崩壊しない限りできない。北に対する厳しい国家意思を崩すことはいかなる状況でもだめだと思う。6か国協議の中で、「拉致問題は切り離して」という言及もあるが、日本が騒いでも自ずから限界もある。今回は訪米したが、ロシアは6か国の中で黙ってみている。ロシアにも議連としていくべきだ。北方領土問題があるから簡単ではないが、ロシアと日本との今後の友好のためにもきちんとやってくれと言うべきだ。ロシアも中国同様人権問題があるから、どこまで乗ってくるか分からないが、ロシアに対しても議員外交を展開すべきだと思う。韓国は、大統領選挙でハンナラ党が勝てば、早い段階で外交特使を派遣し、拉致問題で共闘しようと提案すべきだ。中国は北京オリンピックへの揺さぶりとしてどういう方法論があるか分からないが、議員が先頭に立って外交する価値を今回の訪米で感じた。
北朝鮮が金正日政権である限り、嘘をつき続けて核を隠し、拉致を隠すだろう。ヒル氏がどんなにハードルを下げても、恥をかくのはブッシュ大統領だ。そういうこともきっちり伝えたい。
4-11 島田洋一・救う会副会長・福井県立大学教授
北朝鮮体制をつぶすことが過去の精算
本日、「拉致解決国際連合」が発足した。ニューヨークに本部がある国際連合、少なくともその総会は、ジョン・ボルトン氏(元国連大使)に言わせると、「単に紙と酸素を消費するだけの存在」ということになる。我々の「国際連合」はあくまで行動し、拉致問題の解決をはかる連合でなければならない。
いつも指摘することだが、こうした場に当然姿があるべきなのに参加していない家族がある。それは中国人の被害者家族だ。
少なくとも1978年に二人が拉致されており、その家族と家族会・救う会は何度も接触がある。しかし、彼らは中国共産党政府を恐れて表立った場には出てこない。中国政府は問題解決を妨害している存在だ。
奇しくも昨日、次のようなニュースが流れた。
唐家璇・中国外相に会った自民党の二階氏、公明党の冬柴氏が、拉致問題について協力をお願いした。これに対し、唐家璇氏が、「日本人の心の痛みは理解している」と答え、二人は感謝のことばを述べて帰ってきたという。
中国当局は「お願い」すべき対象ではないと何度も指摘してきたが、いまだに同じことが繰り返されている。
「中国にも被害者がいる。一緒に北に圧力を掛けて取り戻そう。中国政府は自国の被害者を見捨てるのか」と言うべきだし、国際的にもそのように発信し、事件に蓋をしようとしている中国政府に恥をかかせるべきだ。この点、日本側の対応は、安倍政権も含め、不十分であったと言わざるを得ない。
中国人に、「あなたの国にも拉致被害者がいるんですよ」と知らせる方法はある。
たとえば、在北京日本大使館のホームページに、中国語で中国人拉致被害者の情報をはっきり載せる。ビザの申請案内など中国人が一番よくアクセスするページに掲載すれば、いやでも多くの人の目に止まるだろう。中国当局が日本大使館のホームページを検閲し勝手に削除できるか、大いに見ものだ。そのくらい、政治の指示で外務省が動くべきではないか。
松原仁議員から、オリンピックで揺さぶりをかけるべきとの話があったが、アメリカでは既に、今日参加しておられる南信祐先生やスザンヌ・ショルティ氏らが中心になってボイコットの運動を始めている。
具体的にいうと、まず、オリンピックを協賛する企業のボイコットだ。
選手を派遣するなという形のボイコットは、選手が可愛そうだという同情論から世論の支持を得にくい。従って、むしろ、北京のオリンピック委員会に寄付したり、競技場に広告を出そうとする企業に対し、「ジェノサイド五輪に協賛するのか」等、色々な形で圧力を掛けるべきだろう。アメリカでは、虐殺を続けるスーダン政府と癒着した中国の石油公社や、そこと密接な関係にある米企業の株は買わないようにしようとの運動もやっている。
第二に、観戦ボイコットがある。現地に見に行かない。見に行って外貨を落とさない。テレビ観戦で済ませようという、誰でも簡単にできるボイコットだ。
健康被害から身を守るため行くのをやめたという人もいるようだが、それでも構わない。
スザンヌ・ショルティ氏らは、どうしても行く場合は、「脱北者の強制送還やめろ」等の旗を、逮捕覚悟で持っていこうと決めている。聞くところでは、北京で旗を広げ、ひきずられるところを世界に見せたいと、何年も準備してきた活動家もいるので、アスリートへの配慮と共通するが、そういう人に行くなというのは可愛そうだという一種の同情論から出た「代替案」らしい。
アメリカの対北テロ指定解除問題に関し、衆参の拉致特別委員会で反対決議が通ったのは大変意義のあることだったと思う。
昨年11月の訪米の際、拉致は「現在進行形のテロ」だと、平沼赳夫会長はじめ拉致議連の先生たちが強調された。この場合の「現在進行形」には二つの意味があることを確認したい。
