救う会全国協議会

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北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会

?.北朝鮮の食糧生産統計



2.コメは100万トン水増し



次に、北朝鮮の食糧統計がいかに虚偽に満ちたものであるかを具体的に見てみたい。
国連機関が現地調査を行い支援に入ったのは1995年の大水害の年からである。しかし、既に述べたように、1994年以前のデータは北朝鮮の農業省が提供したもので、全く信用できない虚偽の報告である。
2008年6月、韓国で北朝鮮の食糧生産について記者会見した脱北者は、咸鏡道の全穀物の平均収量を1.5?2.0 t/haと報告している(「連合通信」2008.06.16)。今期の国連機関の報告では、咸鏡道の全穀物の平均収量は3.27 t/haとなっており、2倍程度の開きがある。この会見は、食糧支援を訴えるための会見であったが、収量については妥当な数値と思われる。なお、脱北者の報告が精米・製粉前の数値なら問題はさらに深刻になる。精米・製粉後の数値は国連機関しか使わないので、おそらく精米・製粉前の数値であろう。

2011/12年度のコメの収量は平年より若干多かったが、その報告の半分程度であったとすれば、実際の収穫量は100万トン弱の水増しとなる。以下にその根拠を示す。

◆日照時間、気温
まず北朝鮮のコメの生産について具体的に見ていきたい。コメは高温を好み、大量の水が必要だが、北朝鮮は日照が少なく、平均気温が低く、雨が少ない国である。このことだけでコメの生産量が減少する大きな要因になる。
韓国の「連合通信」(2012.01.27)によると、韓国の気象庁がこの日、「北朝鮮気象30年報」を発表し、北朝鮮は年平均気温が8.5度で韓国より4度低いという。また最も暑い8月の平均気温は22.6度でしかない。年間降水量は919.7ミリしかない。
なお、韓国に近い福岡の年間平均気温は16.8度で、8月の平均気温は30.8度、年間降水量は1632.4ミリであった。
また、日本では品種改良の結果、コメが4か月程度で収穫できるが、北朝鮮でコメを収穫するまでに5か月から6か月かかる。北朝鮮は日照時間が少なく、寒冷地に適応した品種改良ができていない。だから収穫が上がらない。

◆品種
次に、コメの品種について見てみたい。
筆者の知人たちが日本から短期で収穫できる種籾を持ち込んだことがあるが、それを増やして活用することができなかった。おそらく新たな品種を受け入れても、その全量を種籾にせず、食糧にしてしまったのではないかと思われる。また、水田の位置関係で、北朝鮮の品種と高配してしまえば、品質が年々劣化する。
また、筆者の知人が北朝鮮のコメの種籾を日本に持ちかえり、新潟県農業試験場で試験栽培したことがある。見た目はすくすく成長しているように見えたが、盛んに枝分かれしてむだな養分を吸い取っていた。葉は3倍もあるのに穂の数は日本と同じ。しかも、30%はきちんとしたコメになっていない。また、精米する時、粒が割れない割合が70%で、30%もロスが出る。コメにひびが入っており、米粒が割れて吹き飛んでしまう品種である。
「朝鮮日報」の記事(2011.02.25)は、「北朝鮮の内部事情に詳しい消息筋は『表面的にはよく実ったように見えても、中に実が入っていないものが多いという話をよく耳にする』と語った」という証言を紹介している。

しかも、水管理、気温、肥料など最適条件の日本で裁培した結果がこれで、北朝鮮ではもっと悪い結果になる筈である。さらにすべての種からいもち病が発生。耐病性を持つ品種改良がなされていない。以上のことを考えるとおそらく日本の半分もとれない品種であろうと結論された。
これらを見ても品種改良がうまくいっていないことが分かる。そして味が非常に悪かった。従って、見た目で豊作に見えても、実際の収量はかなり少なくなる。国連機関にはコメの専門家がおらず、北朝鮮当局の報告をそのまま受け入れてきたと思われる。

◆肥料
北朝鮮では、肥料や農薬が不足している。韓国から30万トン程度支援を受けていた時点で、肥料は需要の3分の1程度であった。
化学肥料の生産には莫大な電気が必要となるが、北朝鮮は現在化学肥料をほとんど生産しておらず、需要に対し自給量が極めて少ない。金正日・盧武鉉政権時代に、毎年肥料30万トン程度が支援されてきたが、それが途切れてからは、必要量のごく一部を輸入しているだけで、それも窒素肥料に依存し、カリやリン酸肥料が非常に少ない。2011年だけは、窒素肥料を約55万トン輸入したことにより前年比約50%肥料が増加したが、燐酸は半減、カリ肥料は3分の1に減少している。
「朝鮮日報」記事(2011.02.25)は、「肥料さえあれば、単位面積当たりの生産量は1.5倍にまで増える」と述べている。

