III.水増し統計を発表し続ける理由
3.人口の水増しで国際支援を訴え
「WFP は国連唯一の食糧支援機関であり、かつ世界最大の人道支援機関」、「FAOは世界の食糧生産と分配の改善と生活向上を目的とする国際連合の専門機関の一つ」とされているが、各国政府からの任意拠出金と民間企業や団体、個人からの募金が財政基盤である以上、人道が行われない国への人道支援の妥当性、有効性をきちんと説明すべきである。
北朝鮮が実際の収穫より多い収穫値を作るのは、それに基づき配分する時に、2割とされる権力層には十分に配分し、8割とされる一般人民に渡る時には、予定をはるかに下回る配分となり、権力層を優遇できるのである。脱北者の証言でも、高位級の人々は、毎日コメを食べており、メイズ(とうもろこし)はほとんど食べたことがないという。人口を多く見積もるのは、国際社会に対し一人当たり供給量を少なく見せるためであり、多目の収穫値を作っても国際支援を得るのに問題にならない。このからくりを国連機関、国際社会は知るべきである。
また、専門家による収穫量調査をしていながら、北朝鮮当局が提出した、高めの収穫量を微調整しただけで出し続けてきたことも問題がある。栄養失調の人々を多数目撃しながら、疑問を抱かなかったのだろうか。収穫量が推計値よりはるかに少ないからこそ、外部社会が支援しても大量の餓死が発生するのである。
北朝鮮が食糧統計を水増ししても、食糧支援を訴えてこられたのは、人口を水増ししてきたからである。まず、人口を多めに公表すれば、一人当たりの配給量が少なく見え、国連機関が危機をアピールしやすい。逆に、食糧生産を多めに報告することは、北朝鮮にとってマイナス効果になりかねないが、国連機関や西側社会から見ればそれでも一人当たりの配給量は少なすぎる数値であり、水増しされた人口を基に国連機関が不足量をアピールしてくれるので、当面の障害にはならなかったのである。国連機関は北朝鮮が提供する情報をそのまま受け取ってきたが、この人口統計と食糧統計のからくりを踏まえ、正確な情報発信に転換すべきである。
目次
報告概要
I.北朝鮮の食糧生産統計
1.毎年の調査基準が全く異なる国連機関の食糧生産統計
2.コメは100万トン水増し
3.メイズも100万トン水増し
4.国際社会が実態を誤解
5.不足しているから聞こえてくる悲鳴
6.北朝鮮の1日一人当たり食糧は江戸時代より3割少ない
II.北朝鮮の人口統計
1.不可解な国連機関の人口増加率訂正
2.おかしな報告の数々?北朝鮮人口調査
3.人口は300万人水増し
III.水増し統計を発表し続ける理由
1.個人独裁の責任が問われる
2.搾取と抵抗の朝鮮史
3.人口の水増しで国際支援を訴え
4.統計のからくりも限界に
5.国連支援機関の問題点
6.独裁国家への「人道支援」は非人道
7.国連は家族農業を認めない国家には人道支援を行うな