一つは、拉致被害者が未だに拘束され続けていること。もう一つは、拉致された人の少なくとも一部が、テロリストの教育係として使われてきた事実がある以上、教育係を解放しないということイコール、テロ教育を続けているとみなさざるを得ない。テロリストの顔を知っている教育係を解放しないのは、日本および各国に潜んでいるテロリストを引き揚げるつもりがないからだろう。
引き揚げる気があるなら、あるいは既に引き揚げているのなら、顔を知っている教育係を解放してもいいわけだ。
これら二点に照らし、拉致を現在進行形のテロと呼ぶのは理にかなっている。アメリカが現時点でテロ指定を解除するなら、米外交の理念に疑問を抱かざるを得ず、従って同盟が揺らぎますよというのは、理路整然とした話でしょう。
何人かが言及されたが、最終的には体制をつぶす以外、拉致問題の完全解決にない。北朝鮮体制をつぶすと言うと、田原総一郎氏あたりが「専門家」と持ち上げるたぐいの人々が、「中国が反対するから無理だ。倒せるはずがない」と言うが、あの強大なソビエト帝国ですらつぶせた。
ソ連は相当ガタが来ている、圧力を掛けることで冷戦に勝てると主張したロナルド・レーガンを、当時のインテリは皆、「レーガンは馬鹿な上に危険だ」と非難したが、結局正しかったのはレーガンだったことが証明された。このさして遠くもない歴史の教訓を、われわれは何度でも想起する必要がある。
拉致議連幹部の訪米に同行して、私も、先生方がいま強調したとおり、議員外交の意義を肌で感じた。今回の訪米は、日本のしっかりした保守ハードライナーの議員が、アメリカのしっかりした保守派議員と意思疎通した、そこが重要だったと思う。北朝鮮を安易にテロ国家リストから解除するなと主張しているロスレーティネン下院議員、ブラウンバック上院議員、ローラバッカー下院議員らとの連携を、今後も是非育てて頂きたい。
議連の先生方のアメリカでの言動を見ていて、こう言うと失礼だが、議員の方は生物として強いという印象を持った。エリート官僚や、われわれ大学の教員は、どうもひ弱な部分があり、相手から理屈で攻められると、それもそうかなとシュンとなったりする。その点、議連の先生方は、「理屈なんかどうでもいい。解除するなと言ってるんだ。解除したら日本は怒るぞ」と、今の時点で最も伝えるべきメッセージを、動物的な押しの強さで伝えられた。それを巧みな表現で言っておられたところに感心した。
古屋圭司議員が触れた「慰安婦」日本非難決議との対比で参考になるのは、「トルコによるアルメニア人虐殺」非難決議である。後者は、米下院に提出され、多数の賛同署名を得たものの、トルコが、こんなものを通せば以後米軍に協力はできないと言わんばかりの強い形で怒りを表明したが故に、結局棚上げになった。何も、アメリカの議員たちがトルコ側の理屈に説得されたわけではない。「どうもトルコが怒っているぞ。まずいな。ここは、やめておいた方がいい」ということで棚上げになった。やはり、怒るべき時には怒らなければならない。その点を議連幹部の方々は感覚的に分かっているし、実にパワフルだと思った。
最後に、イスラエルによるシリアの核疑惑施設攻撃だが、一つ重要な点を付け加えたい。イスラエルは、周辺諸国が自国に重大脅威となる核兵器開発に手を染めたとなると、軍事攻撃でつぶしているわけだ。本来ならば日本も、実際使うかどうかは別にして、北朝鮮の核ミサイル基地を軍事攻撃でつぶすというオプションを持っていてしかるべきだ。国民の命を守るため、主権国家なら当然備えるべきオプションだろう。それを自ら斥けていることは何の自慢にもならない。
また、イスラエルは事あるごとにアメリカに議員団を送り、活発に活動している。その際、たとえば、「イランの核開発をアメリカが中心になって止めないのなら、われわれが軍事行動を起こすしかない。そうなれば中東は大変な混乱に陥るだろうが、他に選択肢がなければやむを得ない」といったある種の脅しを掛けることも辞さない。イスラエルのこうした強さにも学びうる点があると思う。
北朝鮮体制をつぶせば、シリアやイランにとってもある程度の打撃になる。テロとの戦い全般にとって有意義なことだ。
金正日による人権蹂躙は自国民に対するテロに他ならない。体制をつぶすことも含め、これをやめさせることが、まさに「過去の精算」だ。
4-12 櫻井よしこ・ジャーナリスト
司会者まとめ
日本国と日本国民を守ることができるのは日本国しかない
島田さんから的確な総括があったが、今私たちが直面しているのは、日本だけが、日本だけの論理で対峙していてもだめだということだ。これはアメリカに協力に働きかけることが何よりも大事だ。その際の基本的立場は、日本とアメリカは価値観を共有する同盟国ではないか、ということだ。