北朝鮮の肥料工場は元々日本時代の工場を引き継いだもので、既に時代遅れとなっていた。また、韓国に化学肥料を依存していた期間、北朝鮮の肥料工場は生物・化学兵器工場に変更されていたと考えられる。そして、肥料をほとんど生産しなくなった後、韓国からの支援が途絶え、再開できなくなっているのではないか。

結局不足を補うために人糞の収集を全国民の義務とし、大々的な人糞収集運動が行われており、堆肥作りのために厳しい労力提供を強制されている。
UNFPAは、人口調査とともに、「住宅、障害、教育、移住、経済活動など」についても調査したとして、食糧生産にも関わる興味深い結果を報告している。
国連機関の人口調査報告では、「水洗トイレの普及率58.3%」等と北朝鮮当局の報告をそのまま引用している(「読売新聞」22.02.27)が、全国民が人糞の義務量を確保しようと必死になっているというのに、「水洗トイレの普及率58.3%」というのは到底信じられない。水洗トイレの普及率は都市で66.3%、農村で45.9%となっているが、まったくでたらめな報告で、「住宅、障害、教育、移住、経済活動など」についての調査なるものは適当な数字を当てはめただけの報告とすら思える。
「朝鮮日報」は調査員数について、「作為的な虚偽報告に対する検証は不可能な体制だった」とし、「人口2,405万人」も「水増し」ではないかと報じた(2009.02.25)。

◆燃料・水
また人口調査報告では、「暖房では木材依存が45.1%、料理で木材依存が46.9%」(「読売新聞」22.02.27)と報告された。これもありえない数値である。北朝鮮は岩の上に築かれたような国で、下流の沖積平野は別として、傾斜地では土が岩の上に1cm程度乗っているだけの所が多い。北部の一部高山地域を除き、全土に300m程度の山が連なり、その谷間に川と道路があり、両脇に水田が2、3枚、それより上は傾斜地で、傾斜16度(かつては15度)まで畑作が許されるが、それより上には木がほとんどない。今にも転げ落ちそうな大小の岩が傾斜地に留まっているのが見える。山の稜線も木がないのではっきり見える。そのような国で、暖房や料理の木材依存度が5割弱もあるとは到底思えない。
実際には、16度以上でも隠し畑が多く見られ、北朝鮮の山腹には縦横の筋が見える。縦筋は水が流れた跡、横筋は隠し畑の土止めの跡で、木はほとんどない。
朝鮮半島では、食糧を収奪する独裁権力への抵抗として昔から傾斜地で隠し畑栽培が行われてきた。このような所で、どうやって木を手に入れ、暖房や料理に使えるのか不思議である。暖房や調理は練炭で行う家庭が多い。

もっと重要なことは、雨水が直接降ってくる畑と違い、水田は、雨水が山の有機物を吸収し、また作物に必須の微量元素を含んだ豊かな水となるから、連作が可能となる。微量元素を含まない天水だけに頼る畑作では作物が一定の微量元素を吸収してしまうと連作はできないため、輪作や休耕地とするものである。
だからこそ稲は世界唯一の連作可能な作物なのである。日本では1000年以上連作している水田も少なくない。連作をしても作物に吸収された微量元素が再び山からの水によって補充されるからである。もちろん窒素、燐酸、カリの施肥も必要であるが、コメこそ持続可能な食糧である。
しかし、それも条件による。北朝鮮の山にはほとんど木がなく、傾斜地には土が少ない。従って北朝鮮の水田に流れてくる水には微量元素や有機物が少ない。このような特殊な条件で、ha当たりコメ(玄米)の反収3.47トンなど絶対に不可能と思われる。

◆農業資材
さらに、農業資材、収穫機械、運搬手段、保管手段が劣悪で、せっかく収穫してもロスが大量に出る。
北朝鮮では田植えや稲刈りが地域ごとに一斉に行われる。そのため学生・生徒・地域住民が大動員される。しかし、同じ地域のコメでも、田植えや稲刈りには適期があるが、北朝鮮では無視される。これも減収の原因となる。

