III.水増し統計を発表し続ける理由
1.個人独裁の責任が問われる
北朝鮮が、食糧でも人口でも水増し統計を発表するには理由がある。
最大の理由は、食糧が増産されるような事態になっては、独裁政権が維持できないということである。北朝鮮でも、食糧を画期的に増産する方法はある。それは農業関係者なら誰でも知っていることである。しかし、特に金正日独裁政権になってからは、食糧増産を許しては政権が維持できない状況となった。
農業はまず、家庭農業が基本である。土を愛し、土を育てることで質の高い食糧が大量に生産される。しかし、北朝鮮ではそれは許されない。金正日政権は、従来通りの「主体農業」を継続させた。「主体農業」というのは、農業の一連のプロセスをすべて国が管理し、農民に全く主体性を持たせない農業のことである。そのため、輪作が必要な畑作物を何十年も連作させたり、隣地でも生育状況の異なる田畑の収穫を、学生や勤労者を動員して一斉に行ったりさせてきた。
筆者は、収穫したばかりのじゃが芋がうずたかく積まれて放置されているのを見たことがあるが、北朝鮮の農民にとっては、ノルマさえ達成すればよく、商品価値が落ちることなど何の関心も持っていないようであった。家庭農業なら絶対にありえないことである。
しかし、彼が命じた「主体農法」を止めて、生産が急増したらどうなるか。「主体農法」が間違っていたことになり、それを命じた金正日・金正恩こそが、何十年も人々を苦難の地獄に放置し、かつ300万人を殺したということになる。それでは個人独裁は持たないのである。
従って、農業の生産性を高めるいかなる提案も受け入れることができない。その結果、毎年低い生産量にとどまるのである。そして、毎年生産が低い理由は、金正日が命じた「主体農法」ではなく、「アメリカ帝国主義のせい」ということになる。
北朝鮮は一党独裁ではなく、個人独裁である。北朝鮮は政権トップのわずかな罪も許されない個人独裁国家であることをよく見るべきである。従って、生産性が上がらないことは分かっていながら、国連機関や外国に食糧支援を依存し続けることが政権存続の基盤となってきた。しかし、大量に食糧と肥料を支援してきた韓国が支援をやめてからは、一気に食糧事情が悪化した。政治は独裁でも、経済は資本主義という「改革開放」ができないのも、個人独裁の罪が明らかになるからである。
目次
報告概要
I.北朝鮮の食糧生産統計
1.毎年の調査基準が全く異なる国連機関の食糧生産統計
2.コメは100万トン水増し
3.メイズも100万トン水増し
4.国際社会が実態を誤解
5.不足しているから聞こえてくる悲鳴
6.北朝鮮の1日一人当たり食糧は江戸時代より3割少ない
II.北朝鮮の人口統計
1.不可解な国連機関の人口増加率訂正
2.おかしな報告の数々?北朝鮮人口調査
3.人口は300万人水増し
III.水増し統計を発表し続ける理由
1.個人独裁の責任が問われる
2.搾取と抵抗の朝鮮史
3.人口の水増しで国際支援を訴え
4.統計のからくりも限界に
5.国連支援機関の問題点
6.独裁国家への「人道支援」は非人道
7.国連は家族農業を認めない国家には人道支援を行うな