私たちは戦後60数年、ずっとアメリカと非常によい関係を築いてきた。かげないがないとおもっているけれども、さてこのところの北朝鮮に対する宥和策はいかなることなのかと、拉致問題は日本人の心の琴線に触れる大事な問題であり、これは理屈も感情も含め、もしアメリカが日本の期待に沿わないのであれば、それは非常に大きな失望を日本側に呼び起こすだろう。特にこれはずっと親米的な姿勢をとってきた保守層の人々が最も深く裏切られたという風に感じるのだ。むしろアメリカの今の動きは、リベラル系の、左翼系の人々は大変歓迎している動きだと思う。アメリカのライス国務長官、ヒル国務次官補の宥和策に乗ろうとするブッシュ政権の政策は、今まで最も親米的だった保守の人々を失望させ、そこから私たちは考えなければならないことを感じる。
それは何かというと、日本国と日本国民を守ることができるのは、とどのつまり日本国しかないということである。無論、同盟国としてのアメリカの役割は、誰にも負けないほど評価するが、結局日本国がしっかりしなければだめなのである。それは、憲法改革も、教育改革も含め、安全保障においてすべての力を日本がたくわえる、整備する、核兵器の保有の可能性もタブーとせずにこの際考えなければならないことだと思う。北朝鮮が核を持ち、中国が核を持ち、ロシアが核を持ち、このように日本とは志の異なる左翼の、社会主義の国が核を持つ現状に鑑みて、アメリカと価値観を同じくする日本が核を持ってアメリカとともに備えることも悪くはないのでは、というくらいの議論もしなければならないだろうと思う。
日本の中には、日本について、ビンのふたであると、安保条約がなければ何をするか分からない、というようなことを言う人がいるが、日本国と日本国民を信じることなしに、いかなる政治ができるというのだろうか。日本国民の良識を信じ、そして日本国民の誠実さ、今までの平和の足取りを見て、初めて全体的な話ができるのではないかと思う。
今回の拉致問題におけるアメリカの宥和策は、その意味において私たち日本人に、私たちは果たして独立国の国民であるのか、日本国は果たして国家なのかということを考えさせる非常によいチャンスになると思う。この機会を逃すことなく、私たちがしっかり考えることは、民主主義、自由、人権、法治、このようなことにとっても非常に大きな意味を持つことだと私は信じている。みんなで頑張りたいと思います。
4-13 佐藤勝巳・救う会会長
不正・非合理に怒りを持って
本日の国際会議のメインセッションは、第2セッションの「北朝鮮の拉致の全貌」であった。北朝鮮の拉致の全貌は崩壊でもしないとよく分からない。しかし、私たちは本日の会議で、具体的な手がかりを求め、研究成果の一部を発表した。これは画期的なことだと思う。
今日の報告を聞いて、少し補足したいことがある。北朝鮮による拉致は、1970年から75年までは、在日韓国人を一本釣りして韓国にスパイとして送り込んだ。私の記憶では86人くらいが逮捕されている。日本人の拉致に金正日政権が転化していくのは、在日韓国人を使って失敗したことの総括の上に立って方針の転換がなされた経過がある。その部分をもう少し拉致問題の中で補強した方がいいと感じた。
実は、若い在日韓国人の青年たちを一本釣りした日本の中における裏組織と、日本人を拉致した裏組織とどういう関係があるのか、北朝鮮のどこの誰が指導したのかも今後の課題として検討する必要があると思う。
国際連帯は大切なことだ。しかし、国際連帯を支えているのは、日本では日本人の人権は我々が守っていかなければならず、他者に依存することではないということだ。では具体的にどうするか。拉致問題に即して言えば、全国に40近い救う会がある。今日も多数がこの会場に参加している。政府が断固として日本人を救出しようとする時、支えになるのは日本国民の支持だ。福田さんに対し色々な懸念を抱いている人がたくさんいるが、それは福田さんに対する懸念よりも、私たちがいかに腹を立てて怒るかということだ。
私はまもなく80歳になるが、1970年頃から、日本人の中に怒りがなくなった。どんなに不正なことがおきても、非合理的なことがおきても、日本人が腹を立てて怒らない。このことが拉致被害者の救出につながっている。つまり、暴力によって自国民が拉致をされている。それについて怒りを持つことができない。そういう日本の現状こそが問題だと思う。
確かに、政府より国会議員の方がテーブルをたたいて怒るには都合がいい立場にあるかもしれないが、わが国の国民もテーブルをたたいて、金正日に対し断固として抗議をしていくことが必要だ。それが欠如している。従って、政府がどうこうという暇があるなら、我々が地域において断固とした運動を展開していくことだ。今、各地で集会を準備しているが、日本人は絶対に拉致を許さないという意思表示を、全国で、政府と一体となって実施する。それが奪回につながると確信している。
全参加者、登壇者、政府の支援、ボランティアに心から御礼申し上げたい。