III.水増し統計を発表し続ける理由
4.統計のからくりも限界に
しかし、この「統計のからくり」にも限界が来つつある。北朝鮮が嘘の統計を報告し続けたのに対し、国連機関が年々食糧生産量に追加する作物を増やしたり、面積や収量を増やした結果、報告する食糧の不足量は年々少なくなってきた。この報告に基づき、関係諸国は、ここ2年間の北朝鮮はそれほどの食糧難に直面していないと、北朝鮮にとっては困った誤解をしている。また、相次いだミサイル連射や核実験により、北朝鮮は国際社会から孤立するようになり国連機関が訴えてもあまり支援が集まらず、国際支援が得にくくなった。
金正恩新政権が迎えた2012年の「強盛大国」元年は、まず祝砲であるべきミサイル打ち上げ失敗で弔砲を鳴らし、韓国における総選挙では親北派が勝てず、ミサイル発射に関しては親北派議員まで国会の非難決議に賛成せざるをえなかった。そして食糧・肥料支援の復活が遠のいた。
北朝鮮は、ミサイル打ち上げ、金日成生誕100周年イベント等で食糧輸入に当てるべき外貨を極端に減らした。4月以降は、昨年の収穫を全部食べつくした後の春窮期に入り、じゃが芋や麦類がとれる6月まで、国民が最も空腹に苦しむ時期となる。民政を無視した先軍政治を続け、餓死者が続出すれば、食糧不足を契機とした様々な暴動が発生する可能性もある。
北朝鮮は国際社会に対してくせ球ばかり投げ続けてきたが、直球に切り替えるべき時がきている。まずは、人口や食糧など正確な統計、自国の実態を国際社会に正直に報告することから始めるべきだ。その上で民政重視に切り替えなければ、世襲政権の寿命は尽きることになるだろう。
目次
報告概要
I.北朝鮮の食糧生産統計
1.毎年の調査基準が全く異なる国連機関の食糧生産統計
2.コメは100万トン水増し
3.メイズも100万トン水増し
4.国際社会が実態を誤解
5.不足しているから聞こえてくる悲鳴
6.北朝鮮の1日一人当たり食糧は江戸時代より3割少ない
II.北朝鮮の人口統計
1.不可解な国連機関の人口増加率訂正
2.おかしな報告の数々?北朝鮮人口調査
3.人口は300万人水増し
III.水増し統計を発表し続ける理由
1.個人独裁の責任が問われる
2.搾取と抵抗の朝鮮史
3.人口の水増しで国際支援を訴え
4.統計のからくりも限界に
5.国連支援機関の問題点
6.独裁国家への「人道支援」は非人道
7.国連は家族農業を認めない国家には人道支援を行うな