収穫した稲の乾燥に必要な稲架(はさ)は、木がないためにほとんど使用されていない。というより、乾燥すると重量が減り、ノルマが達成されないので、稲架などとんでもないということになる。これは事実上の水増しである。不十分な乾燥にすると、倉庫でコメが蒸れたり変質して、すぐにカビがはえたり、変色したり、虫がつく等の様々な問題が発生する。そして、実際の収穫量が減少する。

収穫した籾は、20?30%の水分があり、非常に変質しやすいので、すみやかに乾燥する必要がある。日本では乾燥後の玄米水分は14.5%?16%が適正値であるが、北朝鮮では収穫後に運搬用のトラクターまたはトラックがすぐ来ないため、そのまま水分が多い水田に長く放置されることがある。筆者は泥をかぶった籾が発芽したのを見たことがある。
現地で聞いたところ、「収穫後すぐに乾燥しなくても、倉庫で自然に乾燥するので問題はない」とのことであったが、これは計量に問題があることを意味している。

不十分な乾燥などで収量が水増しされることも、実際の収穫の減少要因となる。脱穀して袋に籾を詰める際にも、籾殻や砂を混ぜ、収量を増やしている。北朝鮮の人は、日本産・韓国産のコメ(支援米)は食べても砂利を噛むことがなくすぐ分るという。逆に中国産には異物があり、これもすぐ分かるという。

各生産現場の計量にも問題がある。ノルマ達成のため多めに報告する習慣が続いている。従って、稲架や正確に軽量できる計量器を支援することは歓迎されないだろう。生産量を過大にできなくなるからである。
さらに、収穫直前に田んぼを襲う窃盗犯も多く、空腹の軍人までが窃盗をしていると報告されている。そのため、水田には必ず見張り小屋がある。これは誰かが食べてはいるのだからロスとはいえないロスである。

◆運搬
北朝鮮はガソリン不足のため1998年までは煙を出しながら走る木材燃料のトラクターを見たことがあるが、1999年にはそれもほとんど見えなくなった。その後は見ていないが、それほど改善したとも思えない。国連機関の報告も不十分と認めている。稲刈り後のコメも、なるべく早く運搬しないとロスになるが、北朝鮮では輸送にも様々な問題がある。結局、運搬は牛に頼っていると思われるが、牛では運搬能力に限界がある。

◆ロス
収穫した後の籾すりの過程で、一部の未熟米等が粉となって吹き飛んだり、米粒がこわれて小米になる。国連機関はコメの脱穀ロスを約7%と見て、その理由を「機械の劣化等」とした。それも要因であろうが、北朝鮮のコメは胴割れしやすいという品種的な減少要因を見落としていると思われる。
なお、後者の小米については、本来、玄米にしたときに選別し取り除くものだが、それでは減収になるので北朝鮮では除去していない(『どん底の共和国』李佑泓著)。このように、加工の過程でのロスが相当の量で発生していると思われる。
国連機関は、収穫後ロスの調査はできていないと報告している。「収穫後ロスのレベルは2?30%の幅で見積もりが異なり、長い間の問題である。残念ながら問題を解決するための量的な調査は未だに行われていない。放置、移動、脱穀機の劣化と電気不足でよくある脱穀の遅れ、貯蔵ロスがある」、「収穫後ロスは暫定値として、コメ・メイズは貯蔵期間が長いこともあり15%とし、麦類・雑穀・じゃが芋は10%」としている(「レポート」2010)」。

◆貯蔵
貯蔵にも問題がある。米は水分が低い方が貯蔵性が良くなるが、水分が高いほどおいしいコメになるという矛盾があり、日本では15%以上の水分の米は、低温貯蔵することが必要とされる。北朝鮮では電気は1日2時間?数時間程度しかこないので、低温貯蔵に電気を使えない。またそもそも低温貯蔵庫が普及していない。
倉庫で乾燥しすぎても問題が起きる。14%以下に自然乾燥すると、炊飯前の浸水時にヒビ割れを起こし、炊飯する時にデンプンが糊となって浮き出るため、食味が悪くなる。電気が少ない北朝鮮では水分管理は不可能である。
倉庫では、非合法なロスも発生しているという。頭の黒いネズミが役得として盗むケースもあるようだ。これもロスとはいえないロスである。

◆密植
北朝鮮では種子の使用でもロスが出ている。2012年の種子の必要量はコメで5.6万トン、メイズで6.5万トンとしているが、北朝鮮ではコメもメイズも3倍密植されていて、種子も3倍必要になる。日本の農協関係者が密植の問題を指摘し、北朝鮮の管理担当者が一部の農場で試験的に日本と同程度の密度で栽培した結果、「収穫は変わらなかった」と胸を張って報告したという笑えない話がある。国際基準で換算すると、コメとメイズの種子だけで約8.1万トンが食用に回せるが、金日成が決めた「主体農法」は、主体的に変えることが難しい。しかし、近年先述の通り、種子の量を減少させてはいる。
密植は旧ソ連式のミチューリン農法を継続しているからで、筆者は密植栽培の専門家という北朝鮮の農政局長から聞き取りをしたことがあるが、安易に変えるのは難しそうな回答であった。

◆一人当たり収穫量
以上、様々な観点からコメの収穫量を見てきたが、すべてかなり大きな減少要因で、北朝鮮のコメの収穫量は国連機関や韓国政府の公表値ほどの収穫がある筈がない。このことは一人当たり収穫量を見てみるとさらによく分かる。なお、マスコミ報道では北朝鮮の食糧を一人当たりで換算してみた記事をみたことがない。
北朝鮮の人口は2012年5月1日現在で2,457万人と予測されたので、米の一人当たり収穫量を精米重で計算すると65.5kg/年になる。国連機関は収穫後ロス(運搬・貯蔵時の管理ロス、虫やネズミの被害等)を15%としているのでそれを見込んでも55.7 kg/年である。
日本では2009年の米の一人当たり消費量は58.5キロなので、日本とほとんど変わらない。一人当たり収穫量は日本より多く、その後のロスを含めてもそれほど変わらない量である。こんな数値は水増しとしか思えない。
さらに、北朝鮮の人口が実際よりか300万人少ないとすれば、一人当たりの収穫量は日本よりはるかに多くなる。人口統計については後述する。

これは、2割の特権層が毎食コメを食べても、8割の一般住民にも相当程度回せる量である。種籾用を差引くとこれよりわずかに少なくなるが、「米はほとんど食べられない」というような脱北者の報告とこの数値は大きな差がある。北朝鮮が関係国に食糧支援を毎年要請している現状から見てもおかしな数値である。ということは、実際の生産量は、国連機関の統計よりはるかに少ないということである。また、コメを日本人と同じくらい食べているのなら、その他の食糧がコメの1.7倍程度あるのだから餓死者が出る筈もない。
国連機関の2011年のコメ161万トン生産との報告はあまりに過大である。このような状況で、かつては日本と同等またはそれ以上の収穫があったとか、今期はha当たり3.47トン生産したという報告は全く信用できない水増し報告である。国連機関が北朝鮮当局の報告をそのまま受け取ってきたのはなぜなのか。その理由を説明すべきではないか。

国連機関の2011/12年度のコメの収量は精米前値で247.7万トンと報告されたが、これを玄米に75%で換算(日本なら80%)すると185.8万トンになる。水田面積は57.1万haなので、1ha当りの反収は3.25トンになる。10a当たりでは5.4俵(1俵=60kg)。しかし、上記の減収原因と筆者が北朝鮮で見た経験を総合すると、年により収量に増減はあろうが、玄米値で平均1.8トン?2トン、10a当たり3俵強程度と思えた。玄米値で平均1.8トン?2トンなら年間生産量は80.3トン?89.2トンに過ぎず、生産量は100万トン弱少なくなるのである。

目次


報告概要

I.北朝鮮の食糧生産統計
 1.毎年の調査基準が全く異なる国連機関の食糧生産統計
 2.コメは100万トン水増し
 3.メイズも100万トン水増し
 4.国際社会が実態を誤解
 5.不足しているから聞こえてくる悲鳴
 6.北朝鮮の1日一人当たり食糧は江戸時代より3割少ない

II.北朝鮮の人口統計
 1.不可解な国連機関の人口増加率訂正
 2.おかしな報告の数々?北朝鮮人口調査
 3.人口は300万人水増し

III.水増し統計を発表し続ける理由
 1.個人独裁の責任が問われる
 2.搾取と抵抗の朝鮮史
 3.人口の水増しで国際支援を訴え
 4.統計のからくりも限界に
 5.国連支援機関の問題点
 6.独裁国家への「人道支援」は非人道
 7.国連は家族農業を認めない国家には人道支援を行うな
  
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